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第八話 現実

セイガ達が教会に入った時、ディナが外へ転がり出た。剣が心臓に刺さったままだった。それに驚いたのも束の間、教会の内部に目をやると、もう何人死んでいるのか解り難い、残忍な死体が転がっていた。そして、その死体の中央には、ある男が立っていた。

「…お兄ちゃん?」

メリーが真っ先にその人物が分かったようだ。そう、彼は紛れもなくメリーの兄、アイグ・ラインズであった。

「…お前たちの仲間だったか」

アイグはこちらを振り向かずそう言い、ラールの腰から抜いた剣を自分の鞘に納めた。

「先輩…どうして」

メルが問いかけるも、アイグは何も答えない。

セイガは何も言葉が出なかった。今まで自分を助けてくれていた先輩が、自分の敵となって現れたのだ。無論、敵国同士の兵は敵同士だという事も分かっている。しかし、改めてその事実に触れた彼は、ピクリとも動けなかった。

「退却ー!」

叫び声が聞こえたのはそんな時だった。アイグは、少し戸惑った様な顔をして、辺りを見回した。そして、くるりと3人の方を見る。そして、

「…今は殺さないでおいてやる」

と言って剣を抜いた。そのままゆっくりと3人に歩いてくる。メルとメリーは剣を抜いて構えるも、親しい人間に刃を向けることに少なからず戸惑いを感じていた。セイガは未だに動けない。

「…仕舞え、殺さないと言っただろう」

アイグが3人に剣を向け、制止するように剣で壁を作りながら扉に近づいてくる。そして3人の…セイガの横まで来た。すれ違いざま、アイグは

「…もっと成長してから来い。その時は、相手になってやる。」

と言い、そのまま扉を出ていった。セイガはすぐにその意味を理解した。力量ではない、精神を鍛えろ、という事であると。アイグは、自分に剣を向ける勇気を持ってから来い、と言っていたのだ。

「な、何者だ!」

外で声が聞こえた。先ほどの隊長の声だとよく分かった。それまでに兵士の断末魔が聞こえたことから、おそらく外でも数人を軽く斬り伏せたのだろうと推測できた。

「お、追うな!あいつは化け物だ!」

また隊長の声が聞こえた。その時、やっとセイガの足が言う事を聞くようになった。セイガは、混乱してはいたものの、すべきことは分かっていた。外に出たところで、彼は何かとぶつかった。咄嗟に起き上り、剣に手をのばす。

「隊長落ち着け!」

その声で我に返った。レオンだった。エルもいる。

「何があった、カイたちは?」

レオンは冷静に問う。セイガは俯くことしかできなかった。

「おい、まさか…」

レオンが中に入っていく。エルも続いて中に入った。他の皆も続いていく。それからしばらく、二人が、いや、その場にいる全員が何も言えなかった。皆、内部の惨状を凝視している。

「…さっき、アイグさんが出ていった。まさかあの人がやったのか?」

レオンが戻ってきて、セイガにそう聞いた。セイガは

「…間違いない、先輩だ。」

と、小さく答えた。レオンはそれ以上何も聞かなかった。そして

「全員の精神的に、ここにいるのはまずいだろう。どこかに移動しよう。」

レオンのその言葉に、異議を唱える者はいなかった。全員が移動を開始した。


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