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しろねこ姫の不思議な力  作者: しーにゃ
第2章 しろねこ姫の学院入学
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16-I 中と外

 十二歳になったわたしは、いつも通り街を散歩している。五歳の時に許可されてから、月に一度はこうして街に来ていた。そして、毎回アイリスがついてきた。


 特に何をするでもなく、いろいろなお店を見て回っていたわたしは、気づけば街の人たちから「しろねこ姫」、あるいは姫様と呼ばれるようになっていた。別に王女でもないんだけれどね。


「アイリーナ様、本日はどうなさいますか?」

「そうね、この前のケーキを食べたいわ」

「かしこまりました」


 ミルおすすめのお店、トーパテリナに向かう。この前初めて食べて、そのあまりの美味しさに思わずお持ち帰りしてしまったほどよ。











「いらっしゃいませ、姫様」


 席に着くと、店員が注文を取りに来る。メニューを見て、目を惹かれたものを選ぶ。


「これと、これをお願いします」

「かしこまりました」


 ケーキが運ばれてくる。わたしは目を輝かせた。お皿の上には、大きないちごが乗ったショートケーキに、口に入れるととろけるチーズケーキ。そしてもう一つ。


「これは何ですか?」

「はい、モモをふんだんに使った、モモケーキです」


 一口切って口に入れる。ほんのりピンク色のそのケーキは、とてもふわふわで甘く、後にモモの香りが残った。笑みがこぼれる。


「まあ。とっても美味しいわ」

「ありがとうございます!実は、姫様のために作ったんです」

「そうなの?ありがとう、だけどもったいないわ、こんなに美味しいのよ。みんなにも食べて欲しいわ」


 その言葉に、奥から出てきた店員達も、周りにいた人達も驚いたようにこちらを見てきた。何か変な事言ったかしら?


「あの、よろしいのですか?」

「何が?」


 きょとんとして聞き返すと、店員がおずおずと口を開いた。


「『マイトール』にはされないのですか?」


 ああ、そういえばそんなのあったわね。マイトール、自分のお気に入りは自分と自分の認めた人にしか見せたりあげたりしない、貴族の風習。良いマイトールをどれだけ持っているかというのは、暗黙のステータスとされている。そして、マイトールに選ばれるのは職人達の目標でもある。でも、わたしはマイトールなんていらないわ。


「ええ。だって、美味しい物は皆で頂いた方がもっと美味しいわ」


 周りが騒然となった。


「しろねこ姫様は何とお優しいお方か」

「俺らも食べていいって仰ったぞ!」


 そして若干肩を落とした店員達に言う。


「是非、わたしにも作ってくださいね。食べるのがもったいないくらいですから」

「では、どうして……」

「わたし、マイトールは作らないの。自分だけいい思いをするなんて嫌よ。でもね、このケーキは今までで一番美味しかったわ」


 歓声があがった。いや、わたしそんなに大したこと言ってないわよ?むしろ、わたしの勝手な考えを押し付けてしまったのだけれど。


 困惑するわたしを他所に、店員と客の思いが一致団結したらしい。


「次からは、アイリーナ様を優先致します」

「俺らの店にいらした時も、優遇します!」

「私の所も!」


 わたしは慌てた。そこまでしてもらわなくても……


「あの、お気持ちだけで……」

「いいえ、そんな事仰らず、是非」


 何を言っても主張は変わらず、わたしは根負けした。


「あの、ほどほどでお願いします……」











 その後、また騒然とし出したので、思わず逃げ出してしまった。


「アイリーナ様、よろしいのですか?」

「ええ、どうせ午後からは魔術のレッスンだもの」


 そうして家に帰り、王宮に向かった。











「やっほー、リリー!」

「ごきげんよう、ディル、シル、ネル」

「あれ、レオンはいないのか?」


 訓練所に入ると、そこには既にシリウス、ノエルとディランがいた。真っ赤な髪と真っ赤な瞳を持つディランは、騎士団長ディルクーフェン·フォン·アークウェル様の子息で、わたし達の一つ上、十三歳。六歳のある日、カリオン様が連れてきた。


 そして、レオンハルト。約束をきっちり守って勉強に励んだレオンハルトは、五歳になってお父様とお母様に認められ、わたし達と共に仲良く魔術を学んでいて、お互いを愛称で呼んでいる。


「揃ったな。今日は、レオンハルトは呼んでいない。この四人でここではない所に行くぞ」

「どこにですか?」

()だ」


 シリウスの質問の答えに、わたし達は顔を見合わせた。外って、モンスターが出るあの?


「あとひと月で学園入学だからな。そろそろ実戦も経験してもらおうと思ってな。今日は全力を出してくれ。ディルクーフェン率いる騎士団が、モンスター討伐しているのを手伝う。今日のレッスン内容はこれだ」


 緊張が走る。今まで、カリオン様やお互いを攻撃しながら魔術を学んできた。そのため、コントロールは結構鍛えられていると思うけど、モンスター相手はやった事がない。


「さあ、分かったら行くぞ」











「なあディル、知ってたか?」

「いいや、初耳だ」


 馬車の中で話し合う。ディランも知らなかったのね。わたし達はただ困惑した。


「それより、モンスターのことをおさらいしようよ。まず、コボルトが出たらどうする?」


 ノエルが聞く。そして、わたし達は現地に着くまでモンスター対策を話し合った。











 馬車を降りると、目の前には鬱蒼とした森。そこにある辛うじて道と呼べそうな所を進んでいく。


「気をつけるんだぞ。こういう視界が悪い所では、どこからモンスターが出てくるか分からんからな」


 カリオン様の言葉により気を引きしめる。周囲に気を配りながらしばらく歩くと、突然視界が開けた。










 そこには、臨戦態勢の騎士団が隊列を組んでいて、さっとわたし達を通してくれた。その向こうには、コボルトやゴブリンなど、モンスターがざっと百体。ま、待って、こんなにいるなんて聞いてない。


「こ、こんなにいるのか……?」

「さすがに予想外だな」

「どうする?」


 わたし達は一瞬迷った後、決意を一つにする。


「「「「とりあえず、倒す!」」」」


 わたし達が今までしてきた練習は、無駄じゃない。こんなモンスターなんて、敵じゃないわ!だって、皆が一緒だから!


 これを聞いたカリオン様は、ふっと笑うと、真剣な顔つきになった。


「その意気だ。だが、油断は禁物だぞ」


 わたし達は頷く。それぞれが真剣な面持ちでモンスターを見据える。


「では……レッスン、開始!」


 そして、戦いが始まった。


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