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第3話 温泉大騒動(1)

「つ、着いた」

「ここが……」

「温泉街ホウライっ……!」


とても嬉しそうに目を輝かせているミティア達。そう、俺達勇者一行は、ようやく温泉街ホウライへと辿り着くことができた。


なんだか心安らぐ気がする街並みや、行き交う人々の服装、売っている品物など……東方地方ではこれらを『和』と呼んでいるそうだ。


「レインさん、早速温泉宿に向かいましょう!」

「うふふ、久々にのんびり寛ぎたい気分かも!」

「ご主人。もし可能なら、私の喘ぎ声があまり外に響かない部屋がある宿がいい」

「おい待て、一人だけ言ってることがおかしい変態が混じってるぞ!?」


とりあえず俺達は寝泊まりする宿を探した。しかしあれだ、最高の景色と最高の湯、そして最高の料理を堪能できるホウライの宿はどこも凄まじい宿泊費が必要である。


なので、その中でも比較的低めの宿泊費で寝泊まりできる宿に決め、俺達は荷物を運び込んだ。


その後、早速縄で自分を縛り始めたアスモは無視し、俺はミティア達と温泉街を見て回ることに。


「これは……なんでしょうか」

「みたらし団子だな。昔東方地方に行った時に食べたことがあるけど、結構美味しいぞ」

「そうなんですか。んっ、美味しい!」


団子屋で売っていたみたらし団子を食べ、ミティアが幸せそうに頬を緩める。その隣では、リエルが大福を食べて同じような表情になっていた。


「なんだかアスモさんに申し訳なくなってきましたね。こんな美味しいものを食べずに、宿でいつも通り……」

「あいつは団子を食うより自分を縛ることを優先するやつだ」


少し心配なのが、アスモの声であの宿に人が集まっていないかということだ。戻った時に、この変態の仲間はお前達か!なんて言われて注目を集めてしまったら、のんびり寛ぐことなんてできないからな。


「まあ、何個か買っておいてあげましょう。きっとアスモも喜ぶと思うわ」

「そうだな」


アスモが何かやらかしてないか気になって観光に集中できないので、俺達はアスモと一緒に宿で食べる用の団子や餅などを買い、日も暮れてきたので宿に戻ることにした。


「ご主人、天井に吊るしてくれると嬉しい」

「もうお前帰れ」


宿で自分を縛り上げ、嬉しそうにモゾモゾ動いていたアスモは無視し、俺はミティアとリエルに言う。


「温泉、入りに行くか」


それが、地獄の始まりの合図だとも知らずに。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







「おお、これは……」


感動した。宿のすぐ隣りにあった露天風呂はかなり広く、空を見上げれば満天の星空が目に映る。さらに男湯の方に現在客はおらず、俺だけの貸切状態というわけだ。


湯加減も素晴らしい。早速俺は体を洗い流し、露天風呂を堪能させてもらうことにした。


ゆっくりとお湯に浸かり、腰を下ろす。


自分でも気付かないうちに疲労が蓄積されていたんだろう。しかし、それら全てが一瞬で消えてしまう程の気持ち良さ。


なるほど。ホウライの温泉には、回復魔法に似た効果がある魔力が含まれているということか。


「ミティア達にも、この素晴らしい時間を存分に楽しんでもらいたいな……」


そう呟いた直後だった。


「温泉って気持ちいいね、ご主人」

「ああ、そうだな─────あ?」


隣を見れば、頬を赤らめたアスモがお湯に浸かっていた。髪を括り、体にはタオルが巻かれているが、胸の谷間が見えてとんでもないことになりかけている。


「何故ここにッ!?」

「混浴しましょ〜」

「り、リエル!?」


さらに、向こうからはリエルが歩いてきた。彼女も体にタオルは巻いているものの、アスモ以上に胸がやばい。


「混浴だと!?お、俺は男湯の方に入ったはずだ!」

「実は宿の女将さん、私達が勇者一行だって知っててね。女将さんが面白がって、この時間帯の露天風呂を貸切にしてあげるから、特別に混浴OKだって」

「お、女将さん!?」


リエルがアスモの反対側、空いていた俺の隣に腰掛ける。さらに両方体を密着させてきたので、俺は今かなり大変なことになりかけていた。


「おい待てやめろ!俺は男だぞ、分かってるのか!?自分で言うのもなんだけど、別に草食系じゃないからな!?」

「私はいつでも大歓迎」

「レイン君も、たまには息抜きが必要よ」

「ぐっ……!」


いよいよ胸まで押し付けてきた。両方かなり大きいので、素晴らしい感触が両腕全体に伝わってくる。まずいまずい、煩悩退散煩悩退散……!


