第5話 ルビーアイ捕獲大作戦! その5
暴れた、というだけあって、フーズ大森の店内は台風が通り過ぎた後みたいになっていた。
いくつかの商品棚は倒れ、調味料のペットボトルや缶詰を床に撒き散らしている。
お陰で若干見通しが良くなった店内、その一番奥。
お総菜コーナーにルビーアイはいた。
聡樹はライムに入り口を見張らせ、一人でルビーアイに近づく。
「ム? なんじゃ、サトキではないか」
お総菜の並べられた背の低い商品棚に悠々と腰掛けたルビーアイは、聡樹に気が付き少し意外そうな顔をした。
「わらわの方から出向いてやるつもりでおったが、まさか汝の方から来るとはのぅ。なかなかに殊勝な心がけではないか」
満足そうにうむうむとうなずく。
「ルビーアイ、どうしてこんなことをしたんだっ」
「どうしてじゃと? なにを言っておるのじゃ汝は。腹が減ったからに決まっておろうが。汝がここでコロッケを手に入れたと聞いておったのでな、ここ数日探し回ってようやく見つけたのじゃ。お陰で腹が減って仕方がない」
事も無げにそう言った。まるで悪びれた様子はない。
やはり彼女は売買という概念を知らないようだ。度を超えた箱入り娘だったらしい。
「いやしかし、汝は本当にちょうどいいところに来た。実はコロッケがアゲタテアツアツで熱くて敵わんのじゃ。だからまた汝がふーふーして冷ませ」
ルビーアイの隣には大皿にピラミッドのごとく積み上げられたコロッケがある。本当に揚げたてらしく、ほのかに湯気を立ち上らせていた。
「悪いけど、それはできない」
「なんじゃと? サトキ、汝はこれからわらわのシモベになろうというのに、主であるわらわの言うことが聞けぬと申すのか? ふむぅ、これは少々しつけが必要かの」
ルビーアイの紅い瞳が鋭く光る。
しかし聡樹は怯まなかった。
真っ向からルビーアイの目を見返して言う。
「しつけが必要なのはきみの方だ、ルビーアイ」
「んなっ、なんじゃと?」
「サトキさまっ、皆さんが到着しましたっ」
入り口のライムが叫んだ。
一拍遅れて魅麗、ドラン、真理の三人が入り口に姿を見せる。
「お兄ぃっ!」
これでルビーアイは完全に包囲された。もう逃げることはできない。
ルビーアイの目が驚きに見開かれる。
「な、なんじゃこれは……」
「ごめんな、ルビーアイ。やっぱり俺は、きみとは契約できない」
結果的にはルビーアイに対してウソをついた形になってしまうが、これは聡樹が自分でもよく考えて決めたことだ。罵倒ならいくらでも甘んじて受けるつもりでいた。
「なぜじゃ……なぜ……」
さあこい、いくらでも罵ってくれ! と聡樹は覚悟を決める。
ルビーアイはわなわなと震えている。よっぽど腹に据えかねているのだろうと聡樹は思った。ちょっとコワイ。言い訳したくなってきた。
「なぜ、兄者がここにいるのじゃッ!?」
「ごめんっ! あのときは騙すつもりはなかったんだ、でもっ……え?」
ルビーアイが発した言葉は罵倒でも糾弾でもなく、疑問。
聡樹の頭に浮かんだのも疑問。
「兄者……って誰?」
聡樹は疑問を口にする。が、ルビーアイは答えない。それどころかルビーアイはその目に聡樹を映してすらいなかった。
ルビーアイの視線は聡樹を通り越している。
聡樹はその視線を追って背後を振り返った。
ルビーアイが兄上と呼ぶ存在。つまり男は、聡樹意外では一人しかいない。
「え、えぇ~っ!? ドランさんがルビーアイのお兄さんっ?」
「……そうだ。我はドラゴン族であり、ルビーアイの兄だ」
人間ではないというのは知っていたが、これは聡樹にとっては予想外だ。
「黙っててごめんねお兄ぃ」
魅麗が片目をつぶって『ゴメンネ』のポーズをした。
「なるほどね。チビドラを捕まえようなんて言い出したのも、それが理由だったのね。アタシたちはいいように使われたってわけか」
真理が面白くなさそうに言った。
なるほど。魅麗がやたら張り切っていたのも、ボーイフレンドの妹を助けるためだったらしい。
「兄者ッ! よくもわらわの前に姿を現す気になったものじゃな」
ルビーアイの射るような声に聡樹は驚いて振り返る。
彼女は怒っているようだ。それもかなり。お総菜の棚から飛び跳ねるようにして降り、ドランをズバッと指さした。
「わらわは言ったはずじゃ、兄者の顔など二度と見たくないとな」
「なにを言っているのだルビィ。お前は自分のしていることがわかっているのか」
「重々承知の助じゃ! フヌケた兄者と父上に代わり、このわらわがニンゲン共にドラゴンの偉大さと恐ろしさを知らしめてやるのじゃ」
ルビーアイはドランを指していた人差し指を聡樹にスライドさせる。
「このサトキと契約し、わらわはもんすたぁずファイトリーグを制覇する。そしてそれを足がかりとし、ゆくゆくは世界のすべてを支配してくれるわ」
最後に腕を広げて平らな胸を張り、ルビーアイは声高らかに宣言した。
夢はデカイぞ、世界征服。
聡樹は言葉が出なかった。開いた口が塞がらないせいで。
「なにそれ? ひょっとしてギャグで言ってんの?」
こういう微妙に空気を読まない発言をするのが真理だ。
案の定ルビーアイは顔を真っ赤にして地団駄を踏んだ。
「むきーっ! ギャグなどではないわッッ。わらわは本気じゃ、止められるものなら止めてみよッ」
「それじゃあ遠慮なく。ドラン、ライム、泥山さん」
魅麗がパチンと指を鳴らすと呼ばれた三人がルビーアイをぐるっと取り囲む。
「ま、まて、三人がかりは卑怯ではないのか? 汝らに誇りはないのかッ?」
「すみませんが、スライムにはドラゴンほど高いプライドはありませんので」
「さっさと捕まえて尻をひっぱたくわよ。世の中ナメてるとどーゆう目に遭うか身体に教え込んでやるわ」
「すまんなルビィ。これもお前のためだ」
三人のもんすたぁはじりじりとルビーアイを追い込んでいく。
そして。
「この卑怯者共めぇ~~~~っ」
ルビーアイ、捕獲だぜ。




