第二話 平和の終焉
事件は、その二日後に起きた。それは、昼食も終わり、午後の授業に臨もうとしていた学生に衝撃を与えた。講堂に集められた全学生の前で告げられた言葉を、瞬時に理解できたものは多くなかっただろう。
「昨晩、カインドルトにソルムント山脈の駐屯地が襲撃された。事実上の宣戦布告だ。」
ソルムント山脈はラルガンド、カインドルトの国境付近に位置する山脈である。今回はその付近の駐屯所が襲われ、駐屯していた10000の兵の内7500が討ち取られたというのだ。
「我々はこれを断じて許してはおけん!ラルガンドの誇りを見せつけろ!解散!」
教官の話が終わると、ほとんどの学生はすぐにカインドルトへの憎悪を露にしながら講堂を出ていった。セイガはしばらくして出たが、アイグの姿が見えないことに気が付いた。メリー、メルの二人はいる。
「先輩は?」
「え、お兄ちゃん?」
メリーとメルも気付いたようで、きょろきょろと辺りを見回す。しかし、アイグはそれ以降、三人の前に姿を現すことはなかった。
「戦争は始まるし…お兄ちゃんいないし…もうどうしたら…」
しばらくたってもアイグが見つからず、メリーが泣きそうな声でそう言い蹲る。
「メリーちゃん、こんな時こそ落ち着かないと…」
メルがメリーをなだめているのは珍しい光景だった。それほどの事態なのだ。
「セイガトラスト、話がある。」
教官に呼ばれたのはその時だった。セイガはメリーのことをメルに任せ、教官に歩み寄った。
「何でしょうか教官」
「貴様はAランクでトップだったな。そこで、貴様には小隊を指揮してもらおうとおもっている」
教官のその言葉に、セイガは驚いた。しかし、自分を落ち着かせ、
「自分が、ですか?」
「ああ、お前だ。小隊に招きたいものがいるなら私に言え。できる限り叶えてやろう」
「自分に務まるでしょうか」
不安を抱きながら尋ねる。
「お前なら大丈夫だろう。期待している」
教官に期待していると言われたのは初めてだった。それほど思い入れが違うことに気付き、意を決した。
「了解しました。ならば二名ほど指名してもよろしいでしょうか。」
セイガは連れて行く人物は決めていた。
「うむ、言ってみろ。」
「Bランクのメルグライデとメリーラインズです。」
「それ位なら構わん。すぐに組み込もう。」
教官はすぐに納得してくれた。
「ありがとうございます」
「他の隊員は追って説明する。少し待て」
教官はそういうとスタスタと去って行った。
この日、セイガ小隊の誕生が決まった。