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闘う! もんすたぁガールズ  作者: へぼめし
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第5話 ルビーアイ捕獲大作戦! 終

 ルビーアイを店にあったダンボールとガムテープで簀巻きにして、とりあえずは捕獲に成功した。

 意外なほどあっさりとカタが付き、聡樹はホッと安堵の息を漏らす。


「ふががっ、もががーっ!」


 床に転がったルビーアイがなにかを叫んでいるようだが、猿ぐつわを噛ませているのでまったく聞き取れない。でもきっと罵詈雑言に違いないだろうから聞かなくても問題ないだろう。


「さて、これで作戦の前段階は達成だね。後はルビィをどうやって家まで運ぶかだけど……。頭に紙袋かぶせてこのまま運ぼっか?」

「いやさすがにそれはかわいそうなんじゃ……」


 とは言ったものの、車がない以上他に案もなく。

 あわれルビーアイは簀巻き状態で頭に紙袋かぶせられてドランに抱えられることとなった。

 なにかとてもイケナイことをしているような気がして聡樹は胸が痛んだ。


「まるで誘拐犯みたいねアタシたち」

「言うなよ」


 簀巻きを抱えるドランを全員で囲むようにして周りの視線をシャットアウトする辺り徹底している。計画的犯行だ。

 そして一行がフーズ大森を出たところで。


「動くなッ」


 待ち構えていたのは数台のパトカーと対策機関・機動隊の制服を着た隊員が数人と隊員のパートナーもんすたぁが数人。アーチを描くように配置され、フーズ大森の出入り口を完全に包囲している。


「ちょ、ちょっとどーゆうことよこれっ?」

「あわわわ……」


 真理とライムがうろたえている。聡樹なんかは完全にビビって声も出ない。


「全員両手を頭より高く上げなさい」


 隊員の一人が拡声器を使って促してくる。

 ドラマでしか見たことのない状況を、まさか自分が再現することになろうとは。

 聡樹は観念して両手を挙げた。

 なにげなく見渡すと、隊員たちに紛れて申し訳なさそうな顔をしているフーズ大森のおばちゃんが目に入った。

 おばちゃんは聡樹の視線に気付くとすまなさそうに言う。


「ごめんねぇ聡樹ちゃん、うちの旦那が通報しちまったらしくてさぁ」


 聡樹は笑顔で「気にしないで」と伝えようとしたが、恐怖で顔の筋肉が強張ってうまく笑えなかった。


「それで、通り魔と食い逃げの常習犯のもんすたぁってのはどいつだ? お前か? それともお前か?」


 隊員の一人がライムか、真理かと恐い顔で指さしている。

 どうやら犯人がルビーアイだということは知らないようだ。


「まあいい。とりあえず全員一緒に来てもらうぞ。もしかしたら共犯者かも知れないからな」


 もはやこれまでか。聡樹はがっくりとうなだれた。

 どうやらルビーアイ捕獲大作戦は最悪の形で幕を閉じることになりそうだ。

 しかしそのとき、隊員たちの間でざわめきが起こった。

 なにが起きたのか、聡樹は顔を上げて注意深く観察する。


 隊員たちの目は新たに到着した一台のパトカーに向けられていた。

 隊員たちは皆「四天王だ」「なぜこちらに」などとさざめいている。

 パトカーの後部ドアが開いて、中から二人の男が姿を現した。

 一人はポケットに手を突っ込み、不敵な笑みを浮かべた二十代後半くらいの男。


 もう一人は貴族のような口ひげを生やした目付きの鋭い四十代くらいの男だ。

 前者はドランよりも少し背が低く、後者はドランよりも少し背が高い。そして二人とも黒いスーツに赤いネクタイという出で立ちをしている。胸には機動隊員であることを示す金色のバッジが着けられていた。


 その場にいた隊員たち全員と、聡樹たちの視線が二人の男に向いている。

 それにまったく気圧されることなく若い方の男が口を開く。


「悪ィけどお前ら、この場は俺様たちに預けてくれねーか」


 隊員の一人が慌てて答える。


「し、しかし武蔵丸殿」

「いーって、責任は全部俺様が負うからよ」

「……わかりました」


 まさに鶴の一声だった。

 男が不敵な笑みと共に発した一言で、フーズ大森を取り囲んでいた機動隊が撤収していく。

 後には二人の男と聡樹たちだけが残った。


「さて、驚かせて悪かったな、犯罪者ども」

「なっ……」

「違うってのか? お前らそこに転がってる真犯人を庇おうとしたんだろ? だったら立派な共犯じゃねーか。そうだろ?」


 若い男はドランの足元に転がっている、もぞもぞ動く簀巻きをアゴで指しながら言った。その顔は相変わらずふてぶてしい笑みを湛えている。

 真理が嫌いそうなタイプだなと思ったら、やっぱり真理が噛みついた。


「アンタ、さっきからヘラヘラしてむかつくわね。一体なにモンよッ?」


「おっとこれは失礼、もんすたぁのお嬢さん。俺様の名前は武蔵丸虎児郎だ。聞いたことねーかな? 今でも結構有名人だと思うんだがよ」

「む、武蔵丸虎児郎ッッ?」

「サトキさま、ご存じなのですか?」


 知っているもなにも武蔵丸虎児郎といえば、聡樹があの夢のはじまりから八年間、ずっと尊敬して目標としてきた人物だ。


「……八年前のもんすたぁずファイトリーグでチャンピオンとなり、以降三年間に渡り王座を防衛し続けた伝説のグレートチャンピオン。結局無敗のまま王座を明け渡し、その後もんすたぁ犯罪対策機関に入隊して、マスターオブエースと呼ばれるようになり現在に至る」


