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prologue-the lostmemory

新作です。

プロローグですが、内容が酷いです。

えー、老若男女、紳士淑女の皆さま。ご来場誠にありがとうございます。

本日の演目は、とある少年の物語。とても可哀想で、可哀想で、ついうっかり殺してしまいたくなる程に残念な幼い男の子の話です。

そう、だからこれは残酷な物語。

覚えている()などいない失われた記憶の一部なのです。

それでは、皆さまどうかお楽しみください………

パチパチパチ(盛大な拍手の音)


七色に煌めくど派手なスポットライトに照らされ、一人の青年が映し出される。

見た目にさしたる特徴はないが、不思議と人の目を引き付けるような独特の雰囲気を纏っていた。

青年は表紙が灰色の地味な本を手にし、良く響く声で歌い上げるように滑らかに喋り始めた。



昔、昔ある所に少年と少女がいました。

一人は平凡ですが、可愛らしく心優しい少年です。

もう一人は、将来美しく育つだろうと一目で分かる程顔の整った少女でした。能力も非常に高く『神童』ともてはやされる天才児です。

この二人は家が隣同士ということもあり、とても仲が良かったのです。


「×××君、私たちが大きくなったら結婚しましょう」

「うん!」


それこそ、幼いうちから結婚の口約束を交わしてしまうくらいには。

この二人の幸せそうな様子をこっそりと見守っていた、親御さんたちはほっこりと和んでいました。

ただし、少女の父親だけは血涙を流していましたが。

兎に角、少年はとても幸せな幼年期を送りました。


その幸せが粉々に崩れたのは10歳の時でした。


人類は10歳になった時に半成人式を行います。

その時に絵柄(アルカナ)技能(スキル)を開放し、計測するのです。


少年の計測結果は、それはそれは酷いものでした。

所謂、無能です。

余りの酷さに、計測官が自分の目を疑い、しまいには計測器が故障していると思い込んでしまう程でした。


「おい、無能野郎!」


そんな風に馬鹿にしてくるのは、その日計測しに来ていた他の少年少女たちでした。

彼らは常々、平凡な少年では才色兼備な少女には到底つり合わないと考えていたのです。

ですが、少年のことがとても大好きな少女に、少年を馬鹿にしているところなどを見られれば嫌われてしまうかもしれません。

なので、今まで尻込みしていたのですが、少年が無能者だと分かると、今まで貯めてきた鬱憤を晴らすかのように容赦のない口撃を行いました。

心無い言葉の数々を受けて、少年は自宅へと逃げ去りました。


失意の日々が無為に続く中、少年は自室に引きこもっていました。

父親に母親、妹と彼の家族が次々と慰めの言葉をかけますが、効果はありませんでした。


そうして、さらに数日が過ぎ、ある日、幼馴染の少女が訪ねてきました。

計測の前日までは毎日彼女と遊んでいましたが、それ以降は少年は部屋に引きこもっていたので、実に数日ぶりの再会でした。

悲しみに暮れる少年も、好意を寄せている少女の来訪となれば部屋の外に出ざるを得ませんでした。


そして、すぐに少年は自室から出たことを後悔することになります。


「私、この人と結婚を前提で付き合うことになったから!」


少年の部屋の前に立っていた少女は、開口一番、少年にそう言い放ちました。

そうして、うっとりと陶酔した顔で腕を絡ませたのは、黒髪黒目の美しい少年です。

少女に引けを取らない程に顔の整った少年は勝ち誇った表情で、少年を見下すのです。


そして、軽い倒錯から覚めた少女は、少年との結婚の約束は所詮幼い頃の戯言だと切り捨てました。

更に、無能である少年を殊更にこき下ろして、自分が付き合うことになった美少年の素晴らしさを少年と比較するようにして語り始めました。


少年が、自室に逃げ帰ったのはしょうがないことだったでしょう。

扉越しにも聞こえてくる少女の彼氏語りを聞かないように、指で耳を塞いで無理矢理眠りに付くのでした。


更に数日、少年は衰弱していました。

引きこもりはより激しくなり、今まで取っていた食事も一食も食べなくなってしまいました。

