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しろねこ姫の不思議な力  作者: しーにゃ
第2章 しろねこ姫の学院入学
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18-K 驚異の一家

 それは、軽い気持ちだった。学園に入学する前にモンスターと戦う経験があった方が良いだろう、くらいの。もし危なくなったら、騎士達と共に助けに行くつもりだった。


 事態は予想を裏切っていく。シリウス殿下が飛ばされた後、アイリーナが使った魔術。それは、アイリーナが創ったオリジナル魔術。私が驚いている間にも、彼らはモンスターを難なく倒していく。なるほど、アイリーナはともかく、他の三人もなかなか強いようだ。


 そう思って若干気を抜いた時。オークが現れた。さすがにまずいと騎士達がざわめく。ディルクーフェンがこちらを見てきた。


「カリオン様、やりますか?」

「いや、まだだ。もう少し様子を見よう」


 ざわめきが大きくなった。確かに初陣で弱いとはいえモンスター百体でもかなり危険なのに、オークまでとなると普通は助けに入る。普通なら。


 しかし、普通でない者が少なくとも一人いる。私達が固唾を飲んで見守る中、アイリーナが炎の竜巻を飛ばし、残っていた下級モンスターを全て倒した。


「なっ、そ、そんな馬鹿な。学園にも通っていない娘一人であの数を……」


 ディルクーフェンが呻いている。しかし、私は別の理由で呻いた。






 あの馬鹿、全力を出せって言っただろ!






 攪乱で制限されているとはいえ、アイリーナの全力はあんなものでは無い。その気になればオークなんて一瞬だろう。


 そんな事を考えている間に、アイリーナがオークの足を凍らせた。そして、腕の動きがより凶暴になったのを見て、しまった、という顔をして麻痺をかけた。そして。


 一瞬のうちにシリウス殿下とノエルの魔術が炸裂し、ディランがオークを切り裂いた。











「先生、モンスター殲滅しました!」


 アイリーナが笑顔で報告してくる。私達は咄嗟には動けなかった。アイリーナはノエルに宥められている。うん、孫よ、よくやった。


 気を取り直してアイリーナに聞く。


「アイリーナ、今の、本気か?」

「いいえ、ちょっと手を抜きました」


 やっぱりか。思わず頭を押さえてため息をついた。仕方ない、全力で攻撃させよう。そう言うと、アイリーナが良いのかと聞いてきた。良いに決まっている。アイリーナの全力を見に来たようなものだし。


「『防御(プロテクショ)結界(ン·シールド)』」


 さあアイリーナ、全力でかかってこい!











「『陽光(ソーライサー)』!」


 アイリーナが詠唱する。頭上から一筋の光が私に襲い掛かる。うん、これをオークに当ててたら一発だっただろう。さらに。


「『竜巻-刃(サイクロン-エッジ)』、『炎弾(ファイアバーレ)』、『地揺れ(アースウェイア)』!」


 炎の竜巻に閉じ込められた。そして、地面からも攻撃が来る。互いの攻撃を打ち消さない属性の、上、横、下、と全方位からの攻撃。しかもそれぞれ威力がかなり高い。さすがアイリーナ、賢い。それぞれの術単体ずつ以上のダメージを与えてくる。


 そろそろ結界が傷つくかもしれないという時、アイリーナが攻撃を止めた。竜巻が消え、周りが見えて来る。周りには一切被害を出していないようだ。コントロール力ありすぎだろ。私は感心して結界を解除した。


「これが全りょ……っ!?」


 全力か、そう聞こうとして全身に衝撃を受けた。なっ、これは麻痺!?まずい、結界を……


 目の前でアイリーナが微笑む。


「『水球(ウォーターボール)』」


 思うように動けない私はもろに攻撃を受けた。



 








 びしょ濡れで立ち尽くす。麻痺など関係なく体が動かなかった。あれ程の威力の魔術を、いくら中級だからといって連発しているのに、アイリーナにはまだ余裕がありそうだ。私の所まで来ると、『快癒(リスキュール)』で麻痺を治してくれた。思わず制限しててこれかと呟くと、アイリーナが謝ってきた。


「ごめんなさい、やりすぎましたか?」

「いや、そんな事はない」


 私はかぶりを振る。ともかく、今日のレッスンはこれで終わりだな。





















 王宮に戻った私は、宰相室へ向かった。ノックもそこそこに入室する。


 部屋にはテオドールとクリストファーがいた。丁度いい、クリストファーにも話すか。


「どうしたカリオン、びしょ濡れだぞ」

「実は今日のレッスンで………」


 今日あった事を話す。聞き終わった二人は苦笑いした。


「そうでしたか、アイリーナが」

「やりかねんな」


 いや、驚かないのか?ここは普通呆然とする所だろ。二人に聞くと、


「家でもそんな感じですよ。レオンハルトとレイチェルと三人で魔術の撃ち合いしてます」

「ああ、一回入れてもらったんだが、あの子ら容赦ないぞ。全力でやると家が壊れるって知ってるから、決して全力を出さないで、ぎりぎりの威力で大量の攻撃を仕掛けてきた。抑えているから魔力の消費量も少ないしな」

「待ってくれ、レオンハルトとレイチェルもだと?」


 聞き間違いじゃないよな。つまり、その二人もあんな感じなのか!?頭を抱える。さらに、クリストファーが爆弾を炸裂させた。


「そうだ、今度外で全力を出させてやろう」

「そうですね、そろそろまた壊されそうですし」

()()?」

「我慢してるので、たまに暴発したみたいにとんでもない威力の魔術を使うんですよ。特にレイチェルが。それで家の訓練所が何回壊された事か」


 ついていけない。セイレンベルク家恐るべし。状況適応能力が高すぎる。


 私が呆然としている間に、話がまとまったらしい。


「カリオン、そういう事だからよろしくな」

「はっ?え、何が?」

「聞いてなかったのかよ……」


 呆れたように言われたが、仕方ないと思う。


「明後日、私とカリオン、ゲオルグ、ギルバートと共に、アイリーナ、レオンハルト、レイチェルが外で魔術の練習をする事にした」

「な、何!?モンスターはどうするつもりだ?」

「ある程度ならアイリーナが倒せるだろ。という訳だ、よろしくな」


 言うなり、伝鳥(フォナー)を二匹飛ばす。どうやら断れなさそうだ、私はため息をついた。

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