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第9話 深まる絆

「ご主人、あの……」

「……」


魔王城で派手に暴れ、そして脱出してから1時間が経った。


ミティアとリエルは現在風呂に入っており、俺はリエルの魔法である程度傷が癒えたアスモと向き合い座っている。


もう既に外は暗い。


女将が死んで観光客達は避難済みなので俺達以外に誰もいないが、代金は支払っているので明日まで使わせてもらおう。


「ご主人……?」


俺が何も喋らないからか、アスモは頻繁に俺を呼んでくる。その表情はとても不安そうで、いつもの彼女からは想像できないほど弱々しく見えた。


「ご、ごめんなさい……怒ってるよね」

「当たり前だ」


アスモの頭に軽くチョップする。


「俺達の為に魔王軍に戻ろうとしたって?見ただろう、俺は第1柱の蝿に負けるほど弱くはないんだ」

「それは……」

「お前が元魔王軍だったというのはどうでもいい。あの時、露天風呂でお前が俺を信じて待ってくれていたら、お前はあんなにも傷つくことがなかった」


ボロボロになり、泣いているアスモなど見たくはなかった。


「俺が怒っているのは、アスモが安心して背中を任せられる、仲間の危機に急いで駆けつけることができる……そんな男ではなかった自分自身にだよ」

「そ、そんな!ご主人は何も悪くないのに……!」


自然と、握る拳に力が入る。


「アスモは、なんで俺を〝ご主人〟と呼ぶんだ?」

「え……」

「俺はアスモを助けた。だけどアスモのご主人になったつもりはないんだが?」


びくりと、アスモが体を揺らした。今の一言で俺が彼女を嫌いになったと勘違いしたのかもしれない。


「自分の正体を隠す為の役作りか?」

「それは、その……うん」

「なるほどな、じゃあドMの変態的な性格は?」

「それもそうだけど、いつの間にか本当にそんな感じの性格になっちゃって……」

「はぁ、もっとマシなキャラを演じろ馬鹿」


元はクールで物静かな一匹狼だったのだろうが、正体を隠しているうちに本物の変態に進化したという。


「ごめんなさい……」

「ああもう、似合わないんだって」

「いたっ!」


そうだ、アスモはいつも変態でいればいいんだ。


こんな風にしおらしく謝るアスモなんか見たくない。叩かれたら嬉しそうに追加の注文をしてくるのがアスモだろう?


「俺はお前のご主人じゃない」

「っ……」

「お前は大切な、対等な立場の仲間だ。俺をご主人と呼ぶ必要はない、意味が分かるか?」

「うん……」

「叩いてほしいのならいつでも言え。何回でもチョップしてやろう。だからほら、俺の名を呼んでくれ」


そう言うと、アスモは頬を赤く染めながら俯き、


「ごしゅ……レイン」

「合格だ」


始めて名前で呼んでくれた。


「俺達に遠慮する必要はないんだ。困ったことがあれば助け合い、嬉しさや楽しさ、苦しさを共有しながら魔王を討つぞ」

「うん……うんっ!」


突然アスモが抱き着いてきたので驚いたが、物凄い力で抱かれているので離れられない。


「あ、アスモ?」

「ずるいよレイン。そんなこと言われたら、我慢なんてできるわけない」

「何の話か分からないんだが?」

「分からないの?」


少しだけ離れて俺を見つめてきたアスモの目は潤っており、一瞬だがドキリとしてしまう。


いい香りがするし胸が押し当てられているし……まずいな、落ち着くんだレインよ。


「私はね、初めて会った時からずっと…─ずーっとレインのことが好きだったんだよ」

「へえ、そうなのか……は?」


今、なんて言った?


「す、すまん、よく聞こえなかった」

「何回でも言うよ。私はレインのことが好き。異性として好き。誰よりも好き。いつか言おうと思ってたけど、予定が早まったね」

「はああッ!?」


思わずアスモを引き離し、俺は立ち上がる。


「す、好きって、お前が俺を!?」

「気付いてなかったの?」

「当たり前だろう!?」

「ふぅん、鈍感だね」


悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべるアスモ。いや待て意味が分からない、惚れられるようなことをした覚えは無いぞ?


「さてはお前、アスモじゃないな!?」

「そうかもね。私は今、なんだか生まれ変わった気分だから」


アスモが立ち上がり、頬を赤く染めながら俺を見てくる。なんだこの状況は、俺はどうすればいいんだ?


「レイン、私を助けに来てくれてありがとう。こんなことを言う資格は無いと思うけど、私はやっぱりレインと一緒にいたいよ……」

「アスモ……」

「それで、返事は?」

「は?」

「私はさっき、レインに告白したよ。だからレインが私をどう思っているのか聞きたいな」


誰か助けてください。


嬉しかった、物凄く嬉しかったさ。しかし返事と言われてもまだ気持ちの整理は完了していないし、まさか好意を寄せられていたとは夢にも思わなかったのだ。


「い、いや、それは……その」

「レインさん!!」


いつもとはまるで違うアスモに詰め寄られていると、突然ミティアが部屋に駆け込んできた。


「大丈夫ですか?アスモさんに何かされてませんか!?」

「あらあらレイン君ったら、顔を真っ赤にしちゃって」

「何もしてないよ、ただ告白しただけ」

「こ、告白ですって!?」


何故かブレる程の速度でミティアが笑顔でアスモに迫る。


「あれだけのことをした後に告白ですか」

「レインは私を許してくれたよ」

「レイン!?告白して、呼び方まで変わってるじゃないですか!まさかレインさん────」

「あら?どこに行ったのかしら」


すまんアスモ、俺はヘタレだから返事は保留にさせてくれ。


とりあえず窓から外に飛び出し空高く魔法で飛び上がり、遥か上空からホウライを見下ろしながら俺はアスモに謝るのだった。

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