第六話 初陣
それから3時間後、第一防衛線に到達した報告が入った。敵の総兵力はニ万を超えるという。対して第一防衛線の兵力は約五千。突破されるのは目に見えている。セイガ達のいる第二防衛線にもじきに敵が来るだろう、とのことだった。
「遂にか…」
教会内に五人が入った後、他の部隊五十名が新たに教会前に配備された。
「お兄ちゃん…いるのかな…」
メリーはアイグの事を気にしているようだ。
「…先輩なら、ここまで単騎で斬り込んできそうだがな」
「…冗談抜きにあり得るからやめてよ…」
まだ冗談を言い合えるほど余裕があるように見える三人だが、実際はこうでもしないと不安に押しつぶされてしまう様だった。
「…意外と早く来るかもな…」
ふと見ると、既に第一防衛線にはカインドルト兵であふれかえっていた。しかし、第一防衛線の兵士が奮闘したおかげか、見るからにその数は格段に減っていた。しかし、連戦連勝で士気が最高のカインドルト兵の一部は、第二防衛線に向かって来ているところだった。
「みんな大丈夫かなぁ…」
「あいつらは大丈夫だ。それより構えろ、もうそこまで来てる。」
セイガの言葉に、メルとメリーは弓を構え、いつでも引けるように矢を番えた。白兵戦となると、筋力、体力ともに男性には及ばない女性が多く犠牲となる。故に、女性の普段の武器は弓で、白兵戦は男性兵士の役目、とどの国も思っているのである。
「突撃ー!」
「ypaaaaaa!!」
その雄叫びが聞こえたのはその時だった。
「来たか…」
セイガがすらりと剣を引き抜いた。前方―東の方向から敵が迫っていた。教会の窓からは弓を構えたカイとラールが狙いをすましている。こちらに突撃してくる敵兵は約30名のようだ。
おそらく別働隊だろう、ここは敵にはあまり気に留める場所ではない、とセイガは思った。
「来るぞ!総員戦闘を開始せよ!」
応援に来た小隊の隊長が叫ぶと同時に、セイガ達も動き始めた。剣を抜正面に構え、襲いかかってくる敵を迎え撃つ。セイガには、2人が襲いかかってきた。セイガは咄嗟に屈み、敵の懐に入ると、一人の腹部めがけて思い切り振り、えぐり込んだところで引き抜いた。血が噴き出し、セイガに飛散する。それに対し、人を殺した自分への恐怖か、初めて人を殺したという快感か、どちらとも取れない感情を味わった彼は、襲いかかるもう一人に狙いを定め、一歩踏み出した。敵は恐れをなしてへたり込み、剣をセイガに向けたまま後ずさる。
「やめて、来ないで、ひぃい」
彼は情けない声を上げる敵を見逃そうとは思わなかった。敵は自分を殺しに来る、いつ狙われるかわからない、という恐怖に駆られた彼は、敵兵の剣を払い、その腹に突き刺した。
「あ…が…」
口から血を吐きだした敵は、そのまま地面に倒れ伏した。二度と起きることはないだろう人間を二人も作ったセイガには、罪悪感が無かった。仕方がない、これが戦争だ、と考え続けることで、自分への恐怖を遠ざけているのだった。
「セイガ!教会からガラスの音が!誰か侵入したかも!」
その言葉に我に返ったセイガは、教会に向けて駆け出した。