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第13話 愛が私を強くする

「見つけたぞ勇者一行!貴様らを討ち取り、この俺が煉獄の12柱に加わ─────」

「うるさい、邪魔」


アスモが放った魔力が、突然真上から襲いかかってきた魔族を消し飛ばす。今日も平和だな。そろそろ魔王軍の幹部クラスがやって来てもいい気がするが、魔王め、警戒して兵を動かさないつもりか?


「もう、アスモったら。命というものは、そう簡単に消しちゃ駄目なものよ?」

「一応敵だったよ」

「それでも、ちゃーんとたっぷり可愛がってあげなきゃね。今の子も、何も考えられずに消えちゃって可哀想だわ」


お前に可愛がられるよりはよっぽどマシだと思うが。はあ、こんな勇者一行とは思えない会話を聞かされた時は、俺を心から癒してくれる天使がいたというのに……。


「見てくださいレインさん、今アスモさんが消した魔族の仲間を討ち取りました。この人、レインさんを誘惑しようとしていたんです。許せませんよね、だから八つ裂きにしてあげました。こんな穢らわしい汚物でレインさんの目を汚すわけにはいきませんから。あ、でもこうして私が持ってきてしまったから、結局レインさんの目が汚れちゃいましたね。すみません、うっかりしていました。私の体を見れば多少は汚れも取れるかな。とりあえず脱いでみますね」

「落ち着け!」


魔族だったものを放り投げ、ミティアがにこっと笑う。悪魔だ、この勇者は魔王よりも恐ろしい悪魔だよ。


「うふふ、ミティアも積極的になったわね〜」

「そうですか?普通だと思いますけど……」


普通とは。


「でも気付いたんです、言葉にして行動しないとレインさんは私を見てくれないって。何だか生まれ変わった気分……今日も幸せだなぁ」


頬に手を当て恍惚とした表情を浮かべたまま、そちらを見もせずに真後ろから迫っていた魔族をミティアが細切れにする。全てをさらけ出してからのミティアの強さは正直異常だ。今のも、俺ですら目で追えない腕の振りだった。


「それにしても、今日は随分魔族が多いですね。私達の居場所がバレているようですけど」

「確かにな。まあ、雑魚ばかりで大物は釣れないが」

「はぁ……確かにこんな塵芥如きが相手では、レインさんにアピールできません」


何をしたのかは分からないが、痙攣しながら墜落してきた魔族をミティアが蹴り飛ばす。その先にはアスモが立っており、魔族は彼女の纏う魔力に触れた瞬間灰と化した。ミティアと同じで、最近はアスモも相当腕を上げているな。


「私じゃなければ怪我してたよ」

「すみません、足が滑りました」

「別にいいけど、度が過ぎるとレインに嫌われるのは貴女」

「……チッ」


ミティアの舌打ちなんか聞きたくなかった!戻りたい、あの日記を拾う前に戻りたい!


「ほらほら2人とも、旅する目的は同じなんだから仲よくしなさい」


どす黒い空間に踏み込んだリエルが、2人の肩に手を置いてそう言う。何だろう、リエルが1番まともに見えるのは何故?


「魔王なんてどうでもいいですよ」

「え?」

「私はレインさんと一緒にいられるから旅をしているんです。どうしてレインさん以外の有象無象のために時間を使わなければならないのですか。いくら聖剣に選ばれたとはいえ、まだ成人もしていない少女に明日を任せることしかできない連中ですよ?私達に守られて当たり前だと思っているんです」

「でも、魔王を倒さないとレイン君との思い出の場所も消えちゃうかもしれないじゃない」


むぐっと、ミティアが口ごもる。いいぞリエル、俺以外に今のミティアを制御できる者がいたか。


「レイン、怖かった。縛って」

「理解ができないってのは何よりも怖いもんだな」


リエルとミティアのやり取りを眺めていると、アスモが俺に縄を手渡してきた。これが勇者一行だと魔王達に知られたら、彼らは何を思うのだろうか。


「さて、そろそろ次の町に着く筈なんだが……」


仲間のことだけではなく、旅のことも考えながら行動しなければならない。魔族の襲撃が終わったので馬車がある場所まで戻り、俺達は移動を再開する。王国と隣国の国境まではまだまだ時間がかかる。アルカを発ってからもう1週間が経っており、一度食料などを買うために町に寄る予定だ。


「……?この魔力、多分近くに12柱の誰かがいる」


アスモの言葉を聞き、俺達は警戒を強めた。暫く道を進むと、見えてきた町から黒煙があがっているのが確認できる。なるほど、あの町を襲撃している最中に俺達の魔力を感知し、雑魚を差し向けてきたわけか。


