22-I 立場の違い
次の日から授業が始まった。クラスは使える属性ごとに四つに分けられていた。わたしは地術クラス。そして、光属性や闇属性の人は、バランスを見てクラス分けされた。今年は水術クラスに入ったようね。
魔術の授業では、実際に使う前にその危険性の講義があった。そして、実践に移る。まずは、初級魔術『土壁』から。
広い訓練場で、先生が発言する。
「いいか、集中して呪文を唱えるんだ」
わたしはこれを聞いて呆れた。集中するのは呪文じゃなくてその効果でしょうに。案の定みんな上手く出来ていなかった。わたしも、今の制限だと何も出来ないので、集中する。使える魔力を集め、呪文を唱えるけれど、どうしても形にならない。
そんな中、周りはどんどん魔術を成功させていく。焦る中、一人の男子が話しかけてきた。
「力を抜いてみな」
驚いて振り向くと、そこにいたのは、朱色に輝く髪をした男子。隣国ファルク王国の第二王子、アレックス·サン·ライア·ファルク様。お母様がファルク王国の王女様だったから、わたし、アイリーナとは一応従兄弟同士だけど、今は平民ミレイルよね。慌てるわたしの肩に手を置いた。
「ほら、深呼吸」
言われて深呼吸する。ゆっくり力を抜くと、改めて強くイメージする。
「『土壁』」
唱えると、目の前に二十センチくらいの壁が出来た。無駄なことを考えないで、ただ純粋にイメージする、この感覚。五歳頃に初めて魔術を使ったあの感覚だわ。応用させていくうちに、初めの感覚を忘れてしまったのね。
「王子殿下、ありがとうございます」
「上手くいって良かったな」
アレックス様は真顔でそう言うと行ってしまった。
しかし授業後に、これを見ていた令嬢達に囲まれてしまった。
「あなた、平民のくせに、アレックス様と話すだなんて」
口火を切ったのは赤茶色の髪をしたレテフィア·フォン·ディアクト侯爵令嬢。それに、フローラ·アル·コーネル伯爵令嬢が続いた。
「その上、肩に手を置かれるなんて、身の程を知りなさい」
他にも集まって来た令嬢に色々言われる。最後にレテフィア様に突き飛ばされた。
「その格好がお似合いだわ」
そのまま去っていく。わたしは呆然とした。屈辱や痛みよりも、驚きが勝った。貴族ってこんな人の集まりなの?みんな平民に対してこんな事を言うのかしら。まさか、お父様達も?
そこに至って首を振る。お父様達はあの人達とは違うわ。フィリップさん達に、あんな言い方はしない。家の使用人達にももっと優しいわ。
立ち上がって人がいないのを確認し、少しだけ攪乱を解除して『掃除』をかける。部屋に戻ってからだと寮を汚してしまうから仕方ないわ。
寮につくと、軽く体を洗って部屋に戻り、少し考え事をする。まだ入学してから一ヶ月も経ってないのに、こんなので大丈夫かしら。お父様に聞いてみよう。伝鳥を使ってお父様に連絡する。令嬢達に目を付けられてしまったけれど、大丈夫ですか。
しばらくして鳥が飛んできた。窓辺でぼうっとしていたわたしの手にとまる。
『リーナ、それなら大丈夫だ。奴らが探しているのはあくまでも公爵令嬢のアイリーナだ。平民が目立とうと問題は無いと思う。無事を祈ってるよ。テオドール』
ほうと息をつく。良かった、それなら安心だわ。
この安心が裏切られるのは、その一ヶ月後くらいだった。
午前の授業を終えて、わたしは仲良くなったレシーナとテルアと一緒に食堂で昼食を食べていた。
彼女達も同じ地術クラスで、レテフィア様に何か言われていたの。その後部屋を間違えられて、二人してわたしの部屋に入ってくるなり座り込んでしまった。
そのまま話し込むうちに仲良くなり、今では一緒に行動している。彼女達の部屋は隣なので、たまに遊びにも行くの。
「それでお父さんが折れて、お母さんと一緒に飛び上がって喜んだの」
「いいなぁ、わたし許してもらえないの」
そんな他愛ない会話をしていた時に、レテフィア様がやってきた。
「ミレイル、そこをどきなさい」
「はい」
大人しく命令に従って席を立ち、掃除してから椅子を引く。レテフィア様が座って、いいと言ってから、お辞儀をした。
「それでは失礼致します」
レシーナ、テルアと食堂の出口に向かう。
「あの方、毎回ミレイルに突っかかるよね」
「まあ、仕方ないよ」
ため息と共に小さく呟く。その時、左手を引っ張られた。振り向くと、真剣な眼差しがあった。あまりの事に固まる。
「シル、違うって」
「ここにいるわけないだろ」
たしなめる二人の声に被さって、今は制御出来ているはずの紋章から、強い思念が響く。
『今の声、いや、でもそんなわけが……』
きつく握りしめられる。わたしはやっと我に返ると、目の前の人──シリウスに言った。
「……あの、離してくれませんか?」
「あ、ごめん」
心ここに在らずという感じのシリウスにもお辞儀して、食堂を出た。
「王子殿下、どうなさったんだろ」
「珍しいよね」
レシーナとテルアの会話も頭に入って来ない。ただ、さっきシリウスが強く思っていた言葉が頭をぐるぐる回っていた。
『──会いたいよリリー、無事でいて──』
午後の授業に向かう途中で、茶髪で金色の瞳をした令嬢に捕まった。
「調子に乗らないで」
後ろにいた令嬢が水球を作り出す。レシーナとテルアを慌てて避難させた時、水球が飛んできた。これは、受けないと後がめんどくさいわ。わたしは大人しくそれを受けた。
「平民のくせに」
吐き捨てるように言うと、わたしを突き飛ばして去っていった。
「ミレイル、大丈夫?」
「うん、大丈夫。でも、あの人誰?」
「ユリアンナ·ラ·クレノール男爵令嬢よ」
ため息をつきつつ立ち上がって土を払う。これはこれでめんどくさい事をしてくれたわね。わたしはレシーナに言った。
「次の授業、少し遅れるって言っておいてくれる?」
「ミレイル……」
「……分かった、伝えておくね」
不安げなテルアを連れて、レシーナは歩いていった。
とりあえず人目につかない所まで移動する。しっかり確認してから、攪乱を解除した。そして『掃除』と『乾燥』をかける。攪乱を戻すと、何事も無かったように元通りになった。
レテフィア様だけかと思っていたのに、ユリアンナ様までこんな事をするのね。平民だから?たったそれだけで?わたしは悶々と悩みながら授業に向かった。




