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第8話 大魔道士レイン

現れたのは、凄まじい魔力を全身から放ち続ける大魔道士。怒りに染まった瞳でルシフを睨み、彼は手に持っていた元12柱の首を地面に放り投げる。


「貴様、アスモに何をした」

「やあやあ、いらっしゃい大魔道士レイン。僕達魔王軍一同は君を歓迎するよ」

「聞いてるのか?俺の仲間に何をしたって言ってるんだよ」


桁違いのプレッシャーを浴び、思わずルシフは言葉に詰まる。しかしすぐにいつも通りの笑みを浮かべ、アスモの髪を掴んで引っ張り上げた。


「こういう事さ!」

「がっ……!?」


そしてそのままアスモの腹に膝蹴りを叩き込む。痛む体に更なる激痛が襲いかかり、彼女は激しく咳き込んだ。


それを見たレインが魔力を魔法に変換しようとした直後、あまりにも綺麗な声が謁見の間に響く。


「やめなさいルシフ。それ以上彼を挑発して、無駄に損害を増やすつもりですか?」


あのルシフが、声を聞いただけで凍りついたかのように硬直する。レインが振り向けば、玉座に腰掛ける仮面の少女が彼を見つめていることに気がついた。


「お前が、魔王か」

「ええ、そうです。我が名はルーンガルド、この地上に混沌を齎す者」


ルーンガルドと名乗った銀髪の少女は、レインに引けを取らない魔力を放ちながらゆっくりと立ち上がる。


「舐められたものですね、大魔道士レイン。12柱を3人も始末できる実力者というのは分かりましたが、その3人は所詮下位の柱。我ら魔王軍の懐に潜り込んで、このまま帰れるとでも?」

「悪いが帰らせてもらう。今日来たのはお前達と派手にやり合う為じゃないからな」


次の瞬間、謁見の間のありとあらゆる壁や床に大量の魔法陣が浮かび上がった。


1度に100以上の魔法展開、これこそが大魔道士と呼ばれるレインの大魔術。


「無駄ですよ」


しかし、魔王ルーンガルドも同じく凄まじい量の魔法陣を展開し、レインの魔法全てを相殺してみせた。


が、今の魔法は囮。


身体能力を魔法で爆発的に跳ね上げたレインは、この場にいる誰もが反応できない程の速度でルシフに迫り、そして彼が接近に気づくよりも速く蹴り飛ばす。


「ご主、人……」

「この馬鹿、勝手に居なくなったりするなよ」


泣きそうな表情のアスモを縛る鎖を砕き、倒れそうになった彼女をレインは優しく受け止める。


「大魔道士レインんんんんんんんんッ!!」

「五月蝿い蝿野郎だな」


その直後、顔面から壁に突っ込んでいたルシフが瓦礫を吹き飛ばし、そして鬼の形相で2人に迫った。


全身痣だらけのアスモを動かすわけにはいかないので、レインは一旦彼女を座らせてからルシフに顔を向ける。


「自殺しに来たんだろ!?だったら僕がグチャグチャに引き裂いてやるよォッ!!」

「止まりなさいルシフ!!」


その声は対象の動きを停止させる効果でもあるのだろうか。


怒りで我を忘れかけていたルシフだったが、ルーンガルドの声を聞いた瞬間に床を砕く勢いで急停止した。


「あと少し進んでいたら、貴方が全身を引き裂かれるところでしたよ」

「っ……」


ルーンガルドの言う通り、レインは前方に魔力で生み出した極細の糸を張り巡らせていたのだ。今の勢いのまま突っ込んでいれば、間違いなくルシフの全身はバラバラになっていただろう。


