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プロローグ第2話 ≪Change The World≫

「前段で示した通り、我々の特筆問題は大きく2点に集約されます。

AIに劣るという点。そしてAIに勝る術がない点。

その絶対的な優劣の差が、圧倒的な格差を生んでいる。


しかしながら、

ここまで理解していれば、事は案外シンプルなのです。


早速ですが、単刀直入に申し上げます、





ズバリ、―

<人類の進化を今一歩、進めます>




皆さんも既知の通り、我々人類の始祖は猿人であり、そこから順応と進化の過程を経て今の我々「新人類」へと変化を進めました。そしてその代表格といえるのがクロマニョン人です。しかしながら皆さんはご存知ですか?

新人類の存在が発見されたのが今から約20万年前。

多少の環境順応による変化はあるにせよ、種族としての根本は変わっていない。



― つまり人類は <約20万年の間、進化の歩みを止めてしまっている≫ のです。


これを傲慢と言わずなんといいますか。

我ら人間が、種としての完全体であると自惚れ、驕った結果が今なのです。

自己の進化よりも他種を順応させ付き従わせるという、独裁主義の付けが今ここで回ってきた。


ですからここで、止まっていた時計の針を今一度進め、新人類からの脱却を図ります。

我々は次の世代に向けて新人類を超える新人類。

― <超人類>へと進化します。




『デザイナーズベビー』皆さんもご存じでしょう。

元々は、1990年代に、後生への遺伝的疾患を回避する目的として考えられた受精卵の遺伝子操作技術を。外見的、知能的要因も含めて操作することで両親の希望も兼ね備えた理想の子供を作りだすことに転用させた、人工授精による胎児のことを指します。


そして、デザイナーベビーの手法は大きく分けて2つ。

1つは、夫婦の受精卵に人工的な遺伝子操作を行う方法。

そしてもう1つは、妻か夫どちらかの生殖細胞を希望の代理人に提供してもらう方法です。

現状の主流は前者になりますが、相互にメリットがあり、またデメリットもある。


前者は、DNAの素体は夫婦のものを利用する為、子供にも父母双方の情報が遺伝する。つまり正真正銘の夫婦の子供と言えます。

しかしながら、あくまでも夫婦の容姿、能力の中での設計操作の為、例えは悪いですがアヒルの子はアヒルであり、そこから白鳥が生まれる可能性は極めて低い。


また後者は、DNA素体を夫婦のどちらかのみを用いて、もう一方は他者から提供してもらう方法。その場合、生殖細胞バンクに登録されている容姿端麗、高学力、ある才能に特化している等、希望の才能を有している「他人」の生殖細胞と人工授精させる方法を用います。

その為、夫婦のどちらか一方が不妊の場合の不妊治療として、もしくはシングルでも子供を持つ事が出来るというメリットがある一方で、純然たる夫婦の子ではなくなってしまうというデメリットもある。


現在、一部の国においては合法的にこれらの手術が行われており、その第一世代と言える子供達が間もなく20歳を迎えますが、現行までの経過をみると、外見的な特徴は概ね希望設計通りに再現されていますが、潜在的知能、運動能力においてはノーマルの同世代と比べても個人差の範疇といって差し支えないほど、「大きな差がない」。

つまり、外見的要因は設計出来ても、内面的基礎能力に関しては本当の意味での理想形は体現出来ていないわけです。

理論上は理解、解明出来ていても、ピンポイントで素養染色体を組み込みそれが望み通り発動するかは確率論。つまり絶対ではなく、賭け。あくまでも希望設計通りに生まれる確率が上がる程度。それ程難しい技術と理論なのです。


では、この奇跡とも言える所業を人工操作できるとすればどうなるか。

人は多くの才能を持つ者を、「天は二物を与えた」と羨望しますが、

これからは我々人類が、人類の手によって「人が人に二物、三物を与える」事が可能です。


<命を創造する>


その神のみぞ許された究極の禁忌、その神の所業、

そしてその聖域に、


― 何を隠そう、私は<到達しました≫

それも従来の技術と一線を画いて、圧倒的なまでのクオリティで」



・・・・・・・・・・・・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



『おい、ちょっと待ってくれ、その理論は技術議論の前にまず倫理の観点で・・』



「・・・ストップ!わかっています。


はぁ、やはりきましたか。流石にここは易々と素通りさせてはくれませんか。

しかしながら、やはり皆さんは圧倒的なまでに「常識人」なのですね。骨が折れます。


わかっています、わかっていますとも。皆さんのご指摘は十分すぎるほど理解しています。

この理論において最大の問題は、技術の難しさ、コストの膨大さ。それらは大事の中の小事であってもちろん主ではありません。この理論の難しさはそこには無く、皆さんの心の中にある。

