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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

恋狂い

作者: どんC

 

 リンロン リンロン

 オルゴールが鳴る。


 リンロン リンロン

 人形が回る。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 貴女にはカスミソウを この花の花言葉は『 幸せ 』

 貴方には露草を この花の花言葉は『 心変わり 』

 あなたにはダリアを この花の花言葉は『 裏切り 』


 私は校舎の裏庭で劇の練習をする。

 恋に狂った哀れな少女の話だ。

 頭にシロツメクサの花冠。

 シロツメクサの花言葉は『復讐』

 片手には花束。

 髪は解かれ風に揺れる。

 素足でクローバーを踏みしめて。

 知らない人が見たら本当に狂っているのかと思うだろう。


 劇の内容は対立する国の王子と王女の恋物語。

 戦で隣の国の王子が王女の兄を殺して。

 復讐の為に王女自ら変装して、敵国ペダーソスに乗り込む。

 でも仮面舞踏会で二人は恋に落ちてしまう。

 王子にも王女にも婚約者がいて。

 どう転んでも二人は結ばれぬ運命。

 王子は王女のゼーベアを滅ぼして、王女を手に入れようとする。

 しかし……王女は塔から身を投げて死んでしまう。

 王女の亡骸を抱きしめて嘆き悲しむ王子。

 王女が城に放った炎は、全てを焼き尽くす。

 恋に狂った哀れな二人の物語。

 今私が演じているのは、王女が狂い城に火を放つ前のシーンだ。


 羨ましい。


 とは思わない。

 だって私の母が恋狂いだったのだから。


 愛しても……愛しても……報われない恋。


「お待たせ~」


「遅い!! もう皆集まっているのに!! 主役が遅刻でどうする!!」


「ごめん。ごめん。エトラ」


 彼は悪びれる様子もなく笑う。


「お詫びに。はいこれ」


 ションは私に籠を渡す。


「野いちごじゃない。こんなに一杯。どこで見つけてきたの?」


「裏庭の奥の方で見つけてきたんだ」


「休憩の時にみんなでいただきましょう。アイルこれ洗ってきて」


 周りの演劇部員も沸き立つ。


「わ~い」


「色艶もいいな」


「美味しそう」


「ごっつあんです」


 ほとんどの部員が平民だ。数名下位の貴族もいるが。


「はい。お嬢様。蜂蜜と砂糖と牛乳もご用意しますね」


「ひゃっほう~!! 流石アイルさん!! わかってらっしゃる♥」


 アイルを見送り、私は二十人ばかりの演劇部員に向かいパンパンと手を叩いた。


「さあションも来たことだし、一回始めから通すわよ」


「おお~!! 頑張るぞ~!!」


 皆の声が裏庭に響く。

  影の薄い演劇同好会の部長がそれは僕のセリフだと呟く。




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 私の母は恋狂いだ。

 母が恋したのは父。

 もちろん二人は結婚していたけど。

 政略結婚で……

 よくある金のない貴族が、金持ちの商人の娘を妻にする。

 大概の貴族は子供が二・三人出来ると。

 愛人を持つ。

 父もそうだった。

 だが子供は、私一人しかいない。

 母は私を産むと産後の肥立ちが悪く。

 もう子供を産めない体になってしまった。

 父はこれ幸いと愛人を囲った。

  いや。結婚前から愛人はいた。

 愛人は歌姫で美人らしい。

 勿論父には甲斐性はない、愛人を囲む金は何処から捻出したのか。


 母の持参金だ。


 自分で働けよ!!

