第1話:それはとても不思議な集まり
暇潰しに魔道書を読み漁っていたら、いつの間にか俺は数百種類もの魔法を習得していた。
さらに暇潰しに魔法の研究をしていたら、いつの間にか俺は数百種類もの新魔法を完成させていた。
そして現在。俺は3人の仲間と共に、魔王を討伐する為の旅をしている最中だ。
「殲滅魔法・大爆輪」
俺の目の前に出現した火の玉が、半径数十メートルを一気に照らす。そして別の魔法で高い場所まで浮き上がった俺は、その火の玉に自身の魔力を注ぎ込んだ。
「ギャオオオオ!!」
「悪いな。俺は手加減するのが苦手なんだ」
直前まで俺が立っていたのは山の上。その山は凄まじい数の火竜に埋め尽くされていたが、火の玉から全方向目掛けて紅蓮の波が放たれ、レッドドラゴン達を薙ぎ払いながら辺り一面を焼き尽くす。
「うふふ。手加減してくれないと、後で私が可愛がってあげる魔物が皆いなくなっちゃうのに」
光で視界が真っ白になる中、隣から少女の声が聞こえた。顔を向ければ、俺の魔法で空中にふわふわ浮かびながら、少し残念そうにこっちを見ているシスターと目が合う。
魔物をいつも持ち歩いている玩具という名の拷問道具で痛めつけ、回復魔法で傷を癒してはまた痛めつけるという、そんな恐ろしい行為をしょっちゅう行っているリエルだ。
「大変だよ、ご主人。今の魔法でご主人の魚肉ソーセージが美味しく焼けちゃったみたい。お腹空いたから食べていい?」
「焼けてないし食い物じゃない。というかお前、ミティアの前で馬鹿なことを言うなよ」
リエルの隣に浮いている、桃色の髪を腰あたりまで伸ばした少女がとんでもないことを言ってくる。ドSなリエルとは違い、お仕置きされるのが大好きなドMであり、さらにド変態のアスモだ。
そして、アスモの後ろに浮いている可憐な少女は、いろんな意味で恐ろしい2人とは違い、仲間思いで天使のような存在の勇者少女ミティア。
ミティアは、下ネタの意味なんて全く分からない純粋な少女である。だけど、もしその意味を知ってしまったらドン引きされるに違いない。
「手加減できないレインさんも素敵です……」
どうやらミティアは何も聞いていなかったようだ。そして何故か、俺を素敵だと言っている。本気で言ってるわけではないと思うけど、結構照れるし嬉しいんだが。
「さて、地上に降りよう。下で丸焦げになってるドラゴン達が、何故俺達を襲ってきたのかを調べなきゃならないからな」
「その前に魚肉ソーセージを……」
「うるさい。竜肉でも食ってろ」
魔法で風を発生させ、山を焼いていた炎を消し飛ばす。それから俺達は焼け焦げた地上に着地し、黒い塊と化したドラゴンの身体を調べてみた。
けど、やってしまった。これじゃドラゴンが現れた理由も何が目的だったのかも、何も分からないじゃないか、俺。
「ご主人、全然美味しくない」
「あら、叩いたら砕けちゃった」
ドラゴンだったものを食べて珍しく嫌そうな顔をしているアスモと、ドラゴンだったものを破壊しているリエル。この2人はまあいいとして、ミティアにこいつ頼りないなとか思われたらショック死してしまう。
焦りながら振り返ると、ニコニコしているミティアと目が合った。よかった、そうは思われてないみたいだ。多分。
「レインさん、ありがとうございました。普通に戦闘を行っていた場合、恐らく誰かが負傷していたと思います。リエルさんの回復魔法で傷を癒すことは可能ですけど、誰も怪我しない方が良いですもんね」
「ミティア……!」
「ふふっ、今日は別の場所に移動して野宿しましょう」
「うんうん、そうだな。日が暮れる前に、食料とかを調達しておこうか」
やはりミティアは天使だった。
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「……何してるんだお前」
「自分で自分を縛ってる」
その日の晩、狩兎の肉を料理用に作った魔法で焼いていた俺の前に、縄で身体を縛ったアスモがやって来た。
