17-I 初めての戦い
まずは、『防壁』で防御する。続けて、シリウスとノエルが魔術を放つ。
「『風刃』」
「『水砲』」
風の刃はモンスターを切り裂き、水の勢いがモンスターを吹き飛ばす。わたしは一瞬怯んだ。まだ距離があるとはいえ、モンスターが切り裂かれたのよ、さすがに心臓に悪いわ。横にいたディランがそっと手を握ってくれた。
「リリー、大丈夫?」
その手の温もりで徐々に落ち着いてきた。うん、相手はモンスター。倒さなきゃいけない。
「ありがとうディル、落ち着けたわ」
「良かった」
ディランは少し笑うと、剣を抜いてモンスターに切りかかる。魔術を習っているとはいえ、ディランは騎士になる訓練もしている。そして、シリウスも。
「『氷剣』。シル!これ使って!」
わたしは氷で剣を作り出し、シリウスに渡した。受け取ったシリウスはディランと共に敵を切っていく。わたしはノエルの方を見た。
「僕らは手助けだな。『水泡』」
「そうね。だけど、容赦はしないわ。『電撃』」
ノエルが作り出した泡で敵の動きを遅くしようとする。わたしも、一体ずつ確実に倒していく。その時、モンスターの攻撃を受けきれなかったシリウスが飛ばされた。
「シル!『浮遊』!」
ノエルが慌てて浮遊をかけ、シリウスを受け止めた。少し怪我している。
「大変、『治癒』」
魔術で傷を癒してシリウスを見つめる。ディランも退いてきた。
「大丈夫?」
「ああ、ありがとう。だが、もう少しモンスターの動きを遅く出来ないか?」
「泡は使ってるんだけど……」
どうしようか。考えている間にも、モンスターはどんどんやってくる。ああもう、時間を止めたいわ!……止める?そういえば……
「麻痺させてみる?」
「耐性ないかな?」
「見てみよう、『解析』………耐性はないよ」
「じゃあそれで行こう!」
「でも、一体ずつだよね……」
相談しながらも攻撃は止めない。ノエルが片っ端から水で吹き飛ばしていく。しかし、すぐに立ち直ってやってくる。切りがない。近くの一体が泡に触れ、泡が弾けた。すぐにディランが切り倒す。
「泡……そうよ、泡だわ!」
「リリー、何か思いついた?」
「ええ、これでどうかしら?『水泡』-麻痺付与!」
思いついたのは、泡に麻痺効果を上乗せすること。麻痺はその対象が一体のみ。しかし、麻痺を付与した泡なら?触れれば弾けるが、いくらでも作り出せるわ!
わたしの作り出した泡がモンスターに触れる。途端、モンスターの動きが鈍くなった。
「リリー、よくやった!」
「ありがとう、戦いやすいよ!」
そして再びモンスターに切りかかる。ノエルも攻撃に転じた。
「僕も攻撃するか。『泡弾』」
作り出した泡をどんどん敵に撃つ。わたしが作った泡に触れたモンスターが動きを遅くし、シリウスとディランが切り飛ばす。わたしも『氷矢』で加勢する。次々に敵を倒し、そろそろ半分かという時。それは現れた。
「シル、ディル、大丈夫?」
「ああ、あと半分か?」
「そのくらいならいけるよ!」
二人に聞いた後、新たな氷矢をお見舞いしようとして、異変に気づいた。
「あれ?何か後ろの方静かじゃない?」
「本当だ。何でだ……っ!?」
ノエルが息を呑む。その視線の先には……
「っ!?シル、ディル、退いて!」
「えっ?」
「なっ、オーク!?」
そこにいたのは、わたし達の倍はありそうなオーク。一旦作戦を立てる。
「オークか。僕ら四人全員でかかって行くしかないかな」
「そうだな。だが、周りのモンスターは……」
「全滅させないと危ないな」
「だったらわたしがやってもいい?」
皆が頷く。それを確認して、呪文を唱える。
「『炎弾』」
飛んでいった弾は、モンスターに当たると弾け、周りも巻き込んだ。続けて。
「『竜巻-刃』」
竜巻に風刃を組み合わせ、中の敵を切り刻む。燃えている敵を巻き込むと、炎の勢いが増した。竜巻を移動させ、その炎と刃でモンスターを圧倒した。
「リリー、相変わらずすごいな」
「最初からこれで良かったんじゃ?」
「それじゃ勉強にならないわ」
ディランがふてくされている。後ろでは、騎士達がざわめいている。しかし、今はそれよりもオーク。
「上からの攻撃を気をつけないと」
「足もだな」
「『解析』………うん、耐性はないけどこれといった弱点もないな」
「凍らせる?」
それに固まる皆。シリウスが苦笑いした。
「リリー、オークを丸ごと凍らせるのか?」
「いくらリリーでもそれはなあ」
皆が勝手にいろいろ言う。さすがにそんなことはしないわよ。出来ると思うけど……
「そうじゃなくて、足だけよ」
「なるほど、それは良いかも」
ノエルが賛成する。シリウスとディランも頷く。よし、決まったら早速実行ね!