 と思ったが、貴族には二種類いる。

 よく働く貴族(貧乏貴族か新興貴族)と働かない貴族(こいつらは、没落まっしぐらだ)だ。

  紳士きぞくは働かない時代ではあった。

 父は後者で働きもせず。仕事は祖父母に丸投げだ。

 父は家にも領地にも寄り付かず。

 愛人宅に入りびたりだった。


 その間私は、母が恋に狂って行くのを見ていた。


「エトラ。エトラ。薔薇の花が咲いたわ。あの人が好きな薔薇の花。あの人に手紙を書きましょう。薔薇が咲いたって手紙を書いたらきっと帰ってきてくれるわ」


「エトラ。エトラ。てんとう虫よ。恋占いでね。てんとう虫は恋を伝えてくれるのよ。このてんとう虫も私の恋心を運んでくれるわ」


「エトラ。エトラ。今年も寒いわね。あの人が風邪を引かないようにマフラーを編みましょう」


 母がそう騒ぐ度に私は父と歌姫の元に花やら手紙やらマフラーを届けさせられた。

 馬車に乗ってかなり年を取ったメイドを連れて。

 私はそのメイドが嫌いだった。いつも母を馬鹿にした眼で見ていたからだ。

 手癖も悪い。母の宝石を盗むのを見つけたが、子供の私ではどうにもできなかった。

 そして母の手紙もマフラーも薔薇も歌姫のメイドに突き返された。

 家の中から笑い声が聞こえる。

 あの人と歌姫と娘の声。

 私は母が言うあの人から【諦め】と言う物を学んだ。


 母は私が十歳の時亡くなった。

 数か月しか違わない妹がいるのを知ったのは、母の葬儀の時だ。

 あの人は歌姫と娘を連れて来ていた。

 三人は笑っていた。

 歌姫の笑い声は甲高く。墓場に響きわたる。

 母方の祖父アーロン・クライトンもダビデ伯父さんベン叔父さんも父方のお爺様イーサン・フォル・ジュルネも顔をしかめる。

 怒ったお爺様は私を連れて領地に帰った。

 私は母の日記とオルゴールを棺に入れそびれた。

 母は父に対する想いを日記にしたためていた。

 母の涙を吸ったような青い日記帳。

 来ない男をひたすら待ちわびる哀れな女。

 最後の数ページは破かれていた。



 お爺様イーサン・フォル・ジュルネの領地は本当に田舎で畜産しか無かった

 お爺様とお婆様は私を愛してくれた。

 でも直ぐに婚約者を宛がうのは正直止めて欲しかった。


「初めまして。ション・アベリーと言う宜しく」


 平凡な顔をした少年が笑う。


「初めまして。エトラ・フォル・ジュルネと申します。以後お見知りおきを」


 ション様十三歳。私が十一歳の時だ。

 年の近い子供が居なかったせいでもあるが、私達は良く辺りを駆け回った。

 山を駆け回った。川を駆け回った。草原を駆け回った。

 本当に彼の領地もお爺様の領地も自然しか無かった。

 私達は良く互いの館を訪れて滞在していた。

 私達は釣りや狩りや乗馬に勤しみ。ついでに魔物退治もした。

 黒い森のせいか。ちょくちょく強い魔物が家畜を襲う。

 ここでは十歳からハンター許可証が出る。

 冬に魔物は多い。お陰でハンターランクも爆上がりだ。

 父や歌姫やその娘が、ここに来ることは無かった。

 たまにお母様の兄ダビデ伯父さんが、商売のついでにお土産を持って訪ねてくる。

 ションのお土産も忘れない。

 とても気のきく優しい伯父さんだ。

 ションが十四歳になったから王都のマクシアン学園に通わなくてはならなくなった。

 四年間の寮生活だ。

 病気やその他(精神病)の理由以外拒否権はない。

 私も二年後通うことになる。

 難儀なことだ。

 しかし女子は結婚で途中から抜ける事を許されている。

 私もその手を使ってばっくれるつもりだ。

 ションの卒業とともに結婚しておさらばさ♪

 うん。学費の負担も大変だからな。


「ションは何科に通うの?」


「俺は騎士科かな」


「じゃ私も騎士科にしょうかな? こんな僻地じゃダンスや刺繍なんか役に立たない。魔物相手に要らないわね」


「すまないな。俺が甲斐性が無いばかりに」


「いや。私もお高くとまるのなんて似合わないしね。半分平民だから」


 私は笑った。

 歌姫やその娘の様に都にしがみつこうとは思わない。

 たまに王都に住むお祖父さん(アーロン・クライトン)や伯父さん(ダビデ・クライトン)を訪ねるのは良いかも知れないが。

 住むのはごめんこうむる。


 やがてションは、学園に旅立ち。

 金銭面もそうだがなんせこの国は細長い。

 私達の領地は端にあるから片道だけで約一ヶ月かかる。

 そう 時間も金も無い。マクシアン学園にいる間は手紙だけだ。

 王都で大火事があり。

 運悪くションは用事で町に出ていて。

 火事に巻き込まれ。ションは手に怪我をしたそうだ。

 ちょっと遠い処にいる薬師に治してもらったらしい。

 ションが怪我をして一ヶ月ばかり手紙が来なかった。

 代筆屋もあるのだが、これがなかなかお高い。

 一回だけ代筆屋に頼んだ手紙が来たが、うん高かったんだね。

 その時以外は良く手紙をくれた。


 二年後、私も旅立った。

 学園の準備はダビデ伯父さんが、していてくれた。

 侍女のアイルまでつけてくれる。ありがたいことだわ。

 慣れない学園生活でせめて笑い者にはならないようにと。

 ドレスや身の回りの物も身分にあったものだ。決して他の者達にひけは取らない。

 扇子やアクセサリーもどれも上品で私に似合う。

 お祖父様や伯父さんは趣味がいい。

 まあクライトン商会の宣伝も兼ねているが。

 流石商人転んでもただでは起きない。



「エトラ」


 学園の問の所でションが、待っていてくれた。


「鞄持つよ」


 馬車は門の所までだ。

 先に主だった荷物を送って貰っていても。

 旅行の着替えや身の回りの品だけで結構な荷物になる。

 侍女のアイルも私も鞄をいくつも持っている。


「ションまた背が伸びた?」


「うん。まだまだ伸びるよ」


「私はあまり伸びなかったわ」


「女の子なんだから仕方ないよ」


「騎士科はどう?」


「いやなかなか厳しいよ」


「王族騎士団に入団することをかなりな者が、狙っているからな。皆目の色変えて頑張っている」


「僻地の貧乏領主の所に来てくれそうな人いる?」


「難しいな。みんな王都に住みたがっている。魔物がいる所は難しいな。家族を養うのはいいが、魔物がネックだ」


 ションが難しい顔をしていたが、ふと思い出したらしい。


「デビュタントはどうする?」


 そう尋ねた。


「あ~あったね。一応ドレスは持ってきた。エスコート頼める?」


「婚約者なら当たり前だろ」


「入学式の三日前よね」


「しっかりエスコートするよ」


 三日後私達はデビュタントで王城にいた。

 流石王城は白くきらびやかでおとぎ話の様だった。

 白いドレスに花冠。デビューする娘達はみな同じ格好だ。

 私はションに手を引かれ王様に挨拶する。

 王様に挨拶するなんて一生に一度だろう。

 いや。ションが伯爵家を継ぐ許可をもらいに行くとき結婚していたら一緒に行くのかな?