このままでは餓死するのも時間の問題でしょう。

少年は逃げ出したい気持ちでいっぱいでしたが、家族に余計な心配をかけること、そもそも逃走先のあてがないために自室でだんまりを決め込んでいました。


そうして、そんな僅かな平穏もあっけなく崩れてしまうのでした。


がたっ、がたっと音がして、無理矢理少年の部屋の扉が外されます。

お腹が空いていて、身体がだるく、頭が働かない少年は、その様子をただぼーっと見つめるだけでした。

外れた扉を少年の室内に倒して、足を踏み入れてきた人物は例の黒髪黒目の美少年でした。


「お義母さん、これでいいですか」

「勿論よ、×○□君。ありがとう」

「いえいえ、気にしないでください」


そんな会話を少年がただ聞き流している内に、他の家族全員が揃っています。


「×○□君~!」


兄と違って非常に整った容姿をしていて器量も良い妹は、美少年の腕にぶら下がって猫なで声で語りかけていました。

断続的でとりとめのない内容でしたが、一生懸命さが伝わって可愛らしいです。

そんな健気な様子の少女を美少年は目を細めて、優しそうに頭を撫でてあげるのでした。

少年は嫌な気配を感じとりましたが、弱りきった身体では逃げることなど叶わずに生き地獄が始まりました。


まずは信頼していた家族からの手痛い罵倒です。

「屑」や「無能」、「無駄飯ぐらい」などの最早聞きなれたと言っても良い文句から始まり、段々と辛辣になっていきました。

流石の少年も「お前など産まなければ良かった!」と絶叫された時には、絶望で涙が止まらなくなりそうでした。


襟首を掴まれた少年は父親に引きずられて、見世物の様に街をぐるっと一周させられます。

いや、正にそれは見世物でした。

少年は誰かとすれ違うたびに馬鹿にされ、蔑まれ、心無い言葉を浴びせられるのです。

そうして、少年に罵声を送ると人々はスッキリした顔でこう言ったのでした。

「ああ、こんな無能にならなくてよかった………」

人々の不満の捌け口、ストレス解消のための人身御供。

正に、喜劇的で悲劇的、そして狂気的な素晴らしい見世物だったことでしょう。

少年は身体だけではなく、精神(こころ)もぼろぼろに傷つきました。


最後に少年は捨てられました。

軽蔑の対象となる無能者は邪魔なだけで、誰にとってもいらない存在だったのです。

生ごみと同等かそれ以下の扱いなので、基本的に人としての尊厳など守られるはずもありません。

更なるストレス解消のために、指や腕を切断したり、歯を無理矢理引っこ抜いたり、腹を裂いて中身を取り出してみたりと様々な暴行を人々は少年に加えました。

長い、永い苦痛の時間の末に少年は壊れてしまい、ピクリとも反応を示さなくなりました。

役に立たなくなったゴミは廃棄されるのが決まりです。

同じ人型とはいえ人々に躊躇はありませんでした。

むしろ嬉々として、これで汚物がまた一つ減ると喜んでいました。

なので、少年は底の見えない崖下に放り投げられました。


少年の身体が何度も岸壁にぶつかり、最後にはぐしゃりと生々しい肉や骨が潰れる音を聞いて、人々は狂喜乱舞し、祝祭を始めるのでした。


それ以降は例の美少年が少年の幼馴染の少女、少年の妹を筆頭に他の美少女や美しい女性を引き連れるようになりました。

正に両手に花どころか、全身に花畑の状態で周囲を沸かせ、楽しく満たされた日々を過ごしていました。


役立たずの少年は信じていた人々の手によって殺されたのでした。

めでたし、めでたし………fin

パチパチパチ(盛大な拍手の音)



どうでしたか?皆さまお楽しみいただけたでしょうか?

この少年の物語はここで終わってしまいましたが、まだ終わっていません。

え?どういうことかって?

それは、少年の一生を綴った、彼専用の天命の書とでもいうべき本がここにあるからですよ。

ほら、この本とても分厚いでしょう?

私が読み上げた場所だと、半分にも満ちていません。

なのに、まだまだページは残っていて、そこには………ほら!更なる物語の続きが書いてあります。

ね?少年の物語は、一度は終わりましたが、まだ続いています。


………おっと、無駄話が過ぎましたね。

ではでは、これで本日の公演は終了したいと思います。

何時か、また出会える良き日を!


