14α-S 王子、初めての……
番外編です
14 魔術のレッスンのシリウス視点です。
ずっと今日が待ち遠しかった。新年祭の時に会ってから、寝ても覚めてもあの時の天使──アイリーナのことが頭から離れない。その様子を見ていた母上はずっとニコニコしていた。そして聞いてきた。
「ねえシリウス、誰のことを考えているのかしら?」
「はい母上、新年祭の時に会った女の子のことです」
そしてずっと頭から離れないことも話した。それを聞いた母上は少し考えて、もう一つ聞いてくる。
「その子をとられたらどう思うかしら」
アイリーナをとられる?そんなこと、考えられない。考えたくない。僕はかぶりを振った。
「いやです。とられたくない」
「あらまあ。ふふ」
母上は何かに気づいたようだったが、それ以上何も言ってくれなかった。
ノエルと待ち合わせて、カリオン殿のいる部屋に向かう。昨日、レッスン中は先生と呼ぶこと、敬語も使うこと、自分は敬語は使わないことをカリオン殿に言われた。
部屋の前についた。僕とノエルは気を引きしめる。そしてドアを開けた。
「『発光』」
なぜか泡が浮かんでいるその部屋は、色とりどりに輝いた。あまりの出来ごとに言葉も出ない。魔術を使ったらしき女の子が振り返る。そして微笑んだ。
「こんな感じでしょうか」
まだ泡できらめく部屋の中、僕はその子──アイリーナにくぎ付けになった。目が合う。アイリーナが首を傾げた。とたん、凍りついたように動けなくなった。胸の奥が熱くなる。
見ている間に、アイリーナは部屋を見回すと、はっとして泡を一斉に弾けさせた。そしてようやく僕たちに気がついたカリオン殿が紹介してくれて、自己紹介する。
ぼうっとしていると、アイリーナがノエルに微笑んで話しかける。僕には話しかけてくれないの?もしかして僕が誰かわかってない?覚えてるか聞いてみたら。
「もちろん、覚えてます、殿下」
敬語。それに殿下呼び。やだ、僕はもっと仲良くなりたいんだ。敬語はいらない、シリウスって呼んでと言うと、ノエルも乗ってきた。それを聞いてアイリーナがとびきりの笑顔を浮かべる。僕は息を飲んだ。かわいすぎる!
咳払いが聞こえて、あわててわれに返る。そして、声をそろえて言った。
「「「よろしくお願いします、カリオン先生」」」
「これを、初めから十ページ読みなさい」
カリオン殿に渡された教科書を見る。そしてアイリーナを見た。隣に座ろうとしたら、ノエルがじゃましてきた。ちょっと言い合っているうちに、そこには白猫が座ってしまった。しょんぼりしながらソファーに座って教科書を開いた。
「魔術は、剣や弓矢と同じように、モンスターを倒すことにも使われる。もちろん、生活にも使われているが、危険だということは頭に置いといてくれ」
それはわかってる。父上にさんざん言われてるからな。
「だったら実践だ。その前に、シリウス、こっちへ」
僕は言われるまま手を水晶玉に置いた。水晶玉が輝きだす。青。そして緑に変わると、輝きを増した。カリオン様が頷く。
「もういいぞ。それでは、全員が使えるのは生活魔術、それと水属性か。これから始めよう」
「まず覚えてもらうのは『防壁』だ。自分を守ってくれる、生活魔術の初級のやつだ。アイリーナ、攻撃してみてくれ」
アイリーナが泡をカリオン殿に向かって飛ばした。アイリーナ、もうそんなに魔術使えるのか。僕も負けてられない。
練習しろと言ったのを聞いて、僕も練習する。しかし、上手くいかない。アイリーナもノエルも合格して、僕だけ残ってしまった。あせっていると、飛んでくる泡に気づいてあわてて呪文を唱える。
「『防壁』っ」
何とか泡を防ぐと、アイリーナに何で泡を飛ばしたのか聞いた。すると。
「でも、魔術使えたでしょ?」
え?あ、そういえば確かに。ってことは僕が上手く魔術を使えるように、わざと?アイリーナの微笑みを見て思った。
「シリウスも合格だ。次の魔術にいくぞ」
少しすると、祖父上が現れた。
「……ふむ。だったら手伝うか」
そして今。カリオン殿といっしょに攻撃してくる。
「「「『防壁』!」」」
大量に飛んでくる風の刃と氷の矢を、難なく全部弾き飛ばした。ところが。祖父上がとんでもないことを言いだした。
「もっと本気で攻撃してみろ。私たちの防壁に傷がついたらお前達の勝ちだ」
「「「はいっ!」」」
「おいゲオルグ、そんな無茶な」
うん、これは無茶だ。さすがに少し前まで国王だった人の防御が弱いわけがない。だけど。アイリーナ、ノエルと目を合わせた時、出来るかもしれない、そう感じた。しかし。
「どうした?そんなものか?」
さすがに一筋縄じゃいかない。でも俄然やる気が出てきた。アイリーナを見ると、その瞳は水色に輝く。
「『氷矢』、『風刃』、『突風』っ!」
「『水球』!」
「『水泡』っ」
アイリーナがカリオン殿と祖父上の使った魔術をそっくりお返しした。僕は水球を小さくして防壁を貫こうと考えた。そして、見事にヒビを入れた。やった!三人で喜び合う。そこに、カリオン殿がケーキを持ってきた。
「おいしい」
微笑むアイリーナ。猫を抱き上げて撫でている姿はとても温かかった。抱きしめたいとそう思った。
そして、ようやく気づく。
(僕、アイリーナのこと……)