「ファイ・フォル・ジュルネが娘エトラ・フォル・ジュルネでございます。以後お見知りおきくださいませ」


「ほう。その方がエトラかもう体はいいのか?」


「はい。とても健康です」


 どうやら父は私が王都に居ないのは身体が弱いせいにしているらしい。

 まあ。どうでもいいんだけどね。

 私達はニッコリ笑ってその場を立ち去った。


「そう言えば【あの人】って何処にいるんだ?」


「家格からしたらもっと後ろの方だろ」


「あ~同じ伯爵家でも家格あるからか面倒くさいな~」


 同じ爵位でも歴史がある方が格が高いのだ。

 簡単に言うとションの家は三百年の歴史があるから伯爵家上位で私ん家は百五十年だから伯爵家下位になる。


「家は貧乏だけど家格は高いからな」


「あっ!! そう言えば公爵の次くらいだっけ?」


「ははは。プライドだけ高くってやんなるよ」


 私達も知り合いに挨拶する‼

 割りと親戚や知人や商売の取引相手が多い。

 ションは皆に私を婚約者として紹介してくれた。

 皆さん挨拶も済んだのだろう。

 リヒテンシュタイン王太子様が婚約者のサンドラ・エスぺぺ様とダンスを始めた。

 一曲踊られると皆も踊り出した。


「俺たちも踊ろうか」


 ションが手を出してくれる。

 私は彼の手に手を乗せる。

 クルクルと私達は踊る。

 優雅に音楽が流れる。


「ション。ダンスが上手くなった?」


「エトラの足を踏まないように頑張って練習した」


 ちょっと照れてションが答える。


「それに騎士にはダンスは必須科目だ。苦労した」


「ふふふ……」


 踊り疲れ、私達はベランダに出た。


「飲み物持って来るよ」


 ションは飲み物を取りに行く。


「はぁ~」


 ベランダの風が気持ちいい。

 月が綺麗だ。


「あら? お姉様いらしてたの」


 一人の少女が現れた。


「……」


「まぁ。妹の顔も覚えていないの!!」


「ああ~歌姫の娘か。お母様の葬式の時に一度会ったわよね~名前何だったけ?ベル……ベル……ベルクカッツエ?」


「ベルマリアよ!! 妹の名前も覚えられない馬鹿なの!!」


「本妻の葬式に喜々として乗り込んで来て、高笑いする常識外れの愛人と娘の名前を覚える必要あるの?」


「何ですって!!」


「ああ。いやだいやだ。こんな所で喚き立てるなんて親の顔が見たいわ。どういう躾をなされているのかしら? やっぱり歌姫なんて威張っていてもお里が知れますわよ」


「きいぃぃぃ!! この山猿が!!」


 バシャッ!!


 ベルマリアが手に持っていたワインをかけた。

 しかしワインは私にかからず。

 ションの服にかかる。

 ションがいつの間にか私の前に立っていたのだ。

 彼の紺色の服からポタポタとワインが滴る。


「ベルマリア!!」


 騒ぎを聞きつけてファイ・フォル・ジュルネ伯爵とその妻(歌姫)がやって来る。


「どうした!! ベルマリア!!」


「お父様……お姉様が酷いのよ……」


「ジュルネ伯爵お嬢さんが酔っぱらって、ワインを私にかけてしまいました。飲み過ぎたようなのでもう帰られてはいかがですか?」


 ションが穏やかに微笑みながら言った。

 うおぉぉぉぉ!! 

 怖い!! 笑顔で人が殺せそう!!

 要するにてめぇ~このあばずれをとっとと連れて帰れ!!