 そう説明したのは魅麗だ。もんすたぁずファイトにまるで興味のなかった魅麗が、そこまで詳しく知っていることに聡樹は驚いた。


「そっちのオッパイ大きいお嬢ちゃんは俺様に詳しいみたいだな。光栄だぜ」

「貴様ッ! 我があ――魅麗さんにセクハラをッッ」


 ドランが武蔵丸に掴みかかろうとするが、隣に控えている貴族ひげの男に睨まれて身を竦ませてしまう。


「クッ……」


 ドランは悔しげに歯噛みする。無理もないと聡樹は思った。

 直接目を合わせていない聡樹にだって、身体を貫くような悪寒がはしったくらいだ。


 貴族ひげの男……恐らくは武蔵丸のパートナーもんすたぁ、ドラグノフだろう。

 かつて『竜帝』と呼ばれ、ドラゴン族最強とまで謳われたもんすたぁだ。その圧倒的な強さと王者の風格は聡樹がドラゴンに憧れを抱くことになったきっかけでもある。

 さすがに間近で見るともの凄い威圧感だ。無敗の王者という肩書きはダテではない。


「で、そのマスターオブエースさんはアタシたちをどうするつもりよ?」

「別にお前らのことはどうもしないさ。さっきの共犯ってのはジョークだ。俺様たちはただ、そこの悪ガキをとっつかまえに来ただけだからよ」

「ふがが、もがが……」


 抵抗しすぎて疲れたのか、悪ガキの元気がなくなってきている。

 ルビーアイはこのまま逮捕されてしまうのだろうか。

 いや、諦めたらそこで彼女の人生が終了だ。

 聡樹は一か八か武蔵丸に言った。


「あの、やっぱり、ルビーアイは逮捕されてしまうんですか」

「なにを言ってるんだ少年? 当然だろう。罪を犯したもんすたぁには厳罰を。これがこの国のルールだろ?」

「確かにそうですけど、ルビーアイはまだ子供です。いくらなんでも、罰が重すぎるんじゃないですか?」

「それは俺様の知ったことじゃねーな。今の俺様は公僕だからよ、お上の取り決めに従うしか脳がねーんだわ」


 武蔵丸はあっけらかんと笑った。


「そんな……」

「まあでもよ、条件次第じゃこの場を見逃してやらんでもないぜ」

「えッ!?」


 舌の根も乾かぬうちに一八〇度意見を変えた武蔵丸に、聡樹は素っ頓狂な声を上げてしまう。


「そう驚くなって。なにを隠そう俺様、『勝負』ってのが大好きでよ。今まで色んな勝負の世界でチャンプになってきたんだぜ。ちなみにもんすたぁマスターになる前はチェスの世界チャンプだった」


 その話は彼のファンだった聡樹も知っている。

 武蔵丸虎児郎は天才的な勝負師として有名で、彼がもんすたぁマスターに転向したときは、彼のもんすたぁずファイトリーグ優勝を予言した人間がグレートグロス単位で現れたという逸話があるくらいだ。