「アスモ、ちょっとだけ待っていろ」

「で、でも、相手は魔王様と第1柱で……」


後ずさるルシフから目を離し、レインは優しい笑みを浮かべながらアスモの頭に手を置く。


「別に決着をつけるつもりで乗り込んだわけじゃないんだ。俺を信じて休んでいればいい」

「うん、信じる……」

「ふざけやがって!!」


いい雰囲気をぶち壊したのはルシフの怒号。かなりの強度を誇る糸を全て魔法で焼き尽くし、振り返ったレインの顔面に拳を叩き込んだ。


しかし、不可視の障壁に阻まれ拳はレインに届かない。


「どうした、俺を引き裂いてくれるんだろう?」

「がッ─────」


距離をとる前にレインはルシフの腹に風の弾丸を放った。凄まじい速度で放たれたそれはルシフを派手に吹き飛ばし、そのまま向こうの壁にめり込ませる。


「おのれぇ!!」

「第六捕縛魔法・縛影手シャドウハンド


すぐさまルシフは立ち上がるが、影から飛び出した漆黒の手に足を掴まれ転ばされた。


「第三十一殲滅魔法・絶竜閃ドラゴニックレイ


さらに放たれた竜の姿をした光線をまともに食らい、ルシフは壁ごと謁見の間の外へと弾き飛ばされる。


そんな光景を、アスモは呆然と眺めていた。


自分では手も足も出ない圧倒的強者、魔王軍最強の堕天使ルシフ。彼を相手に、ただの人間であるレインは片手だけを使って魔法陣を展開し、そして圧倒してみせている。


「ま、魔王様!」


そんな時、息も絶え絶えに1人の魔族が謁見の間に駆け込んできた。彼はレインを見て一瞬動きを止めたが、すぐに姿勢を正して顔を青くしながら声を張り上げる。


「さ、先程城門前に勇者ミティアが突如出現、第11柱が応戦しましたが討ち取られました!あの女は危険です、狂っています!そ、そこにいる大魔道士の名前を笑いながら呟き続けて、そんな状態で第11柱を─────」


しかし、壁が吹き飛び魔族は光の斬撃に体を真っ二つに両断されてしまった。


「あっ、レインさん。聞いてください、第11柱を名乗る魔王軍幹部を討ち取りました!」

「ミティアか。さすがだな、よくやった」

「えへへ……」


崩落した壁の向こうから、聖剣を振るったのであろうミティアが現れる。


彼女の服を赤く染めているのは、恐らく聖剣で身を裂かれた第11柱の鮮血だろう。


「……見事ですね。流石は勇者一行、たった数分で柱を4人も討ち取ってしまうとは」


怒っているのか、それとも焦っているのか。


感情が全く読めない瞳でルーンガルドはレインとミティアを交互に見つめ、そして膨大な魔力を解き放つ。


さすがのミティアもそれを浴びた瞬間思わず後ずさってしまった。


レインのものとは違う、全てを破壊し喰らってしまうかのような、言葉に出来ない悍ましい魔力。


そんなものを、少女にしか見えない存在が解き放ってみせたのだ。


「ですが、最早貴方達に逃げ場はありませんよ。この数を相手にどう抗うのか、見せてもらいましょうか」


気が付けば、残りの柱全員が謁見の間に集結していた。ルシフも怒りに染まった表情でレインを睨みつけている。


しかし、レインは微塵も焦っていない。


「いいや、今回は撤退させてもらう」

「逃げ場は無いと言ったばかりなのですが」

「無いなら作ればいいだけだ」


不敵な笑みを浮かべ、レインが転移魔法を発動する。そして次の瞬間、彼の隣に転移してきたリエルは目が眩む程の閃光をその身から放った。


「ホーリーフィールド!!」

「なっ……!」


それは、シスターのリエルだけが使える奇蹟の光。


魔族のみが持つ特殊な魔力を強制的に停止させ、全身の自由を奪う聖なる領域を生み出す大魔法。


既に別の場所で長い詠唱を終え、発動体勢が整っていたからこそ瞬時に放つことができた。


絶大な魔力を持つ柱達や魔王相手には殆ど効かなかったが、たった一秒───それだけ動きを止めてしまえば充分だ。


「それじゃあな、魔王軍一同。次は全員本気で(・・・)相手をしてやるから楽しみにしているといい」


転移魔法を発動し、レイン達はアスモを抱えてこの場から瞬時に脱出する。


しかしその直前、彼は見た。


「っ……」


魔族達が動揺する中、たった1人笑みを浮かべる魔王ルーンガルドの姿を。どこか懐かしさを感じさせる、いつか見た覚えのある優しげな少女の笑み。


何故彼女は笑っていたのか。それを確かめる暇もなく、レイン達の姿は謁見の間から消えた。

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