とても嬉しそうだ。そして、この少女は俺にいったい何を求めているのだろうか。
「ご主人、もっとキツく縛って」
「なんでだよ」
「食い込みが甘いから」
「いいから飯を食え」
「ご主人のケチ」
などと言いながら、頭を俺の肩に置いてもたれ掛かってくるアスモ。性格はドMで変態だけど、行く先々でしょっちゅう見知らぬ男から告白されるほどの美少女だ。
長い髪からはとてもいい香りが漂ってくるし、身体を縛ってるから大きい胸がさらに────
「レ イ ン さ ん」
「っ、どうした?」
「せっかく焼いたお肉が冷めてしまいますよ?」
「そ、そうだな」
危なかった。アスモの胸を見て変なことを考えてしまったのがミティアにバレたのかと思った。受け取った肉を頬張りながら、俺は内心胸を撫で下ろす。
「この兎ちゃん、とってもいい声で鳴いてたなぁ。もう一回聞きたいなぁ」
ミティアの隣では、焼けた狩兎の肉を見ながらリエルがそんな事を言っている。今日の晩飯である狩兎を捕獲したのはリエルだったのだが、きっと狩兎達は地獄を見たに違いない。
「はぁ、変な勇者一行だ」
正直、魔王が世界を征服しようとしてるのなんてどうでもよかった。しかし国の命令でミティアの旅に同行することになり、旅の途中でアスモ、リエルと出会った。
別に仲間なんて必要ないと思ってたけど、2人がどうしても旅に同行したいとお願いしてきたため、結局4人で旅をしてるわけなんだが。
「ふあぁ、眠い」
自力で縄を解いたアスモが欠伸をしながら背伸びをして、それから折りたたんでいた黒い羽をバサりと広げた。
言っていなかったが、実はこのドM少女、現在俺達人間と大規模な戦闘を行っている最中の魔族である。初めて会った時は今とは違い、殺気を隠そうともせずに俺達を拒絶してきたっけ。
今は面倒だから過去の話をするつもりはないけど、そんなこんなで彼女は魔王軍を裏切り、そして俺達人間に味方することになったのだ。
「ご主人、一緒に寝よう」
「暑いから離れてほしいですね」
「後で好きなだけ縛ってくれていいから。ね、だから一緒に……」
「いや、一緒に寝るのは────」
ヒュンっと、俺の目の前を猛スピードで何かが通過していった。何だろう、包丁のようなものだった気がするんだが。
「……2度と話せないように、首に縄をキツめに巻いてあげましょうか」
「え、何だって?」
「いえ、何も」
「んん?そうか」
ミティアが何か言ったような気もしたけど、何も言っていないらしい。幻聴?俺は疲れてるのだろうか。そう思い、寄ってくるアスモから離れて地面に寝転がった。
そういえば最近ミティアが日記みたいなのを書いてるみたいなんだけど、どんな内容なのか気になるな。まあ、真面目な彼女らしく、今日起こった出来事とかを丁寧に記しているんだろうけど。
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力を入れすぎたのか、鉛筆の先が折れた。
もうレインやアスモ達は眠っているのだが、ゆらゆら燃える炎の前で、ミティアは1人でノートを開いて今日の出来事を丁寧に書いている最中である。
『どうしてレインさんは、私以外の女の人にベタベタされると少し嬉しそうにするんでしょうか。嫌がっているように見えるけど、本当はそう思ってないのはずっと見てるから分かる。なんで?どうしてレインさんは私だけを見てくれないの?私はこんなにレインさんのことが好きなのに。毎日毎日、毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日レインさんのことを考えて、想っているのに。ああ、邪魔だ。なんで私とレインさんの物語に入り込んできたの?どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして。許さない。これ以上私のレインさんに何かするのなら、私がこの手で─────』