第10話 仲良くしてもらいたい
3年ぶりの更新ってマジ?ってなりました。お待たせしました、続きになります。
魔王城で暴れてから3日経った今日、俺達は再び魔王討伐の旅を開始した。
あの時はアスモに付着させた俺の魔力を使って位置を把握し、そして転移魔法で彼女の近くに移動することができた。そして、俺は魔王城での戦闘の際こっそりと魔力をあちこちに付着させておいたのだが、その全てが使用不可能となっている。
恐らく魔王ルーンガルドに全て消されてしまったのだろう。明らかに他の魔族とは格が違ったので、その程度のことなら玉座に腰掛けたままでもやってのけるだろうな。
ちなみにアスモが魔王軍に所属していた頃とは違う場所に拠点を移しているらしいので、地道に情報を集めながら俺達は魔王城を目指さなければならないわけだ。
「ねえレイン、お腹空いちゃった」
「何故俺の下半身を見ながらそんな事を言うんだ」
「丁度いいところに美味しそうなソーセージがあるなと思───むぐっ」
「はいはい、パンでも食べてろ」
「むぅ……」
あれだけの事があったのに、もうアスモは平常運転だ。相変わらず変態なので口にホットドッグを突っ込んでやれば、彼女はそのまま美味しそうにモゴモゴと口を動かし始める。
「ちょっとアスモさん、距離が近すぎなんじゃないですか?」
ミティアはあれから何かとアスモに絡むようになった。
まあ、本来ならば殺し合う敵同士なので仕方ないかもしれないが、今は仲間なのでミティアもかなり我慢しているんだろう。
しかし、まさか優しいミティアがアスモに対してあれだけ敵対心を剥き出しにしたのは驚いたな。
「見て見て、またゴブリンが襲ってきたの」
そして、リエルも相変わらずだ。
襲ってきたらしいゴブリンの頭を鷲掴みにし、笑顔でずるずる引き摺っている彼女を見たら人々はどう思うのだろうか。
可哀想に……俺なら一撃で楽にしてあげていたのだが、リエルに捕まると待っているのは地獄のみ。
「うふふふふ、可愛いわねぇ」
「ひ、ヒギイイィ……!」
後ろからなんとも言えない音が聞こえてくるが、気にせず次の街を目指すとしよう。
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「さて、野営の準備は出来たわけだが……」
次の目的地である街はまだまだ遠いので、今夜は仕方なく森の中で野営をしようとしていた。
しかし、気が付けば俺達は盗賊の集団に包囲されていた。爆睡しているアスモはそのまま寝かせておいてあげるとしよう。
「死にたくなけりゃあ金目のモン全部置いていきなぁ!」
「うっひょお、可愛い女の子が3人もいやがるぜ。俺達にも分けてくれよお兄さん」
「俺はそこで寝てる子を貰うぜ!」
やれやれ、馬鹿を極めるとこうなるのか。先程から軽く殺気を放っているのだが、盗賊達は後ろのミティア達に夢中でどうやら気付いていないらしい。
「お前達の方こそ地獄を見たくなければ彼女達に手を出すな」
「おーおー、格好いいこと言う兄ちゃんだなおい!」
「調子に乗ってんじゃねえぞ!」
ふむ、相手は合計10人か。
数で勝っているから簡単に無力化できると思っているんだろうが、警告を無視したお前達は本当に地獄を見ることになるぞ。
「それじゃ、俺はこの子を────」
「ん、ん〜、うるさい……」
「へ───あれ?」
アスモを襲おうとした盗賊だが、次の瞬間目を覚ました彼女が放った魔力の刃が盗賊の腕を切断した。
「ぎゃああああああッ!!!」
「な、何をしやがった!」
「折角レインとイチャイチャしてる夢を見てたのに……」
さらに起き上がったアスモは腕を切られた盗賊と、そのすぐ横に立っていた盗賊の頭を掴んでそのまま握り潰す。
睡眠の邪魔をされて相当頭にきているらしく、その場に崩れ落ちそうになった盗賊2人を彼女は他の盗賊目掛けて放り投げた。
「ひ、ひいいっ!?」
「襲う相手を間違えていますよ、盗賊さん?」
「ごはっ!?」
アスモが放つ凄まじい魔力と殺気を浴びて恐怖に震える盗賊達だったが、その中の1人がミティアのボディブローを食らって吹き飛んだ。
木に直撃したその男は白目をむいて倒れ込み、泡を吹きながらやがて動かなくなる。
「な、何だよこいつら、化け物か!?」
「失礼ですね、これでも勇者なんですが」
今度はミティアの蹴りが盗賊の顎を捉え、脳を揺らされたその盗賊も一撃でその場に崩れ落ちる。
「うふふふ、レイン君。この子達、可愛がってもいいの?」
「お好きにどうぞ。まあ、一応人間だから程々にな」
頬を赤く染めたリエルがゆらりと盗賊に接近する。暗くて見えなかったのか、盗賊は凶器を振り上げるリエルを見た瞬間に子供のような悲鳴をあげた。
