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プロローグ第3話 ≪Change The World≫

「ここにいる私を含めた9名が、今回の計画の根幹をなすキーパーツであり、

私が知りうる限りで現状の進化の過程においての究極の到達点。


つまり、<新人類においての完成形>です。


とはいっても、彼らは遺伝子操作や後天的手術はしていません。

正真正銘、皆さんと同じノーマルでありながら、

生まれ持って<神に溺愛された者達>です。



それではその証明をこれから致しましょう。

それではまず彼から・・・まぁ、彼に関してはご紹介することもないでしょうが・・・。



*****************************


●No.1 ≪アイザック・マッカンシー≫ 計算機学者

「自立思考プログラム<ダーウィン>の設計開発者であり、その基礎理論は現存の科学分野の発展を1世紀押し上げたと言わしめた自称天才。現在の高高度システム社会の元凶・・・」


『おい、紹介に明らかに私情が絡んでるだろ。それに自称じゃなくて自他共に認める天才だ。それとこの機会だから言っておくが、俺と俺のダーウィンには一切の責任は無い。いいか、あの発明は紛れもなく人類にとって有益なものだった。それに間違いは無い。要は使う側の問題なんだよ。どんなに優れた道具も、それを使うものが無能ならゴミにも凶器にもなりうるんだ。現に、マグノリアのこの理論の確立に必要不可欠だった<遺伝子情報の全容解明>には、膨大な実証検証と無数の演算が必要だったがそれを可能にしたのがダーウィンだ。こいつは性格は悪いが馬鹿じゃない。同じ過程を歩んでも出る結果が違った最大の理由を無い頭振り絞ってよく考えるんだな。同じ過ちを2度繰り返せば、今度こそ本当に自分達の手で人類を滅亡させることになるぞ・・・』


「えっと・・・、まぁ彼の肩を持つつもりはありませんが。彼のダーウィンがなければ間違いなく私の理論は今この時点で確立されてはいなかったでしょう。出来ていたとしても、少なくとも私が生きているうちは無理でした。次世代に託してようやく出来たがどうかというレベルです。くやしいですが・・・彼は紛れもない天才。常に私の先を歩いている。

彼のこの天才的なまでの発想と思考は後世に引き継ぐべき才能です」


*****************************


●No.2 ≪レイラ・アッシュフォード≫ 歌手

「次ですが、まぁ、彼女に関しても説明は不要でしょう。国籍、年齢不詳。名前以外の全てが謎でありながら、そのパーソナルな先入観がないが故に、人種と国境の壁を超え世界人類を魅了する絶対的歌姫。国際的音楽の最高権威グラミール賞において主要4部門全てを完全受賞。5年連続という前人未到の記録を打ち立て唯一の殿堂入りとなった逸材」


『どうも、レイラ・アッシュフォードです。

正直、難しい事はわからないのだけれど。そうね・・・じゃあ一言だけ。

皆さんは、ご存知ですか?

人類は言葉を話すより先に歌を歌ったと言われています。そこに音階はありませんし、ましてや歌詞が付いているわけもありませんでした。それでもそれが唯一のコミュニケーションツールでした。そしてそれは、何十万という時間と進化を経ても尚、けして変わることなく受け継がれました。生命を受けたその瞬間、生まれて来た喜びと感謝を、大きな声で鳴き叫びながら伝えます。それはさながら、子から親への感謝の唄といえるでしょう。

つまり、私達は本能的に言葉より先に歌う喜びを知っているんです。

そしてそれを知っているのは人間だけ。その喜びを知っているのも人間だけなんです。

だから私はその「歌」を、この先の未来も伝える為に今日ここに来ました。

それに私の歌が世界から消えたら、それこそ人類にとって大きな損失でしょ?

