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闘う! もんすたぁガールズ  作者: へぼめし
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第4章 魅麗VS その2

「――ってなワケで、ライムと魅麗は打ち解けることができたんだ。いやぁ、よかったよかった」


 高校での昼休み。五月上旬の柔らかな日差しが心地よい屋上で、聡樹は隣に座っている真理に今朝あった出来事を話していた。

 学生鞄から弁当の包みを取り出しつつ、「めでたしめでたしだ」と締めくくる。


「ふ~~ん。あっそ」


 しかし真理の反応は冷たい。話聞いてなかったんじゃないか? ってくらいに素っ気ない。


「なんだよ真理、冷たいじゃんか。魅麗が少し大人になったんだぞ? 喜ばしいことじゃないか」

「ふんっ、だからなんだってのよ。アタシには微塵も関係ないことでしょ。くっだらない」


 真理はぷいっとそっぽを向いてしまう。トレードマークのポニーテールが勢いよく揺れた。


「関係なくなんかないだろ。魅麗は歩み寄ることを覚えたんだ。後はお前が少し大人になれば、魅麗もお前のこと認めるって」


 聡樹は膝の上に置いた弁当の包みを解きながら言った。

 すると真理はまた聡樹に向き直り、吊り目をさらに吊り上げて睨んでくる。


「なによ、アタシがあの小娘よりガキだっての?」

「そうは言ってないだろ。魅麗にもできたんだから、お前にもできるはずだって思っただけで――」

「もういい。そんな話聞きたくない。それを話すためにわざわざ屋上まで来たわけ?」

「……いや、違う。話はもう一つあるんだ」


 聡樹は、真理にルビーアイのことを話すつもりでいた。

 しかし今すぐにというわけではなく、話すのは放課後に聡樹の家でライムを含めてだ。

 クラスメイトたちの前で真理を家に誘うとあらぬ誤解を受けそうだったので、こうして人気のない屋上へ連れ出したというわけである。


「だったら早く話しなさいよ。またくだらないノロケ話だったりしたら、メガトンパンチ喰らわせるから」


 真理が「はー」と拳に息を吹きかける。

 それは小学生の頃、聡樹の鼻っ柱をぶち折って大泣きさせた真理の必殺技だ。

 高校生の真理に喰らったら、たぶん身体が屋上のフェンスをぶち抜いて飛んで行ってしまうだろう。

 聡樹は過去のトラウマが疼くのを必死に堪えて言った。


「放課後、俺ン家に来てくれないか?」

「アタシがアンタの家に? 小娘がいるからダメなんじゃないの?」

「いや、魅麗は今日、生徒会の仕事で遅くなるって言ってたから大丈夫だ」


 魅麗は聡樹の母校でもある中学校で生徒会長をしているのだ。


「ふ~ん、そ。じゃあ、家にいるのはスライム女だけってわけね。もしかして、アタシとスライム女を戦わせて、勝った方を選ぶとか?」

「なんでお前はそんなに好戦的なんだよ。違うよ、お前とライムに話があるんだ」

「今更話ねぇ。ま、いいけど。そんじゃあ、帰りにアンタんトコに寄ってくってことで」

「そうしてくれると助かる。よし、じゃあ昼メシ食おうぜ」


 聡樹は膝の上に置いていた弁当箱の蓋を開ける。

 中身は鶏そぼろと卵そぼろの二食飯に、おかずはタコさんウィンナーとポテトサラダだ。デザートに別容器で手作りゼリーもある。

 聡樹の弁当は魅麗とライムが交代で作ることになっており、今日はライムの日だった。


「お、さすがはライム。すげーうまそうだ」

「待ちなさい聡樹。アンタが食べるのはこっちよ」


 ライム弁当の上出来ぶりに舌なめずりをする聡樹の目の前に、真理が弁当の包みを突き出してきた。


「え、なにそれ」

「アタシがアンタのために作ったのよ。朝五時起きして。喜べ」

「いや、喜べって言われても」


 聡樹は真理の料理の腕を知っているため素直に喜べない。正直遠慮したい。

 しかし真理は有無を言わさずライム弁当を横取ると、代わりに自作の弁当を聡樹の膝の上に置いた。


「こっちはアタシが食べるから」

「そんな! 横暴だ!」


 キロリ。真理の睨みつける攻撃。聡樹の勇気がガクッと下がった。


「なによアンタ。スライム女のお弁当は食べれて、アタシのお弁当は食べれないってわけ?」

「いや、そういうわけじゃあ、ない、けど」

「けど?」

「……いただきます」

「どうぞ召し上がれ」


 聡樹はしぶしぶ真理弁当の包みを解いた。

 そして生唾を飲み込み、ゆっくりと蓋を開ける。


「おおぅ……」


 そこには目を覆いたくなるような光景が広がっていた。

 デロデロという効果音すら聞こえてきそうなソレは、得体の知れない暗黒物質だった。

 なんだこれは。呪われたアイテムだろうか。とても料理には見えない。いや、それ以前に食べられるモノかどうかも不明だ。


「あの、真理。これ、なに」

「ふふふ。よくぞ聞いてくれたわね」


 そりゃ聞きたくもなる。

 真理はささやかな胸を反らして言った。


「それはアタシの創作料理よ。アンタの好物が全部入ってるわ」

(なん……だと……?)


