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しろねこ姫の不思議な力  作者: しーにゃ
第2章 しろねこ姫の学院入学
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26-N 妹みたいな子

 僕があの子と出会ったのは、僕が五歳の頃だった。祖父上の魔術のレッスンを一緒に受ける事になったと言われ、その初顔合わせの日。少し前に知り合ったシリウス王子と一緒にレッスンの部屋に向かった。


 ドアを開ける。その奥では、たくさんの泡が浮かんでいて、ピンクがかった金色(ストロベリーブロンド)の髪をふわりとさせた女の子がさらに魔術を使った。途端、色とりどりに輝く泡。すごい、僕はこんな魔術使えないな、そう思った。そして女の子が笑顔で振り返った。


 その柔らかな微笑み、優しい声、ちょっと首を傾げる可愛い動作。僕は彼女に釘付けになっていた。ぼうっとしつつも自己紹介する。彼女はアイリーナと名乗った。セイレンベルク公爵家の令嬢らしい。呆然としていると、アイリーナが優しく声をかけてきた。


「ノエルさま……?」


 空色の大きな瞳に見つめられて、僕は一瞬固まった。慌てて何でもない、と返すと、横のシリウスがアイリーナに話しかけた。この二人、知り合いだったのか、ずるいな。胸が小さく痛んで、シリウスが呼び捨てでいいと言ったのに乗っかった。


「うん、わかった。よろしくね、シリウス、ノエル」


 アイリーナがとびきりの笑顔を浮かべ、僕は息をのんだ。そこに、咳払いが聞こえた。


「そろそろレッスンを始めるぞ」


 祖父上が言う。僕らは祖父上に挨拶した。











 初めのうちは、僕は魔術のレッスンがとても楽しみだった。アイリーナと一緒に魔術を練習するのが好きだった。


 アイリーナは全部の属性が使えるらしく、いろんな魔術を楽しそうに使っていた。シリウスも水と風、二属性持っている。


 しかし、僕は水だけ。いつしかそれが心の重しになっていた。僕だけ一つの属性しか使えない。二人みたいに組み合わせ魔術なんて使えない。そのうち僕は置いてかれるんじゃないか。


 これを誰にも言う事が出来ないで、表面上は普段通りに過ごすようになった。





















 そんなある日、アイリーナと一緒に帰る事になった。シリウスと別れて馬車に乗り込むと、アイリーナが聞いてきた。


「ねえノエル、何かあったの?最近元気ないよね?」

「そ、そんなことないよ」

「ほんとうに?」


 アイリーナ、鋭いな。僕はいつも通り過ごしていたと思うんだけど。向かい合わせに座っていたアイリーナが、手を伸ばして僕の頬に当てた。アイリーナの手、温かい……


「つらいこと、話して?」


 寄り添うように横に座ったアイリーナ。気がつけば、僕は心の内を全て話していた。











「……それで、僕だけおいていかれそうで、怖かった……」

「……そっか、ごめんね。ノエルがそんな思いなの気づかなくて」


 アイリーナが目を伏せる。アイリーナのせいじゃない、だからそんなに気にしないで。僕のせいでアイリーナが落ち込むのは嫌だよ。


 手を伸ばそうとした時、だけどね、とアイリーナが顔を上げた。


「ノエルはノエルだよ。今みたいに一つの属性でも、シリウスみたいに二つでも、強くても弱くてもノエルはノエル、変わらないよ。そんな事で比べたりしないからね?」

「僕は僕……」

「そう、だって、わたしが水属性一つでも、わたしはわたしでしょ?」

「……そうだね」


 そうだ、僕は僕、強さとか属性とかなんて関係ない。僕は自分らしく過ごせばいいんだ。もう置いてかれる怖さなんてない。だって。


「わたしたち、なにがあってもずっとなかよしだもんね?」

「うん、ずっとだよ」


 嬉しそうに笑うアイリーナに、笑顔を見せる。だって、アイリーナがいるから。僕の隠してた心の重しを軽くしてくれたから。











 時が経ったある時、アイリーナに言われた。


「ネル、お兄ちゃんみたいね。あったかくて安心する」

「そうかな?リリーは妹みたいでかわいいよ」


 確かにアイリーナは妹みたいで可愛い。しっかり者だけど天然な所が。それは、どれだけ時が経っても変わらない。











 そして十二歳になり、僕らは学院に通う事になった。アイリーナは療養の為に一年間学院には来ないという。残念だ、結構アイリーナと学院に通うのを楽しみにしていたのに。それはシリウスとディランも同じようで、それを伝えてきた祖父上に突っかかっていた。