私にステージさえ用意してくれれば、最高のパフォーマンを約束するわ。

だから一緒に、平和の歌を響かせましょう』


「彼女の言うとおり、言語の始祖は歌なんです。よって人類の進化に歌の継承は必須。

それに、皮肉なことに人類の危機になってようやく、今本当の意味で国境も人種も超えて1つになろうとしています。その象徴として彼女以上の存在はいないでしょう。

彼女の人知を超えた歌声と、その共感力は後世に引き継ぐべき才能です」


*****************************


●No.3 ≪ダンテ・ウォーカー≫ 十種競技選手

「そして次。彼は陸上競技においてもっとも過酷な競技と言われている十種競技において、2大会連続で金メダルを獲得している正にキングオブアスリート。

短距離、中距離、長距離、投てき、跳躍、それぞれ相反する身体能力を必要とする競技の中で、全てにおいて一等級の非凡な成績を残し、中でもスピード競技においてはその専門競技者の記録をも超え、世界記録まで有するまさに身体能力において人類の完成形といえる男です」


『ダンテ・ウォーカーだ。俺は負ける事が反吐が出るほど嫌いでね。誰にも負けない為に、勝つことだけにこだわり続けて来た。そしてこれからも俺は勝ち続ける。機械野郎になんか負けてたまるかよ。この俺のDNAの恩恵を受けて負けるなんてありえねぇ。

感謝しな、凡人のあんたらに俺の見ている世界をみせてやるよ』


「彼の身体能力は、現時点においての人類の終着点といって過言はないでしょう。

俊敏性、持続力、柔軟性。その他、あらゆるスポーツ分野における必須要素全て兼ね備えています。よってこの計画は彼の存在なくして始まらない。人類の究極を体現している彼の人間離れした身体能力は後世に引き継ぐべき才能です」


*****************************


●No.4 ≪クロウ・スニーク≫ 不明

「えー、そして次なんですが。彼は少しばかり、紹介がややこしくてですね・・・」


『いいよ、自分でするから。どうも~初めましてクロウスニークです。あ、クロウでいいから。まぁもしかしたら初めましてじゃないかもだけど~、今後はどうぞお見知りおきを』


〈おい、ちょっと待て!なんでそいつがそこにいる。そいつは・・・〉

〈ちょっと待ってくれ!その男は我が国でも・・・〉


『あれ、やっぱり俺の事知ってた?人気者はつらいね~』


〈ふざけるな!マグノリアさん。申し訳ないがいくらあなたの推薦でもそいつだけはダメだ。今すぐ彼を我々に引き渡してくれ〉


「ちょっと待って下さい!皆さん少し落ち着いて!私の話を聞いて下さい。皆さんの反応もごもっとも。確かに彼は本来であればここにいてはいけない人間です。しかしながら、彼の才能だけは未来に繋げなければならない」


〈ダンテ・スニーク・・・。窃盗、恐喝、詐欺に殺人。そいつの犯罪歴は公に関与が認められているものでも数千件。間接的な犯罪幇助や、助長も合わせれば民事を除く世界中の犯罪のほぼ全てがそいつに行きつくとまで言われているほどの第一級国際指名手配犯ですよそいつは〉


『ちょっと待ってよ、これはいくらなんでも言い過ぎじゃな~い?俺は殺人はしないし~。それに・・・、身内の不祥事まで都合よく俺に押し付けるのは勘弁してもらっていいかな~。

まぁ、とは言っても清廉潔白とも言うつもりはないから、別にいいんだけど~』


「えっと・・・、まぁ確かに彼がこの場に適した人間でないのは否定はしません。

しかしながら、あなた方の中には正面切って彼を責め立てることなど出来ない人間もいる筈。いえ、私からすれば彼と皆さんは共犯。むしろ、顔も出さず陰でこそこそと悪だくむ分、あなた方の方が陰湿で卑怯だと思っています」


〈ちょっと、ちょっと待って下さいマグノリアさん。先程から何を仰っているんですか?なぜ今ここで、我々が責められなければならないのです。彼は犯罪者なのですよ?彼と同罪、それ以下などと国際決議の場で、いくらなんでも失礼が過ぎるのではないですか。今すぐ訂正、謝罪して頂きたい〉


