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しろねこ姫の不思議な力  作者: しーにゃ
第6章 しろねこ姫の生徒会活動
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96-I 堕天使の意味

 今年度のデビュタントも終わり、今日は王妃様主催のダンスパーティーで王宮に来ていた。身に纏うのは華やかな優しいピンクのドレス。デビュタントの時とは違い、あちらこちらにかわいらしい花の刺繍が施されていて、スカート部分はふんわりしている。


 そして、シリウスがパーティー用にと贈ってくれた銀の髪飾りをつける。銀のアクセサリーは王族、或いはそれに準ずる者しかつける事が許されていない、特別な物。それにそっと手を当てて、心配そうなお父様の言葉を思い出した。


『……リーナはそれで良いのか?僕としてはこの上ない提案なんだが…』


 確かに知り合いの誰もいない場所に一人で行くのは不安もある。それに、王都のあの誘拐犯のような人達がたくさんいるなんて考えると本当に怖い。


 だけど、わたしはそうじゃないと信じている。セトルータ王国にだって良いところはたくさんあるはずよ。あんな人達がそこかしこにいると決まったわけでもない。


 だから、お父様には大丈夫だと伝えた。最悪何かあったらわたしの魔術で何とかするわ。











「リリー、どうした、疲れたか?」


 横にいたシリウスにそっと声をかけられてはっとする。そうだったわ、今は貴族達の挨拶の途中だった、考え事などしている場合じゃないわね。


 軽く首を振って大丈夫な事を知らせると、笑顔を貼り付けて、やって来た貴族に挨拶する。


 まあそれにしても、わたしに対する、というか王太子の婚約者に対する思いがひしひしと伝わってくる。流石に直接は言われてないけれど、婉曲的には何度も邪魔だと、婚約者にはうちの娘が良いと言われた。


 これは……ここまでわかりやすくはないと思うけれど、それでも賢くて真眼(トラバス)持ちのアレックスには全て伝わってしまうから辛かったでしょう。わたしも決して表情には出さないけれど、心の中では負けじと言い返していた。


「娘はマナーも良く出来て……」

『わたしだって公爵令嬢としてのマナーはフランジーナ先生のお墨付きだし、王妃教育も受けてるわ』

「賢く、将来有望な殿下のお傍には……」

『わたしも成績は良いわよ』

「心優しく、慈善活動なども積極的に行って……」

『王都の孤児院には数日に一度遊びに行ってるわ』


 そして言ってくる度にシリウスが笑顔で追い払っていた。


「国王陛下が発表された婚約に不満でも?」











 貴族達の挨拶が終わると、イリュージョンとして王妃様が花吹雪を舞いあげ、曲が流れ出した。


「リリー、一曲踊ってくれないか」


 頷くとわたしはシリウスに手を引かれ、曲に合わせて踊り出す。そして踊りながらシリウスが不満を顕にした。


「全くどいつもこいつも……」

「仕方ないわ、それだけ多くの貴族にとって、王太子の婚約者というのは魅力的な地位なのよ」

「……ごめんな、リリー」


 シリウスがそっと顔を伏せる。


「あそこまであからさまに言われて、リリーを傷つけた……」

「わたしは大丈夫よ」


 顔を上げたシリウスは、まだ眉を下げている。


「でも……」

「だって、シルが助けてくれるんでしょう?」

「……え?」

「シルを頼りにしてるから。だから、あのくらいどうって事…」


 ないわ、そう続けようとした言葉が音になる事はなかった。ダンスを踊るのにわたしの背中に回されたシリウスの手、それがわたしを強く抱きしめてきたのだ。


 周囲の人々は皆ダンスを踊っていて、そんなシリウスの様子に気がついた様子はない。それにシリウスもわたしを抱きしめているとはいえ、しっかりステップを踏んでいて良く見なければ分からないくらいだろう。


「………っ」


 しかしわたしはシリウスから目を離せなかった。先程までより近いところにある、頬を少し赤くしたシリウスの顔。身体が密着した事ではっきり伝わって来る速く大きいシリウスの鼓動。シリウスと目が合った途端、胸がキュッと締め付けられた。


 透き通るような優しい碧翠に息が止まりそうになる。そしてそんな自分に戸惑っていた。抱きしめられるのも、至近距離で見つめ合うのも初めてではない。それなのにまるでのぼせたみたいに顔が熱い。どうしたんだろう、わたし熱でもあるのかしら……?


「…ありがとうリリー」


 優しく囁いてシリウスが腕の力を弱めた。ダンスを踊りながら、シリウスは嬉しそうに微笑んだ。


「もっと頼ってもらえるように、努力するよ」

「………無理はしないでね?」


 もう十分頼っているけれど、大丈夫と言ってもシリウスは聞かないだろう。そういう人だわ。わたしの王妃教育と同じくらい、いやもっと厳しいだろう王太子教育を受けるシリウスは、何というか責任感が増した気がする。


 わたしも、今まで以上にしっかり責任を持って行動しなくてはいけないわ。だって将来、シリウスの隣で王妃として国を治める立場に立つのですもの。それは嬉しいし、わたしの誇りだわ。


「リリーもだ、無理しないでくれよ」

「……ええ」


 だから、皆に心配をかけない程度に努力しよう。踊り終わると共にそう決意した。











 次の曲が始まる前にシリウスに手を取られてダンスの輪を抜け出す。ホールの端の方に向かったシリウスは、その途中で給仕から飲み物を受け取った。そしてあまり人のいないところまで来ると、わたしにグラスを渡してくれた。