「どうして、リリーが病気だなんて、ありえない!」

「ついこの間、あんなに元気だったのに?」

「仕方ない、そういう事に決まったんだ」

「でも……」


 まだ言おうとするシリウスを止めた。


「シル、リリーならきっと大丈夫だよ。何か事情があるんだよ。だから一年間は、リリーに呆れられないように頑張ろう?」

「ネル……ネルは、リリーがいなくても良いのか?」

「そんな事ない、だけど今言っても仕方ないじゃないか」

「っ、そうだけど……」


 その後も諦められないようなシリウスを強引に納得させて、僕らは学院に入学した。


 学院では、僕ら、特にシリウスはいつも令嬢に囲まれた。僕は令嬢達皆と同じように接した。もちろん、アイリーナは別、令嬢達にはちょっとした知り合い程度の対応をしていた。











 そんなある日、食堂でシリウスがある子の手をつかんだ。


「リリー……?」


 その子は茶髪を揺らし、地属性持ちの特徴である茶色の瞳を驚きに染めていた。シリウス、その子が困ってるじゃないか、何してるんだ。アイリーナはここにいないんだって。


「シル、違うって」

「ここにいるわけないだろ」


 ディランも諌める。


「あの、離してくれませんか?」

「……あ、ごめん」


 きっちりと礼をしてその子が去っていった後も、シリウスはぼうっとしていた。ずっと気にしてるんだな、アイリーナがいない事。


「もう、シル、リリーはいないって」

「いや、あの声が何処か似てて……」

「だけど今の子、どこの子だろう?すごい礼儀正しかったな」


 ディランが割と強引に話題を変え、そのまま話し込んだ。





















 その後もその子はすれ違うたびにしっかりした礼をしてくれた。気になって調べれば、平民だという。そんな、ずっとシリウスに付きまとってるクレノール男爵令嬢などより遥かに礼儀正しくて、上級貴族だと思っていたのに。


 さらに、どうも嫌がらせを受けているらしい。僕一人でいた時、クレノール男爵令嬢が取り巻きと一緒に水をかけているのを目撃した。僕にはどうする事も出来ない。


 火属性の使えるディランを呼んで乾かしてもらおうとして、連れて戻ってみれば既にいなくなっていた。


 あの子、いつもあんな事されているのだろうか。助けてあげたい、平民でも関係ない、そう思っていた。でも、ここまで気にかけるのはどうしてだろう?


 自分の思いに疑問を感じていたある時。階段から落ちたという噂を聞いた。嘘だ、あの子が落ちるなんてうっかりはしない、きっと落とされたんだ。


 誰に?クレノール男爵令嬢に決まってる。


 そしてその日から一ヶ月、クレノール男爵令嬢は授業に来なかった。一方の落とされた子は元気に授業に出ているらしい。もっと休んだって良いのに、真面目だな。











 朝、すれ違って礼をしてくれた。そのすぐ後に、クレノール男爵令嬢がやって来た。そして、シリウスが思わず呟いた一言で、クレノール男爵令嬢があの子に突っかかっていった。


 一瞬のうちにあの子を地面に倒して何度も殴っている。助けようと駆け出そうとした時、その子が土壁を出して立ち上がった。


 そのまま何か一言言うと、クレノール男爵令嬢は去っていった。慌てて駆け寄る。その時の仕方ないとでも言いたげな表情は、どこか見た事がある気がして。そして、にっこりと笑った。


 すぐに真顔に戻ってしまったけど、この笑顔は間違いない。シリウスとディランも気づいたらしい。あの子がアイリーナだと。











 授業終わりにアイリーナに会いに行こうとして、衝撃の事実を知った。クレノール男爵令嬢に閉じ込められたらしい。それを、閉じ込めた本人から聞いた。


 たかが身分の違いだけで、そこまでするか?それも、見つからないような場所に。


 祖父上の話を思い出して図書室の近くを探す。地下と言うくらいだから建物の一階にあるのか?そう思って一階を隈無く探すが、それらしきものの気配もしない。


 どこだ、アイリーナはどこにいる?


 そして、やっと分かった。ずっと嫌がらせされていたアイリーナを気にかけていたのは、心のどこかでアイリーナだと気づいていたんだな。


 しっかりしているけど、どこか抜けているアイリーナ。守ってあげたい妹みたいな存在。早く見つけてあげなくちゃ。











 しばらくして、シリウスに呼ばれた。何か見つけたようだ。そこに向かうと、何やら淀みがあった。とりあえず解析してみる。すると、そこに小屋が出現した。


「うわっ」


 何だこれ、こんな所に小屋……?ドアを開ける。暗闇から何かの叫び声が聞こえて、呆気にとられているうちに、シリウスが駆け出した。思わずディランと顔を見合わせる。そして、ディランの火を頼りに中へ入った。











 ひたすら階段が続き、やっと下に着いて明るい場所が見えた。僕は期待とともに覗き込んだ。

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