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しろねこ姫の不思議な力  作者: しーにゃ
第6章 しろねこ姫の生徒会活動
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92-I 一日目

 そしてやって来た大学院祭一日目。わたしはシャルロッテ、フローラと一緒に三人で学院を巡っていた。いや、正確にはアイリスもいるので三人と一匹ね。


「アイリーナ様、次はここですわ!」

「早く行きましょう!」 

「ええ!」


 そう言いながら連れ立って入ったのは、六年生のAクラスによる演劇の会場。いつもダンスの授業で使うそこには、簡易的ながら舞台が設置されていた。その前に並べられた椅子に並んで座り、アイリスを膝に乗せると、シャルロッテがプログラムを渡してくれた。


「お兄様方が演じられるのは、『伝説の精霊達と女神様』。この世界の成り立ちについてですわ」

「まあ、伝説を演劇として観られるのね、楽しみだわ」


 期待を膨らませながらプログラムを見ると、ライアックス様も魔王の一人として出演するらしい。なるほど、シャルロッテが勧めてくるわけだわ。


 そう、少し前にシリウスに言った通り、学院祭といっても特に見たい所、行きたい所がなかったわたしは、それを二人に聞かれた時にお任せするわ、と言ったのよ。任されたシャルロッテとフローラは本当に色々考えてくれたようで、わたしは学院祭をとても楽しんでいた。


「まもなく開演致します。お立ちの方は速やかにご着席ください」


 そのアナウンスと共に照明が落とされ、辺りが薄暗くなる。そして、舞台のど真ん中にスポットライトが当てられ、そこにいた人、一人だけに注目を集めた。


「皆様、本日はお集まり頂きありがとうございます。これから僕達が演じるのは、始まりの伝説。それに脚色を加えたものです。………それでは、開演致します」


 舞台上に立つ一人、ライアックス様がお辞儀して、ゆっくりとライトが消される。そして、劇が始まった。











 暗い舞台の上には、一人の女性のシルエットがあった。祈るように手を組み、よく通る声で呟く。


「いつからかしら、この広い、何もない所にわたし独りだけ………」


 そして舞台上をゆっくりと一周する。室内には彼女が歩くコツコツという音だけが響いた。


「独りきりにはもう飽きたわ。だから……」


 言いながら彼女は俯き、祈りを強くする。それに呼応するように、舞台もだんだんと明るくなっていく。


「そんな事のないような、世界を……」


 舞台が眩い光に包まれた。


 いつもの明るさになった時には、舞台上は様々な人で賑わっていた。


『すごいね、アイリーナ』

『ええ、全然気が付かなかったわ』


 何にって、そんなにたくさんの人達が移動していた事に。さらには、初めから舞台にいた女神役らしき金髪の子は、いつの間にか背中に翼をつけていた。











 そして、物語は進む。世界を、というか人々の営みを創った女神様は、ある時気づいてしまう。


「どうして、人は争うの……?」


 舞台上ではちょうど戦争が勃発している。お互いを殺め合う人々を後ろから見つめる女神様。その表情は悲しみに満ちていた。


「もっと、彼らには団結して欲しい……」


 そのために、モンスターという敵を創った。しかし、それだけでは人々の安全が脅かされてしまう。それを避けるために、女神様は精霊と魔王を創り出した。


「あなた達に、人々、自然、モンスターの調和を命じます。皆が笑って暮らせるように」


 純白の衣装を着た精霊四人と、それとは対照的に漆黒に身を包んだ魔王四人が舞台上に現れる。もちろんライアックス様もその中にいた。


「かしこまりました、女神様」


 ここで一旦照明が落とされる。次に明るくなった時には、争いは収まり、のどかな雰囲気があった。それまでと変わった事は、たまにモンスターを狩りに行く事。そして護身術として魔術が使えるようになった事。


