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しろねこ姫の不思議な力  作者: しーにゃ
第2章 しろねこ姫の学院入学
32/125

26-S 半年我慢して

 学院生活はつまらない。僕はノエルやディランと話しながらそう思った。理由なんて判りきっている。






 アイリーナがいないから。






 学院入学する前の最後の魔術レッスンに、アイリーナは来なかった。それどころか、一年間は療養のために学院に来ないと言われた。僕はノエル、ディランと共にひどくがっかりした。僕の世界を作ってくれたのはアイリーナなのに、ずっと一緒に学んでたのに。ノエルにかなり説得されて、それでも諦めきれないまま入学式を迎えた。





















 学院では、僕らはいつも令嬢達に囲まれた。皆覚えて欲しいのか何なのか、ひたすら話しかけてくる。でも、アイリーナと話すのが一番楽しい。あの笑顔が見たい。僕は令嬢達とはあまり親しくなろうとしなかった。


 そんな中、ユリアンナ·ラ·クレノール男爵令嬢だけは懲りずに突っかかってきた。


「シリウス様、ここが分からないの、教えてくださる?」


 どれだけ拒否しようとも、再びやって来る。一ヶ月して、もはやそれが日常と化してしまった。











 そんな半年前のある日、食堂でノエル達と話していたら、懐かしい声が聞こえた気がした。


「まあ、仕方ないよ」

「……?リリー?」


 気がつけばその子の手をつかんでいた。驚いて振り返った令嬢の瞳は、茶色で。大きく見開かれていた。隣で僕をたしなめる声も聞こえずに、僕はしばしその子を見た。


 そうだよな、ここにはアイリーナはいない、いるはずがない。そんな事は分かってる。だけど……


「あの、離してくれませんか」

「あ、ごめん」


 言われて我に返る。慌てて手を離すと、その子はきちんとした礼をして去っていった。


「もう、シル、リリーはいないって」

「いや、あの声が何処か似てて……」

「だけど今の子、どこの子だろう?すごい礼儀正しかったな」


 ノエルとディランとしばらく話し合った。






















 それから半年経つ。その子とはたまにすれ違うが、きっちり礼をしてくれる。聞いた所によれば、平民だというから驚いた。そして、ある日。クレノール男爵令嬢が授業に来なくなった。


「ねえ、聞いた?階段から落ちたの、あの礼儀正しい子だって」

「あの子が?珍しいな」

「それがね、落とされたんだって」


 ノエルが小声で言う。僕は唖然とした。


「だってあんなに真面目でしっかりしてるのに?」

「だからだと思うな」


 ディランも驚いている。ノエルだけは冷静に分析していたようだ。


「令嬢は怖いからね」

「ああ、あの男爵令嬢(ユリアンナ)の事か」

「それだけじゃないらしいけどね」


 令嬢、恐るべし。何が気に障ったのか分からないから最悪だよな。アイリーナなら、きっとそんな事はしないのに。むしろ全てを包み込んでくれそうだ。











 しかし邪魔者がいなくなってのんびりしているうちに、再びクレノール男爵令嬢が復活した。











「シリウス様、後で時間をもらえますか」

「明日でもいいか?」


 ノエル達とアイリーナの話をしていた所に割り込んできた。だめだ、今日はレオンハルトにアイリーナの事を聞きに行くんだ。断ると、残念そうに遠ざかっていった。





















「シル兄様、ネル兄様、ディル兄様、お久しぶりです」

「やあレオン、元気か?」

「はい!」


 授業が終わったあとに王宮のカリオン殿の所へ向かう。そこでは予想通りレオンハルトが魔術を練習していた。


「レオン、少し遊ばないか?」

「良いですよ!」











 訓練室で向かい合う。レオンハルトの瞳が紅く光る。


「『炎射(ファイアミシュラ)』」

「『水砲(アクアキャノン)』」


 レオンハルトの手元から吹き出した火炎を、水を吹き出させて迎え撃つ。ぶつかった所から水蒸気が上がった。











「レオン、なかなか上手くなったな」

「はい、練習しましたから!」


 笑顔で言ってくる。今まではただぶつかって終わりだったのが、僕の出した水を蒸発させるまでになった。かなり威力が増したな。


「そうだレオン、リリーは元気か?」

「リナ姉様は元気だよ。細かくはわかんないけど」

「そうか、良かった」

「ネル兄様は、学院どうですか?」

「ん?僕?そうだな、まあまあかな」

「まあまあですか?」

「ああ。正直授業はあんまり面白くないよ」

「そうですか」


 ノエルとレオンハルトが語り出す。僕はディランと共にカリオン殿と話す。


「殿下とディランはどうだ?」

「うーん、あんまり楽しくないな」

「僕らの周り、いつも令嬢に囲まれるからな、特にシル」

「私もそうだった。ゲオルグと一緒に逃げ回ってたな」


 懐かしそうに言うカリオン殿。そのまま過去の話になった。











「…でな、私は見つけたんだ。秘密の地下を。だが、二度と行けなかった。もう見つからなくなっていたんだ。ゲオルグがものすごく悔しそうにしててな。どうして連れて行ってくれなかったのかと」

