19-I 外で遊びます
わたしはがっかりしていた。
もう少しでここにある本を全て読み尽くしてしまう。まだ目的の本を見つけてないのに。でもきっと、まだ読んでない中にあるはずだわ。『変身者』になる方法の書いてある本が!
家の図書室の奥に向かい、埃まみれの分厚い本を取り出した。これなら載っているかしら。
「『掃除』」
埃を払って表紙を見た。『最高峰魔術の危険性』、これならありそうじゃない?期待を胸に本を開く。
『目次
一、火属性魔術『炎熱地獄』
二、水属性魔術『激龍天災』
三、風属性魔術『嵐刃無尽』
四、地属性魔術『大地共鳴』
五、氷属性魔術『白銀世界』
六、雷属性魔術『空振雷動』
七、光属性魔術『天女祝福』
八、闇属性魔術『悪魔遊戯』
九、禁術
十、特殊能力』
他のも気になるけれど、今はそれよりも変身者の事。特殊能力の所を開いた。
『十、特殊能力
その一、吸収。この能力は触れた者の魔力を奪う。また、自身の魔力を相手に受け渡す事も可能。先天的な能力であり、幼少期はコントロール出来ないことが多い。基本的には思い通りの時に発動可能だが、自身の魔力が残りわずかの時は自動発動する。魔力を奪われた者は一時昏睡状態に陥るが、命に直接の危険はない。吸収能力者は大変珍しく、百年に一人いるかどうかである。
その二、女神。全八属性を使いこなす者だけが修得できる。その祝福を受け、女神の心をつかむ事が出来た時、女神によりこの能力が授けられる。この能力だけは過去に例がなく、詳しい効果は不明。魔術研究者や歴史家の中でも伝説ではないかとの説が有力である。
その三、変身者。地属性魔術が使える者のうち、平均の三倍以上の魔力量を持ち、コントロールを極めた者が修得できる。何時でも特定の動物に変身することが出来る能力である。』
あ、あった!やっと見つけたわ!わたしは思わず本を抱きしめ、顔を埋めた。五歳の時にアイリスと出会ってから、もうすぐ七年。ずっと探し続けていた、わたしの夢。震える手でページをめくり、続きに目を向けた。
『大地の協力を得て、変身する動物のイメージを具現化する。そして自らをその中に収める感覚で変身する。一度変身した後は、頭にイメージを浮かべ、『変身』と唱えることで変身が可能となる。』
わたしは震えていた。これでやっと夢が叶えられるわ!感激のあまり涙が出てきた。そこに。
「お姉様?そろそろ時間ですわ」
「あら、もうそんな時間?今行くわ」
レイチェルが呼びに来て、わたしは本を閉じた。しっかり本を抱きかかえ、自分の部屋に大事に置いてから家の外に出た。
「リナ姉様、何してたんですか?」
レオンハルトの視線が鋭い。そうよね、せっかく外に行けるのに待たせてしまったわ。
「ごめんなさいね、レオン、チェル。行きましょうか」
わたしは二人の頭を撫でた。
「「はい!」」
今日はお父様に言われて、魔術の練習のために外に行くの。付き添いに、カリオン様、ゲオルグ様、お祖父様、そしてディランのお祖父様のギルバート様。わたしはレオンハルトとレイチェルと馬車の中でいろいろ話した。
「リナ姉様、僕とっても楽しみです!」
目を輝かせてレオンハルトが言う。一昨日モンスターと戦った時は、まだ九歳だからという理由で置いてきぼりを食らった分、今日が楽しみなようね。魔術のレッスンも一緒に受けていて、攻撃力も高い。
「わたしも!」
一方のレイチェルは、そもそもほとんど家で過ごしている。わたしとは真逆ね。そして、退屈しのぎにわたし達三人で魔術の練習をしているのよ。
「ふふ。今日は壊す事を心配しなくていいから良いわね」
「ええ、全力で攻撃いたしますわ」
「僕も負けないよ」
そんな事を話しているうちに、目的地についた。
そこは、一面の荒野だった。
「さあ、ここなら我慢しなくていいぞ」
お祖父様が言う。それに喜んで飛び跳ねるレイチェルを横目に、レオンハルトが何とも大胆な提案をした。
「祖父上、僕達の相手をしてくれませんか」
レ、レオン!?さすがにそれは……
「お、いいぞ。私ら三人で相手になろう。ただし、こちらからも攻撃するからな」
「はい、ありがとうございます!」
