第四話 ランバル
二日後、セイガ小隊はランバルへの配属が決まった。ランバルは「都市要塞」であり、戦時中はランバルの町全てが難攻不落の要塞と変貌する。今戦争では、このランバルが重要防衛地点となり、多くの兵が配置されていた。
「えっと、どっちが教会だっけ?」
「地理を頭に叩き込んでおけと言っただろ。右だ、行くぞ」
「あ、ちょっと待って!これ地図じゃあ左って書いてるよ!」
「地図の向きが逆だバカ」
メリーの方向音痴は昔から変わってないようだ。セイガ小隊は無事、目的の教会にたどり着いた。
「メリーちゃん、しっかりしてよね」
メルが笑いながら話しかける。実際、セイガもそう思っている。
「だって…「のんきだなぁ訓練兵第35小隊諸君」
メリーが反論しようとした矢先、声が聞こえた。全員が振り返る。訓練兵第35小隊とはセイガ小隊の正式名称だ。
「そんなにのんきではこちらも欠伸が出そうだよ。ま、優秀な君達ならその23人で敵全軍退けてくれるんじゃないかなと思ってるんだけどねぇ」
「…誰だっけ」
嫌味ったらしいその人物に対して、最初に飛んだのはメルの一言だった。
「…すまん、お前たちが誰だか全く覚えていない」
セイガも知らないようで、きょとんとしている。
「…驚いた。君たちの石ころへの関心がこれほど薄いものだとは…失望したよ!」
いちいち大げさな人間だと思いながらも、相手を放っておくこともできず、聞いているだけとなった。
「…で、誰だよ」
メルの次はエルが聞く。
「君達に教えても無駄だとは思うが、一応伝えておくよ。訓練兵第75小隊のカルロさ。君達には到底及ばない、1年だらけの小隊の隊長さ!」
彼は嘆くように言って、そのまま去って行った。
「…なんだったんだあいつ」
「…さあ?」
嵐のような一瞬はすぐに過ぎ去った。
「…まあいいか」
「楽しそうだな35小隊」
かに思えたが、また声が聞こえる。しかし今度は威厳のある声だった。
「私は貴様らの教育係としてアムルストン騎士養成学校教官、ベルンハルト殿から役目を引き継いだエドガーだ。」
「エドガー上官…よろしくお願いします。」
今度は迷いなく挨拶をした。まあ、当然のことである。
「さて貴様ら…今すぐ戦いの準備を始めろ。それが私からの最初の指令だ。」
エドガーは突然切り出した。
「…どういう事でしょう」
「奴ら、もう近くにいるようだ。じきに戦闘となるだろう」
もう躊躇している暇などなかった。彼らには、戦うという選択肢しか残されていなかった。次の瞬間、全員が動き始めた。