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ラヴィーに思いを込めて

作者: T.S シャルロッタ

 夕焼けに照らされた二階東廊下。私は今、一人でぬいぐるみを縫っている。私は家庭部だったが、今日は偶然部活がなかったので、しかたなく、自分の裁縫箱とクマのぬいぐるみだけを持ってここに来たのだ。


「千草さん、ちょっとお願いできるかな?」

 私が好きな彼に声をかけられたのは、終学活が終わり、全員部活に行ってしまい、彼と二人きりになったときだった。彼は天然パーマの髪をかき上げ、メガネを片手で直した後、すっとそれを差し出して見せた。……ティディベアだ。

 彼はこのティディベアを教室に飾っている。とても小さいころ今はもういない親友にもらったらしいが、家に置いておくと弟に取られそうになるので、教室を華やかにするため、と言い訳をして先生に許可をもらったらしい。

「えーと?」

 私は、どうすればよいのかわからず、曖昧に微笑みながら聞き返した。

「えー、どうしよう。これ、千草さんできるかなあ……難しいかなあ……」

 彼はティディベアの腕の部分に指で触れながらつぶやいた。なるほど、腕が取れかけている。

「なあに、どうしたの?」

 言いたいことはわかったが、一応聞いてみる。

「どうしようかなあ……。千草さんにたくしてみようかなあ」

 焦れったくなって、少しイライラした口調で「そのぬいぐるみの腕を直してほしいの?」と聞いた。彼は申し訳なさそうに微笑み、言った。

「うん、そうなんだけど、やっぱり難しいよね。どうする? やってみる?」

 私はそれを聞き、慌てて「やってみるよ」と言った。彼はうれしそうに、「ありがとう! じゃあお願いね」と言った。「こいつの名前、ラヴィーって言うんだ。ラブっていうのをもじった名前らしい……」


「……いたっ!」

 針が薬指に少し刺さった。舐めておけば治るような傷だが、乙女心としては絆創膏でも付けておきたかった。持ち歩いている絆創膏を薬指に貼り、夕陽にかざしてみた。

――指輪みたい。

 はっと我に返り、一人苦笑してからまた作業に戻った。

 丁寧に、丁寧に針で縫っていく。ラヴィーの腕は完全に取れたわけではなかったので、比較的直しやすかった。彼の親友からもらったという大切なティディベア。ブルーのリボンには、彼の名前と親友と思われる少年の名前が筆記体で書かれていた。

 チクチクチクチク……

 いつも、裁縫にこんなに真剣になることはないが、彼の大切な思い出のラヴィーならば、私ができる最高の状態で返さないわけにはいかない。

――ラヴィーに思いを込めて。

 丁寧に縫っていく。夕焼けに照らされた午後五時の東廊下。今は誰も来ない、私一人。とびきりの笑顔で喜んでくれる彼の顔が頭に浮かぶ。

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