第五話 初めての戦場
一時間後、準備を終えた小隊員達は、教会前に集まっていた。
「隊長、俺らの配置は?」
レオンが早く行こうとする気持ちを抑えながら聞く。彼はすでに隊長と言う呼び名に慣れたようだ。
「さっき分けた三班で行動する。第一班は俺とこの周辺、第二班はレオンと南方へ、第三班はエルと西方へ向かってくれ。その先に要所があるはずだ。ほかの隊と合流しろ」
セイガはすでに脳内に地図を詰め込んでいた。この辺りの地形なら大体解る。だからこその采配だった。
「了解、健闘を祈るよ」
「お前らあっちだ!行くぞ!」
エルとレオンがそれぞれの班を引き連れて離れていく。
「隊長!」
その時、後ろから声を掛けてくる青年2人がいた。カイ・ロンド、ラール・ロンド。顔も性格も似ており、並べると双子だとすぐにわかるほどだ。
「どうしたお前ら、班で分かれる行動に不服か?」
「いえ、それについては大賛成なんですが…」
「だったらどうした」
「自分たちは教会の中で待機していていいですか?」
二人の言葉にセイガは驚いた。班で一番勇敢だと思われた二人が、教会の中に居たいと言い始めたから当然と言えば当然だが。
「急にどうした、不安になったか?」
「いえ、不安なわけではありません。むしろ初めての戦闘で闘志が強いですよ。」
「だったらどうして」
「…この教会で敵を迎え打ってはどうか、と思いまして。」
「元々、そのつもりなんだが…」
セイガはこの双子について良くは知らない。しかし、彼らの目は真剣そのものであった。
「この教会の中で敵を迎え打ちたいんです。それなら部隊の生存率が大きく上がるし…」
「他の班は?」
「え…?」
「他の班はどうなる。レオンやエルたちが各々の要所で、死ぬ気で戦っている中で、俺らは生存者を増やすために立てこもるなど、俺には出来ん」
やはり考えが足りないようだ。セイガはそう思った。
「だがな…」
セイガは続けて言った。
「確かに、死ぬ人間より生きる人間が増える方が断然良いだろう。…バルカン、グラン、ディナを付ける。好きにしろ」
セイガが下した決断は、メル、メリー以外の第一班をカイとラールに任せるという、明らかに無謀なものだった。
「ありがとうございます隊長!」
二人は早速準備すべく、教会内へ入って行った。
「いいの?外は私達だけにして」
後ろで聞いていたメルがセイガに問う。
「…いいと思ったから、何も言わないでくれたんだろ」
「それはそうなんだけどさぁ…」
「だったら構わない。…と言っても、俺がまだ戦いについて良く知らないだけ、だがな」
セイガはそういうと、教会に目をやった。二人はてきぱきと動いていた。
「いいじゃねえか、最初の戦いぐらい好きにやらせても」
―この判断が、後に『悪夢』を招くことは、彼らはまだ知らない―