「ええ、本当に私が間違っているのであればいくらでも謝罪しましょう。しかしながら、あなたのような、大使や閣僚ほどの地位であっても<知らなくていいこと>、<知ってはいけないこと>が確かにあり、それが人知れず何者かの手によって<何もなかった>事にされているのご存知ですか。日々の平和が当たり前にあると思っている事程、愚かしいことはない。そしてそれは決して綺麗ごとばかりではありません。誰かが泥水を飲み、手を汚しながら平和の道が整備、舗装されているということを公人であるあなた方は今一度理解するべきだ。


言っておきますが、勘違いなどしないで下さいね。彼はプロです。絶対に依頼の詳細は漏らさない。あくまでも私個人で調べて知った事実です。これ以上、彼一人があなた方の尻拭いの為に泥水を飲み、手を汚し続けるのは見ていられない・・・。

この言葉は<わかる人にだけ、わかればいい>。この意味わかりますよね?」


『ちょ、ちょっと・・・、おっさん。らしくないね~急に暑くなっちゃって~。急に訳のわからない事言わないでよ~。まぁ兎に角、俺が真っ当な人間じゃないことは確かなわけだからさ~、あんまりややこしくしないでよ・・・』


「・・・ぁあ、すまない、つい押さえられなくなってしまって。皆さんも混乱を招くよう

なことを言いまして申し訳ない。しかしながら、彼の存在意義は皆さんにおいても、そして人類の未来においても必要悪であることはご理解いただきたいのです。

それも踏まえた上で、彼の能力もやはり、人類において継承すべき才能。


そもそも、彼一人でなぜここまで他種多様な犯罪遍歴を残せたと思いますか?

各国の国防データへのハッキング。特許、技術を狙った企業スパイ。他にも・・・、そうだ「ジェーン基金」皆さんもご存じですよね。難民児童の救済を目的として設立された国際公益法人ですが、寄付金の効率利用の為の一本化と称して、他の難民救済基金との統合を発表したニュース。皆さんも記憶に新しいかと思います。しかしながらそれは表向きな建前であって真実ではありません。

「ジェーン基金」は実は、過激派テロ組織<REV>が活動資金の捻出と、マネーロンダリングを目的として設立したダミー法人でした。その活動内容の全容と寄付金の使途詳細を解明し、事実上解体させたというのが事の真相。しかしながら、その背景事情があまりにも行動な政治性を有する為、公に真実は語られなかった・・・。

そしてその闇を暴いたのが ―クロウです。


彼のハッキング技術、コアな専門知識も含めた圧倒的な情報量、即座の判断能力、危機回避能力と危険予測能力、それら一見、無秩序な個々の能力を総合的にしかも高水準で有する事が出来た最大の理由が彼の驚異的なまでの知能指数にあります。

つまり―<IQ>です。


<ジョン・F・ノイスマン>。彼は20世紀の科学史における最重要人物の1人であり、

ありとあらゆる理系工学に精通していた天才。第二次世界大戦時の負の遺産である原子爆弾は彼の発明でもあります。驚異的な計算能力と映像記憶力を持ち、その他極めて広い活躍領域から「悪魔の頭脳」の異名を持っていました。そしてその彼のIQが人類史上もっとも高い指数といわれ、その値は、実に【300】。一般的な平均が100、ですからその数値の異常性はご理解頂けるでしょう。


そして彼、クロウの指数も ―【300】。


しかしこれには少しカラクリがあります。

人類史上最高指数と同率であるのは間違いないのですが、実はこれはあくまでも計測できる上での最高スコアという側面がある。


つまり、現状で彼の能力の100%を完全に推し量る術が今の我々にはないという事。

それほど彼の脳は人知を超えているのです・・・。


確かに今までの彼の異能の使い方は、皮肉にも「悪魔の頭脳」。言い得て妙でしょう。

しかしそのベクトルを変えれば、これほど心強い仲間はいません。

彼の文字通り計り知れない潜在能力は後世に引き継ぐべき才能なのです」


*****************************


●No.5 ≪トーマス・東威≫ 総合格闘家


「そして次、彼も格闘技の世界において名を知らない人はいないでしょう。

総合格闘技の祭典「ROKI」において、無敗の帝王であり、絶対的覇者。

元々は柔道のオリンピアでありながら、その後ボクシングにムエタイ、空手にレスリング。2m15cmの長身と100Kgを超える体格に圧倒的な程の技と経験が合わさり、生身同士での徒手空拳において、彼に敵う人間は人類にはいないでしょう。」


