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しろねこ姫の不思議な力  作者: しーにゃ
第2章 しろねこ姫の学院入学
25/125

19-I 外で遊びます

 わたしはがっかりしていた。


 もう少しでここにある本を全て読み尽くしてしまう。まだ目的の本を見つけてないのに。でもきっと、まだ読んでない中にあるはずだわ。『変身者(トラスフィラー)』になる方法の書いてある本が!


 家の図書室の奥に向かい、埃まみれの分厚い本を取り出した。これなら載っているかしら。


「『掃除(クリナー)』」


 埃を払って表紙を見た。『最高峰魔術の危険性』、これならありそうじゃない?期待を胸に本を開く。


『目次

  一、火属性魔術『炎熱(キャンピートフレ)地獄(イ·プロコーナ)

  二、水属性魔術『激龍(スプラトゥーレ)天災(·カラミストス)

  三、風属性魔術『嵐刃(コンフルティッ)無尽(ク·テンペスター)

  四、地属性魔術『大地(コンニティルッツ)共鳴(·シンピーチス)

  五、氷属性魔術『白銀(シルヴェストリ)世界(·スペラニーフ)

  六、雷属性魔術『空振(リュミエスト·)雷動(シェアルーチェ)

  七、光属性魔術『天女(サンパトローネ)祝福(·アテスマルカ)

  八、闇属性魔術『悪魔(サタナイライオ)遊戯(·ディスローゼ)

  九、禁術

  十、特殊能力』


 他のも気になるけれど、今はそれよりも変身者(トラスフィラー)の事。特殊能力の所を開いた。


『十、特殊能力

  その一、吸収(ドレイン)。この能力は触れた者の魔力を奪う。また、自身の魔力を相手に受け渡す事も可能。先天的な能力であり、幼少期はコントロール出来ないことが多い。基本的には思い通りの時に発動可能だが、自身の魔力が残りわずかの時は自動発動する。魔力を奪われた者は一時昏睡状態に陥るが、命に直接の危険はない。吸収(ドレイン)能力者は大変珍しく、百年に一人いるかどうかである。

  その二、女神(テアルチーサ)。全八属性を使いこなす者だけが修得できる。その祝福を受け、女神の心をつかむ事が出来た時、女神によりこの能力が授けられる。この能力だけは過去に例がなく、詳しい効果は不明。魔術研究者や歴史家の中でも伝説ではないかとの説が有力である。

  その三、変身者(トラスフィラー)。地属性魔術が使える者のうち、平均の三倍以上の魔力量を持ち、コントロールを極めた者が修得できる。何時でも特定の動物に変身することが出来る能力である。』





 あ、あった!やっと見つけたわ!わたしは思わず本を抱きしめ、顔を埋めた。五歳の時にアイリスと出会ってから、もうすぐ七年。ずっと探し続けていた、わたしの夢。震える手でページをめくり、続きに目を向けた。


『大地の協力を得て、変身する動物のイメージを具現化する。そして自らをその中に収める感覚で変身する。一度変身した後は、頭にイメージを浮かべ、『変身(トラスフィル)』と唱えることで変身が可能となる。』



 わたしは震えていた。これでやっと夢が叶えられるわ!感激のあまり涙が出てきた。そこに。


「お姉様?そろそろ時間ですわ」

「あら、もうそんな時間?今行くわ」


 レイチェルが呼びに来て、わたしは本を閉じた。しっかり本を抱きかかえ、自分の部屋に大事に置いてから家の外に出た。


「リナ姉様、何してたんですか?」


 レオンハルトの視線が鋭い。そうよね、せっかく外に行けるのに待たせてしまったわ。


「ごめんなさいね、レオン、チェル。行きましょうか」


 わたしは二人の頭を撫でた。


「「はい!」」











 今日はお父様に言われて、魔術の練習のために外に行くの。付き添いに、カリオン様、ゲオルグ様、お祖父様、そしてディランのお祖父様のギルバート様。わたしはレオンハルトとレイチェルと馬車の中でいろいろ話した。


「リナ姉様、僕とっても楽しみです!」


 目を輝かせてレオンハルトが言う。一昨日モンスターと戦った時は、まだ九歳だからという理由で置いてきぼりを食らった分、今日が楽しみなようね。魔術のレッスンも一緒に受けていて、攻撃力も高い。


