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しろねこ姫の不思議な力  作者: しーにゃ
第1章 しろねこ姫の幼少期
16/125

12-I/S 新年祭

Iはアイリーナですが、Sとは……?

今回初登場です。


※ノエルの瞳について修正しました

 魔力測定から三日経って、今日は新年祭。わたしは朝からわくわくして落ち着かなかった。セイレンベルク公爵領の新年祭も、いろんなお店があって楽しかったけど、今年は王都での新年祭。街の大きさも、祭りの規模も全然違う。ここにはどんなお店があるのか、散歩しながら見るのを楽しみにしていた。


 初めは、お父様やお母様と一緒に街を見て回る予定だった。しかし、お父様は仕事が忙しくなり、一緒に行けなくなってしまった。お母様は、レオンハルトやレイチェルのことを放っておけないという事で、わたしはミルと二人で街を歩くことになった。


 部屋でミルに身なりを整えてもらう。今日は白いワンピース。その上にピンクの薄い上着を羽織る。


「行ってきます」

「行ってらっしゃい、気をつけてね」


 お母様に送り出されて、わたしは街に出かけた。











 街は、人で溢れていた。セイレンベルク公爵領の街の比ではない。あわてて、はぐれないようにミルの手をつかんだ。もちろん右手で。左手はしっかり握っている。油断すると、人に当たってしまう。お父様にできるだけ使わないように言われたので、当たらないように気をつけていた。


 それでいて、お店を見て回る。おいしそうなパフェのお店、きれいなアクセサリーのお店、野菜などを売っているお店。そして、広場に出る。真ん中には大きな噴水があって、周りにはお店が立ち並んでいる。円形のその広場は他の場所と比べると人が少なく、わたしは噴水の前で立ち止まった。


「ねえミル、ここにはどんなお店があるの?」

「アクセサリーやドレスなどのお店。パフェやお菓子、紅茶専門店。それと、新年祭用に食べ物を売る屋台などでしょうか。セイレンベルク公爵領とあまり変わりません」

「お菓子のお店はどこにあるの?」

「こちらでございます」


 案内するミルに連れられて、お菓子のお店に向かう。











 そこには、いろんなお菓子が並んでいた。わたしの持っている料理本にも載っているクッキーやマカロン。他にも、様々な種類のケーキなどがある。クッキーをいくつか買って食べてみた。サクサクでまろやかで、ほんのり甘かった。とてもおいしい。家に帰ったら作ってもらおうと思った。











 店を出てしばらく散歩する。もはや人が多いのには慣れてきた。のんびり歩きながら街並みを見る。道は石畳で出来ていて、でこぼこだけど歩きにくくはない。その両脇にはお店や家が立ち並んでいる。そして、ところどころに街灯が立っていた。ランプのような形をしている。











 しばらくふらふらしていると、さっきの広場に出た。噴水の前にベンチが空いていたので座る。座ったとたん、一気に疲れがきた。


「アイリーナ様、お食事に致しますか?」

「そうね。ミル、良さそうなところを見てきてくれる?わたしここで待ってるから」


 疲れて動けないのでミルに頼む。ごめんねミル、疲れてると思うけど、お願い。できるだけ早く戻りますと言ってミルは行った。


 わたしは思い切り伸びをした。周りを見渡すと、親子連れが多いようだ。あちこちでわたしと同じくらいの子が遊んでいる。近くには親らしき人。楽しそうでいいなと思ったり思わなかったり。


 周りを見ていて、ふと違和感を感じた。何だろうと思って探すと、細い路地に、子供が何人か集まっているようだ。しかし、遊んでいるにしては様子がおかしいと思う。まるで一人をいじめているような……


 少しすると、子供たちはいなくなり、一人だけそこに残った。蹲って動かない。気になって近くに行ってみる。











 そこにいたのは、わたしと同じくらいの茶髪の男の子。膝を抱え込んで、顔を伏せている。


「どうしたの?」


 声をかけるとびっくりしたように顔を上げた。碧翠の瞳からは涙が落ちていて、怯えたように小さく震えている。


「わたし、アイリーナって言うの。あなたは?」


 かがみ込んで笑顔を向ける。わたしは敵じゃないよ、怖くないよと思いながら。男の子は小さく口を開いた。


「僕は、シリウス……」


 まだ怯えているようだけど、何があったんだろう。


「ねえシリウス、何で泣いてるの?何があったの?」


 そのまま聞いてみた。そして、慰めようと右手を差し出した。しかし、シリウスに払いのけられた。びっくりしてシリウスの方を見る。シリウスは、辛そうに顔を歪める。


「僕に、さわっちゃ、だめ。みんな、倒れる。みんな、怖がる」


 わたしは構わずにシリウスのほっぺたに左手を当てた。まるで少し前までの自分を見ているみたいで放っておけない。紋章から伝わって来るのは、恐怖と怯え。シリウスはびくっとしたけれど、だんだん落ち着いていく。少しすると泣き止んで、おそるおそるわたしの手に触れた。目を見開く。


「僕がさわって倒れないの、家族だけだったのに。みんなに怖がられてたんだよ」


 それを聞いて驚いた。


「わたしは、そんなの、さみしい」

「ねえアイリーナ、お友達になろうよ」


 わたしが思わず泣きそうになると、笑顔でシリウスが言ってきた。おねがい、と言われて断れるわけもないし、断るつもりもない。それに、わたしもお友達になりたいと思った。


「もちろん!よろしくね、シリウス」

「ありがとう」


 二人して立ち上がると、広場に戻った。ミルが迎えに来るまでの少しの間、シリウスと楽しく話していた。食事に誘ってみたが、断られてしまった。


「ごめんねアイリーナ、僕そろそろ帰らなきゃ」

「そう……また会えるよね?」

「もちろん!」


 そしてシリウスと別れた。










 ────────────────────────











「お前なんか消えてしまえ!」


 ……またか。僕、シリウス·サン·アイルクスは王都にある細い路地で蹲った。いじめられている理由、それは『吸収(ドレイン)』という能力。触れた相手の魔力を吸い取るというものだ。いつもは王子として王宮で暮らしているが、今日は父上に言われた。


