第11話 情報の町
翌日、俺達は魔王達の居場所に繋がる情報を求めて宿を出た。ここは人々から情報の町と呼ばれているらしく、王国各地から様々な情報が集まっている。実際、魔物に関する情報から誰の役に立つんだという情報まで、軽く町を回っただけで聞くことができた。
しかし、リエルの言っていた有名な情報屋が見つからない。聞いた話によると、その情報屋は面白そうなネタを持っていそうな者に自分から声をかけ、そのネタと交換で持っている情報をくれるらしい。
ただ、取り扱っている情報の中には闇に触れるものもあるそうで、情報屋は自分についての話は一切せず、故に誰も情報屋がどんな人物なのか分からず見つけられないという。
「困ったわね。面白い話を持っている人、挙手〜!」
「はい」
リエルの前で、アスモが軽く手を挙げる。
「この前温泉で、レインのアレが勃ってた」
「おいいぃ!?お前何言ってんの!?」
「情報屋が釣れるかと思って」
急いでアスモの口を塞ぐと、ミティアが顔を真っ赤にしながら詰め寄ってきた。
「だだ、誰の素肌を見てそうなったんですか!?」
「勇者が釣れた」
それにしても、純粋無垢なミティアがこんな下卑な会話に割り込んでくるとは。アスモかリエルが余計なことを吹き込んだのだろうか……って、今はそんな事を考えている場合じゃない。
「ミティアも落ち着け。ただでさえ可愛くて目立ってるんだから、あんまり騒がない方がいい」
「かわっ……!?」
フリーズし、俯いたミティア。言うべきことを間違ったかと俺が焦っていると、ミティアの肩が揺れ始めた。
「可愛いって……レインさんに可愛いって言われた……ふふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」
「大変だ、ミティアが壊れた!」
何かをブツブツ呟いたかと思えば、急に笑い始めたので余計に焦る。ストレスや疲労が蓄積しており、それが溢れ出してしまったのかもしれない。
と、どうすればミティアが正気に戻るか話し始めた俺達の前に、フードを深く被った人物が歩いてきた。警戒したアスモが魔力を使おうとしたのでそれを止めると、フードの人物は僅かに見える口をニヤリと歪めた。
「面白い、面白いねお兄さん達。俺はこの町で情報屋をやってる者なんだが、ちょいと話でもどうだい?」
「ほう、情報屋だと?俺達はこの町で1番の情報屋とやらを捜していたんだが、お前がそうなのか?」
「くっくっ、そうとも。あんたらが面白いネタを聞かせてくれるってんなら、それ相応のネタを提供するよ」
聞いていた話と一致する。まだ例の情報屋だと信じたわけじゃないが、一応場所を変えて話を聞かせてもらうとしよう。
「ついてきてくれ。情報交換するのにうってつけの場所があるんだ」
「そう言って潜んでいた部下達が襲ってくる可能性がある。抵抗しないから是非縛ってほしい」
「お兄さん、彼女は何を言ってるんだい?」
「気にするな、平常運転だ」
いつの間にかミティアは正気に戻っていたので、俺達は情報屋に連れられ空き家の地下にある部屋案内された。なるほど、確かにここなら話を聞かれることもなさそうだ。
「それで、まず俺達がネタをやればいいのか?」
「そうだね、最高のネタを聞かせておくれ」
何を話せば納得するかがまだ分からない。ここは様子見で、軽めの情報から聞かせていくとするか。
「実は私、魔族なの」
「ブフッ!!」
勢いよく吹いてしまった。何を堂々とカミングアウトしているんだこの馬鹿は!
