第4話 魅麗VS その3
気が付けば、聡樹は真理と並んで通学路を歩いていた。
午後の授業の記憶がまったくないが、なぜだろうか。
その理由は腹部に残る違和感が知っているのだろうが、思い出す気にはどうしてもなれなかった。
「ねえ聡樹」
ふいに真理が話しかけてきた。
「アタシとスライム女に話って、どんな内容なの?」
「それは家で話すって」
「言いにくいことなの?」
「……うん。少し」
「そっか。それなら無理には聞かない。でも聡樹、これだけは覚えておいて」
真理が足を止め、聡樹と向き合う。真剣な顔で聡樹の目を見つめて言った。
「アタシはなにがあっても、アンタの味方だから。例えアンタがアタシを選んでくれなくても、それは変わらない。アンタが本当に困ってるなら、アタシは全力で力になるから」
だから。
「アタシを信じて」
「真理……」
聡樹は昔から、真理に対する苦手意識を持っている。
暴力的で、口より先に手が出るタイプの彼女が、聡樹は少し恐かった。
でも、聡樹は真理のことを嫌に思ったことは一度もない。
なぜなら、真理は聡樹の幼馴染みで。
聡樹の一番の、親友でもあるからだ。
その親友が『信じて』と言っているのだ。信じない理由はどこにもない。
「わかった。お前を信じるよ、真理。ありがとう」
信頼の証に、聡樹は笑ってみせる。
真理もうなずいてそれに答えた。
「まあでも、アタシたちよりも他の女がよくなったからそっちに行きます、なんて言い出したら半殺しくらいにはしちゃうかもね。アハハッ」
あるわけないよねー、って感じで真理はカラカラと笑った。
聡樹は全身の水分をすべて冷や汗に変える勢いで垂れ流し、ガチガチに引き攣った顔で笑う。
「あ、あはは。そうだな、それは確かに半殺しにされても文句は言えないな。あはははははは……」
そんなやりとりがあったりして、二人は照井家に到着した。
聡樹は玄関戸を開けると、「ただいま~っ」といつもの習慣で挨拶をする。
「――ッ」
しかしそれはすぐに失策だったと気付いた。
玄関にあるはずのないもの――魅麗のローファーを見つけ、聡樹は慌てて背後の真理を外に押し出そうとする。
「ちょ、ちょっと聡樹なにすんのよっ?」
「いーから外に出ろッ、手遅れになる前にッ」
「なにが手遅れになる前になの、お兄ぃ~ぃ?」
ビックーン! 聡樹の肩が、高飛びの世界記録を塗り替えるくらい跳ね上がった。
それから、ギギギ、と錆び付いた鉄扉が開くような音を立て、首を背後に向ける。
玄関の上には、セーラー服姿の魅麗がいた。立派に発育した胸を押し上げるように腕を組み、仁王立ちをしている。
顔は笑っていた。
目は笑っていなかった。
『サードコンタクト』
そんな単語が聡樹の頭の中に浮かび、そして消えた瞬間。
聡樹はその場で迷わず土下座を敢行していた。
その様はまるで、お奉行様にひれ伏す下手人のようだ。
上から降るように魅麗の冷たい声が聞こえてくる。
「おかえり、お兄ぃ。で、その女はなに。あたしソイツ大ッ嫌いだって言わなかったっけ」
「あ? ソイツだ? 年上に向かってナメた口利いてんじゃないわよ小娘」
「や、やめてくれ真理ッ、頼むから」
聡樹は真理が前に出ないように、必死で腕を伸ばして押しとどめる。
「み、魅麗。今日は生徒会の仕事があるって言ってなかったか?」
「うんそうだよ、でも思ったより早く片付いちゃって。あたしも今帰ったとこなんだけど。で、そろそろ教えてくれないかなぁ~? お兄ぃが『あたしのいない間』にその女を連れ込もうとしていた理由をさぁ」
ビキビキと音を立て、魅麗のこめかみに青筋が浮き立つのが見える。
ライムのときと合わせて二度目ということもあり、相当トサカにキているようだった。
「それは、その……話があったんだよ。真理とライムの二人にさ。だから」
「どうしてライムとその女が関係あるの。ライムはお兄ぃのパートナーもんすたぁ候補だっていうから一応納得したけど、だったらその女はお兄ぃのなんだっていうの?」
「いやっ、それは……」
真理もライムと同じ、候補の一人です。と聡樹が言うわけにはいかない。真理の正体に関しては、真理がそれを隠している以上、聡樹が勝手に話すわけにはいかないのだ。
「アタシも聡樹のパートナーもんすたぁ候補よ」
「おい、真理っ!?」
あっさりと、躊躇無く、真理は断言した。
「……いいのかよ?」
「いいのよ。アタシ、もう結構割り切れてるから」
「その話、詳しく聞かせてもらえるかな、お兄ぃ。その女、人間じゃないの?」
魅麗は至って冷静に問いただしてくる。だがそれは表面上だけで、内心は動揺しているらしいことが声の調子から伝わってきた。
聡樹は意を決して口を開く。