「シリウス、新年祭に行ってこい」

「なぜですか?」

「王都の様子を見るんだ。民がどのように暮らしているか、学んでこい」


 王子であるとバレないよう、王族の証である銀髪は茶色に染め、静かにしていたのだが、絡まれてしまった。


 王宮でも僕は怖がられている。触れた相手を、たまに気絶させてしまうのだ。大丈夫なのは王族だけ。そして今も悪いことに、能力が発動して、触れてきた相手が倒れてしまったのだ。そして、相手から冒頭の言葉が飛び出した。


(僕は、ずっと嫌われ続けるのか?恐れられ、いじめられるのか?そんなの嫌だ)


 視界が滲んでいく。僕が諦めかけた時、近くで声がした。


「どうしたの?」


 びっくりして顔を上げた。そこにいたのは、自分と同じくらいの、白いワンピースにピンクの上着を羽織った女の子。ピンクがかった金色(ストロベリーブロンド)の髪を後ろに流している。その優しい声に、涙がこぼれた。まるで天使だ。


「わたし、アイリーナって言うの。あなたは?」


 目の前の子─アイリーナは、笑顔で聞いてきたが、その空色の瞳にはただ心配の色を浮かべている。その笑顔がまぶしかった。でも………今の僕は、触れてしまえばアイリーナまで倒してしまう。その純粋な瞳が恐怖に染まってしまう。


「僕は、シリウス……」


 だから、軽くおしゃべりして終わらせようと思った。しかし。


「ねえシリウス、何で泣いてるの?何があったの?」


 目の前の()使()は優しく僕に触れようとする。思わず払いのけた。


「僕に、さわっちゃ、だめ。みんな、倒れる。みんな、怖がる」


 アイリーナに言う。僕は倒したくない。だから、アイリーナを止めようとした。しかし、アイリーナは止まらなかった。


 まさかの事態に固まる。アイリーナの左手が、僕のほっぺたを優しく包んでいる。おそるおそる手に触れてみる。しかしアイリーナは倒れない。それどころか、その手から温かいものが流れ込んでくる。その温かさが僕の心を癒していく。アイリーナ、やっぱり君は天使、いや女神様だよ。


 少ししてアイリーナが手を離す。ちょっと残念に思ったが、アイリーナの笑顔で吹き飛んだ。そして、疑問に思ったことを聞いた。どうして僕に触れるのか、と。今まで父上たち以外はみんな怯えていたし、倒れていたから。


 それを聞いたアイリーナの瞳が悲しげに揺れた。


「わたしは、そんなの、さみしい」


 その瞬間、僕はアイリーナとずっといっしょにいたい、と思った。アイリーナに友達になろう、とお願いした。理由はないが、断られないことを確信しながら。


「もちろん!よろしくね、シリウス」


 アイリーナはとびきりの笑顔でそう言った。


 二人して立ち上がると、広場に戻る。アイリーナとおしゃべりするうちに、瞬く間に時間が過ぎていった。


 その中でアイリーナに昼食を誘われた。すごく行きたかったが断った。今日は祖父である国王陛下に呼ばれている。そろそろ帰らないと間に合わないだろう。また会うことを約束してアイリーナと別れた。











 帰りながらアイリーナの笑顔を思い出す。さっきから目に焼き付いて離れない。それに、ピンクが入っているとはいえ金色の髪の毛だった。たぶんセイレンベルク公爵家の子だろう。だったら必ずまた会える。頭を振って切り替えようとした。











 昼食を食べて陛下の待つ部屋に向かう。やっぱりアイリーナといっしょに食べたかったな。そんなことを思いながらドアを開ける。


「ただ今まいりました」

「ああ、シリウス、礼はいい。そこに座りなさい」


 陛下の目の前に座ると、何やら笑みを浮かべている。


「何か、いいことがあったようだな」


 僕は頷き、街であったことを話した。アイリーナのことを話すときは少しテンションが上がった。


「それはよかった。少し心配していたんだ。ところで、実は今日の話の半分がアイリーナのことだ」

「なぜ陛下がアイリーナのことを知っているのですか?」


 僕は驚いた。まさか祖父上がアイリーナを知っているとは思わなかった。しかし、続く言葉に唖然とする。


「私はもう王ではない。今日をもって、ユリウスが国王だ」

「父上が!?」


 初めて聞いた。だが同時に納得がいく。確かにここ数日の父上はとても忙しそうだった。


「お前にセイレンベルク公爵家の令嬢であるアイリーナと仲良くしてもらおうと思っていたんだが、言うまでもなかったな」


 やっぱりセイレンベルク公爵家の子だったか。アイリーナを思い出して小さく微笑む。そういえば、アイリーナが半分だと言われたな。


「では、残りの半分は何ですか」

「お前の今後についてだ」


 そして僕は今後──主に王太子教育について話を聞いた。難しい話が続いて混乱してきた頃の、とある発言に食いつく。


「そうそう、魔術はアイリーナやノエルといっしょに学ぶようにしたからな」


 ノエルことノエル·フォン·フォルティスは少し前に会った僕の友達。蒼色の瞳を持っていて、同じ五歳ながらいくつかの魔術を使っている。それに、アイリーナもいっしょ。僕は魔術のレッスンが待ちきれなくなった。

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