「しかも魔王軍の第3柱、幻魔姫アスモデウス」
「待て待て待て、そこまで言えとは言ってない!」
汗を垂らしながら情報屋を見れば、腹を抱えてゲラゲラ笑い出した。
「あっはっはっはっ、最高じゃないか!勇者様の敵が、こんなに美人な子だってのかい!?」
「そしてその勇者が私です。私達は魔王討伐の旅をしている勇者一行です」
「ミティアさん!?」
「ゴブリンの内臓って、決まった箇所を順番通りに押すと色が変わるのよ〜」
「その情報は誰が欲するんだよ!」
これ以上無い情報を次々とぶちまけていく仲間達。まだこいつが例の情報屋と確定したわけではないのに。だがしかし、情報屋の男はひとしきり笑った後、ドカりと椅子に腰掛けてフードを外した。
「こんなに笑ったのは初めてだよお兄さん。どうやらお嬢さん達が言っていることは本当のようだし、俺の持ってる情報なら何でも教えてあげようじゃないか」
「っ、本当か?」
「信用しておくれよ、客に素顔を見せるのも初めてなんだぜ?俺はギエン。この町……いや、この国で1番の情報屋さ。あんたらとはこの先も付き合っていきたい」
一気に疲労が襲ってきた。俺が何となくアスモに目を向けると、彼女はいつもの表情のまま首を傾ける。
「もし今言った情報を持って逃げたり広めようとしていたら、その場で殺していたから問題ないよ」
「お前な……」
リエルに目を向けると、彼女はいつの間にか手に持っていた釘バットをさっと仕舞う。続けてミティアに目を向けると、頬を掻きながら彼女は目を逸らした。
「す、すみません、レインさんのお役に立ちたくて……」
「許す」
本当にいい子だ。さっきは急に壊れて何があったのかと思ったが、元に戻ったミティアはやはり天使である。
「さて、何が聞きたい?勇者様一行なんだったら、魔王軍関連の情報かね」
「そうだな。俺達は今、魔王軍の本拠地を探している。何か手がかりはないだろうか」
「魔王軍の本拠地か……なるほど、それじゃあこの情報が役立つかもしれない」
ギエンが懐から取り出したのは世界地図。俺達は彼の周囲に集まり、その地図を仲よく覗き込む。
「数日前の話さ。このアルヴァン王国よりもっと東にある、砂漠の国メルト。そこで1番有名で広大なメルトデザートに、突然巨大な大穴が出現したらしい」
「メルトデザートって、世界で1番暑い場所ですよね。そんな所に魔王軍は拠点を?」
砂漠の国メルトを指さしていたギエンが、ミティアの言葉を聞いて待ってましたとばかりに笑う。
「実はね、その大穴の周囲だけ気温がぐんと下がったそうなんだ。なんと気温は氷点下、雪まで降ったそうだよ」
「きっと暑かったのね。うふふ、可愛いことするじゃない」
「魔王様なら、普通では有り得ない現象を簡単に起こせる。その大穴の調査は行われているの?」
「それが、あまりの寒さに近づくと体が凍結するようでね。国は調査を断念したらしい」
なるほど、怪しいな。アルヴァンからメルトまではかなり距離があるが、これは非常に有力な情報だった。たとえ魔王軍がそこにいなかったとしても、そんな現象が実際に起こっているのならこの目で見てみたい。
……だが。
「妙だな」
「レインさん?」
「まだ拠点があると確定したわけじゃないが、そんな異常な現象を起こしてまでその砂漠に居座る理由が分からん。こうして奴らが潜んでいるかもしれないと疑われもしているしな」
「確かにそうですね。何が目的なんでしょうか」
そこに魔王軍にとって得になる物でもあるのか、砂漠が気に入っただけなのか。いや、こうして疑われることこそが目的だという可能性は?
「……とにかく、次はメルトへの長旅だな。今までとは比べ物にならないくらいの長距離移動になる。時間をかけて準備はしっかりしておこう」
「えー、じゃあ移動中はおんぶしてね」
「飛べばいいだろ、羽あるんだから」
「羽を動かすのも体力使うんだよ。しんどい、面倒」
「知るか。魔王軍のNO.3が何言ってんだ」
早くも次の目的地が決定したが、もう少しこの町に滞在して準備を整えることにする。さすがにかなりの距離があるので、馬車を借りるのもアリだろう。
「情報提供感謝する」
「いやいや、あれだけ最高のネタをくれたんだからお釣りが出るさ。まあ、別に広めたりはしないから安心してくれ。今後とも情報屋ギエンをご贔屓に」
「ああ、また会おう」
ギエンと別れ、一度宿に戻った。世界地図を譲って貰えたので、俺達はどのルートでメルトを目指すかを話し合い、その後町で装備や食料品を買い、馬車も買った。これでも一応勇者一行、身分さえ証明できれば馬車も格安で譲ってもらえるのだ。
そして、出発を明日に控えた夜遅く。ちょっとした事件が起こることになる。
登場人物紹介(1)
【大魔道士レイン】
・年齢:20歳
・身長:177cm
・魔力:9999
魔法の扱いで右に出る者はいない、王国最強の魔道士。
勇者一行の中では1番まともで、基本的にツッコミ役。