『トーマス東威だ。ややこしい話は苦手だ。俺が役に立てることがあるなら何でもいい。

好きなだけ使ってくれ。』


「ダンテが【柔】なら、東威は【剛】。人間が特定のパフィーマンを発揮する際、使われる筋肉は大きく分けて2種類。瞬間的に力を爆発させる「白筋」と長時間持続的に力を出し続ける「赤筋」。それらを後天的なトレーニングにより鍛えることで発揮できるパフォーマンスが高まるのですが、しかしながらこの2つの筋肉の保有割合は個人の生まれ持っての資質に起因します。つまり、―<先天的>に決まってしまうものなのです。


彼ら二人はその2つの筋肉をバランスよく、それも平均を大きく超えるレベルで持っていながら、ダンテは「白筋」、東威は「赤筋」が特質して発達しています。進化という観点において根本的な身体能力の強化は必要不可欠。その意味でも、東威の力強く持久的な筋肉は後世の人体形成において絶対的に必要な資質です」


*****************************


●No.6 ≪エミリール・ラック≫


「続いてですが、彼女をご紹介する前に。

皆さんは、<ヒーラー細胞>という細胞をご存じでしょうか。1950年代初頭に発見されたヒト由来の最初の細胞株で、ある女性の癌腫瘍から採取された細胞です。この細胞はある特殊な≪特性>から医学世界において貴重な研究材料となり、ポリオやエイズ治療、遺伝子解読など、現行医学の発展に多大な影響と貢献を残しました。

そしてその細胞の最大の特徴が・・・≪宿主が死して尚、生き続けるということ。>


ヒーラー細胞は検体女性が癌によって亡くなった後で採取されたものにも関わらず、

彼女の身体から切り離されても尚、単一の存在として生き続け、なお且つ活性し増殖し続けた。その驚異的なまでの生命力から別名―≪不死細胞≫とも呼ばれています。


そしてその、ヒーラー細胞の保有者であったルイス・ラックのひ孫であり、同様にヒーラー細胞の保有者でもあるのが彼女です」


『初めまして、エミリール・ラックです。曾祖母の話は子供のころからずっと母から聞いていました。そして母もまた同じように、祖母から伝えられたと聞いています。

そうして代々、私達は、この血の尊さと偉大さこの身をもって継承してきました。

祖母はいつも言っていたそうです。「母の娘で誇りに思う」と。だから私はその誇りを文字通り、この身を持って未来に伝えたいと思いました。

エミリールの偉大さをどうか、後世に繋ぐ手伝いをさせてください』


「彼女の持つ不死の細胞は、遺伝による能力の継承において重要な役割を果たします。

我々は受精卵として命を宿したその瞬間から、それこそ途方もない数の細胞分裂を繰り返し人の形を形成します。その熾烈な過程の中で淘汰されることなく確実に能力を発揮し継承する為には、遺伝子自体の強化が必要不可欠。その為には、彼女の、そしてルイスの、生命の神秘とも言える希少な細胞が必須です」


*****************************


●No.7 ≪イヴァンカ・コーラン≫ 遺伝子学者


「そして次ですが、彼女は私の助手で、今回の計画の共同企画者。そして私の師であるレイチェル・コーランの娘でもあります。そして我々が確立した超高精度での遺伝子摘出と組み換えの技術は彼女の専門分です。今回彼女を抜擢した理由は、贔屓でもなければ、師への恩義でもない。