「先に行くぞ」

「あっ、レインさん……!」


既に犠牲者が出ている筈だ。舌打ちし、俺は魔法を使って浮き上がり、猛スピードで空を飛ぶ。そしてそのまま町に入り込み、一際でかい魔力を持つ魔族の前に降り立った。


「なんだ、お前だったか」

「久しぶりじゃないか、大魔道士レイン。こうしてまた会える日を心から待ち望んでいたよ……!」


確かルシフ、だったか。以前ボコボコにしてやったから相当頭にきているようだな。


「で、魔王軍ナンバーワンの男が何の用だ?」

「決まってるじゃないか、適当に町を潰しながら君達を捜していたのさ!まさかこんなにも早く会えるとは思わなかったけどねぇ!」

「何人殺した」

「さあ?君は殺した魔族の数を数えてるのかい?」


よし、殺そう。俺が周囲に魔法陣を展開すると、ルシフは口角を吊り上げて魔力を解き放った。以前とは少し違うようだな。


「この短期間で僕は強くなった!君は所詮人間、僕に勝つことなんてできないって教えてや─────」


言葉の途中でルシフの頬が歪み、そのまま彼は吹っ飛んでいった。入れ替わりで俺の前に現れたのは、聖剣を手にしたミティア。彼女は笑顔で振り返り、俺に言う。


「ゴミ掃除は私に任せてください」

「お、おう……」

「よ、よくもやってくれたなクソガキがあ〜〜〜〜ッ!!」


瓦礫を吹き飛ばし、全身の筋肉を膨張させたルシフがミティアに飛びかかる。しかし、今のミティアは俺よりも速い。腕を避け、超高速で繰り出された回し蹴りがルシフの腕をへし折り、踵が脇腹に突き刺さって骨が砕け散る音が響く。


「うぎゃああああああっ!?」

「私は強くなったんです。ホウライでは情けない姿を晒してしまいましたから、その分今度は私が遊んであげましょう」

「ば、馬鹿な、本当にあの時の勇者なのか!?」

「レインさんへの愛が、私を更なる高みに連れて行ってくれる。貴方は所詮、私がレインさんにアピールするためだけに存在している、その辺に生えている雑草と変わらないんですよ」

「な、何だとォ!?」


激昂したルシフが魔法を連発するが、目で追えないほどの速度でミティアは聖剣を振り、その全てを斬り飛ばす。


「有り得ない、まるで別人じゃないか!」

「折角リベンジで登場してもらったところ申し訳ないのですけど、もう用済みなので死んでくださいね」

「く、くそっ、くそくそくそっ!!」


これが勇者の、真の実力というわけだ。ミティアが聖剣を振るだけで魔法は掻き消され、更にルシフの体から血が噴き出す。やがて魔法が通じないと悟ったルシフは接近戦を挑むが、それは選択肢として間違っているぞ。


「遅いんですよ」


案の定全身を切り刻まれたルシフは悲鳴をあげ、ミティアの前で転げ回る。


「ぼ、僕は魔王軍最強なんだぞ!?それが何だ、この雑魚みたいな扱いは!」

「雑魚みたいなではなくて、雑魚です」

「調子に乗るな勇者ぁーーーーーッ!!」


我を忘れて駆け出したルシフだが、突然顔が歪んで吹っ飛んでいった。さっきも見た気がするが、また誰かに顔面を蹴り飛ばされたらしい。


「あれ、もしかして来てるのってルシフだった?」

「はあっ、はあっ……わ、私、そんなに体力ないのに……!」


ここでアスモとリエルが追いついてきた。リエルは全力疾走してきたからか、汗だくでぶっ倒れかけている。


「アスモお前、あんまり怖がってないみたいだな」

「うん、全然怖いと思わない。これもレインへの愛が私に力をくれるから」


そう言われると照れる。しかし、こうなるとルシフが可哀想だな。あれでも魔王の次に強いらしいが、プライドはズタズタだろう。


「アスモデウスうぅ……!」

「私とも遊んでくれる?ルシフ」


アスモがルシフの前に立ち、凄まじい魔力を解き放つ。大気が震えるほどの魔力を浴びたルシフは言葉を失い、思わず後ずさってしまっていた。


「貴女はしゃしゃり出なくていいんです。レインさんに褒められるのはこの私なんですから」

「なら負けていられない。レインには誘惑が効かないから、強さでもアピールしていかないと」

「っ〜〜〜、次は必ず殺してやる!覚えていろよ大魔道士レイン、勇者、アスモデウスッ!!」

「ちょっとぉ、私もいるんだけど!」


ルシフが飛び去ったので魔法で撃墜してやろうかと思ったが、急に奴の姿と気配が消える。アスモも完全に見失ってしまったようで、ルシフを逃がすことになってしまった。


「えへへ、勝ちました。褒めてくださいレインさん」

「ん、お疲れさん。よくやったな」


頭を撫でてやれば、気持ち良さそうにミティアが目を細める。くそっ、めちゃくちゃ可愛いじゃないか。


「レイン、私も縛って」

「私もって何?」


もう片方の手でアスモの頭も撫でてやる。うーん、こういうのもアリだな。そう思っていると、リエルが頬を膨らましながら詰め寄ってきた。


「ずるい、私も撫でて」

「な、何でだよ」

「ず〜る〜い〜!」

「分かった分かった、子供かお前は」


まったく、今俺達が逃がしたのは一応魔王軍最強の魔族だというのに。ミティアの聖剣で負わされた傷はすぐには回復しないので、当分の間はじっとしてくれているといいんだがな。

登場人物紹介(3)


【幻魔姫アスモデウス】

・年齢:人間年齢だと18歳前後

・身長:160cm

・変態度:9999

元魔王軍所属、煉獄の12柱の第3柱という実力者。スタイル抜群で超がつくほどの美女だが変態で、ドM。特技は亀甲縛り。魔族の自分を仲間だと言ってくれたレインが好きだが、彼女の前にはヤンデレ勇者が立ちはだかる。頑張れアスモちゃん。

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