 ってことですね。


「これは申し訳ない。この埋め合わせは後ほど」


「あなた。どうなさったの?」


 歌姫の登場だ。


「帰るぞ」


「えっ?まだ皆さんにこの子を紹介していないわ」


「お母様。私は悪くないわ!! 酷いのはあの女よ!!」


「えっ?」


「人にワインをかけておいて一言謝罪することもできないのかしら? どういう躾ををなさっているの?」


 私は扇で口元を隠しあざけりの眼差しを向ける。

 ションにかかったワインに気が付いて歌姫も慌てて謝罪する。


「まあ……娘がとんだ粗相を申し訳ございません」


 でもその目は(なんてドジを踏んだのよ!! ちゃんとあの娘にかけなさいよ!!)と言っていた。

 あの人は謝罪の言葉を零すと二人を連れて出ていった。

 私とションの婚約はお爺様が成された事で、まだあの人には家督を譲っていない。

 お爺様が家督を継ぐ資格なしと判断されたら。あの人は家から追い出される。

 見え張りなあの人はかなりな借金があるようだ。

 密かにお爺様は家督を次男(ベン叔父さん)に譲るつもりだ。

 その手続きも終わっている。

 私は叔父さんの養女になっている。

 家長はお爺様だからあの人を通す必要はない。

 後は王様が許可を出すだけだ。

 あの人とは違って叔父さんも従兄弟も真面目だ。

 良い領主になるだろう。


 三人がベランダから姿を消すと同時に、メイドが現れ私達を別室に連れて行った。

 個室でションは服の上から魔法をかけられ洗浄された。

 初めて洗浄魔法を見たが便利な物である。

 私もあの魔法欲しいな~

 冒険者の仕事で解体をした時、返り血や臭いが酷いんだ。

 私達はメイドに礼を言うと再び会場に出て踊った。

 楽しい夜が更けていく。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 学園に入って二年が過ぎた。

 私は16歳になり。ションは18歳になった。

 ションは演劇同好会に入っている。


「何で演劇なの?」


「ん~ほら数年前に怪我しただろ。その時演劇同好会の友人に世話になってお礼代わりに手伝ったらはまった」


 私はジト目でションを見る。


「で脚本書いたら褒められた。この話のヒロインは是非ともエトラにやってもらいたい」


 私は台本に目を通す。


「この話は昔この国が建国される八百年前のおとぎ話よね」


「今、古典主義が復活しているんだ。この波に乗るしかない」


「本当は?」


「うん。金がない弱小演劇同好会だからエトラのお祖父さんにスポンサーになって欲しいんだ」


「ぶっちゃけたわね~」


「てへ♡ぺろ」


 こうして私は演劇部の助っ人になった。


「そう言えばエトラの妹ベルマリアってこの学園で会ったか?」


「騎士科は寮も校舎も違うから会ったことないわ。昼はアイルがションと私の弁当も作ってくれるから。食堂使わないし。侍女のアイルの情報だと声楽科らしいわ。母親の後を目指すのかしら?」


「アイルはメイドネットワーク持ってんのか? 優秀だな。料理も上手いし。領地に来てくんね~かな~」


「給料はずんだら来てくれるかも」


 もしゃもしゃとサンドイッチを食べながら考え込むション。

 学園で暮らすのは貴族同士の顔見せや優秀な人材確保の為である。

 僻地で貧乏貴族は、人集めに困窮する。


「所でさ~あのオルゴール持ってきてる?」


「お母様のオルゴール? ええ。持って来てるわ。どうしたの?」


「あのオルゴールの曲、劇の冒頭に仕えないかと思ってさ~」


「あ……そうね。それと仮面舞踏会のシーンとかいいわね」


「先輩に曲起こしてもらおう」


「分かった。持ってくるわ」


 私は寮の部屋からオルゴールを持ってきた。

 円錐の台の上にドレスの裾を持った陶器の人形が曲と共にクルクル回る。

 お母様がお祖父様に結婚のお祝いにもらったのだ。

 ションは先輩に頼むつもりだ。

 レオンハルト先輩は騎士科でもあるが、作曲もできる多彩な人だ。

 カリカリカリ。

 ねじを巻く。


「あれ?動かない?」


「何か詰まっているのかな?」


 ションはオルゴールの台を外して中を見る。


「あ~なんだこれ?」


 中から出てきたのは紙切れと薬だった。


「あら? これ母様の日記帳の破かれた所の紙? こっちはお母様が飲んでいた薬?」


 破られた日記帳を読む。


「!! ション……これ……」


 私は震える手で紙切れを差し出した。


「なんてことだ!! まさかこんなことが……」


 破かれた日記を読んでションも顔色を変える。


「お爺様やクライトンお祖父様やダビデ伯父様に知らせないと……酷い……こんな事ってないわ!!」


 泣き崩れる私をションは優しく抱きしめてくれた。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 今日は花祭だ。

 夏休みに入る前に王都で夏祭りがある。

 学園でもバザーや演劇やコンサートが催される。

 公会堂には特別ステージが設けられ。

 今私達のお芝居が上演されている。

 歌姫とアノヒトは前の席で娘が歌うのを待っている。

 私の事は気が付いていない。

 化粧のせいで全く別人だ。

 恐るべし!! 

 メイクアップアーティスト【アイル】!!

 本当に万能じゃね?



「貴女にはカスミソウを この花の花言葉は『 幸せ 』」


「貴方には露草を この花の花言葉は『 心変わり 』」


「あなたにはダリアを この花の花言葉は『 裏切り 』」


「ああ……王子様貴方にはシロツメクサの花冠を捧げましょう。シロツメクサの花言葉は『 復讐 』」


 私は舞台から花を撒く。


「ああ……あの時あのワインさえ飲まなければ……ワインの中に【恋狂い】の媚薬さえ入っていなければ母は恋に落ちはしなかった」


 私は舞台からアノヒトと歌姫を指さした。

 二人にスポットライトが当たる。


「ねぇお父様……お母様に【恋狂い】の媚薬を飲ませたのは何故? 結婚しても薬をお茶に入れて飲ませ続けたのは何故? あの媚薬は避妊薬でもあった。妊娠していたお母様に飲ませ続けたのは私を下ろすつもりだったの? そのせいでお母様は子供が産めない体になったの? 離婚されるとお金がむしり取れなくなるから? ずっとずっと【恋狂い】をお茶に入れて飲ませたの? エルモア・アンブラーと言うメイドをご存知? お母様のメイドをしていて偉く手癖が悪い女でね。お母様の宝石をくすねていたわ。このメイドが【恋狂い】をお母様に飲ませていたのよ。これがビックリこのメイド歌姫ローズマリアの実の母親なのよ。【恋狂い】は数回なら中毒にならずにすむんだけど何年も飲まされると体を壊して死んでしまうの。つまり貴方と歌姫には毒殺の嫌疑がかかっている」