それがわかっていたからこそ、先程先手をさして申し上げたのです・・・


「弱者には弱者の戦い方があると。そしてそれには時に、目を覆いたくなるような非道な決断も必要になると」


今から私が提示する選択は、人類の今後の在り方を根本から覆すような大きなものと言えるでしょう。しかしこれは現状において限りなく唯一に近い無二の打開策。

その損得含め打算も出来ず、今、喉元まで出かかっている言葉を飲み込む事が出来ないのであればどうぞ、今すぐ後ろの扉から退出して頂いて構いません。


しかしこれだけは勘違いしないで頂きたい。

私も人類の進化の過程と命の神秘を人生を掛けて研究してきた若輩者として、

<私は私が必ずしも正しいとは思ってはいない>

しかしながら、私は生涯を通じて人間の本質を見続けた結果わかった事があります。

それは「人間とは愚かしい程に、愚かな生き物だということです」

その愚かだからこそ愛おしい人間という種族をこれからも愛し続けていきたい。

種を汚した戦犯者としての汚名を被る覚悟は遠に出来ています。



その共犯者になって頂く覚悟がないのであればどうぞ、耳と口を塞ぎ、ご退出下さい。



--------------------------------------------------------------------


この時マグノリアは、眼を閉じ、耳を塞ぎ、背を向けた。

後に知ったが、彼の祖父は神父であり代々続くカトリック信徒だった。

幼いころからミサに通い、聖歌を歌った。食事の時は感謝を告げ。

眠りに就く際は今日の感謝と明日への希望を願った。

神への忠誠と揺ぎ無い信仰を誓った筈の彼が、神の聖域に手を伸ばそうと覚悟を決めたその英断に、今思えばその場の誰に彼を責め立てる資格があったのだろう。

その場にいる誰よりも、彼は覚悟をもってこの場に臨んでいた。

身を切り、心を殺し、文字通り命を賭して下した覚悟・・・。

あの背中はそういう断固の背中だった。

だからこそ、意を決して再び振り返ったその先に、変わらぬ満席の景色が広がっていた事に彼は肩を震わせて、


たった一言、「ありがとう・・・」と答えたのだろう。


--------------------------------------------------------------------


「これはこれは、お恥ずかしい姿をお見せしてしまいましたね。

これまでの無礼どうかお許しください・・・。それでは改めまして<同士>の皆さん。

私達の希望の種≪エイドスコード>の概要、お話します。


私の理論は簡潔に申し上げれば前段で上げた2つの方法の融合です。


つまり、夫婦の受精卵に外見的特徴は残しつつ潜在的学力、運動神経等の優等遺伝子のみを組み込む。その結果、父母の外見的特徴は継承しつつ内面的潜在能力は非凡な才能をもって生まれる事が可能です。


そして上記を現実可能な実証段階まで押し上げた要因が、

私が技術、理論として確立した、


―<超高精度の遺伝子摘出、組み換え技術と遺伝子の全容の解明>です。


つまり遺伝子配列の意味とその意図を構造理解できたことで、どのDNAに何を起因とする情報が組み込まれているかを知ることが出来た。それに加えてそのDNAをピンポイントで取り出し、新たに組み込み再構築する術を確立出来たことで、確率という不確かなレベルから、絶対という確実な施術様式まで高め上げています。

非公式ではありますが・・・、臨床も終えておりその成功確率は98.3%。

これは盲腸の手術成功率よりも高いものです。


以上で述べたとおり、既にその技術確率は整っております。

あとはそれを実現する為の条件課題のクリアと、その運用方法ですが・・・。



ここから先は高度な政治性を有する為、皆さんのお力が多分に必要になります。

是非ともご協力をお願いしたい。


まずは、各国より1000組。今後出産を予定しているご夫婦をピックアップして頂きたい。その際の選定条件としては2つ。1つ目は夫婦共に純国籍同士であること。そして2つ目が

夫婦の学力、運動能力がこちらで設定した合格基準を満たしている事です。

より高い潜在能力の継承の為には、高い能力を有している夫婦である事が当然必須。

そして純国籍同士であることで、目の色、肌の色、骨格や肉付きといったアジア圏、ヨーロッパ圏、南米圏、各大陸特有の外見要素のアイデンティティを保護出来ます。

皆がみんな、同じ外見では、それこそオートロボットと変わりませんからね。

最低限度の種の大原則は私も守りたい・・・。


選考過程をクリアし各国代表を選出頂きましたら、そこで初めて純然なご夫婦同士の受精卵をご提供頂きます。この時点で先天的な遺伝子疾患の可能性を回避することで平均を超える胎児の誕生を助長する事は可能です。


しかしながら、この程度では人工知能に対抗しうるまでの能力の向上は見込めない。

最初に申し上げた通り、私達は20万年止めていた進化をもう一歩進めなければなりません。

その為には、圧倒的なまでの非凡で有能な能力の継承が必要・・・。


そしてそれを実現可能に知る為の最大のキーパーツこそが

お待たせしました。





― <彼らの存在>です。


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