「やっぱり疲れてる?それとももしかして、具合悪い?」


 心配そうにわたしの顔色をうかがってくる。わたしはそれには答えずに受け取ったグラスをゆっくり傾けて、いつしか乾いていた喉を潤す。そのまま目を閉じてもう一度グラスを傾け、今度はその白く透明な液体の甘酸っぱい味と香りを楽しんだ。


「ふふ、そんなに美味しかった?」


 頬に触れられた感覚がして目を開けると、綺麗に微笑むシリウスの姿が映った。その瞳が細められる。


「ああ、少し熱があるみたいだね。ごめんね、気づかなくて。少し休んでいて」

「大丈夫、きっとダンスのせいだわ」

「そう……無理はしないでよ、今のリリーは酔っ払ってるみたいだから」


 いたずらめいたシリウスの言葉に思わず笑った。


「流石にぶどうジュースでは酔わないわ」


 楽しそうに笑うシリウスを見ているとほんのり体が熱くなった気がした。冷まそうとぶどうジュースを口に含むと、シリウスが不敵な笑みを浮かべて見つめてきた。


「それとも、本当に酔わせてしまおうか」


 その気配に圧されてひゅっと息を呑む。周りの音も様子も、何一つ頭に入って来ない。ええと……じょ、冗談、よね?お酒を飲めるのは、十八になってからだもの、まさか、ね?


「シル……?わたし、まだ、十五歳、よ……?お酒は、飲んではいけないわ……」


 剣呑な気配に圧倒されつつ、あわあわと言葉を紡ぐ。するとシリウスは一瞬呆気に取られた後、いつもの優しい笑みを浮かべる。


「……そうだね、楽しみは取っておこうか」


 でも、その笑顔の中に悲しそうな表情が垣間見えているのは、わたしの気のせいなの?


 しかしそれを聞く間もなくシリウスは誰かに呼ばれて行ってしまった。


 一人残されたわたしはぼうっと……出来るわけもなく、色んな貴族に次々に話しかけられた。皆揃ってわたしを褒め称えてくる。だけどそれはまやかし。始まる前の挨拶の事を思い出して嫌な気持ちになりながらも、それをおくびにも出さずにやり過ごす。


 ダンスにも誘われたけれど、体調が優れないと言って全て断った。まあ、あながち嘘じゃない。少し体が熱いのは事実だからね。それに鼓動もいつもより速い。風邪でもひいたかしら、そんな事を考えていたわたしは周りを見ていなかった。











 突然ドンと体に衝撃を受けてよろける。バシャン、パリーンという音が響いて、近くの人が何事かとわたしの方を見た。ええと、今一体何が起こったのかしら?


「あ……あの……ごめんなさい、ドレスを汚してしまって……」


 震える声のする方を見ると、斜め前に転んだらしき令嬢が俯いていた。どうやらわたしにぶつかってしまったみたいね。そのついでに自分のドレスにも目を向ける。しかし、彼女の言う汚れなど、どこにもついていなかった。


 それに気がついていないのか、肩を震わせて俯いたままの令嬢。誤解は解いてあげなくては。というか寧ろ割れたグラスの近くにいて危ないわ。ドレスも汚れてしまっているみたいだし。


「心配ありがとう、わたしは大丈夫です。ドレスも汚れてないですわ。それより、貴女のドレスの方が汚れて…」

「………え?」


 少し屈んで差し出した手は、呆然と顔を上げた令嬢に弾かれた。唖然とするわたしをよそに、彼女はその顔を怒りで真っ赤にした。


「……何で、どうしてよ!私はちゃんと掛かるように狙ってぶつかったのに……!」

「狙って?」


 小さく怒りを爆発させた彼女は、しかしにやりと笑うと大声で助けを求めた。


「逆らいませんから……!それ以上しないでください!」


 その声で嫌でもホールの注目を集める。わたしは一気に疑惑の目を向けられた。しかし気にせずにわたしが彼女に少し憐れんだ目を向けていると、騒ぎを聞きつけたのかシリウスがやって来た。


「何があった」

「で、殿下……アイリーナ様が、私のドレスを汚して……」


 それは幾ら何でも無理があり過ぎる。彼女の黄色く華やかなドレスには、胸元に大きくぶどうジュースの赤い染みが広がっていた。対してわたしが手に持っているのは、ぶどうジュースではあるけれど白い物。先程シリウスから受け取ったそれだった。ぶつかられても零れないほどしか残っていないグラスの中身を見て、シリウスがふうんと声を出す。そして淡々と見たままを述べた。


「つまり君は、アイリーナが手に持っているこの白いぶどうジュースを、器用にも少しだけ残して、黄色のドレスに赤い染みをつけたと?」

「そ、それは……」


 醜く歪んだ彼女の顔を見て、どうしてこんな馬鹿な事をする程堕ちてしまったのだろうと疑問に思う。わざわざこんな拙い事をして、わたしの評判は下がるのかしら?ん、堕ちて……?


『リーナ、天使には色々な人が集まってくるから気をつけなよ。特にリーナを堕とそうとする堕天使にはね』


 アレックスの忠告が甦る。もしかして、アレックスが言っていたのは、この事……?

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