「な……何を馬鹿な!!」


「あ……貴方……」


「これ……お芝居? ですの?」


「どういう事かしら?」


「えっ? 本当の事ですの?」


「毒殺? 妻殺しは貴族といえど重罪だ」


 ざわざわと客達が騒めく。

 芝居か本当の断罪か区別がつかないようだ。


「言いがかりだ!! お前は私たちが妬ましくってそんな出鱈目を言っているんだ!!」


「そうよ!! 僻むのもいい加減にしてよね!!」


 キャンキャンと歌姫も喚く。


「なんて言う娘だ!! 親を断罪するなどと!! もうお前とは縁を切る!! お前は今日限りジュルネ伯爵令嬢ではない!!」


「縁を切られるのはお前の方だ!! ファイ!!」


「父上……何故? ここに?」


「お前と縁を切るためだ!! 調べは全て付いている!! 無様を晒しおって!! 衛兵二人を連れて行け!!」


 いつの間にかそこに衛兵が十人程いた。

 学園の治安を守るためにかなりな人数が常備待機している。


「何をする!! 私に触るな!!」


「これは何かの間違いよ!! 証拠なんて無いでしょう!!」


「お静かに。証拠の品は提出されて、エルモア・アンブラーは既に捕まり自白しています」


 衛兵長は静かに言い。

 アノヒトと歌姫は衛兵に引きずられていった。


「なによ!! どういうことよ!! なぜ? お父様とお母様が連れていかれるの?」


 控室からベルマリアが飛び出してきた。

 相変わらずキャンキャンと五月蠅い。


「あんたのせいよ!! 全部あんたの!!」


 私はベルマリアに突き飛ばされ舞台から転がり落ちる。

 着慣れぬ長いドレスのせいで動きづらい。

 何時もならサッサと避けたのに。


「きゃあぁぁぁぁー!!」


 客たちの悲鳴が起こる。


「エトラ!!」


「お嬢様!!」


 ションが舞台から飛び降りて私の元に駆け寄ってくる。

 ションは私を抱き起した。


「大丈夫か!!」


「あたしのせいじゃないわ!! みんなその女が悪いのよ!!」


 慌ててベルマリアは逃げ出すが、燭台にぶつかり蝋燭を倒す。

 蠟燭はたちまちカーテンに燃え移り炎が燃え上がる。

 炎は不自然に辺りに燃え広がる。


 炎炎炎……

 私の目の前に凄まじい炎が燃え上がり。

 城が燃え上がる情景が浮かび上がった。

 燃え上がる城。

 私は塔から突き落とされて。

 炎の中誰かが何か叫んでいた。

 塔から突き落とされ瀕死の私を助け起こしたのは敵国の王子様。

 美貌の王子と温かな容貌のションが重なる。

 私はションの腕の中で気を失う。


「か……火事だー!!」


「きゃあぁぁぁー!!」


「ひいぃぃー!! に……逃げろー!!」


「誰か助けてー!!」


「ゲホゲホ……煙が……目が痛い!!」


 パニックになった客達が出口に殺到する。


「直ぐに火を消せ!!」


 コーラス部の先生が叫ぶ。


「水だ!!」


「う……古の盟約により我が元に集えウォーター!!」


 劇団員やコーラスの為に控えていた生徒たちが水の魔法呪文を唱える。


「酷い煙だ!! ゲホゲホ」


「火は消えたか?」


「何とか」


「念の為もう少し水をかけておけ」


「あのクソ女どこ行きやがった!! 舞台がめちやくちゃだ!!」


「酷いこれじゃ後の出し物が出来ない!! 衣装が煤まみれよ」


「折角練習したのに……」


「楽器がずぶ濡れよ~」


「お客様も逃げちゃった~」


「ジョージ。エトラを保健室に連れていく」


 ションは、影の薄い演劇部の部長に言う。


「ああ。後始末は任せろ。早く連れていけ。入り口の所で怪我をした者がいる。手の空いた者は、保健室に連れていってくれ」


「それにしてもあのクソ女どこに行ったの?」


「学園長に言いつけてやる!!」


「ベルマリアの担任の先生は誰だ? 厳重注意では済まんだろ!!」


「退学にしてやる!!」


 私達の後に発表するはずだった連中の怒りは凄まじく。

 駆けつけてきたベルマリアの担任に噛みついていた。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 八百年前。

