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第15話 王国最後の寄り道

「レインさんは何人子供が欲しいですか?」

「……さあ、考えたこともないな」

「分かりました、最低4人ですね。それでは早速始めましょうか。頑張って幸せな家庭を築きましょう」

「何だ急に、怖ぇよ!」


馬車の中で休んでいた俺に、ミティアが呼吸を荒くしながら迫ってくる。そんな彼女をアスモがぐいと引っ張れば、もう見慣れた喧嘩の勃発だ。


「淫乱魔族が邪魔をしないでくださいね〜」

「淫乱勇者がどの口で言うの。レインと子作りするのはこの私、ミティアだとレインは気持ちよくなれない」

「おや?聖剣が輝いていますね。ふむふむ、どうやら貴女を塵にするのが勇者としての使命なようです。仲間なので心が痛みますが、そういう事なら仕方ありません。さ、後ろの穴から聖剣をぶっ刺してあげましょう」

「穴とか言うな」


俺は2人を落ち着かせた後、馬車から降りてため息を吐いた。疲れる、恐ろしく疲れる。アスモも大概だが、何よりミティアの暴走が俺に与える精神的ダメージが凄まじい。


「はぁ、はぁっ……あら、レイン君。休憩中じゃなかったの?」

「あそこは魔境だ、休憩にならん」


最近はリエルの特訓に付き合う時間が俺にとっての癒しになっている。ヘトヘトになりながらも真面目に頑張っているリエル。そんな姿を見ていると俺は幸せな気持ちになれるのだ。


「私もちょっと休憩……」


座り込み、リエルが荒れた呼吸を整える。いつもの修道服ではなく、動きやすい薄着に短パンなので、普段隠されている肌がよく見えて……ふむ。


「レイン君、変なこと考えてるでしょ」

「いや?別に何も?」

「見てくれてもいいのに」


伸びをすることで、アスモを上回る暴力的な胸部が更に服を盛り上げる。ついその2つの山を眺めてしまっていたが、にやーっと笑うリエルの視線に気付いて目を逸らした。


「あー、その、調子はどうだ?」

「うふふ、いい感じよ」


拾った石ころを、座ったままリエルが投げる。砲弾と化したその石は向こうにある岩を粉砕し、ついでに俺達の様子を伺っていた魔物の頭部も爆散した。別に魔法とかを付与したわけではないのにこの威力。短期間でとんでもないパワーを手に入れているな。


「石ころだけで魔王城を落とせるんじゃないか?」

「それができたら苦労しないけれど。これじゃ、まだまだ力不足だわ」


おかしいな、リエルに魅力しか感じないんだが。馬車の中で殺気をぶつけ合っている魔の住人達とは大違いだ。


「もっと強くならないと、ミティアとアスモには勝てないし……」

「ん?2人に勝つのが目的なのか?」

「え、ああ、役に立ちたいって意味でね。勇者と魔王軍幹部の子より強くなれたら素敵じゃない?」

「確かにな」


あの状態の2人に追いつくのは難しいとは思うが、リエルには頑張ってほしいと思う。


「最近レインがリエルを妙に意識してる気がする」


おっと、いつの間にかアスモが馬車から出てきていたようだ。振り向くと、ぼけーっとした表情のアスモが立っていた。


「いや、別に意識とか……」

「リエルを見る時の視線がいやらしい」

「ちがっ、そんな事ないって!」


余計な事言うからミティアが聖剣持って出てきたじゃないか!俺との約束を守るために相当我慢しているのか、ミティアは「フフフフフフフ」と笑いながら岩を切り刻み始める。怖い。


「ちなみに、私を見る時はもっと蔑むような感じがいい。罵倒しながらだと点数が高いよ」

「縄をやるからあっちいっててくれる?」

「ありがとう、早速レインの縄に縛られてくる」


俺から縄を受け取ったアスモは、嬉しそうにトコトコと馬車に戻っていった。縄ひとつでコントロールできる魔王軍幹部って何だよ。


というか、いつの間にか笑うのをやめたミティアが無表情で複数の岩を墓石に変えていた。その全てにリエルとアスモの名が刻まれており、聖なる心を持つリエルも流石に若干引いている。