かくして、わたし、レオンハルト、レイチェルVSお祖父様、ゲオルグ様、カリオン様の対決が始まった。
「『防御結界』」
お祖父様達が守りに入る。うん、『防御結界』なら全力で攻撃しても大丈夫ね。わたしはレオンハルトとレイチェルと笑い合った。
「行くわよ、レオン、チェル!『竜巻』!」
「はい姉様!『炎弾』!」
「わたしも!『砂刃』!」
それぞれ中級魔術を叩きつける。わたしの竜巻がレオンハルトの炎と合わさる。そこに、レイチェルが砂刃─読んで字のごとく、一粒一粒の砂を鋭くした、砂で出来た小さな刃─が飛び込む。そのままお祖父様達に襲いかかった。
キンキンと結界が音を立てるのを聞きつつ、わたしはレイチェルを見た。レイチェルにしては弱い攻撃だわ。
レイチェルは少し震えていた。
「チェル、どうしたの?怖い?」
「お姉様、もし、もし大怪我したらどうしよう?」
七歳のレイチェルは、とても優しい子。人が傷つくのを見ていられずに、見かけた傍から治療している。普段も、怪我しない程度に抑えて魔術を使っている。
楽しんでいる中、わたしが怪我でもしようものなら、すっ飛んで来て治癒をかけ、抱きついて泣き続けるの。今は、自分のせいで人が傷つくのを見たくないのだろう。だけど、相手はこの国の中でも強い人達。
「大丈夫よ、お祖父様達とても強いのよ。簡単に怪我なんかしないわ。それに、もし怪我したらお祖父様が治してくれるわ」
「でも……」
「だから、わたし達も怪我しないように気をつけるわよ」
「チェル、危なかったら僕とリナ姉様が止めるから、安心して」
それを聞いて少し安心したのか、レイチェルの震えが止まった。わたしを見上げてくる。
「お姉様、ほんとう?」
「ええ」
レイチェルが笑った。いつもの楽しんでいる時の笑顔。
「じゃあわたし、いっぱい遊んでもらうわ!」
わたしがレイチェルの頭を撫でた時、パリーンと音が響いた。わたし達は顔を見合わせる。
お祖父様達が竜巻を消し去っていた。だったらさっきの音は何かしら?
「まさか、結界が……」
カリオン様が呆然と呟いている。横でゲオルグ様とお祖父様が楽しそうに微笑んでいる。
「これは楽しくなりそうだな、クリス」
「ああ。さて、反撃といきますか」
お祖父様とゲオルグ様の瞳が蒼く光った。
「『水球』」
「『泡弾』」
横でレオンハルトが呆れている。
「祖父上たち、本気じゃないですよね」
「だったら本気を出させるだけよ」
しかし、レイチェルは何かに気づいたように慌てた。
「ソ、『土壁』っ」
途端に衝撃が来た。そんな、たかが初級魔術で、そこまで考えてふと思う。そうか、わたし達に出来てお祖父様達が出来ないわけないわ。今のもかなりの威力だったわ。レオンハルトも気づいたようで、真剣な面持ちになっている。
レイチェルの瞳が強く蒼く輝く。レオンハルトの瞳は茶色く輝いた。
「『水刃』」
「『砂塵』」
あら、水属性と地属性魔術ね。どの属性で攻撃すればいいかしら。
「『突風』」
カリオン様が砂を吹き飛ばした。続いて攻撃が来る。
「『氷矢』」
「『水砲』」
「『竜巻』」
竜巻が水を巻き込んで水の竜巻が出来た。氷矢も襲ってくる。しかしレイチェルは目を輝かせて楽しそうに笑った。
「お姉様、お兄様、竜巻はお願いします」
そう言うと、迫り来る竜巻を無視し、お祖父様達の方に目を向けた。
「『水砲』」
吹き出した水を器用に操り、高速旋回させた。
一方竜巻を任されたわたし達。わたしの竜巻で威力を削ると、レオンハルトが火球を出した。
「僕も竜巻作る!」
そして火球を回転させる。高速回転した火球をさらに調整し、見事竜巻が出来上がった。
猛威をふるう三つの竜巻。
一つは風で出来ていて、氷矢が飛び回る。
一つは燃えさかる火。その勢いを増して、今にも風竜巻を飲み込まんとしている。
一つは純粋なる水の流れ。しかしその流れは触れた者を切り裂く。
わたしはいたずら心を起こした。あと、揃ってないのは地属性だけよね!『砂刃』と『砂塵』を組み合わせ、螺旋状に回した。
四つめ、土の竜巻が出来た時。黒い光と共に全ての竜巻が消え去った。そして楽しそうな声が響く。
「ボクもいっしょに遊びたい!入れて、いいよね?」