 この世界にベターソス皇国とゼーベア帝国が覇権をかけて争っていた。

 私はベターソス皇国の第三王女で。ションはゼーベア帝国の第四王子で。

 小競り合いが起こり。戦でベターソス皇国の王太子が殺された。

 私は兄の仇を討つためにゼーベア帝国の仮面舞踏会に潜り込みゲーパルト王子の暗殺を狙った。

 婚約者のシュートテもついてきた。首相の息子でハンサムな彼が……

 私は好きではなかった。

 その仮面舞踏会で私達は恋に落ちて。

 その時に兄は味方に裏切られ殺された事が分かった。

 戦場に激励に向かった兄を傭兵を使い殺した。

 ゼーベア帝国の仕業と見せかけて。

 全てはシュートテと首相の企み。

 あの親子は腹に一物あった。王太子を殺し、私とシュートテを結婚させて王家を乗っ取る。

 二人の姉は既に結婚して王位継承権を放棄していたし。弟はまだ幼かった。

 でもその企みは私達が恋に落ちて狂ってしまった。

 ゲーパルト王子とエーゼリンとの結婚による和平協定。

 悪事がばれた首相とシュートテは傭兵を使い城に火を放った。

 私は……ゲーパルト王子の元婚約者に塔から突き落とされて死んだ。

 燃える城と駆け付けるゲーパルト王子の絶望に歪む顔を見たような気がする……



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ここは……? 私の部屋?」


「気が付かれました? お嬢様」


「アイル? 私……そうか……突き落とされて……火事の炎を見て気絶したのね」


「ご気分は如何ですか? お医者様は打ち身だけだとおっしゃてましたが、気分は悪くないですか? 頭も打ったみたいですし」


「あ……うん大丈夫……ごめんね。心配かけたね」


「いいえ!! わたしよりション様が酷く心配されて女子寮に入ろうとして大変でした」


「ふふ……ションらしいわ」


「あの火事騒ぎで保健室が一杯になりましてね。お嬢様はこちらに運びましたの。かなり怪我をされた方や煙を吸った方が多かったんですのよ」


「まあ。そうなの。ごめんなさい。大変だったわね。所でベルマリアは?」


「それが……何処にも見当たらないらしくって。皆さんが探しているそうですよ」


「どこまでも人騒がせな人ね」


「さあお嬢様。痛み止めのお薬を飲んで少しおやすみなさいませ」


「ああ……ありがとう」


 私は薬を飲んだ。


「くすっ」


 アイルが笑った。


「久しぶりだね。エーゼリン」


「えっ?」


 私はそのまま倒れた。

 待って待って待って!!

 今アイルは私の事をエーゼリンって言ったの?


 エーゼリン……


 それは前世の私の名前だ。

 八百年前私はこの国の第三王女だった。

 私はそのまま眠りにつく。

 薬は睡眠薬だ。

 転生したのは私だけじゃない?




「くしゅん」


 私は寒くて目を覚ました。


「ここは?」


 私は起き上がろうとして縛られている事に気付いた。

 辺りを見渡す。埃っぽい。暗いし変な匂いがする。

 この臭い。油?

 ギイギイと音がする。


「時計塔?」


 目が慣れてくると時計の機械が動いているのが分かる。


「エーゼリンやっとお目覚めかな」


「アイル……何を言っているの?」


「惚けても無駄だ。君は八百年前のこの国のエーゼリン姫の生まれ変わりだ」


「貴方は誰?」


「僕かい。僕はシュートテ。八百年前君の婚約者だった男さ。今生では女に生まれ変わったけどね」


「そして親友だった貴方の兄王子を罠に嵌め。殺した裏切り者」


 クスクスとベルマリアは笑う。

 闇の中からベルマリアが出てきた。 

 いつの間にかベルマリアはシュートテの隣に立つ。


「ベルマリア。こんな所にいたの。皆が探していてよ」


「私が誰だか分かって」


「知らないわ」


「フィロメア。八百年前あんたに婚約者だった王子を取られた女よ」


「そしてシュートテと手を組んで国を滅ぼした」


「そうよ。いけない? あんた達が幸せになるなんて許せない。だからあんた達を殺してベターソス皇国を滅ぼした」


「そう十分でしょう。私達を殺してベターソス皇国は滅びた。八百年前の事よ。他に何を望むの?」


「無かったんだ」


「えっ? 何が?」


「ベターソスの財宝さ。その為にあんなに苦労して手に入れたのに隠した財宝が無かった。お陰で逃走資金も無く直ぐに捕まり雇った傭兵に殺された。タダ働きをさせたからね」


「八百年前の物なんて誰かが見つけて盗んでいったんでしょう」


「そう知っているのは私と間抜けな王子だけ」


「王子も生まれ変わっているの? 王子に先を越されたの? はははは~ざまぁ~」


 ドガァ!!


「ぐっ……」


 シュートテが私のお腹に蹴りを入れた。


 カツカツと時計台の階段を登って来る足音が聞こえた。


「ああ。間抜けな王子が来た」


「エトラ!! 無事か!!」


 ションが階段を上がってきた。


「これはこれは。王子様の御登場だな」


 アイルがニヤニヤ笑う。


「アイル? なぜベルマリアと居る?」


「ようこそ。ゲーパルト王子様」


「? 何を言っている?」


「もう芝居は要らない。お前が八百年前のゼーベア帝国の第四王子の生まれ変わりだって言うのは分かっている。財宝は何処に隠した?」


「お前は……そうか……お前がシュートテか!! 財宝?……ここには無い。領地に隠してある」


「信じるとでも?」


「財宝を学園に置くとでも思うのか? あれだけの金銀財宝を」


「何処に隠した?」


「エッフェの三本松の真ん中の木の根元だ」


 エッフェの三本松と言うのはお爺様の領地と彼の領地の間にある境界線代わりの木の事だ。

 有名で休憩場所として旅人によく使われる。

 シュートテは舌打ちした。

 王都から三本松まで一ヶ月と二週間かかる。

 思ったより大事になった。


「この女を人質に財宝を取りに行かせればいいわ」


「いや。逃げるかも知れない」


「大丈夫。ゲーパルト王子はエーゼリンに夢中よ。転生してやっと巡り合えたのだから。見捨てて逃げる事はしないわ」


「運命の人? 笑えるな。首相の息子だった前世。仮面舞踏会で、俺がエーゼリンに。お前がゲーパルト王子に【恋狂い】を盛ったのに姫と王子が恋に落ちた」


「あれは最悪だったわ。あんたが王太子を殺し。姫と結婚して国を乗っ取るはずだったのに。姫と王子は恋に落ち。【恋狂い】の効き目が切れても恋が愛に変った。本当に骨折り損のくたびれ儲け。せめての当てつけにベターソス皇国に攻め入り。姫と王子を始末したまでは良かった。後は財宝を奪ってとんずらするはずが、肝心な財宝は無いわ。雇った傭兵のお金が払えなくって。傭兵に殺された。最悪~~」