いわゆる有事の際の「保険」― つまりバックアップの為です。

この計画は短期、中期、長期と長いスパンで考えなければならない。にもかかわらず、既に確定事項として考えられる懸念が1つ発生してしまっている状況にあります。

それが・・・私の年齢です。

中長期的にこの計画を1人で全うすることは年齢を加味しても確実にできません。

つまり、誰かが引き継がなければならないのです。

その上で彼女の存在は必要不可欠なのです」


『あ、あの、イヴァンカ・コーランと申します。まだまだ、じゃ、若輩者ではございますが、先生のご指名に恥じぬよう、せ、せ、精いっぱい努めさせて頂きます。ど、どうぞよろしくお願い致します』


「すみません、極度の緊張しいで。しかしながら彼女は僅か11歳でスタンバード大学に最年少で飛び級入学した秀才。潜在能力でいえば、私や、アイザックにも決して負けていないでしょう。いや、私たち以上かもしれません・・・。未来を担う世代の代表として彼女のまだ見ぬ大器に、どうぞ期待して下さい」


*****************************


●No.8 ≪劉 眠明≫


「そしてここいる中では彼女が最後。この子は眠明みんめい

彼女もまた私の元で研究を手伝ってくれているパートナーです。

そして彼女には発達障害がある。

実年齢に対して精神年齢は5~6歳程度で、私のフォローなくしては日常生活にも支障があるほどです。ではなぜここで皆さんにご紹介したか、

百聞は一見に如かずです。


― 皆さん、こちらの絵はご存知でしょうか。」


『ノーマンの《希望の光》だろ。先日のオークションで4000万ドルの史上最高額が付いた作品。彼の《希望》シリーズはルーブルにも飾られ、今尚長い列が出来ていると聞くが』


「そうです、これはノーマンの作品。今までに10点の作品が発表されていますが、その全てに破格の値段が付けられ、本物を生で見れる機会は唯一ルーブルにある3点だけ。それ以外はレプリカか写真で見るしかない。それほど貴重な作品なのですが、これをご覧ください。これはノーマンの11点目の新作。因みに国際鑑定書付きです」


『何を馬鹿な。彼は先日の《希望の光》で《希望》シリーズは完結したとし、以降の作品の発表は考えていないとまで明言している。つまり《希望の光》が彼の最後の作品。11点目などありえない・・・』


「いえ、それがあり得るのです。なぜなら私は ―【ノーマン】の正体をしっている。

そしてその【ノーマン】はそもそも〈彼〉ではなく〈彼女〉。

そしてその彼女がこの【眠明】なのですから」




『・・・は?』




『・・・えっ、いや、そんな、馬鹿な。彼女がノーマン?ありえない・・・その証明書だって本物かどうか・・・』




「いいえ。


彼女は・・・。眠明こそ、正真正銘本物のノーマンよ。

私、レイラアッシュフォードが証言するのだから間違いないわ。

それとも、この私にケチつけるつもりなの貴方?

因みに私、彼女の大ファンで、彼女の過去10作のうち、ルーブルにある3作以外の6作は私がコレクションで所有しているの。

だからなんとか最後の作品。《希望の光》も落札したかったんだけど、どこかの誰かに最後出しぬかれちゃって~、結局揃えられなかったの。

それでもどうしても欲しくって個人的に交渉しようと探したんだけど、落札も代理人を立ててたし、その代理人すら偽名で雇われていたみたいで全く謎のまま・・・。本当いったい誰だったのかしら・・・」


