Rebirth・・・あるRF900の話
懲りもせず今度はRF900で書いてみました。自分の心境が織り交ぜてある節もあります。
最後に引用している詩はnova eraという曲のものなのですが、RFといえばエラ、エラつながりでどうしてもいれたくって(笑)
ではどうぞ。
空き部屋の目立つマンションの屋上で下界を見下ろす。
あの人は本当にクズだ。どうしてあんなヤツと長々一緒にいてしまったんだろう。怒りがふつふつと沸く。
「あいつのせいで私は全て・・・」
鉄の柵を自分の痛みも忘れて殴るも、残ったのは虚しさだけだった。
あとに現れた無力感に、もういっそ死んでしまおうかとさえ思い柵を越える。
いざその場に立つと足が震えた。それでも最後の一呼吸をしようと大きく息を吸い込むと煙くさい。
むせながら煙の流れてきた側を見ると、上下黒い革ずくめの男が座っている。誰もいないと思ったのに。
「お前バイクすきか?」
いきなり何を言い出すのか。しかも今一番聞きたくない言葉だ。
「免許はもってますが、それが何か?」
「大型乗れるか?」
「いえ、中免なんで・・・だからなんなんですか。」
男は大袈裟なほど肩を落として見せてから言った。
「お前大型取ってこい。こんな時間にふらふらしてんだ、暇なんだろ?いいから行ってこい。」
名前も知らない男の言うことを聞くのも我ながらおかしいと思ったが、翌日には手続きを済ませた。
学生の集団もみな卒業していた時期なので、教習の予約はあっさり取れた。今月中には終わるだろう。
初めての教習の日、外に出るとまたあの男がいた。
「お前つまんなそうだな。」
「つまんないです。むしろ嫌いです。どうでもいいです。」
他人に当たっても仕方がないのに一気にまくしたてた。
「それじゃ、私用事があるので。」
心なしか少し寂しげな顔をされたのが気まずく、逃げるようにその場を後にした。
次の教習日、また男は待っていた。
「もう何なんですか?」
「今日もつまらなそうだった。」
「別にはじめから興味なんてなかったんです。中免だってただ、人にいわれて・・・」
あいつの顔が浮かんだ。見透かしたかのように言われる、
「男か?けど今のお前はここにいる。それでいいじゃねーか。」
どうして見ず知らずの男にそんなこと言われなくちゃいけないんだろう。言ってることはおかしくないけど、おもしろくない。
「ほっといてください!」
にらんで走る私の背中に向かって男は一言だけ言った。
「バイクは楽しく乗るもんだぞ!」
750ccの車体にも慣れた頃、またしても男は現れた。
さすがに前回のあれはよくなかった。素直に謝る。
するとちょっと付き合えといいだす。今日の私には断れない。
少し歩き街を行く。こんな風に出歩くのも久しぶりのような気がする。あいつと見た全てのものを視界に入れたくなかったから。
すると一軒の店に着いた。小綺麗で予約をいれないと入れない人気店。私が断っていたらどうするつもりだったのだろう。けど意外なセンスに見直した。
テーブルに置かれた予約カードには「Ryoichi Fujikawa」とある。
前菜を待ちながら気を良くした私は自分から話しかけた。
「りょーいちっていうんだ?名前」
「え、あ、あぁ、うん、そうだ。」
私からの不意の問いかけに驚いたのだろうか。やけに焦りながら答えた様子が引っかかったが、細かいことは気にせずに楽しもうと居直った。
帰り道、
「やっと笑ってくれたな。」
そう言われ、顔が熱くなった。暗くて見られずにすむのが救いだ。
「楽しかった、ありがとう。」
「それはよかった、またな。」
「うん、またね。」
名前はわかったけど、相変わらず素性はわからない。自分から連絡できないことがもどかしくなってきた。
教習もいよいよ終盤。
この日も当たり前のように男はいた。いつもと違うのは、かたわらに大きなバイクがあるということ。
「え?これなに?」
「スズキGSF1200Sバンディット。スペックは・・」
「ちょっとそうじゃなくって」
この人のこういう少しズレたところにも大分慣れた。
「友達。頼んで来てもらったんだ。いいから後ろ乗れ。」
私の分のヘルメットまで用意されている。タンデムグリップは怖いから、思い切って男の腰に手を回した。細身の見かけよりしっかりした身体つきにどきどきした。
着いたのは海。人のまばらな浜辺を歩き、たくさん話をした。
失恋したこと、それでバイクが嫌になっていたこと。
「だけど今日後ろに乗ってみてわかった。私やっぱり自分で走って自分の景色が見たい。
男はそれでいいんだと、満面の笑みで私の頭を撫でた。
男も語った。
昔、仲の良い友人がいたこと。その人とたくさん走り、色んなものをみてきたこと。
そしてある日事故に遭い、死んでしまったこと。
「一緒に事故ったんだ。けど俺だけが生き残っちまった。あの時はどうして俺だけって思ったし、変われるものなら変わってやりたかった。」
いつになく真剣な面持ちだったけど、話につられて泣きそうな顔をしている私を気遣ってか、すぐにおちゃらけだした。
「俺ってばこんなだろ?おかげでそれ以来ずっと独り身さ。」
なんだ女の人の話?軽い嫉妬を覚え息がつまる。
けどこちらも負けじと軽口を叩く、いくらかの本音を織り交ぜて。
「じゃあ私が付き合ってあげてもいいよ。色んなところに出かけよう。あ、でもバイク借り物なんだっけ?しょうがないなぁ、私の後ろに乗せてあげる。」
長いこと優しく見つめ合った。言葉のいらない瞬間だった。
自宅まで送ってもらい、今日こそ電話番号をゲットしようとしたその時、言葉をさえぎり話し出した。
「一度だけ言うから聞いてくれ。俺の本当の名前はスズキGT73 RF900Rフレームナンバーは・・」
完全に出鼻を挫かれた。今までももおかしかったけど、今日のは特におかしい。
「はいはい、それに乗ってるのね。どんなのか知らないけどわかったから。今日はありがとう。すごく楽しかった。おやすみ、りょーいちさん。」
手を振り階段を駆け上がった。
いよいよ卒検の日。今日くらい始まる前に来てくれればいいのにと思いながら受付をした。
検定自体はなんなくクリア。所定の手続きも済ませたが男は現れない。
「ま、別に彼氏ってわけじゃないしね。」
独白して自宅へ向かう。
自宅の駐輪スペースには違和感があった。導かれるように近づくと、普段そこには無いバイクが停められている。
「何これ見たことない、なんていうんだろう・・・」
「RF900?!」
どういうことだろう。頭が真っ白になりながら正面に向き直ると、懐かしい空気が流れた。
夕暮れの海で見つめ合った時の、あの空気。
「冗談だったのに、本当に来ちゃったんだ。しょうがないから連れて行ってあげるよ、一人じゃどこへもいけないんでしょ?私もいけない。けど一緒ならどこにでも行ける。こんな楽しいこと他にある?」
fresh winds of hope
(新しい希望の風が)
has taken us ahead
(私たちを運んでいく)
forever is a place
(永遠という場所へ)
Nova Era / ANGRA