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「達哉…… そこ退いてくれるかしら?」
後ろから飛鳥会長の声。僕は言われた通りに後ろに下がると、僕と体を入れ替わるようにして彼女が前に出た。
「初めまして。私は魔法学校の生徒会長をしています吉沢飛鳥と申しますが… 貴女方はどちら様で?」
冷静な言葉使いで話しているが、飛鳥会長の表情は眉間にシワを「川の字」を作り、瞳は冷たい視線を送っていた。明らかに怒っている表情、僕は恐ろしくて震えてしまう…… 問われた聖女の生徒はそんなことには物怖じなんかしなく、少し微笑をしながら答えた。
「あら、ごめん遊ばせ… ご紹介が無くて申し訳御座いません。私、この聖女学園で生徒会長をしております、三浦未来と申します」
三浦さんの外見は身長は飛鳥会長よりも少し低く、髪形はロングの黒髪。キリッとした瞳は姫カットされた前髪に良く似合っていた。雰囲気は出来る女子高生と言った所だろうか……
そこまで言うとペコッと会長に頭を下げた。会長は物静かにそれを見守り、その光景を見ていた三浦さんの後ろに居た聖女生徒の数名がヒソヒソと話しだした。
「まぁ、お姉様が挨拶したのに礼のひとつも返さないなんて…… 」 ヒソヒソ
「やはり、部外者は礼儀がなっておりません事ね…… 」 ヒソヒソ
口元を隠してそれぞれ会話しているが、こちら側には聴こえるぐらいの音量だ。もしかして、ワザとか? その時に、パーン!!と両手を叩いく三浦さん。
「お辞めになってください皆さん。陰口を叩くのはキリスト様に教えを乞う我が聖女学園の恥。お恥ずかしいので辞めて戴いてください」
ギロりと仲間達を睨むと、陰口を叩いていた連中は瞬時に黙った。先ほどの微笑とは違った冷たい目つきで怖かった。静まった講堂内を確認して彼女は話し出した。
「今回の事件で、我が聖女学園は多大なる被害を被りました。怪我人が奇跡的に出なかったにしろ、校舎や各施設が崩れてしまったのは事実…… 」
冷たい目つきのそのままで、三浦さんは単調に話していく。我々は痛いところ気づかされて顔を伏せてしまう。
「そんなあなた方の魔法学校が私たちの聖女学園と姉妹校だなんて遺憾の意です!! 」
怒りを露にして、三浦さんはどこから出してきたわからない黒い扇子で僕らを指した。決まった!と言わんばかりのポージングで僕らを圧倒。三浦さんの取り巻き達も、ドヤっと顔を僕たち側に作った。
そこまで言うと反撃だと言わんばかりに、こちらの飛鳥会長が黙っていない。僕からは後ろ姿しか見えないが、顔は腸煮えくり返ってるくらいの怒りオーラが込み上げている事だろう…… わぁ怖い怖い!!
「言わせてもらいますけど三浦さん、聖女学園への修理費などは全額こちら側が払うと約束して謝罪もしました…… けど、ここに行きなり来て出ていけ!は、初対面の人間に対して失礼ではないですかねぇ?」
飛鳥会長も怯むことなく言う。バチバチと2人の間に火花が散らされてる時に、堂内のオブジェと化していた留分シスターがおずおずと右手を挙げながら来た。
「あわわ…あの、の、争い事はいけないと思います…もう、辞めた方が…」
「シスター留分!!シスターも差し入れ活動になぜ加担してらっしゃるのですか? 私はとても哀しゅうございます…… 」
そこまで言うと顔の涙を隠すようなワザと臭い演技をした。それを見たシスター留分はオロオロとその場でし出す。そして、三浦さんは飛鳥会長にズンズンと詰め寄った。
「貴女とはわたくしとは……いまひとつ…そりが合いませんわね…… では!実力行使といきますわ!」
そう言うと彼女は右手を大きく上げて、飛鳥会長に当てようとした。所謂、ビンタ。
今まさに振りかざされようとした所に、後ろ側にあった堂内の大きな扉が開いた。
「お止めなさい!三浦さんッッ!」
そこに入ってきたのは阿部理事長である。入堂と同時に三浦さんを止めに入ったが、飛鳥会長めがけて振り上げていた手が丁度2人の間に入った阿部理事長の右頬に打ち付けられた。
バシッッ! !うっ!!
乾いた音と女性の悲痛声が同時に堂内に響いた。何やってるんだ!と、男性の声がその後を追って聞こえた。僕は一瞬の衝撃的な光景に体が硬直してしまい、その場で固まる。
倒れた阿部理事長に駆け寄る男性は時田さんであった。理事長の肩をゆっくりと抱き起こした。飛鳥会長と三浦さんは硬直しながらその光景を呆然と見ている。その沈黙を破ったのは時田さんの声。
「理事長を保健室に運ぶから力を貸してくれ! 取り敢えず、みんなは解散だ!詳しいことは後で聞く!」
時田さんが僕に言ったような気がしたので我に返り2人に近寄った。阿部理事長の肩を持ち時田さんと一緒に御堂を後にした。
ーーーー。
「保健室じゃなくて、こちらで良かったのですか? 理事長?」
時田さんが言うと、ええと答える阿部理事長。ここは前回も来たことがある理事長室である。彼女は椅子に座って頬に手を当てている。そして、時田さんが僕にやっと気がついた様に話しかけてきた。
「あ! 気がつかなくてごめんね達哉君、久しぶりだね。 まさかの事態にびっくりしていてね…… 総理大臣から様子を見てきてくれと頼まれて来てみたら、こんなことになっていて…… 達哉君、何があったか説明してくれるかい?」
「いえいえ…」と僕は小さな声で答えたような気がした。 自分でもまだ先ほどの光景が脳内に残っており、軽くショックを巻き起こしていた。落ち着いたところで先ほどの堂内でのあらすじを話した。
「…… なるほど…そんなことがあったのか」
「三浦さんの事は許してあげて下さいね、私は大丈夫ですから、おお、神よ、どうか彼女らをお許しください…… 彼女らは自分が何をしているかわからいでいるのです」
そう言うと、阿部理事長は胸の十字を指で切った。少し赤みがかかる頬が痛々しく見えたが、瞳までは赤くなっておらず、まっすぐに祈っていた。対照的に時田さんは暗くうつむいた。
僕は阿部理事長の容態を見て「直江さんを呼んで治療しましょうか?」と提案したが、理事長は対したことない。と言って断った。そこに騒がしく一人の人物が入ってきた。
「あわわ! わ! り、理事長!お、おお怪我は大丈夫ですか! 」
血相を変えて入ってきたのは留分シスター。 その姿にリアクションしたのは時田さんだ。
「あれ? 流か? 貴女は流だろ?」
「へ?! あれれ?! もしかして時田くん?! あわわ!」
驚いている時田さんと慌てる留分シスター。 まさか、2人は知り合いのなのか?