「もしかして、もんすたぁずファイトで勝負して、アタシらが勝ったらチビドラを見逃してくれるとか?」


 相変わらず真理は好戦的で困る。いくらなんでもそれは――


「おう、そうだぜ。俺様とドラグノフに勝てたら見逃してやるよ」


 ない……マジか。


「い、いいんですか? そんなんで」

「なに言ってやがる少年。俺様とドラグノフに勝つ。これがどーゆうことかわかってんのか?」

「それは……」


 武蔵丸虎児郎はもんすたぁずファイトの公式試合で無敗を誇り、歴代唯一のリーグ三連覇を成し遂げた伝説のグレートチャンピオンだ。

 彼に勝利するということはすなわち、一足飛びに『最強』の称号を手に入れるということ。

 そしてそれは、未だかつて誰も成し得たことのない難業であるということだ。

 新米もんすたぁマスターの聡樹には無謀という言葉が相応しい。

 いや、無謀とかそれ以前の問題だ。なにしろ聡樹は……


「責任は全部俺様が負うからよ。どうだ、ダメ元でやってみないか? 俺様、久々にもんすたぁずファイトしてみたくなっちまってよ~」

「あの、せっかくの申し出なんですけど、俺、実はまだもんすたぁと契約してないんです」

「なんだ少年、その契約の指輪は飾りだってのか?」


 武蔵丸が呆れたように言った。

 聡樹は恥ずかしくてうなだれてしまう。

 すると、魅麗が聡樹を庇うように一歩前へ出た。


「心配しないでお兄ぃ、代わりにあたしとドランが戦うから」

「え? なに言ってんだよ魅麗、お前はもんすたぁマスターじゃないだろ」

「えと……実はね、お兄ぃ」


 魅麗はとってもバツの悪そうな顔をする。


「実は、あたし……」


 言い淀みながら、食い込みのきわどいホットパンツのポケットから赤い宝石をあしらった指輪を取り出した。

 ――契約の指輪だ。


「え、え?」

 聡樹は目を白黒させながら、魅麗が中指に契約の指輪をはめるのを見た。

 魅麗は契約の指輪をはめた手を胸の前で握り締めて言った。


「あたしね、ドランと契約してるの。あたし、もんすたぁマスターなの」

「い……いつから?」

「えと、一年くらい前、かな」

「正確には、三八一日前です魅麗様」


 ドランが口を挟む。魅麗への敬称が『さん』から『様』に変わっている。しかもその薬指には契約の指輪が光っていた。


「どうして魅麗が? お前、もんすたぁずファイトに全然興味なかったじゃんか」

「確かに興味なかったけど、お兄ぃが一生懸命になってる夢ってどんなんだろうって興味が湧いたの。それで、試しに認定試験を受けてみたら、なんか合格しちゃって……」


 魅麗は後ろ頭を掻きながら、本当に申し訳なさそうに言った。


「一発で合格って……。認定試験はかなり難しいことでも有名なんだぞ? お前、全然勉強してなかったのにどうやって」

「あたし、お兄ぃが勉強してるのをよく横で見てたじゃない? お兄ぃに頼まれて問題を出したりもしてたし。それで覚えちゃったみたいで」

「マジか……」


 聡樹は愕然とした。

 忘れていたが、魅麗はかなり頭が良いのだ。血を分けた兄妹とは思えないほどに。


「ごめんなさいっっ、お兄ぃっ」


 突然、魅麗が勢いよく頭を下げた。


「本当はお兄ぃにちゃんと話したかったけど、でも、妹のあたしが先にもんすたぁマスターになっちゃったらお兄ぃが傷付くんじゃないかって、そう思ったら言い出せなくなっちゃって」


 魅麗の肩は震えていた。

 聡樹は、その肩に優しく手を置く。


「頭を上げてくれよ、魅麗」

「お兄ぃ……」

「どうしてお前が謝る必要があるんだ? 別に俺は気にしてないぜ。そりゃあ、確かに驚きはしたけどさ」

「でもお兄ぃ、あたしお兄ぃを差し置いてドラゴンと契約しちゃったし……。お兄ぃの大切な夢、横取りしちゃったんだよ……?」

「なに言ってんだよ、俺がドラゴンと契約できなかったのはお前のせいじゃないって」


 それはひとえに己の不甲斐なさが原因だ。自分の意志で夢を諦めてしまったのだから。

 それに聡樹はもう新しい夢を見つけている。だからドラゴンに対する未練も大分薄れていた。

 なのに魅麗は懺悔のように言葉を続ける。


「あたし本当はもんすたぁマスターに興味なんてなくて、契約するもんすたぁなんてなんでも良かったんだけど、お兄ぃがドラゴンにするって言ってたから、お揃いになれたらいいなって思っただけで……」

「だからもういいって。お前が気にする必要なんてない」

「ううん。あたし、お兄ぃが望むならドランとの契約を破棄してもいい。お兄ぃにドランをあげるよ」

「あの、魅麗、もうその辺にしておいてあげてくれ。ドランさんがものすごく悲しそうな顔してるから」


 イケメン顔をくしゃくしゃにして今にも泣き出しそうだ。


「仲のいい兄妹だなーオイ。んで結局、妹のお嬢ちゃんが俺様と勝負するのかい?」


 武蔵丸がニヤニヤしながら言った。


「お兄ぃ……」


 魅麗が心配そうにこちらを見てくる。

 だから聡樹は力強くうなずいてやった。


「お前に任せたぜ、魅麗」


 魅麗の顔に明るい色が戻る。


「うんっ」

「じゃあ決まりだ。俺様についてきな。とっておきのバトルフィールドに案内してやるぜ」


 武蔵丸は不敵に笑い、先に立って歩き始めた。向かう先は歓楽街のようだ。聡樹たちは黙ってその後をついて行く。

 歩きながら聡樹は考えていた。憧れの武蔵丸虎児郎は、聡樹が思っていたよりずっと破天荒な人物だった。


 いくら勝負好きだからって、犯人の身柄を賭けの対象にしてしまうとは。さすがにやり過ぎではないだろうか。もし負けたらどうするつもりなのだろう。本当に見逃してくれるのだろうか? 責任を負うとは言っていたが、果たしてどこまで本気なのか。あの飄々とした態度からはその真意が読み取れない。


 とにかく今は、魅麗とドランに託すしかない。兄貴のくせに、ここ一番の重要な場面で妹頼みとは情けない限りだが。


(俺にできることといったら応援くらいか……)



 がんばれ魅麗! 負けるなドラン! ルビーアイの未来は二人の双肩にかかっている!

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