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しろねこ姫の不思議な力  作者: しーにゃ
第2章 しろねこ姫の学院入学
38/125

30-I お母様の心配と過去

「……そういうつもりじゃ……」

「………結局…」


 お父様とお母様の話し声が聞こえる。わたしはゆっくりと目を開けた。


「リーナをこんなに……リーナ?」

「気がついたか」


 ちょうどお母様と目が合った。心配そうに覗き込んでくる。お父様は優しく微笑んでいる。


「お、おはようございます」

「おはよう」

「リーナ、体調はどうかしら?」

「大分良くなったみたいですわ」

「それは良かった」


 頭にのっていたタオルをどかし、お母様の手が置かれる。その後お母様に手伝ってもらって体を起こした。


「リーナ、これを飲んで。私の国から取り寄せたのよ」

「ありがとうございます」


 そういえば、お母様ってファルク王国の王女様だったわね。ぼうっとする頭でお母様にカップを渡されて見れば、茶色く濁った液体がなみなみと入っている。何も考えずに飲んだ。それはとても甘くて、そしてほろ苦くて。どこかで感じた味だわ。


「美味しい。これ、何と言うのですか」

「ココアよ。気に入ってもらえたようで何よりだわ」

「ココア……」


 わたしはココアを飲みほした。体の奥がぽかぽかしてくる。すっかり目を覚ましたわたしは、お母様に聞かれた。


「リーナ、学院はどうかしら?」

「とても楽しいです。来年はもっと楽しくなると思っていますわ」

「危険に晒されたのに?」

「あれはミレイルだったから逃げられなかっただけです。来年はきっと大丈夫です」

「リ、リーナっ、あなた、どれだけ危険な目に遭ったと思ってるのっ」

「っ、それは……」


 言葉が続かない。お母様の言う事は尤もだわ。わたしだって、またミレイルとして通えと言われていたら、断ったに違いないわ。だけど、来年は違う。わたしには地位があって、頼もしい仲間がいるのよ。今回みたいな事にはさせないわ。


「私は、一週間前に何があったのか、さっき聞いたのよ。息が止まるかと思ったわ。『魔獣合体(モンスルクルバイン)』のモンスターのいる暗い部屋に閉じ込められたなんて。昔、王宮にいた優秀な魔導師五人でかかっていって、傷一つ付けられなかった。それどころか、全員がぼろぼろになって見つかったのよ。そんな危険な所に、リーナを行かせるなんて、今回は助かったけれど、次はないのよっ」

「お母様……」


 お母様は途中から涙を流しながらお父様に詰め寄る。お父様は困った顔つきでおろおろしている。


「だ、だから、それは倒したって言って」

「またあったらどうするの!今回は運が良かったのよ!リーナが魔力切れを起こすまでになって、たくさん怪我して、()()()()()()()()()()()()()()()所を、()()()()()()()()()()…」

「えっ?」


 思わず声が出てしまった。お父様が苦い顔をしている。


「シシー、それを倒したのはリーナだ」

「それは有り得ないわ!だって、あの時はっ……」


 その時の事を思い出しているのか、お母様が震えている。わたしはそっと手を握った。気づかれないように紋章の力を使う。










 ────────────────────────











「王女殿下、こちらへ!」


 私は侍女に連れられてそこを離れる。時折振り返ると、五人の魔導師が一体の大きなモンスターに攻撃していた。しかし、攻撃が効いている様子はなく、むしろ尻尾で二人が吹き飛ばされる。


「やっ、嫌っ!」


 一瞬モンスターがこっちを向いた。そのせいで足がもつれて転ぶ。まだ距離があるのに、どうしても動けない。嫌よ、私まだ死にたくないわ!恐怖で目をぎゅっと瞑った。











「シシー、大丈夫か?」


 そっと体を持ち上げられる。この声、まさか、ここにいるはずないわ。


 ゆっくり目を開ければ、朱色の髪の、心配そうに見つめてくる紅い瞳と目が合った。


「お、お兄様、どうして……」

「シシーの帰りが遅いから、少し見に来たんだ。さあ、帰ろうか」


 そのまま歩き出すお兄様に、あわてて言う。


「お兄様、下ろしてくださいっ」

「いいけど、シシーは一人で歩けるのか?」


 ひ、一人で……無理だわ。


「うう、無理です」

「私が連れて行ってやるから、安心して」


 ふと後ろを見れば、魔導師達はまだ戦っていた。だけど、皆疲れているようで、勢いがない。一方のモンスターは何も変わっていないように見えた。


「こら、シシーは見てはいけない。寝ていなさい」


 頭をお兄様の胸元に寄せられる。私はお兄様に包まれて目を閉じた。


 








 ────────────────────────











「リーナ、まさか……?」


 お父様が何か言っている。今のは、お母様が子供の頃の記憶よね。とてつもない恐怖が伝わってきた。でも、今度はわたしの記憶を伝えるのよ。


 一つずつ、丁寧に思い出す。閉じ込められた所から、禁術の本を読み、魔獣のことを知り、覚悟を決めて魔獣に立ち向かった事。そして、吹き飛ばされながらも、攻撃を通し、全力で打ち倒した事。











「うう、ふぅ、っ」

「え、今のは、一体……」


 お母様がぼうっとしている。わたしは、思い出すのも三回目で、また恐怖がやって来たが、初め程ではない。


 しかし、何か魔力をごっそり持っていかれた感じがする。それに、体が熱い。どうして、今まで力を使ってこんな事になった事なんてないのに。


「リーナ?どうした、大丈夫か!」

「はぁっ、お、お父様、何か、とても疲れて、お、おかしいわっ」

「これは、もしかして…」


 お父様が何かに気づいたようで、わたしの瞳を覗き込んでくる。何だろう、わたし何か変な病気にでもかかってしまったかしら?


「やっぱり、『魔力変質』だ」

「それは何ですか?」

「魔力の質が高まるんだ。一週間しないくらいで落ち着くが、それまでは魔力を使えないか、今みたいにとても疲れるんだ」

「ねえリーナ、今のは何かしら?」


 お母様が我に返ったようで聞いてきた。


「あの、わたしの記憶を、共有しました」

「ああ、リーナ、ごめんな。また辛い思いをさせてしまった」

「記憶を、共有、ですって?」


 申し訳なさそうなお父様と、訳が分からずに困惑するお母様。そしてわたしは、体が熱くて説明どころではなく。部屋がしばらく静かになった。

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