「『凍結』」
オークの足を狙って魔術を使う。オークはその場から動けなくなった。その代わり、腕を振り回す。これは予想してなかったわ。
「あー、危ないわね、『麻痺』」
仕方なしに麻痺させる。動きは遅くなったが、相変わらず危ない。そこを、ノエルとシリウスが魔術で攻撃する。腕を切られ、水砲を頭に受けたオークは、足が凍っているためにそのまま後ろに傾く。振り回す腕もなくただ倒れるオークを、ディランが真っ二つにした。
驚嘆の声があがった。振り向くと、騎士達とカリオン様、ディルクーフェン様が呆然としている。わたしはカリオン様に近づいて笑顔で報告する。
「先生、モンスター殲滅しました!」
「リリー、皆びっくりしてるから!」
ノエルに止められる。きょとんとして首を傾げると、ノエルが苦笑いしながら手を頭に乗せた。
「僕らの強さにびっくりしてるんだよ」
「そうなの?」
シリウスとディランにも聞いてみる。二人はちょっとむっとしながら答えた。
「たぶんな」
「ああ」
そしてノエルの方を向く。
「「ネル、ずるいぞ!」」
「ああ、ごめん」
ノエルはちょっと笑うと手を離した。そのまま三人で言い合いを始める。その間にカリオン様が口を開く。
「アイリーナ、今の、本気か?」
「いいえ、ちょっと手を抜きました」
その言葉にどよめく騎士達。カリオン様は頭を押さえてため息をついた。
「アイリーナ、本気でわたしに攻撃してみろ」
「いいんですか?」
「ああ。『防御結界』」
わたしは深呼吸してカリオン様に向き合った。
「いきます!『陽光』!」
全力で攻撃する。使ったのは、光属性の中級魔術、『陽光』。天から一筋の光が降り注ぐ技なの。
周りの人は、皆ただそれを見つめる。だけどこれだけじゃないわ。
「『竜巻-刃』、『炎弾』」
さっきの炎の竜巻を再現する。カリオン様を飲み込んだ。全力だからね、もう一つ使いましょ。
「『地揺れ』!」
範囲攻撃する、地属性上級魔術を放った。カリオン様以外に当てないように気をつける。しばらくして、竜巻を止めた。
中からカリオン様が無傷で出てくる。そうよね、『防御結界』は生活最上級魔術。傷つくわけがないわ。わたしの狙いはね、今この瞬間。
「『麻痺』」
呟くように唱え、油断して結界を解除したカリオン様に向ける。
「これが全りょ……っ!?」
まともに麻痺を食らったカリオン様が結界を作り出す前に、水球を飛ばした。
「……リリー、やりすぎ……」
「うん、先生びしょ濡れだよ」
「だって全力でって言われたんだもの」
いつの間にか側にいた二人に言われてわたしは頬を膨らませた。
「それより、先生治してあげなよ。麻痺させてるでしょ」
「そうだね。『快癒』」
シリウスに言われて、光属性中級魔術、『快癒』でカリオン様の麻痺を治す。水属性中級魔術の『治癒』は怪我にしか効果がないけど、これは状態異常まで治すの。
復活したカリオン様は、わたしを見つめてきた。
「制限しててこれか……」
「ごめんなさい、やりすぎましたか?」
わたしは謝った。カリオン様の元気が無いように見える。
「いや、大丈夫だ。しかし、威力が半端ないな」
そうしてレッスンを終えた。