「私はこんなにご主人様のことが好きなのに、どうして他の女ばかり相手にするんだろう。おかしい、絶対おかしいよ。ご主人様のことを1番愛してるのは私、ご主人様のことを1番知っているのは私、ご主人様のことを守ってあげられるのは私……。ううん、そうか。きっと可哀想だから相手をしてあげているだけなんだ。そうに決まってる、そうじゃないとおかしいもん。1番は私、可愛がってもらえるのも、罰を与えてもらえるのも、全部私だけなんだ。ふふ、ふふふふ……もっともっとご主人様のことを知らなくちゃ。私が知らないことなんてひとつもないくらい、ご主人様のことを完璧に知らなくちゃ。ご主人様好き、愛してる……ご主人様の全てを、私は愛しています……」


運動していないのに、リエル以上に汗だくになってしまった。さて、そろそろ移動を再開するとしようか!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「結構進んだな。あと3日もあれば、国境に着くはずだ」


魔法で生み出した分身に手綱を握らせ、俺は地図を広げて現在地を指さす。このまま真っ直ぐ進めばサクロという町があり、その先は国境となる。途中色々あったものの、一応順調に進んではいた。


「サクロって確か、大きな教会がある町ですよね」

「そうだな。リエルの知り合いとかがいるんじゃないか?」

「え、ええ、そうね。多分いると思う」


なんだ?笑ってはいるけど少し様子が変だ。


「その知り合いには会いたくないのか?」

「ううん、なんでもないの。王国を出てからは買い物ができる機会が減るし、町には寄った方がいいわ」

「……事情は分からないけど、あまり無理はするなよ?」


俺がそう言うと、リエルは本当に何もないのにと苦笑する。とりあえず王国最後の寄り道はそのサクロという町だな。国境の先は山が続くので、数日間は町などには辿り着けない。リエルの言う通り、そこで多めに食べ物などを買い揃えておいた方がいいだろう。


「とうとうこの国ともお別れだね。レイン、縛って」

「何の流れでお前を縛らなきゃならないんだよ」

「多分この国を出ると縛った時の感覚も変わると思う。今のうちに、王国の縛り心地を味わっておきたい」

「それなら私が縛ってあげますよ。きっと天にも昇る快感を得られるはずです。さ、縄を貸してください。まずは縄に聖水をたっぷりと染み込ませます。そして聖水をアスモさんの全身にかけ、縛りやすさをアップさせます。あとは全身を締めあげてミンチにするだけ。これなら得意ですよ」

「レイン、ミティアがいじめる」


アスモが俺に身を寄せてくる。それを見たミティアが笑顔で歯ぎしりし、凄まじい音が口から漏れ出ていた。耐えろ、耐えるんだミティア。とりあえず俺はアスモを押し返し、ミティアがぶちまけようとしていた聖水を没収しておく。


「もう、喧嘩は駄目よ。レイン君が困ってるじゃない」

「違います、これは愛です。アスモさんのことを想っているからこそ、私は縛りのお手伝いをしたいんですよ」

「理由がどうであれ、レイン君が困ってるの」

「うっ……」


おお、あのミティアが言い返せていない。やはり今のリエルは最高だな。魔物を嬉々として殴っている姿を頭から消せば、もうただの聖女じゃないか。


「ミティア、そろそろアスモのことを仲間として見てやってくれ。確かにこいつは魔族で元魔王軍だが、魔王を倒すという目的は俺達と同じなんだ」

「そんな事はどうだっていいんです。私は、私のレインさんにベタベタとちょっかいをかける蝿を駆除したいだけなんですから」

「蝿ってお前……」

「はぁ、レインさん好き……好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き───────」


またミティアが自分の世界に入ってしまった。こんなにも可愛い子から好きだと言ってもらえるのは何よりも嬉しいはずなのに、恐怖の方が勝っている。そのうち聖剣で後ろから刺されたりしないだろうな。


「アスモも、あんまりミティアを刺激しないように」

「どうして?私はただ、レインに少し触れただけ」

「いやまあ、そうなんだけど……」

「レインは私に触られるの、嫌?」


おずおずとそう聞いてくるアスモ。こういう所は素直に可愛いと思う。別に嫌じゃないと答えれば、アスモは照れたように前髪を弄り始めた。


「あ、町が見えてきたわ」


リエルの視線を追えば、遠くに町があるのが確認できる。さあ、王国最後の寄り道では何が起こるのやら。

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