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しろねこ姫の不思議な力  作者: しーにゃ
第6章 しろねこ姫の生徒会活動
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91-I わがまま

 結局その後、やって来た先生にも疑われたけれど、その場にいた大勢の人達がわたしの発言を肯定してくれた。そのおかげでいじめについても疑いが晴れ、一件落着となった。





















 そんな事があってから暫くして。


「これはそっちに持ってってくれ。ああ、ローレンス、それはそこじゃない、あっちだ!」

「ライアックス殿、これはどこです?」

「それは舞台裏だ」

「…終わりましたわ!次は何をしましょうか?」

「だったらこれを頼む」


 ライアックス様に渡された書類を持って指示された場所に運ぶ。そうしている間にも、ライアックス様が次々と指示を飛ばしている。それに合わせて人々が慌ただしく動いていた。


 ここまで慌ただしい理由はただ一つ、大学院祭が間近に迫っているから。


 三年に一度、二日間開催される大学院祭。大、とつくだけあって、かなりの人が学院祭に訪れる。そのため学院祭の運営を担当する生徒会は、その設営に忙しくしていた。


『足元に気をつけて』


 アイリスに注意されて下を見ると、数歩先に小さな、けれどもしも乗ったら確実に転んでいただろう石が落ちていた。


「ありがとうアイリス、気づかなかったわ」

『どういたしまして』


 その後も、『浮遊』で軽くしているとはいえ、書類であまり見えない足元はアイリスに注意してもらって進んだ。


 ちなみに、何で紋章の力を使っていないのにアイリスの言う事が分かるかというと、地属性上級魔術、『対話(トラスレート)』のおかげよ。これは生き物と会話出来る魔術で、動物だけでなく植物にも使う事が出来る。まあ、話せる植物自体珍しいので、基本は動物にしか使わないわ。


『アイリーナ、ここじゃない?』

「あっ、本当だわ」


 考え事をしていたら、危うく目的地を通り過ぎる所だったわ。気を取り直して書類を置き、元来た道を戻る。その途中で、わたしはある事に気がついた。


「ねえアイリス、この石ってもしかして……」

『……わたしもそう思う』


 その石からは確かに魔力が感じられた。それ自体は問題ない。自然にある物は自然の魔力に満ちているのだから。問題は、その魔力が()()()()()という事。


『……レテフィア嬢ね。こんな事をしそうなのは、わたしを襲ったあの人くらいよ』

「そうよね。それと、レオンに付き纏っていたあの方かしら」


 わたしとアイリスは揃って仕方ないと呟いた。











 暫くの間、指示通りにあちらこちらを駆けずり回り、どんどん準備を進めていく。終わったのは日が落ちてからだった。


「よし、今日はここまでにしよう。皆お疲れ様」


 ライアックス様がそう宣言して解散となった。いつものようにシリウスと一緒に寮に帰る。


「リリー、魔力分けて?」

「ふふ、良いわよ」


 繋いだ手からシリウスに魔力を分けるのもいつも通り。寮まで寄り添って歩いた後、いつもならまた明日と言ってすぐ別れるけれど、今日は少し違った。











 あと少しで寮に着くと言う時に、シリウスが優しく語りかけてきた。


「ねえリリー、もうすぐ学院祭だね」

「そうね、準備もあと少しで終わるかしら」

「あっああ、そうだな」


 今日までわたし達が準備してきた事を思い出しながら言うと、シリウスが少し落胆したように相槌を打った。あら、何か返し方を間違えたかしら?


「準備の事ではないの?」


 あんなに大変で、今日も皆でくたくたになるまで作業していたのよ。それに、シリウスもいつも以上に魔力を持っていくじゃない。そうやって頑張って協力して、もうすぐそれが完成するよねって、そう言いたかったのではないのかしら?


「学院祭当日の話だよ」

「当日の?そうね、わたし達が頑張った成果だもの、どのくらい盛り上がるのか早く見てみたいわ」

「違っ、そうじゃない……」


 えっ、これも違うの?思ったままを言ったのだけれど。シリウスの言いたい事が分からなくて、わたしは首を傾げてシリウスを見つめた。


 わたしと並んで歩いていたシリウスは、一度大きく息を吐くと、くるっとわたしに向き直った。若干落ち込んでいるようで、そっとわたしの肩に手を置いた。


「リリーは学院祭楽しみじゃないのか……?」

「もちろん楽しみよ?わたし達がどれだけ皆を楽しませられるか、不安もあるけれど」

「……だからっ、そうじゃないんだっ」


 強く首を横に振ると、シリウスはじっとわたしを見つめてきた。肩に少しシリウスの体重がかかってくる。


「リリー自身はどうなんだ?()()()()、学院祭をどれくらい楽しみにしてる?」

「わたしが……?だって、わたしは生徒会役員で、運営する立場……」


 だから、他の生徒達が十分に楽しめるように、手助けするのでしょう?


