第5話 ルビーアイ捕獲大作戦! その4
「とりあえず移動するか。この先は……商店街か。そういえば、ルビーアイと初めて出会ったのも商店街だったな」
いきなり尻に真っ赤なゴスロリの少女がぶつかってきたときは驚いた。
「だとしたら、またそこにいるかも知れませんね」
「どうだろう。あのときはたまたまそこにいた、って感じだったからなぁ。ルビーアイがまた商店街に現れる理由なんてない気が――あ」
理由はある。一つだけ。
聡樹の脳裏にルビーアイとのとある会話がフィードバックする。
『まて。わらわはコロッケをもっと食べたいのじゃ。どうすればいい』
『えーと、商店街にあるフーズ大森ってお店に行けば買えるぜ』
ぞわぞわぞわっと聡樹の背筋に悪寒がはしった。
あの暴君ドラゴン少女が素直にお金を払うとは到底思えない。てゆうかお金を持っているようには見えなかった。ヘタしたらお金の存在自体知らないかもしれない。
「ま、まずい、フーズ大森が危ないかも知れないっ」
『ちょっとお兄ぃ、それどーゆうことっ?』
魅麗の慌てた声が聞こえるが、今は答えているヒマはない。
「ライム、ちょっと急ぐぞッ」
「はいっ、サトキさま」
聡樹とライムは商店街に向かって駆けだした。
「ぜえっ……ぜえっ……」
「サトキさま、息が上がってますよ? 大丈夫ですか?」
「な、なんのこれしきピロシキ」
少なくとも冗談をかますくらいの元気はある。
ライムはと言えば呼吸の乱れどころか汗一つかいていない。ちょっと悔しい男の子。
――さて、二人は商店街の入り口に到着した。相変わらず閑古鳥が鳴いていて、人通りは歓楽街と比べると随分と少ない。
『お兄ぃったら、いきなり走り出してどうしたのっ? 事情を説明してよっ』
胸元から魅麗の抗議するような声が聞こえる。
「実は、ルビーアイはフーズ大森のコロッケが大好物なんだ」
『ちょっ! まずい、それはまずいよお兄ぃっ』
『なぜまずいかというと、ルビーアイは無銭飲食の常習犯でもあるのだ』
慌てる魅麗の言葉を、ドランの冷静な声が補足して説明した。
「それ本当ですかッ? なんでそんなことを知ってるんですか?」
『やれやれ、キミはテレビのニュースを見ていないのか? 最近巷を騒がせている、通り魔と無銭飲食を繰り返すもんすたぁというのがルビーアイだ』
「えーっ!」
聡樹はおったまげた。
なんということか。ルビーアイはすでに罪を犯していたのだ。
しかも人間に対する傷害事件まで起こしていた。
ルビーアイの性格を考えれば、恐らくは無礼討ちのつもりだったのだろう。
しかしどんな理由があろうともんすたぁが人間を傷付けるのは重罪だ。
自分に対する強迫だけなら、自分がそれをなかったことにすればそれで済む。
だが一度犯してしまった罪は償わない限り消えることはない。
(俺はどうすればいいんだ。このままルビーアイを助けて、全部なかったことにしていいのか?)
しかし今は考えている場合ではない。
ルビーアイが食い逃げまでしていたとなると、尚更フーズ大森が危ない。
聡樹はまた走り出そうとする。
それと同時に、商店街の奥からドンガラガッシャンと大きな音がした。
ちょうど、フーズ大森のある辺りからだ。
「サトキさま、今の音は?」
「くっ」
聡樹は無事を祈りながらフーズ大森へ向かって走る。
すると通りの向こうから割烹着姿でふくよかなシルエットの女性が慌てて走ってきた。フーズ大森のおばちゃんだ。
「おばちゃんっ」
「ああ聡樹ちゃん、大変だよ、ウチの店が」
「なにがあったんですかッ? 落ち着いて教えてください」
「あ、赤いドレスのガイジンさんみたいな女の子が店のコロッケを勝手に食べ始めたのを注意したら、いきなり暴れ出して」
「ルビーアイだ……」
どうやら一足遅かったようだ。
「聡樹ちゃん、知ってる子なのかい?」
「ま、まあ一応」
頬を掻きつつ答える。
「とにかく聡樹ちゃん、電話でおまわりさんを呼んどくれないかい? おばちゃん持ってなくてねぇ」
聡樹はもう一度考える。
このまま通報すればルビーアイは確実に捕まるだろう。そうなったら彼女は自分の犯した罪を償うことになる。
同じ罪でも、その重さは人間ともんすたぁでは大きく異なる。
ルビーアイは恐らく六歳前後。人間なら親の責任で、本人は厳重注意で済む。しかしもんすたぁならばよくて塀の向こう。最悪の場合は……。
聡樹は覚悟を決めた。
「そのことなんだけどおばちゃん、俺たちでその子をなんとかするから警察や対策機関に通報するのは待って欲しいんだ」
おばちゃんは驚いたような顔をする。
「聡樹ちゃんたちがかい?」
「うん。そのルビーアイって子はもんすたぁで、悪気があってそんなことをしてるんじゃないんだよ。ただ常識がないだけなんだ。お金だったら後で俺が払うからさ」
悪気がなければなにをしても許されるべきだとは思っていない。でも、なにも知らずに犯した罪をまとめて突きつけるにはルビーアイはまだ幼すぎる。子供の心に前科という一生消えない傷を付けるのもまた罪なことだと聡樹は思う。
聡樹のその思いは、おばちゃんにも伝わったようだ。
「……わかったよ。おばちゃん、聡樹ちゃんを信じてるからね」
「ありがとうおばちゃん」
『話は聞いたよお兄ぃ。お兄ぃたちはルビィがお店から出ないようにしておいて。あたしたちもすぐに向かうから』
店の中は袋小路だ。天井があるので空を飛んで逃げることもできない。ルビーアイを取り押さえるには絶好の場所と言える。
「わかった。ライム、行くぞっ」
「はいっ」
聡樹は再び駆けだした。