 そしてそんな平和を、後ろから精霊達、魔王達、そして女神様が手を取り合って見守っている事。


「………こうして、世界はいつまでも見守られているのです」


 そう締めくくって、舞台が暗くなる。そして盛大な拍手が巻き起こった。











「とても素晴らしかったわね」

「ええ、特に戦の場面の女神様の言葉は、心に響きましたわ」

「『どうして、人は争うの……?』、本当にその通りよね。争うだけなら良いのに、その先に命の奪い合いがあるのは……」


 悲しい事だわ。もし今の演劇通りの理由でモンスターが生まれたのだとして、それでも人同士の争いはなくならなかった。それを知った時、女神様はどれほど悲しんだ事か。


『本当に。演劇であっても、その悲しみは本物よ』

『アイリスも、悲しいよね?』

『………うん』


 猫でも分かるのに、どうしてこれを理解できない人が少なからずいるのかしら。アイリスを撫でながら思った。











 少し待ちましょうとシャルロッテの言う通り待っていると、ライアックス様が魔王衣装でやって来た。黒い衣装が紅い瞳を引き立てて魔王らしさがより出ている。


「お兄様、演劇素晴らしかったですわ!」

「ああ、シャル、ありがとう。それに、アイリーナ嬢と、君は、ローレンスの妹君かな?」

「はい、フローラと申します。兄がお世話になってます」

「ライアックス様、演技もとても素晴らしかったですけれど、衣装もとてもよくお似合いですわ」


 笑顔は社交的に、だけれどその言葉は本心からのもの。魔王役の四人のうちでも、ライアックス様の魔王らしさは目立っていたわ。でも、髪は紺より黒く見せた方がよりらしさが出ていたように感じるわね。


 そう言うと、ライアックス様は苦笑いした。


「まあ、僕らより女神様の方が目立つからね。そっちを金髪にする方を優先したんだ」

「確かに、それもそうですわね」


 精霊や魔王の風貌はあまり詳細には描かれない。絵本によってまちまちだったりもする。けれど、女神様だけは違う。どの絵本を読んでも、金髪に青系の瞳で描かれている。それは、少なからず『お告げ』に現れるから。


 古くから女神様は、『お告げ』によって世界のバランスが崩れるのを防いでいる。例えば、戦によって土地が荒れたという時に飢饉が重なるから、対処しておくように、など。


 その記録のおかげで女神様だけは詳しく絵が描かれるのよ。


「あ、そうそう、アイリーナ嬢、今日の公開が終わったら生徒会室に来てくれ」

「分かりましたわ。他の方々もでしょうか?」

「ああ、他の人達にはもう伝えたから言わなくても大丈夫なはずだ」

「……では、後程お会い致しましょう」


 ライアックス様の後ろから魔王役の他の人達が近づいてきたので、わたしはお辞儀してそこを離れた。




















 その後フローラお勧めのクレープを食べたり、迷子の人を案内したりしていれば、一日目などあっという間に終わってしまった。残念に思うと同時に、明日ももっと楽しもうとそう感じた。


 そんな事を考えつつ演劇後に言われた通り生徒会室に向かう。その途中でアレックスと出会った。


「あら、アレク」

「リーナ、今日は楽しかった?」

「ええ、とっても楽しかったわ!アレクはどう?」

「もちろん楽しかったよ。明日が楽しみだ」


 どんな所があったか、どこが楽しかったかなどを話し合う。その中でも特に興味を惹かれた所を心に留めた。


 生徒会室では、ライアックス様を中心に、今日一日の反省と明日の事を話し合った。わたしも大いに反省した。今日は自分の事ばかり考えていたわ。それではいけないわよね。


 話し合いが終わって少しぼうっとしていると、座っているわたしの前に誰かが立った。


「帰ろうか、リリー」

「………ええ」


 差し出された手を取って、ゆっくり立ち上がる。そうして繋いだ手に身を預けて歩き、わたしは考えに耽った。


 今日学院祭を巡って、楽しいと思ったのは他でもないわたし自身。だけれど、一緒に回ってくれたシャルロッテやフローラは、わたしと同じくらい楽しめたかしら。もしかして、無理してわたしに合わせてくれたのではないかしら?


 もしそうだとしたら、それはわたしのせい。わたしが、学院祭の巡り方を任せると、わがままを言ったから。


「……このままではいけないわ」

「何が?」


 独り言のつもりだった言葉を聞き返され、わたしは思わず並び立つ人を見た。いつしかわたし達は立ち止まっていて、並んだ人、シリウスがわたしをじっと見返していた。


「リリー、何かあった?ずっとぼうっとしてるから心配だよ」

「ううん、大した事じゃないわ。今日の事を振り返っていただけよ」

「それなら良いんだけど……」


 ちょうど風が吹いてきて、シリウスの銀髪を揺らした。それと同じようにシリウスの瞳まで揺れていた。


「……ねえ、明日一緒に回っても良い?」

「わたしと?」

「そう、リリーと僕、二人で」


 シリウスと、二人で。そんな事をしたら、きっとわたしは今日以上にわがままになってしまうわ。だけど……


 優しい瞳と目が合った。こんなに優しいシリウスを、しかもわがままで良いと言ってくれたシリウスを、断る事なんて出来ないわ。


「……よろしくね」


 わたしはシリウスに甘える事にした。わがままは、学院祭が終わってから考えるわ。

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