スポットライトが消え、幕が下りる。

舞台が終了しても、一向に去ろうとしない青年は、セットの一つである苔に包まれた岩に腰掛けていた。

そうして、差し込む月明かりを背に、嗤っていた。


「あはははははははっはははははははははははっは!楽しい楽しい物語を期待しているよ?」


グレイ君………


その声はひっそりと空気へ溶けていった。

日の光が辛うじて届く程度の深い、深い渓谷。

上空から見れば巨大な生物の咢を思わせるような大地の裂けめの奥底を一人の人が歩いていた。


夜の闇に紛れるような墨色のローブを纏っている。

燻し銀のようなくすんだ色の髪を後ろで一つに纏めている。

彫像のように彫りが深く、意思の頑健さを現したかのような凛々しい顔立ちをした二十代くらいの男だった。

その筋肉は凄まじく、服の上からでも鍛え上げられた鋼の肉体が分かるほどだ。


「………?」


ゴツゴツとしていて歩きにくい谷底の道を淡々と歩いていた男は急に立ち止まった。

人の死臭を鋭敏に感じ取った彼は、発生元を確かめるために周囲に視線を配る。

だが、薄暗く視界が悪いとはいえ彼が人間位の大きさのものを見逃すとは思えない。

何かがおかしいと、男が考えた瞬間。


本能が警鐘を鳴らした。


何所から、何時の間に取り出したのか、男の右手には無骨な大型のシャベルが握られていた。

直感に従い全力で何もない場所を振り払う。


何もないと思えたところの空間が揺らぎ、シャベルの面がクリーンヒットした。

しかし、そこにいた死臭の持ち主は平然と立っていた。


「!?」


襲撃者の姿を見た男は色々な意味で驚いていた。


それは子供の姿をした動く死体(ゾンビ)だった。

基本的には人為的でないと発生することのない、生命の理に反した存在だが、稀に自然に発生する場合もある。

自然発生だと、現世に未練や執着が甚だしい死体がゾンビ化する場合が大半を占める。

この個体も例に漏れないようだった。


右腕が肩口からバッサリと切り落とされていた。断面は塞がっているが、余りに綺麗なその跡は大型の鋭利な刃物で切断されたものだと容易に想像が付く。

左腕は何とか原型を留めているといった感じで、肉が削げ落ちて内部の筋肉や脂肪、骨が覗いている。

また、左手の指も欠損していて、親指、薬指、小指の3本しか存在しない、歪な掌をしている。

折れているのだろう、肘関節辺りからしたは力なくブラブラと揺れていた。

腹からは腐った臓物が溢れているのが、ボロボロになって最早服とは言えない、襤褸切れの下から見えた。

顔は歪み、腫れ上がり、骨格の一部が砕けているのか原型を留めていない。

眼は潰れ、耳はもげ、舌に穴が開き、歯は適当に抜かれたり削られたりし、鼻は折れている。

髪も酷いもので、背中にかかるくらいまで長い場所もあれば、毛が全て毟られて禿げている部分もあった。


そして、死体に重なるようにして少年の姿があった。

それは怨霊(レイス)と呼ばれる、魂が具現化した不死者(アンデッド)だ。

思念体であるために現実世界(リアルワールド)に対しての干渉能力は小さいものの、幽幻世界(アストラルワールド)に存在し、物理的手段では届かないそこから間接的に現実世界に影響を及ぼす厄介な不死者だ。


その少年の見た目も7~8歳くらい。背丈も同じ。

不死者(アンデッド)化して髪色や眼の色が変質してしまっているため、死体とは配色が全く違うが、状況的に考えてこの少年の霊が身体の持ち主だったのだろう。

それに魂と肉体の結びつきがほぼシンクロしている。こういう思念体が憑依している場合、自分に近しいほどシンクロ率が高くなる。憑依の素体となる死体とほぼ重なっているなど、本人自身でもない限り不可能なことだろう。

その姿は自身が望んだ過去の肉体を再現しているため、傷つく前の健康な姿をしていた。

その生前の姿と、現在の死体時との差異が見ていて痛々しい。

だが、嫌でも目につき最も異常なのは、眼だった。

世界全てに対する疑念や猜疑心を凝縮したかのような淀んだ眼は、憎しみと自己嫌悪に歪み、空虚な狂気に満ちていた。


描写が長くなってしまったが、男は少年ゾンビの余りにも惨い姿と幼さに驚いた。

次に、片手だったとはいえ筋骨隆々の大の男の攻撃を真面に喰らったにもかかわらず一歩も動かなかったことに驚愕した。

最初姿が見えなかったことといい、攻撃を受け止めたことといい、このゾンビが技能(スキル)を発動しているのは明白だった。

スキルが使用できる者とそうでない者の間には決定的なまでの差が存在する。

男は自然とゾンビに対する警戒度を引き上げた。



数刻後。

その場には肉体を完全に破壊され尽くしてミンチ状になった、動く死体(ゾンビ)と傷だらけなものの五体満足な男の姿があった。

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