88-I 怒りを通り越して
気がつけば閑話込みで100話超えてました!
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その事件が起こったのは、試験の結果が出てから少しした頃だった。もうすっかり生徒会の仕事と王妃教育、さらにクラウス達と会う事の忙しさに慣れてしまったわたしは、その日も生徒会室にいた。
「そろそろ学院祭の準備を始めようか」
「まだ二ヶ月は先ですけど……」
「準備は早くからやって置くに越した事はないからな。さあ、これが大学院祭関連の書類だ。まずは僕らが大学院祭でどんな事をするのかを把握していこう」
そう言ったライアックス様に渡された書類を読んでいた時だった。換気のためにに開けていた窓から、突然泥で汚れた何かが飛び込んできたのが視界に入った。それはきちんと受け身をとると、呆気に取られるわたし達の間をぬってわたしの方に来た。
「ミャオ!」
「えっ、アイリス!?…『掃除』、どうしたの?」
慌てて汚れを落として抱き上げると、アイリスが珍しく焦ったように伝えてきた。
『アイリーナっ、あなたの部屋が、大変な事になってるのよ!』
「えっ?」
『具体的には、土埃と水で泥だらけになってたの。わたしが出た時には、火をつけようとしてる子がいて、と、とにかく大変よ!』
「な……何だ……?」
唖然としている部屋の面々を横目に、わたしは窓から寮の方を窺った。確かに、その方向から火と水、地属性の魔力が感じられる。こうしてはいられないわ!
「ライアックス様、すみません、少し失礼致しますわ」
「あ、ああ、一体どうした?」
「少々部屋が襲われまして。ごめんなさい、急ぎますわ」
ざっくりとだけ説明すると、生徒会室を飛び出した。あの説明では何も分からないとは思うけれど、出来るだけ急ぎたかった。まあ、シリウス達はアイリスの事を知ってるから何とか説明してくれるわよね。
自分の部屋が見えたところで改めて魔力の流れを見ると、部屋の入り口にアイリスの言っていた三人と、風属性が一人いた。これは、レテフィア嬢、レニア嬢、ベネジット嬢とレオンの追っかけの四人だわ。
「全く、懲りない方達だわ。『影縫』」
わたしに気づいて逃げられる事のないように、予め動けなくしておく。それからわたしは部屋に窓の方から近づいた。わたしの部屋の周りには既にたくさんの人がいて、わたしを見て皆同情の視線を向けてきた。
人ごみをかき分けて覗き込んだわたしの部屋は、もはや部屋とは呼べないような状態になっていた。見事なまでに本以外の物がびしょ濡れになり、もれなく泥で汚れていた。本は、わたしが大事にしているのを知っているからか、一冊残らず燃やし尽くされ、灰が風で舞っていた。
こ、これは………想像を超え過ぎて、わたしは怒りを通り越して寧ろ感心した。何だ、本気になればそれなりに強いじゃない。
そうして部屋を窓の外から見ていると、窓の向こう側、部屋の入り口の所にいる四人と目が合った。先頭に立っていたレテフィア嬢が勝ち誇ったように笑った。それに対し、わたしも思わず笑顔を返した。もちろん、社交的なものだけれど。
「─、───」
レテフィア嬢が何か言っているけれど、わたしには聞こえない。ただ、わたしを嘲笑っているようなレテフィア嬢が何だか憐れに思えてきた。
「全く、この程度でわたしに勝ったと思うなんて、可哀想な人達ね」
「ニャー……」
何となくアイリスに呆れられた気がするわ。まあそれはともかく、この部屋を何とかしなくてはいけないわ。
「『修繕』」
まずは灰になってしまった本を元通りにする。これには普段以上の魔力と集中力を使った。まあ、普通はここまで原型が分からなくなった物は『修繕』でも直せない。だけど、それは酷く損傷した物を直す時ほど大量の魔力を消費するという『修繕』に対する、普通の人の限界よ。その点わたしなら、普通の人のそんな限界は超えられるわ。