 聡樹は戦慄した。

 聡樹はあまり食べ物の好き嫌いをしないタイプだ。好物も多い。そのたくさんある好物が、この暗黒物質に凝縮されているのだと真理は言う。なんて贅沢な残飯か。

 聡樹は自分の好物を片っ端から頭の中に思い浮かべた。そして半分ほど挙げたところで、吐き気が込み上げてきたのでやめた。


「美味しいモノと美味しいモノを合わせたんだから、すごく美味しいモノになってるはずよ」


 どうやら真理は、料理を算数だと勘違いしているようだ。それは大きな間違いである。料理は理科だ。漢字を反対から読めば似たような字面になることからもそれがわかる。理科ではAとBを足せば、化学反応を起こしてCになる。決してABにはならないのだ。


 真理の『創作料理』は、聡樹の好物AからZまでを全部足すことによって恐ろしい化学反応を起こし、ケミカルハザードと化してしまっている。

 混ぜるな危険。聡樹はこの言葉の意味を、小一時間かけて真理に説教したい衝動に駆られた。


「どうしたの聡樹、早く食べなさいよ。そんで……感想、聞かせてよね」


 真理が早く死ねと急かしてくる。もはやこれまで。観念するより他はない。

 聡樹は箸を使って、暗黒物質のかけらをつまみ上げた。

 デロリア~ンとねばっこい糸を引く暗黒物質。恐らくは納豆の糸だろう。


(ああ、我が心の師、納豆よ。変わり果てたお姿に……)


 聡樹は涙を堪えつつ、暗黒物質のかけらを口に入れる。

 ぱくっ。


「ひぎぃっっっ」


 ビクビクビクンッ! 聡樹の身体が激しく痙攣する。

 今、聡樹の口の中を支配しているモノ。それは圧倒的な暴力だ。

 この世のモノとは思えない恐ろしい味に、聡樹の舌は嬲られ、躙られ、犯され、弄ばれた。


「ど、どう、聡樹? アタシとしては、結構うまくできたと思うんだけど」


 なんて、もじもじと人差し指を突き合わせながら上目遣いでのたまう真理。

 確かに良くできている。素晴らしい殺傷力をもったケミカルウェポンだ。しかし、化学兵器禁止条約というものがこの世界にはあるということを、果たして彼女は知っているのだろうか。


「あ、ああ、まあ、いいんじゃないかな。すごい個性的な味だと思うぜ」


 素直に「クッソマズイです」なんて言ったら、メガトンパンチどころでは済まないだろう。とりあえず当たり障りのなさそうな言葉でお茶を濁す聡樹。

 しかしそんな微妙な言葉でも、真理は安堵したように表情をほころばせた。


「よかったぁ。がんばって早起きして作った甲斐があったわね」

「真理……」


 そうだ。真理は真理で、聡樹のためを思って弁当を作ってきてくれたのだ。いくら出来が残念だろうと、その気持ちはむげにはできない。

 聡樹はもう一口、創作料理を口に運んだ。凄まじい刺激が味覚を通して全身を貫くが、気合いで押さえ込み、さらにもう一口、もう一口と食べていく。


「くすっ。聡樹ったら、そんなに慌てて食べなくてもいいのに」


 創作料理を無我夢中でかき込む聡樹に、真理は嬉しそうに微笑んだ。


「それじゃあ、アタシはスライム女のお手並み拝見といこうかしら」


 真理は一口、ライム弁当を食べる。


「うーん、パンチが足りないわね」


 そんなふざけた呟きも、今の聡樹の耳には入らない。

 男・照井聡樹。食べ物と女の子の気持ちだけは粗末にできない性分だ。

 それから聡樹は気合いと努力と根性で創作料理を完食した。

 今の聡樹の顔はなにかを成し遂げた男の顔であった。

 そして、最後に忘れちゃいけないこの一言。


「ミッション・コンプリート(ごちそうさまでした)」

「もう全部食べちゃったの? そっかぁ、そんなに美味しかったんだ」


 嬉しそうに言って、真理が頬をほのかに染める。

 聡樹は猛烈にイヤな予感がした。


「こんな手の込んだのはなかなか作れないけど、もしよかったら、時々作ってきてあげよっか? 一日置きくらいに」


 照れ照れとそんなことを言う真理。


(一日置きに俺は死を追体験するのか)


 今回のケミカルハザードが、これから続く恐ろしい事態の、ほんのプレリュードに過ぎないことを知り――


 聡樹は目の前が、真っ暗になった。

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