「それは、どの辺にあったんですか?」

「ああ、確かあれは図書室らへんじゃないか?ぼうっと歩いてたらいつの間にかドアがあったんだ」

「おもしろそう!」

「そうだな、レオンハルトも学院に入ったら探してみたらいい」


 僕も興味を持った。隠された地下。そこには、一体何があるんだろう。


 その日はそれで別れた。明日、少し見てみよう。期待を胸に学院に戻った。











 次の日の朝、()()()と会った。そう言えば名前聞いてないな、そう思った。いつも通り、しっかりした礼をとって挨拶してくる。


「やっぱり男爵令嬢(あの小娘)とは違うな」

「そうだよな、あの子の方がよっぽど良いよ」

「何かあいつ、何処か似てるよな」


 ディランが呟く。誰になんて、言わなくても分かる。アイリーナなら、確かにあんな感じだろうな。


「シリウス様、おはようございますわ」


 そこに、問題児がやって来る。そのマナーのなさに、思わず呟いた。


「あの子を見習った方がいいんじゃないか」


 途端に駆け出すクレノール男爵令嬢。あ、今の聞かれたか。すまない、巻き込んでしまった。











 呆然と立ち尽くすその子に謝る。ぼろぼろになってしまった制服を直した。ノエルが治癒をかけ、ディランは一言元気づけた。すると、彼女はにっこり笑った。そして慌てたように真顔に戻ると、礼をして去っていった。











「ねえシル、あの子……」

「そんなわけが……」

「でも、あの笑顔、間違いないよ」


 その瞬間、僕らの思っていたことは一つ。





 あの子、リリーだ。











 授業が終わった後、三人でアイリーナを探しに行こうとして、クレノール男爵令嬢と出会った。


「シリウス様、どこに行かれるの?」

「少し人を探しにな。朝の子なんだが」

「ああ、あの子なら閉じ込めました。生意気なのよ、平民のくせに」

「はあ?」

「どこに?」

「誰も知らない場所に。そんな事より、私と……」

「失礼する」


 呼び止める声がするが、無視した。僕もだが、ノエル、ディランも相当怒っているようだ。


「まさか、平民が気に食わないからって、閉じ込めるだなんて」

「誰も知らない場所だって?何でそんな所を知ってるんだ」

「それより、探さないと」

「でも、そんな場所、心当たりない」


 焦りが増していく。少なくとも今日中には見つけないと。早く助け出して、恐怖を拭ってあげたい。そんな中、ノエルが何かに気づいた。


「そう言えば、昨日祖父上が話してた、あそこはどうだ?」

「隠された地下の部屋の事?」

「探してみるか。確か、図書室の近くにあると言ってたな」











 図書室の周りを隈無く探したが、それらしい所は見つからない。ノエルとディランにも聞いたが、二人して首を振る。


「仕方ない、手分けして探そう」

「見つけたら教えて」

「分かってる!」


 ノエルは一階に、ディランは上へ向かった。僕は、建物の外を探す。カリオン殿が、図書室からぼうっと歩いたら着いたと言っていた。情報が少なすぎる。とりあえず寮の方に歩く。


 二度と行けなかったのなら、景色が似ている所か?それとも、見つけにくい場所にあるのか?いや、何か条件がいるのかもしれない。


 僕はアイリーナの笑顔を思い出す。いつもニコニコしていて、怒った所を見た事がない。ここのどこかに、閉じ込められているのか?僕は心配で胸が張り裂けそうだった。











 辺りを見回していると、ふと違和感を感じた。僕はゆっくり目を走らせる。そして、ある一点に目を留めた。そこだけ風景が少し歪んでいる。


「ネル、ディル、ちょっと来て」


 とりあえず二人を呼んで、見つけたものを見せる。


「何だこれ?」

「うーん、ここだけ魔力が濃いな。『解析(アナリス)』」


 ノエルが魔術を使うと、そこに小さな小屋が出現した。


「うわっ」

「な、何だ…?」

「……っ!」


 皆で呆気にとられる中、僕は何か不気味なものを感じた。この中にアイリーナがいるなら、早く助けなくては!











 ドアを開ける。途端、叫び声がした。


「グオォォォォア!」


 僕らは顔を見合わせた。今のは、何?アイリーナは?


 いても立ってもいられず、僕は駆け出した。長い長い階段の下に着くなり、そこにあるドアを開ける。











 そこは、本やらアクセサリーやらがたくさん置いてある部屋だった。その奥、もう一つのドアがあり、その前でピンクがかった金色(ストロベリーブロンド)の髪を揺らし、ぼろぼろになって座り込む女の子がいた。はやる心を抑え、聞いてみる。


「リリー?」


 ゆっくり顔を上げたその子は、僕を見て目を見開いた。まるで有り得ないものを見たように。だけど、ああ、間違いない。


「シル……?」


 その懐かしい、久しぶりの声を聞いて飛びついた。


「リリー、会いたかったっ!」

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