 言おうとした言葉は、シリウスに遮られて音になる事はなかった。


「なあ、昔から思ってたんだけど。リリーはどうしてそんなに自分の事を後回しにするんだ?魔術指導がいい例だ。自分が疲れる事より、他人を面倒見る方が大事なのか?」

「えっ?………あ……」


 言われて初めて気がついたわ。シリウスの言う通り、わたしはいつも他人を優先しているように思える。だけれど、それを意識した事なんてなかった。


「確かに他人に寄り添うのも大事だけど、リリーは自分を蔑ろにし過ぎだよ。もっと自分の気持ちに正直になって良いんだよ、誰も何も文句なんか言わないから」

「自分の……気持ちに……」


 王妃教育や生徒会で忙しくて、ここ最近は自分の気持ちになど目を向けてすらいなかった。それが、やがて国民の母となる王妃として当たり前の事だと思っていた。


 その考え方は今までのわたしの考え方とそっくりだったから、他人を優先する事に疑問も感じなかった。でも、そもそもどうしてわたしはそんな考え方をするようになったのだっけ?


 思い出そうと目を瞑ると、頭を撫でられる感覚がした。そしてシリウスの優しい声が降ってくる。


「もう一回聞くよ。リリーは、学院祭、どう思ってる?学院祭で、何をしたい?」

「わたしは……」


 わたしは、学院祭で何をしたいのかしら。自分の気持ちを考えるために、今までの出来事を振り返る。


 王宮で不審な人物を見かけ、王宮に残ったお父様が心配だった。そんなお父様の手助けが出来て本当に良かったわ。


 デビュタントでシリウスが王太子となった。同時にわたしはそんな王太子シリウスの婚約者になった。陛下、王妃様に大役を任されて、婚約者としてしっかりしなくては、と思った気がするわ。


 呪いをかけられたクラウスに出会って、クラウスを助けるのが自分の使命だと思った。かなり努力して、無事に呪いが解けた時は、まるで自分の事のように嬉しかったわ。


 それに、お祖父様を馬鹿にされて大人数を相手したり、アレックスやシリウスの呼び方を変えたり、平民としてレテフィア嬢に従っていたり…………


 ……………ああ、やっぱりわたしは、わたしの行動の元になるのは、仲間や家族の、或いは自分の、他者からの捉えられ方、そして他者の感情だわ。


 わたしは目を開けてシリウスを見た。


「わたしは、ずっと、他人の事を考えてきたわ。理由も思い出せないくらい前から、ずっと。だから、わたしは、他の人達を楽しませたいと、そう思っているの」

「だからそれは……」


 シリウスが何かを思いつめたような顔をして口を開きかけたけれど、わたしは首を振ってそれを遮った。


「それは、シルの聞きたい答えじゃないのよね?………でも、まだ、わたしには分からないの」


 もっと自分勝手になりなよと、つい先程シリウスに言われた。だからその通りに考えようとした。それなのに……


「何故かわからないけれど、わたしが、わたしのためだけに自分勝手になる事を認めないの。だから……」


 言いながら、いつしか力を抜いていたシリウスの手をそっと自分の方に引き寄せ、そのままわたしはシリウスに体を預けた。シリウスがひゅっと息を呑む。


「これが、わたしの、わたしのための精一杯のわがままよ。ねえシル、教えて。どこまでならわがままで許されるの?そもそもどこからがわがままなの?」

「リリー……」


 シリウスが嬉しそうに、それでいてどこか申し訳なさそうに呟いた。そして優しく髪に手を差し込んで撫でてくれる。それが少し擽ったくて少し上にあるシリウスの顔を見つめると、真剣な瞳が見つめ返してきた。


「普通は、少なくとも僕は、そんな事を考えた事もなかった。きっとリリーにとってすごく印象深い事があって、それでその疑問が生まれたんだろうけど……」


 暖かいシリウスの手がわたしの頬に添えられた。そして本人は今までにないくらい優しい笑みを浮かべた。


「僕は、僕に対してなら、リリーが何をしてもわがままだとは思わないよ」

「……もう、甘やかさないでよ。そんな事をしたらシルから離れられなくなるわ」

「……えっ?」


 虚をつかれたようなシリウス。わたしはそんなシリウスの顔から視線を外し、その胸に顔を埋めた。シリウスの爽やかな香り、かなり速く脈打つ鼓動、頭を撫でられる感覚。その全てが、わたしに安心感という温もりをくれる。


「……今は、今だけは、わがままでいさせて。お願い」


 一度こうして温もりを感じれば、わたしは暫くの間それから離れられない。合成魔獣の時だって、心細さにわがままを突き通したわ。それでお父様達に迷惑をかけた事が申し訳なくて、わがままは止めようと、思ったのに。


 そんなに甘やかされたら、そんな覚悟なんて崩れ去ってしまうわ。


 わたしは、そのまま暫くシリウスの温もりを感じていた。

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