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第7話 幻魔姫アスモデウス

『戻りましたか。ルシフ、そしてアスモデウス』


それは、とても綺麗な少女の声だった。


久々に聞くその声には確かな怒りが含まれており、アスモは思わず身を震わせる。


『知っていましたよ。貴女が我々を裏切り、そして勇者達と共に旅をしていたことは』

「申し訳、ありません……」

『まあいいです。貴女は再び戻ってきてくれた。なので私も約束を守り、勇者一行には手を出さないでおきます』


それを聞き、アスモの表情が僅かだが晴れる。しかしその直後、彼女はその場に崩れ落ちた。


何が起こったのか分からずに困惑するアスモだったが、何らかの魔法を使われたということだけは分かる。


『しかし、貴女には罰を与えなければなりませんね、幻魔姫アスモデウス。貴女の心の中にはまだ勇者一行に対する思いが残っているはず』

「そ、それは」

『ルシフ、アスモを連れて行きなさい。そして、特別に罰を与える権利を貴方に』

「ええ、了解です」


長い階段の上、そこにある玉座に腰掛けた長い銀髪の少女。目は仮面に覆われて見えないが、信じられないほど美しい容姿。


そんな彼女に頭を下げた後、雷を身に纏ったルシフはアスモの髪を引っ張り部屋から連れ出した。


「は、離して……!」

「話聞いてた?魔王様・・・は僕に君を拷問する権利をくれたんだ。ふふ、思う存分楽しませてもらうよ」

「っ、離せ!!」


ルシフの手を振り払い、アスモは彼を睨む。しかしルシフは怯むことなく苦笑し、そして顔から笑みを消した。


それを見たアスモは思わず後ずさる。


自分よりも遥かに格上の相手、雷冥王ルシフ。普段は常にヘラヘラしている彼の表情がここまで変化したということは、どうやら彼女は怒らせてしまったらしい。


「君さ、何か勘違いしてないかい?僕はね、別に君のことなんかどうでもいいんだよ」

「だったらなんで関わってくるの」

「魔王様の命令だからさ。君、本気で魔王軍に戻る気はある?勇者一行を……いや、大魔道士レインをその手で殺せるか?」

「それは……」

「だから僕は、君を元に戻さなきゃならない。これは君の為に必要な必要な拷問なんだよ。勇者一行の情報も、色々聞き出したいからねぇ」


どれだけ苦しめられたとしても、アスモはレイン達について教えるつもりなどなかった。


それはルシフも分かっているようで、再び楽しげな笑みを浮かべながら淀んだ瞳でアスモを見つめる。


「くっくっくっ、相変わらず馬鹿だね君は。大好きなレイン君は、このまま君を見逃すと思うのか?」

「何が言いたい」

「少し会っただけで分かったよ。彼は甘い、優しすぎる。必ず君を追ってここに来るさ」

「っ、そんな筈ない。私は敵であることを明確にした、だから追ってなんかこない」

「じゃあ聞くけど、本当に魔王様が彼らに手を出さないと思ってるの?」

「……まさか、魔王様は」


魔王の思惑に気付いてしまった瞬間、アスモを凄まじい雷が襲った。


そのまま全身を焼かれた後、吹っ飛ばされて壁に叩きつけられる。顔を上げれば不気味な笑みを浮かべるルシフと目が合い、アスモは戦慄した。


「そう、君を餌に勇者一行を誘い出すのさ!僕ら全員を相手にすれば、いくら彼らでも勝ち目は無い!」

「ふ、ふざけ……!」

「もう手遅れだよ、彼らが来たら目の前で君をグチャグチャに引き裂いてあげよう」


体が痺れ、アスモはその場から動けなくなる。そして、ルシフは鼻歌交じりに彼女の髪を掴み、容赦なく引き摺り始めた。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






ーーアスモーー





幼い頃、父と母が人間に殺された。下級魔族だった為、両親は大して強くはなかったのだ。


森で暮らしていた私達は、近くに住んでいた人間達に運悪く見つかってしまい、遊び半分で痛めつけられた。


そして目の前で両親が死に、次は私の番だと覚悟を決めた時。


『恐ろしい負の魔力を持ってるな、小娘。俺様についてこい。人間の居ない、魔族だけの世界を見せてやる』


人間の村をたったの数秒で焼き払い、そして私に手を差し伸べてくれたのが前魔王だった。


両親を殺され復讐に燃える私はそのまま魔王軍に加わり、そして最前線で人間達と戦った。


何人殺したかはもう覚えてないけど、それでも足りない。


殺して殺して気が狂いそうになる程殺して·······そして、いつの間にか魔王軍の第3柱に。


しかしある日、目の前で号泣している小さな人間の少女を見た時、私は気付いてしまった。


『うえええん!お父さんが、魔物に殺されちゃったよおお!』


自分が今までしてきたことは、全て人間が自分達にしたことと同じなのだと。


両親を殺され、復讐の為に人間を殺し続けた。しかし、結局は私も同じことをしていただけ。


自分と同じように悲しむ人を、自らの手で生み出してしまっただけだった。


それに気付き、私は迫る魔王軍と交戦した。その際に幹部クラス数人とも戦った為、かなりの重症を負ってしまったけれど。


なんとか魔王軍を追い返した私は、裏切りがバレてこのまま殺されるのだと運命を受け入れた。


なのに。


『お前、魔族なのに魔王軍から村を守ったんだってな。俺はレイン、お前は?』














「来たね、勇者一行のご到着だ」


鎖で手足の自由を奪われた私の隣で、心底楽しそうにルシフが言う。


私もご主人達の魔力を感じた。恐らく彼らは魔王城前に転移してきたのだろう。直後に爆発音が鳴り響き、長い拷問の後にもう一度連れて行かれた謁見の間が揺れる。


「全員殲滅戦の準備を、勇者一行を皆殺しにしなさい」


魔王様の冷えた声が聞こえ、この場に集められた魔王軍幹部全員が魔力を纏う。


いくらなんでも勝ち目が無い。


なのに、なんで彼らはここに来てしまったの?


「君のせいで、この魔王城が勇者一行の墓場になるんだ」

「嫌……いやだよ……」


死んでほしくない、だから私は魔王軍に戻ってきたのに。なのに、どうして……!


「ガッハッハッ、勇者はワシが食うぞ!」

「いいえ私です」

「ちょっとは楽しめるといいんだがなぁ」


次々と、魔王軍幹部達が謁見の間から飛び出していく。そして気が付けば、謁見の間には私とルシフ、そして魔王様だけが残っていた。


何度も爆発音が響き、その度に城が揺れる。


激しい戦闘が行われているのだと嫌でも思い知らされ、いつの間にか私の目からは涙が零れ落ちていた。


「ごめんなさい、私のせいで……」

「何泣いてるんだよ馬鹿」


次の瞬間、壁が粉々に吹き飛んだ。


驚いて目を見開けば、いつもと変わらない笑みを浮かべながら彼は立っていて。


「一緒に帰るぞ、アスモ」

「ご主人っ……!」


彼の周囲には、大魔法の餌食なってただの死体となった魔王軍幹部達が転がっていた。

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