27-I 助けに来た三人
「ああ、リリー、会いたかったっ!」
シリウスが飛びついてくる。あっという間に抱きつかれた。あまりの事に身動きも出来なかった。まさか、どうしてここが分かったの?
「シル、どうして……」
「探したよ。閉じ込めたとか言われたから、結構焦った」
「えっ?だ、誰に?」
「クレノール男爵令嬢に決まってるだろ」
平然とそう言って、わたしの首筋に顔を埋める。ユリアンナ様に言われた…?でも、あの時わたしはミレイルで………えっ、まさか、わたしが平民として学院に通ってたの、ばれてる?
「ね、ねえシル、」
「シル、どうだった?」
ばれてるかどうか聞こうとした時、ドアの方から声がした。シリウスを少し離して声の方を向く。ああ、この声、わたしはちゃんと帰れるのね。
「ネル、ディル……」
「!?」
「リリー!」
ノエルとディランがドアの所に立っていた。わたしが声をかけると、すぐさま駆け寄ってきて、順番に抱きしめられた。
三人とも、暖かいわ。その温もりで、ずっと緊張していた心が解かれていく。わたし、皆の所に、帰れるわ。
「……ふぇぇ、怖かったよぉ」
安心したら、涙が出てきて止まらなくなった。体がぼろぼろになるまで、一人で合成魔獣と戦っていた恐怖が、溢れ出した。
「リリー、大丈夫?」
「ねえ、リリーその格好……」
シリウスが聞いてきたその時、後ろのドアの向こうから物音がした。ビクリと体が反応し、恐怖で思わず近くにいたノエルに抱きついた。
「なっ、リリー?何があった?」
「うぇぇぇん、真っ暗で、誰もいなくてっ、なのに……」
それ以上何も言えなくて、ただドアを指した。ノエルが優しく背中をとんとんと叩いてくれる。わたしはその胸に顔を埋めた。ノエルの少し速い鼓動が聞こえて来る。高めの体温も、ちょうど気持ちいい。
大分落ち着いてきて、ちょっと顔を上げてノエルを見ると、頬をほんのり赤く染めて、少し目を大きくしていた。
「じゃあ、開けるよ」
「ああ」
シリウスがドアを開ける。その奥のものを思い出して、ノエルに強くしがみついた。それを見たノエルが、しっかりとわたしを抱きしめた。片手で頭を軽く押さえられる。
「リリーは見ない方がいい」
ありがとうノエル、ちなみにそれを倒したのはわたしよ。とっても強くて怖かったわ。
わたしは大人しくノエルに抱かれていた。
「なっ、な、何だこれは」
「ドラゴン……?」
シリウスとディランが驚いて一歩引く音が聞こえる。そのまま少し誰も動かなかった。
ノエルがそっとわたしを離す。心配そうにわたしの顔を覗き込んだ。
「リリー、もう大丈夫?」
「うん、ありがとう」
そこに、控えめにシリウスが質問してきた。
「ねえリリー、あれ何か知ってる?」
「あれ、合成魔獣よ。禁術にされてる、『魔獣合体』でドラゴンの形にされたみたい。そこの本の研究結果らしいわ」
「何だって!?」
「『魔獣合体』だと……」
しばらくして、シリウスが何かに気づいたように聞いてきた。
「まさか、リリー、あれ倒したの?」
「うん、そうだよ」
「な、まさか!」
「だって、そうじゃなきゃこの状況が説明出来ない」
「それはまあ、確かに」
三人が見つめてくる。その瞳には安堵と不安の色が滲んでいた。
「リリー、無茶するなよ……」
「よ、良かった……」
「死なないでっ」
「ご、ごめんなさい……」
でも、仕方ないじゃない?外には出られず、かといって放っておけなかったんだもの。でも、やっぱり。
「ものすごく怖かったわ……」
「もう、体も制服もぼろぼろにしてまで、一人で頑張って。リリーが魔力使い果たすなんて、相当だよ」
それは思うわ。ここまで疲れたのは初めてよ。……あれ、制服をぼろぼろに……?
ハッとして三人を見上げる。やっぱり気づかれたかしら?
「ところでリリー、どうして制服を着て学院内にいるのかな?」
ノエルがにやりとしながら聞いてきた。シリウスも追い打ちをかけてくる。
「そうだな、僕が聞いたのは平民を閉じ込めた事だし」
「リリー、話してくれるよね?」
ディランに優しく問い詰められ、わたしは折れた。
「は、話すから、ここから出よう……?」
「あ、ごめん…」
「そうだね、合成魔獣の事を学院長様に伝えないとね」
「リリーも一緒にな」
わたしは頷く。だけど、ちょっと待って。
「わたし、動けないの……」
「え?」
きょとんとする三人にもう一度言った。
「わたし、魔力切れで動けないわ」
「そうだろうな。……あ」
「僕が連れて行こうか?」
「いいの?じゃあディル、お願い」
連れて行ってくれると言うディランに抱きかかえられて、やっと部屋を出た。シリウスとノエルは一瞬呆然としてから、慌てて追いかけてきた。
階段を上がって外に出る。わたしがユリアンナ様に連れて来られた時はまだ明るかったのに、今は日が落ちて薄暗い。それが、逆にわたし達を目立たなくしてくれた。
ともかく、やっと外に出られたわ!少し周りを見ようとして落ちそうになり、慌ててディランにつかまった。ディランが苦笑いする。
「リリー、危ないからじっとしててな」
「うん、ごめんね」
落ちないようにしっかりディランにつかまり、少し寄りかかるように体を預ける。ディランの体温と揺れが心地よくて、わたしは目を閉じた。
「リリー、起きて。着いたよ」
「……んっ、ふにゃぁ」
肩を優しく揺さぶられて、欠伸をしながら目を開ける。優しく微笑むディランと目が合った。
「うにゃ、おはよう」
「おはよう。体の方は大丈夫?」
聞かれて、体が少し軽くなった事に気づいた。
「うん、少し楽になったわ。ディル、ありがとう」
「それは良かった」
ゆっくりとわたしを下ろしてくれた。そして、四人でドアに向かい合う。シリウスがドアを叩いた。
「失礼します、シリウス·サン·アイルクスです。入ってもよろしいですか」
「どうぞ」
ドアを開け、シリウスを先頭に部屋に入る。わたしも、深呼吸してシリウス達に続いた。