「兎に角。財宝は部下に取りに行かせる訳にいかない。わたしが取りに行くしかないか」


「エトラ大丈夫か?」


 ションは倒れているエトラに駆け寄り助け起こしロープを外す。


「大丈夫よ」


 エトラはやせ我慢して笑う。

 手首のロープの跡が痛々しい。


「おっと動くな」


 シュートテはエトラとションに剣を向ける。

 二人は窓の側に追いやられ。


「あらまるであの時みたいね。800年前に、私が塔からあんたを突き落とした。そうねどうせならあの時の再現も面白いかも♥」


「貧乏を嫌った令嬢が婚約破棄を突き付けて、逆上した婚約者に無理心中で塔から突き落とされるって言うのはどうだい」


「あら。素敵。貴方作家の才能あるんじゃない」


「エトラ……」


「ション……」


 ションは私を抱きしめる。

 時計塔の窓は開いていた。

 赤い月が見える。今夜は満月だ。

 とってもロマンチックな夜だ。

 剣を突き付けられているのでは無ければ。


「こんな時に言うのもなんだが……」


「なーに?」


「愛してる。800年前言いそびれた」


「私もよ。ずっと前から好きだったわ」


 ションは私を抱きしめて窓から飛んだ。



 ぼん。ぼん。ぼん。


 私達を網が捉えて、何度も体が跳ねる。

 演劇同好会のみんなが網の端を持って円を描いて立っている。


「怪我はないかい?」


 影の薄い演劇部の部長が、今だけはイケメンに見えた。


「大丈夫だ」


 私の代わりションが答える。

 高い所が苦手な私は少しふらつく。

 時計塔の入り口から衛兵二十人がなだれ込み。

 時計塔の上で呆然と私達を見ている。

 二人の顔が間抜けすぎて笑ってしまった。


「エトラ嬢誘拐と殺人未遂で逮捕する」


 衛兵は問答無用で二人を捕縛する。


「くそ!! 離せ!! 」


「私達は悪くない!! みんなあの女が悪いの!! 嵌められたのよ!!」


 泣きわめく二人を連れて衛兵達は去っていった。

 辺りを見渡すと衛兵だけでなく火事を起こされて頭にきていた連中もいて。

 連行される二人を罵っている。

 お腹を蹴られた私は保健室に強制連行されそのまま一泊する羽目になった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「汝ション・アベリーは健やかな時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、死が二人を分かつまで、その命ある限り、真心を尽くすことを精霊に誓いますか?」


「はい。誓います」


「汝エトラ・フォル・ジュルネは健やかな時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、貧しい時も、これにを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、死が二人を分かつまで、その命ある限り、真心を尽くすことを精霊に誓いますか?」