部屋中に舞っていた灰は、風を受けながらもわたしの魔術によって段々とその元の形を取り戻してきた。灰が全て本に戻ってしまえば、後はなんて事ないわ。続けざまに『乾燥』と『掃除』を魔力を多めにしてかければ、襲撃されたとは思えない、いつものわたしの部屋になった。
良かった、大事な本が無事に元通りになったわ。わたしはその出来栄えに満足して微笑んだ。
「──、──!!」
「──!?」
「「!!!」」
向こうではやっと自分達が動けない事に気づいたらしい。四人が慌てているのが面白くて、わたしはアイリスを抱き上げた。
「ねえアイリス、あの方達を見て。ふふ、今更慌てているわ」
『アイリーナ……程々にね』
「ええ、もちろん分かってるわ。とりあえず迎えに行きましょうか」
入り口にまわると、廊下にもたくさんの人がいた。わたしが来た事に気がつくとさっと避けてわたし達を通してくれる。そして四人の下に着いた。わたしは笑顔で四人に話しかけた。
「皆様ごきげんよう。わたしの部屋の前で何をしていらっしゃるのかしら?」
それまで逃げようとしていた四人は、わたしの声を聞くなり大人しくなった。それだけでなく、辺りが一瞬にして静かになる。
「ふふ、レテフィア嬢、それにベネジット嬢とレニア嬢、少しはマナーが良くなったかしら?前は勝手に部屋に入っていたものね?外から魔術で他人の部屋を滅茶苦茶にするなんて、素晴らしいマナーだわ!特訓の成果かしら?」
「そ、それは…」
「それにそこの貴女、ごめんなさいね名前を知らないのだけれど、貴女も制限は守ってるわね。わたしに手を出すなとは言ってないものね」
「………っ」
「でも、どうしてわたしに直接勝負を申し込まずに部屋を荒らすのかしら?」
教えてと言う代わりに首を傾げて四人を順に見ていく。しかし俯いて誰も答えなかった。
「そこで何をしているの?」
そこに奥からやって来た水属性の先生。青い瞳でわたし達を交互に見て、わたしに詰め寄ってきた。レテフィア嬢達は救われたような顔をしている。
「いじめはいけません。彼女達が可哀想です」
「いじめてはいませんわ。少し事情を聞いていただけです」
「何の事情です?」
「この方々がわたしの部屋を荒らした件についてですわ」
しかし、先生はわたしの部屋を覗くと、さらに怒ったような顔になった。
「そんな嘘、誰も信じませんよ。これのどこが荒らされた部屋なものですか」
事実なのだけれど。先程わたしが完璧に元通りにしてしまったからなあ。黙り込んだわたしを、先生が連れて行こうとした。いつの間にかざわめいていた廊下で、レテフィア嬢が小さく呟いた。
「今度こそ私の勝ちね」
その場から動けない状況で、しかも先生はわたしを疑っているけれど、事実を見ていた人達がたくさんいる場所で、どうすればそんな考えに至るのかしら。
『あの子、馬鹿なの?』
『やっぱりアイリスもそう思うわよね?』
「先生、待ってください!」
アイリスと思わず呆れていると、廊下に集まっていた令嬢達が先生を呼び止めた。先生が優しく振り返る。
「何ですか?あなたもいじめられたのですか?」
「違います!違うんです、アイリーナ様の仰った事は本当です!」
「ええ、私も部屋が荒らされたのを見ましたわ!」
「アイリーナ様が、この方達に荒らされた部屋を元通りにしたんです!」
あちらこちらからわたしを援護する声が上がる。しかし、先生はそれを全て一蹴した。
「あなた達もいじめられて、そう言うように言われたのね。後で話を聞くから大丈夫よ。それに、どうせ荒らされたというのもほんの少しでしょう」
どうも、先生は何事も都合のいいように解釈するらしい。何を言ってもわたしのいじめだと捉える先生に、それでも諦めずにわたしの無実を主張する令嬢達。このままでは埒が明かないと思ったのか、先生は割と強引にわたしを連れて行った。
勝手ながら、次話から土曜日更新とさせていただきます。