「魔王討伐前に、魔王になったご主人に食べられちゃうかも」

「うふふ、それもありね」

「な、何してるんですか!レインさんが困っていますよ!」


このままでは本当に、アスモが言った通り主に下半身が魔王化してしまう。その瞬間が目前まで迫っていた時、救世主は現れた。


「ほら、レインさんから離れてください!」

「んっ……」

「あらら……」


駆けつけたミティアが、アスモとリエルの腕を引っ張って俺から引き離す。助かった───その時はそう思ったさ。


しかしあれだ、目の前にいるのは体にタオルを1枚巻いただけのミティアだ。胸はアスモとリエルに比べて控えめだけど、彼女は脚がやばい。


「レインさん、大丈夫でしたか?」

「すまん。様々な事情で今立ち上がれないけど助かった」

「……?困った時はすぐに言ってくださいね。いつでも聖剣は手元に呼び寄せることができますから」

「ああ、頼りにしてるよ……」


……ん?


つまり、今俺が困ったとミティアに言えば、彼女は聖剣を呼び寄せてその剣先をアスモとリエルに向けるということか?


いやいや、さすがにそれはないだろう。心優しく仲間思いなミティアが、そんなことをするはずないじゃないか。失礼だぞ、レイン。


「あ、あの。そんなに見つめられると、恥ずかしいです……」

「え、ああ、すまん。無意識に……」


しかも、俺はミティアの脚をガン見してしまっていた。恥ずかしそうに頬を赤らめているミティアに謝り、俺は下を向く。


まずいな。今アスモが俺に何かしてきた場合、下半身の魔王化がバレてしまう可能性が高い。それをミティアに見られてしまえば、俺の健全な魔王討伐の旅はこんなところで終了だ。


頼むぞアスモ、今は大人しくしていてくれ。


「そういえば、そろそろご主人の魔王が茹で上がった頃じゃないかな」

「空気を読めッ!!」


ゆっくりと俺に近付いてくる変態魔族。リエルは俺がどういう状態なのか分かっているのか、少し離れた場所でニヤニヤしている。


「ま、待て!今は何もするな!」

「……後で縛ってくれる?」

「思う存分縛ってやるから!」

「分かった」


アスモが俺から離れる。しかし今、俺は何を言った?恐る恐るミティアに目を向ければ、顔を真っ赤にしながらフルフル震えているではないか。


「れ、レインさんが、アスモさんに、え、えっちなことをするって……!」

「ミティア、違うんだ。今のは────」


そんな彼女に言い訳をしようとした次の瞬間、何かが猛スピードで通過した。俺は勿論の事、混乱していたからミティアも反応できなかったんだろう。それはミティアが巻いていたタオルの結び目を的確に切り裂いた。


「ぁ……」

「ぶふっ!?」


はらりと、タオルが下に落ちる。咄嗟に下を向いたが、俺はミティアのあられもない姿をモロに見てしまった。


「きゃああああああっ!!」

「す、すまん!」


ミティアの魔力が一気に膨れ上がる。どうやらこの場で聖剣を呼び寄せたらしい。


「だ、誰ですか!姿を見せなさい!」


そしてそう言う。やはり何者かが刃物を投擲し、ミティアのタオルを切ったのだろう。ならば俺はその人物を捕縛しなければならない。鼻血が出かけている&一部魔王化しているが、俺は刃物が飛んできた方向に顔を向ける。


「ご主人、敵は少なくとも6人」

「ああ、殲滅する……!」


絶対に許さん。俺は向こうにある宿の屋根上から逃げ去ろうとしている連中を発見し、魔力を纏って立ち上がる。


しかし、よく考えたら素っ裸だった。


「あら、大胆ね」

「こっち向いて。ご主人の魔王を見てみたい」

「えっ、ひゃああ!れ、レインさん、駄目ですよ!?」


3人の視線を背中に浴びながら、俺は見られたのが後ろ姿でよかったと心底安堵しながら魔法で飛んだ。

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