「はい。誓います」


 皆に見守られて私達は誓いのキスをした。


 神官役は演劇同好会の部長が務めてくれた。

 学園にある教会で私達は卒業と同時に結婚式をあげた。

 演劇同好会のみんなが祝福してくれる。花びらが散る。

 私が纏っているのは劇のとき、着ていた白いドレスだ。


「おめでとう。お幸せに」


「ありがとう」


「で、この後の卒業パーティーに出るんでしょう?」


「ええ。明日には領地に帰る手はずになっているの」


 ほとんどの同級生を結婚式に呼べないため。

 私達は仲間内だけの小さな結婚式をあげた。

 白いワンピースと小さなブーケ。

 領地に帰ったら本格的な結婚式を挙げる。

 演劇同好会の何人かはションの領地に来てくれる事になった。

 私はションと領地を治めるため学園を去ることにした。

 式の後それなりのドレスに着替える。

 ションは結婚式の服のまんまだ。

 男は楽でいいな~


「ちっきしょう~~~!!」


「ほんと惚けた顔をして美味しい所を持ってくな~~~お前って~~~~」


「うらやましいぞ!! こんにゃろう!!」


 ションは皆に手荒い歓迎を受けている。

 婚約者の居ない者の僻みだが。


「エトラ様は私より先に大人の階段を上るのですね」


 アイルの代わりの新しく雇った子は27歳だ。

 お祖父が新しく雇ってくれたメイドはメイド道を極める人で。

 彼女は僻地の領地まで着いて来てくれる。

 彼女はベールを外すと、サッと髪を結い上げてくれた。


 私達はそのまま卒業パーティーになだれ込み。

 踊ったり飲んだり歌ったり。

 楽しく時を過ごした。

 少し熱くなったので私達はバルコニーに出る。


「あの時みたいに月が綺麗ね」


「そうだね。数か月しか経ってないのに。随分昔のようだ」


「ねぇ。ションは王都が火事になった時、前世の記憶が蘇ったの?」


「ああ。そうだよ」


 町に便箋と封筒を買いに来ていたションは運悪く火事にあい。

 逃げる途中でアイルが瓦礫の下敷きになっているのを助けた。

 その時火傷をおった。

 避難所にアイルを連れていき医者に見せ。

 自分は寮に帰り保健室の医者に見せたが思ったより怪我が酷く。

 3日ほど寝込んだ。

 その時……前世の記憶を思い出し。

 シュートテは二人を祝福する振りをして裏切った。

 城の地下の通路から傭兵を招き入れ。王族や貴族を皆殺しにして。

 財宝を奪おうとした。

 それを察知したゲーパルト王子は財宝を隠した。

 エーゼリン姫とゲーパルト王子は罠に嵌められ死に。

 財宝を手に入れることが出来なかったシュートテとフィロメアは傭兵に殺された。


 800年前王都だった所は神殿が立ち。

 巡礼地となっている。

 ションは火傷を癒すため巡礼地に向かい。

 ついでに財宝を回収する。

 城の宝物庫の地下100mの所に土魔法を使って隠していたのだ。


「ねえ。三本松の所には財宝を隠してないわね」


 ションはにやりと笑う。


「ションは学園に来て一回も領地に帰っていないんですもの」


「どこに隠したと思う?」


「隠したっていうか。寄付した? 王都の復興支援に多額の寄付をした者がいたわね」


「当たり。でも少し手元に残している。うちの領地も大変だからね」


 黒く笑って急に真面目な顔になった。


「今朝。ファイと歌姫とベルマリアとエルモアとアイルの処罰が決まった。五人纏めて炭鉱に送られた」


「そう……一度も家族だった事が無かったから。悲しいとか。悔しいとかの感情が湧いてこないわ。ただ母が哀れでしかない……」


 破かれた日記には眠っていると勘違いしたエルモアが零した言葉が書かれていた。


 __ 馬鹿な女。夫に【恋狂い】を盛られて恋に落ちて。偽物の恋に縋りつくなんて。愚かすぎる __


 __ 馬鹿女でも私の可愛い娘と孫にお金を運んでくれるのだから。少しは役に立ったわね __


 __ それにしても。子供ができるなんて誤算だわ。普通は流産するのに。図太いガキだ __


 どんな思いで母はそれを聞いていたのだろう。

【恋狂い】のせいで、霞む目で日記を書き。

 震える指でオルゴールの底に日記と【恋狂い】を隠した母。

 掘り起こされた母の遺体は少しも腐敗していなかった。

 それだけで悪事の証明になる。


「旅立つ前にエトラのお母さんの墓参りをしょう」


「ええ。そうね」


 お母さんに私は幸せです。と報告しなくっちゃ。


「あ……また曲が変わった。では麗しのお姫様。どうか私と踊ってくださりませんか? 」


 私は笑ってションの手を取り。

 ダンスの輪の中に入っていた。




            __ Fin __






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 2018/8/10『小説家になろう』どんC

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 ___ 登場人物紹介 ___


 ★ エトラ・フォル・ジュルネ (16歳)

    お転婆な伯爵令嬢。ハンターランク爆進中。

    母は【恋狂い】で10歳の時死亡。

    お爺様(ジュルネ伯爵)に引き取られる。

    ションとは11歳の時婚約した。

    八百年前に滅んだゼーベアの第三王女の生まれ変わり。


 ★ ション・アベリー (18歳)

    エトラの婚約者。15歳の時大火事で前世の記憶を取り戻す。

    演劇に凝っている。エトラに尻に敷かれる未来しか無い。


 ★ シャーロット・フォル・ジュルネ (享年28歳)

    エトラの母。【恋狂い】夫に愛されないかわいそうな人。


 ★ ファイ・フォル・ジュルネ (41歳)

    エトラの父。歌姫にべたぼれ。

    シャーロットをないがしろにする。


 ★ ローズマリア (38歳)

    歌姫。エトラの母が死ぬと後妻に入る。

    ベルマリアの母。


 ★ ベルマリア (16歳)

    ローズマリアの娘。かなりのアホの子。

    『バカは死ななきゃなおらない』と言う言葉があるが、バカは死んでも馬鹿だった。

    800年前はそんなに馬鹿ではなかったはずだが……


 ★ エルモア・アンブラー (59歳)

    ローズマリアの実の母。メイドになってエトラの母に【恋狂い】を盛る。

    手癖と性格悪し。


 ★ アイル (22歳)

    優秀なメイド。エトラが学園に入る時メイドとしてお祖父ちゃん(アーロン・クライトン)

    が雇ってくれた。

    エトラの前世の婚約者。財宝を探している。


 ★ イーサン・フォル・ジュルネ (60歳)

    エトラのお爺様。辺境の地を収めている。

    ファイに愛想をつかし。弟のベンに伯爵家を継がす。


 ★ ベン・フォル・ジュルネ  (39歳)

    エトラの叔父。真面目。


 ★ アーロン・クライトン (77歳)

    エトラの祖父。孫に甘い。大富豪。エトラが住んでいた大邸宅もお爺さんが

    娘に贈った物。今はエトラが嫁に行く時の持参金である。

    クライトン商会の会長。


 ★ ダビデ・クライトン (55歳)

    エトラの伯父さん。エトラの母の兄。


 ★ マクシアン学園

    貴族が14歳になったら入る。騎士科・文官科・魔導士科・淑女科・普通科があり。

    優秀な平民の子供も通う。

    14歳から18歳まで通う。遠い領地の子は寮がある。

    騎士科はかなり離れた場所にあり(馬を使った軍事訓練や野営訓練がある為。

    騒がしいため)

    騎士科は文化祭ぐらいしか交流が無い。


 ★ベターソス皇国

   エトラが800年前にいた国。

   今の国は帝国と皇国が入り混じってできた国。


 ★ゼーベア帝国

   ションの前世に住んでいた国。

   ションは第四王子ゲーパルト王子だった。











最後までお読みいただきありがとうございます。

やっと仕上がった~~~~!!


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― 新着の感想 ―
[一言] 妹の名前ベルクカッツェは笑ったわwww 類似品にマクベカッツェというのもあるな
[気になる点] あらすじ 起こった祖父は 怒った 一回初めから通すわよ 始め 紳士きぞくは働かない時代ではあった) 紳士きぞくは働かない時代ではあった。 「何ですて!!」 「何ですって!!…
[気になる点] あらすじに誤字有り
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