「わたしも!」


 一方のレイチェルは、そもそもほとんど家で過ごしている。わたしとは真逆ね。そして、退屈しのぎにわたし達三人で魔術の練習をしているのよ。


「ふふ。今日は壊す事を心配しなくていいから良いわね」

「ええ、全力で攻撃いたしますわ」

「僕も負けないよ」


 そんな事を話しているうちに、目的地についた。











 そこは、一面の荒野だった。


「さあ、ここなら我慢しなくていいぞ」


 お祖父様が言う。それに喜んで飛び跳ねるレイチェルを横目に、レオンハルトが何とも大胆な提案をした。


「祖父上、僕達の相手をしてくれませんか」


 レ、レオン!?さすがにそれは……


「お、いいぞ。私ら三人で相手になろう。ただし、こちらからも攻撃するからな」

「はい、ありがとうございます!」


 かくして、わたし、レオンハルト、レイチェルVSお祖父様、ゲオルグ様、カリオン様の対決が始まった。











「『防御(プロテクショ)結界(ン·シールド)』」


 お祖父様達が守りに入る。うん、『防御(プロテクショ)結界(ン·シールド)』なら全力で攻撃しても大丈夫ね。わたしはレオンハルトとレイチェルと笑い合った。


「行くわよ、レオン、チェル!『竜巻(サイクロン)』!」

「はい姉様!『炎弾(ファイアバーレ)』!」

「わたしも!『砂刃(サンドエッジ)』!」


 それぞれ中級魔術を叩きつける。わたしの竜巻がレオンハルトの炎と合わさる。そこに、レイチェルが砂刃─読んで字のごとく、一粒一粒の砂を鋭くした、砂で出来た小さな刃─が飛び込む。そのままお祖父様達に襲いかかった。


 キンキンと結界が音を立てるのを聞きつつ、わたしはレイチェルを見た。レイチェルにしては弱い攻撃だわ。


 レイチェルは少し震えていた。


「チェル、どうしたの?怖い?」

「お姉様、もし、もし大怪我したらどうしよう?」


 七歳のレイチェルは、とても優しい子。人が傷つくのを見ていられずに、見かけた傍から治療している。普段も、怪我しない程度に抑えて魔術を使っている。


 楽しんでいる中、わたしが怪我でもしようものなら、すっ飛んで来て治癒をかけ、抱きついて泣き続けるの。今は、自分のせいで人が傷つくのを見たくないのだろう。だけど、相手はこの国の中でも強い人達。


「大丈夫よ、お祖父様達とても強いのよ。簡単に怪我なんかしないわ。それに、もし怪我したらお祖父様が治してくれるわ」

「でも……」

「だから、わたし達も怪我しないように気をつけるわよ」

「チェル、危なかったら僕とリナ姉様が止めるから、安心して」


 それを聞いて少し安心したのか、レイチェルの震えが止まった。わたしを見上げてくる。


「お姉様、ほんとう?」

「ええ」


 レイチェルが笑った。いつもの楽しんでいる時の笑顔。


「じゃあわたし、いっぱい遊んでもらうわ!」


 わたしがレイチェルの頭を撫でた時、パリーンと音が響いた。わたし達は顔を見合わせる。


 お祖父様達が竜巻を消し去っていた。だったらさっきの音は何かしら?


「まさか、結界が……」


 カリオン様が呆然と呟いている。横でゲオルグ様とお祖父様が楽しそうに微笑んでいる。


「これは楽しくなりそうだな、クリス」

「ああ。さて、反撃といきますか」


 お祖父様とゲオルグ様の瞳が蒼く光った。


「『水球(ウォーターボール)』」

「『泡弾(バブルショット)』」


 横でレオンハルトが呆れている。


「祖父上たち、本気じゃないですよね」

「だったら本気を出させるだけよ」


 しかし、レイチェルは何かに気づいたように慌てた。


「ソ、『土壁(ソイウォール)』っ」


 途端に衝撃が来た。そんな、たかが初級魔術で、そこまで考えてふと思う。そうか、わたし達に出来てお祖父様達が出来ないわけないわ。今のもかなりの威力だったわ。レオンハルトも気づいたようで、真剣な面持ちになっている。


 レイチェルの瞳が強く蒼く輝く。レオンハルトの瞳は茶色く輝いた。


「『水刃(アクアエッジ)』」

「『砂塵(ダステーレ)』」


 あら、水属性と地属性魔術ね。どの属性で攻撃すればいいかしら。


「『突風(ハイウィンド)』」


 カリオン様が砂を吹き飛ばした。続いて攻撃が来る。


「『氷矢(アイスアロー)』」

「『水砲(アクアキャノン)』」

「『竜巻(サイクロン)』」


 竜巻が水を巻き込んで水の竜巻が出来た。氷矢も襲ってくる。しかしレイチェルは目を輝かせて楽しそうに笑った。


「お姉様、お兄様、竜巻はお願いします」


 そう言うと、迫り来る竜巻を無視し、お祖父様達の方に目を向けた。


「『水砲(アクアキャノン)』」


 吹き出した水を器用に操り、高速旋回させた。











 一方竜巻を任されたわたし達。わたしの竜巻で威力を削ると、レオンハルトが火球を出した。


「僕も竜巻作る!」


 そして火球を回転させる。高速回転した火球をさらに調整し、見事竜巻が出来上がった。






 猛威をふるう三つの竜巻。


 一つは風で出来ていて、氷矢が飛び回る。


 一つは燃えさかる火。その勢いを増して、今にも風竜巻を飲み込まんとしている。


 一つは純粋なる水の流れ。しかしその流れは触れた者を切り裂く。


 わたしはいたずら心を起こした。あと、揃ってないのは地属性だけよね!『砂刃(サンドエッジ)』と『砂塵(ダステーレ)』を組み合わせ、螺旋状に回した。


 四つめ、土の竜巻が出来た時。黒い光と共に全ての竜巻が消え去った。そして楽しそうな声が響く。


「ボクもいっしょに遊びたい!入れて、いいよね?」

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