「ぎ、い、いぎゃああああ!!」
「大丈夫よ、すぐに治療してあげるからね」
「や、やめて、助けて!ごめんなさいごめんなさいごめんなさあああああああああッ!!!」
怪我はすぐ元通りになり、何度もリエルは盗賊と遊んでいる。だが可哀想とは思わないな、俺達を襲った自分を恨め。
「さて、金品は盗めたか?」
「あ、あ……」
ミティアに殴られアスモに消し飛ばされ、残った盗賊はリエルと遊びながら泣き叫んでいる。
そして盗賊のリーダーと思われる男にそう言ってやれば、男は漏らしながら腰を抜かしてしまった。
「襲う前に相手をよく観察するべきだ。いや、殺気を感じない程間抜けなお前達には無理な話か」
「な、何なんだよぉお前らは!こ、こんな事をして心は痛まないのか!?」
「ああ、全く。残念ながら俺は善人じゃないし、最初に警告したはずだぞ?地獄を見たくなければ手を出すなと。よく分かっただろう?彼女達はか弱い一般人じゃない」
こういう連中は、これまで何度も人を襲ってきたんだろう。財産を盗むだけではなく、女性達の心に深い傷を負わせた数も多いはずだ。そんな連中を見逃してやるつもりは無い。捕らえて街に引き渡す手もあるが、遠いし面倒だ。
「た、助け────」
「お前も思う存分地獄を味わうといいさ」
リーダーの服を掴み、木々の向こうへ放り投げる。複数の魔力を感じたので、恐らく近くに魔物が集まっていたんだと思う。
暫くすると、男の断末魔が周囲に響き渡った。
「レインさん、終わりましたか?」
「ああ、そっちも片付いたみたいだな」
振り返れば、ミティア達がすぐ後ろに立っていた。向こうに倒れている盗賊達も魔物に食われる可能性が高いが、そのまま置いておくとしよう。これまで自分達がどんな傷を負わせてきたのか、その身で思い知るいい機会だ。
「あー、なんだ。場所を変えるか」
「そうですね、気分が悪いですし」
その後、俺達は森を抜けた場所で野営することに。寝惚けたアスモにやたら絡まれたり、リエルから盗賊とのお楽しみを具体的に延々と聞かされたりして疲れたので、今晩はぐっすり眠れる気がする。
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全然ぐっすり眠れなかった。夜中に目を覚ますといつも通りアスモが腕にしがみついており、それはまあ耐えれたのだが。何故か反対側ではミティアが寝息を立てており、至近距離で寝顔を見た瞬間から完全に目が冴えてしまった。
「レイン、お腹空いた」
「おいやめろ、なんだその手の動きは」
慣れとは怖いものである。最初の頃はアスモの変態的行動に動揺しまくっていた俺も、今はあまり何とも思わなくなってきた。むしろこいつはこうあるべきだとも思うし、話は変わるが隣のミティア無表情なのが怖い。
「ところでレイン君、次の目的地はどこにするの?昨日は盗賊の件もあって結局話せていなかったけれど」
リエルにそう言われ、俺は腕を組む。考え事をする時はこうしてしまう癖がある。
「この前みたいに転移はできないし、情報を集めるのに適した大きめの町に行っておきたい」
「それなら、ここから1番近い大きな町はアルカね。有名な情報屋がいるって話を聞いたことがあるわ」
「なら一度行ってみるか」
ミティアもアスモもそれでいいとの事なので、次の目的地はアルカに決まった。今いる場所からだと、徒歩で半日ほどの距離だという。
「レイン疲れた、おんぶ」
「駄目ですよアスモさん。それ以上レインさんを困らせるのなら、私の手が勝手に動いてしまうかもしれません」
また笑顔になっていたミティアだが、剣の柄を凄まじい力で握りしめているらしく、手がぶるぶる震えている。アスモの件以来、ミティアの様子が少しおかしいように思うのは俺だけだろうか。
相変わらず天使である事には変わらないのだが、アスモに対して攻撃的過ぎる。勇者なので彼女を敵視するのは仕方ない、しかし今は共に魔王討伐を目指す仲間なので仲良くしてもらいたいものだ。
「ん、近くに何体か魔物が潜んでる気配がする」
「あっ、手が滑ってしまいました」
アスモが耳を揺らしながらそう言った瞬間、ミティアが抜き放った聖剣を全力で振り抜いた。それによって飛ばされた光の刃が木々を薙ぎ払い、こちらに迫っていた魔物達の気配が全て消える。
「……少しはスッキリした?」
「ええ、多少は」
首を傾けて斬撃を避けたアスモに言われ、ミティアがにこりと笑う。怖い、何なんだこの空間は。リエルに目を向けると、やれやれといったふうに肩を竦めていた。
そんなこんなでアルカに到着したのは日が暮れ始めた頃。今日は宿をとって休み、明日情報収集をするとしよう。