『世界の歌姫の言葉なら信じて頂けるでしょう。彼女の言うとおり、この子が正真正銘ノーマンで間違いありません。まぁ驚かれるのも無理はありません。

確かに、今、目の前にいる彼女と、この力強くも儚いノーマンの作風とのギャップを感じるのは当然ですから。


ではなぜ彼女にこのような絵が描けるのか・・・



皆さんはサヴァン症候群という言葉をご存じですか。


知的障害や発達障害を持つものの中で、ごく稀に特定の分野において超人的なまでに非凡な能力、才能を発揮する症状のことです。

しかしながらサヴァン症候群自体はそこまで珍しいものではなく、

自閉症患者の10人に1人。約10%の確率で発症します。

彼らも確かに、ある一定の分野において特筆すべき才能を有していますが、それでも健常者と一線を画く程ではない。

眠明のような人知を超えた才能を発揮するものはその中でも限りなく奇跡に近いと言えるのです。


そして、その一握りの奇跡のような存在の中でも眠明はただ一人、

正に【神の子供】といえるような存在」



『そうね、本当に眠明は神様の〈愛娘〉なのかもしれないわね・・・。

因みに私が過去受賞したグラミール作品全て、この眠明によって作曲されたもの。


言葉をうまくしゃべれない彼女が、鼻歌をそれはもう楽しそうに歌いながら、次々と天使の音を紡いでいく。オーケストラの複雑な編成までも、一度の鼻歌で一気に楽譜に起こして行ってしまうんだから。全く、歌で私が嫉妬したのなんてこの子が初めてよ。それほど彼女のクリエイティブな才能は人知を超えているわ・・・』


「眠明はその他にも、片言ながら複数の言語を理解し話すことが出来ますし、一度読んだ本や景色などの視覚的情報を瞬間的に記憶することが可能です。


SF映画のフィクションではなく、正真正銘、現実世界において魔法ともいえるような異形をこの子は行う事が出来る・・・。


つまり、彼女は人類の次なる進化の行く末を、― ≪体現≫しているのです。

よって彼女の参加なくしてこの計画はあり得ない。




以上、私を含めた9名・・・と。

実はあともう一人・・・。今回の計画の主柱を為す人間がいるのですが。

誠に申し上げにくいことに、急な体調不良で本日止むなく欠席を・・・』


「おい、国際決議の場で、餓鬼の言い訳みたいな事言ってんじゃんねぇ。

そもそも―<あの人>が公にこの場に立てるわけないだろう」


「そうね、―<あの方>が表立ってこの場に現れるわけないわね。久しぶりに顔を合わせてお話出来ると思って楽しみにしていたのだけれど」


「そうですか~?俺は出来る事ならしばらく近づきたくないですけどね~

<あの人>は俺ですら何考えてるか分からないし~」


『 ―「アダムス・スミス」。


我々に彼を加えた10名が。この≪エイドスコード>の

キーパーツです。彼の素性について、皆さん質問、不審、十分あるかと思いますが、分け合ってどうしてもこの場に現れる事が出来ません。


しかしながら、我々を信じて頂けるというのであれば― 

我々9人が<全幅の尊敬を持って信頼している彼>をどうか同じように信じては頂けないでしょうか。

歯がゆいことに今、私の口から言える事は限られますが、でもこれだけは、間違いなくお伝えできます。



【彼は、絶対皆さんの期待を裏切らない】



我々10名と、皆さんの力が合わされば、今日をもって人類の進化は確実に飛躍する。

それは間違いありません』



*****************************



「貴方がそこまで言うのであれば、我々に異論はない。それどころか、<我々があなた方を評価、意見する>という次元を既に超えているとも思っている。

全人類が頭を振り絞っても今のあなた方10名には敵わないのでしょうから・・・。

それよりも、これらの条件が揃って、その先は・・・?」



『ありがとうございます。


しかしながらそれは違う。あくまでもこれはこの場にいる全員の協力あって初めて成功する計画。何故なら、我々10人には無く、皆さんにあるものが絶対的に必要だからです。


それは―<信頼>です。


≪エイドスコード>は、人類総意での計画でなければなりません。この壮大に壮大過ぎる計画を我々10名だけでは絶対に納得頂けないでしょう。

その為には、今この場にいる「国民によって選ばれた」皆さんの言葉が必要なんです。

各々が各々の得意分野、適材適所で機能してこその組織です。

大丈夫。

既に大枠の条件はクリアできているのですから。


条件①「選抜1000組の純国籍夫婦」

条件②「キーパーツの10人」


後はこの2つの点と点を結んで未来へ線を延ばすだけ。

前段でお話した理屈を応用し、


【STEP1】

条件①である夫婦から受精卵を提供してもらいそこから先天性疾患の懸念劣性遺伝子を取り除く


【STEP2】

条件②の各メンバーから目的の才能情報を保有する遺伝子を採取


【STEP3】

STEP1で採取した受精卵にSTEP2で採取した遺伝子を組み込み再構築。

この際に、夫婦の外見、容姿を含んだ情報は残すことで夫婦の子供であるアイデンティティを保護


【STEP4】

遺伝子組み換えを行った遺伝子を母親の子宮に戻し自然分娩にて出産


以上の工程を経て、新人類の先、超人類への進化を促します。

国連加盟国全193ヶ国に対し各国1000名ですから第一世代は約20万人。

その彼らが、我々人類の反撃の一歩となる担い手となります。


法の整備や、国民理解と承認・・・、クリアすべき難解な条件は確かにまだまだ残っていますが、この絶望的な世界に、確かに希望の光を指し示す事が出来ます。


我々は今こそ相互に協力すべきです。

私達だけでは出来ない。あなた方だけでは出来ない。

共に未来へ希望の種を植えましょう。


大丈夫。

私達なら必ず成し遂げられます』


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一度に大出力の情報を詰め込まれた事での倦怠感、そして国家の代表としてとは言えあまりにも大きすぎる決議の内容に3時間の休憩が挟まれた。


この間、各国持ちうる限りの情報網にて<10名>の素性調査と、遺伝子学における有識者への見解の聴取、国家間での情報共有に加えて、自国の利得権益をめぐっての情報戦が繰り広げられたが、情報の真偽を検証するにはあまりにも短すぎる3時間は、まるで見えない銃を背後から突き付けられているように、唯、不安に不安を煽られ高められているような、<形式的な>3時間となった。


整然と並べられる「絶望的な現状」を基にいくらシミュレーションを繰り返しても、そこからはじき出される結果は、


<人類の寿命>を、

― 少し延ばすか

― もう少し延ばすか


程度であり、倫理や道徳の介在する余地すら見つからないまま、「その1択」を選択する為に、最後決議の場に、各々が再集合した・・・





『賛成193。反対0。以上の結果より満場一致とし、

今決議は≪エイドスコード>の運用を正式に可決致します』


―2053年 4月21日


22時間に及ぶ決議の後、

議長マークマイアーの号令によって、<総意>として人類は『進化』を選んだ。



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残念ながら、私にはこの選択のゆく故を見守る事が出来ない。

この時、この瞬間、我々が植えた種が30年後、50年後、100年後どのような花を咲かせるのか。今はただ、これを読む未来の担い手である「君」が、笑って過ごし、希望に満ちて生きていてほしい。それだけを願い、祈っている・・・。


この選択は間違っていなかった。

今、「君」はそう思ってくれているだろうか。

そうあって欲しい。

そうでなければならない。




―『君は今、幸せかい」




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<マグノリア決議>の8年後、電子書籍主流のこの時代に唯一、紙媒体でのみ発行されたこの書籍は、その内容があまりにも具体的かつ詳細なことから、当時の決議の出席者ではないかと、内容の真偽について賛否が分かれた。国連は「真実が不当に改ざん、脚色されており、不要な混乱を招く」という公式見解を述べ、この本の出版差止めを求めたが、それが却って書籍の注目度を上げ、2次転用やネット上でアップされ瞬く間にその存在は世界中に知れ渡った。


これに伴い世界はこぞって、著者である『マーク・ジーニアス』探しに躍起になったが

当時の決議の出席者名簿にその名前はなく、また出席者の中にも疑わしい人間はいなかった事から、作者の詳細は全く謎のままとなった。

― 総発行部数、約10億部


21世紀、いや人類史上もっとも売れたこの本は、その存在も、その内容も瞬く間に世界中に知れ渡った。


この時、≪エイドスコード>第一世代の子らは6歳を迎えていた・・・。




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