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「大丈夫? さぁこっちに来て」
沈黙を破る直江さんの明るい声が部屋中に響く、その声に驚いた被害者生徒は言われるがままに近づく、直江さんが両手を彼女の傷口に当てた。緑色の霧もやが頬、傷口、唇などをマスクに様に覆っていく…僕らはそれを固唾を飲み見守る。数分後に霧が徐々に消えた。それと同時に酷い傷口が全て綺麗になくなっていた。我々一同は驚いた。怪我の治療は出来ると知ってはいたが完ぺきに跡もなくなる光景は初見だった。
一方、治療された女生徒は「?」と言うような表情を見せていた。慌てた理事長は自分の机から手鏡を取ってきて差し出した。
「よ 今井さん、これで見てみなさい」
「え?はい、あ!」
今井さんと言われた女子生徒は傷口があった場所をさすりながらじっと自分の顔を鏡を見ていたが、本当に傷口が無くなってると気がつくとみるみると涙を流し始めた。
「傷が消えてる……無くなってる」
目を真っ赤にしながら、深々と直江さんや僕達にお礼をした。隣にいた理事長も少し泣いていたかもしれない。吉田さんと言われた生徒が落ち着くまで僕らはそこに止まった。
ーーー。
「流石ね! 本当に魔法が使えるとは半信半疑だったけど、さっきの光景を見せられたら信じてしまうわね!キリスト様の奇跡を目撃したみたい!」
今井さんを理事長室から見送った後に興奮気味で阿部理事長が話し出した。あの今井さんと言われる生徒は通り魔事件の被害者の1人であり他の被害者よりも怪我が酷い分類に入っていた。治療した医者には傷口が深いために完治しても跡が残ると言われたらしい。それから彼女は落ち込んで学校に来れなくなり、彼女の両親からは学校側の責任だと強く叱責された。今回僕らが聖女に来ると聞き、無理矢理連れてきて魔法をかけてもらおうと計画した。
「私も今回は危険な賭けだったと思ったけど…… 改めて、雄大君やあなた達に感謝するわ!本当にありがとう!!」
阿部理事長は僕達に十字を切って手を握り会わせて感謝を伝える。一般人に魔法を見せたのは前回の火山停止作戦の時に一部の住人に施した治療魔法……やはり、直江さんの魔法だった。やはり、治癒はインパクトも強いし無敵ではないだろうか。 僕も何とか努力すれば直江さんの回復魔法を覚える事できるかな? そうすれば、直江さんへの負担軽出来るし、直江さんが居なくてもにも使えるので重宝できる。
「直江さんさ…僕にもその治療魔法教えてくれないかな? 」
「良いけど…… どうやって教えれば良いかな?」
「んーと、もう一度、魔法使ってるところを良くみたいなぁ」
直江さんは僕のリクエストに答えて、掌を僕の方の向けて治療魔法を放出。緑色のもやがだんだんと現れた。僕も見よう見真似で掌を前に出した。その時、理事長室のドアが勢い良く開き、ここに修道服を身に纏った人が室内に突っ込んできた。いきなりの事に僕らはビックリした。
「理事長!!本当ですか?!被害にあった生徒の怪我を完ぺきに治したというのは!?!」
「シスター留分。今は来客中ですよ、恥ずかしい事はお止めなさい」
阿部理事長が注意をすると、シスター留分と呼ばれる人物は我に返り、回りを見渡す。僕達の存在を確認すると顔を真っ赤にし、何度も何度も頭を下げる。
「すすいません!お恥ずかしい所を見せてしまいました!!てへ」
そのシスターらしからぬ謝罪に一瞬吹き出しそうになったが我々だったが、なんとま憎めない表情に安堵をした。良い人そうだ。それと対称的に阿部理事長はやれやれと言った感じ。
「まず落ち来なさい!貴女はおっちょこちょいの所が多いッッ!いや、多すぎるのよ!少しは聖女学園の教員であることを自覚しなさい! ほら、魔法学校の皆様にご紹介を」
「あっ!、聖女学園で教師をしております、留分流と申します! このような失礼をお許しください」
自己紹介を終えた留分さんは十字を胸元で切り会釈をした。修道女らしい顔つきに戻る。お返しに僕ら校長を先頭にして自己紹介をしていく。
「あの…先ほど今井さんと出会ったら怪我が治っていたのでビックリして… 詳しく事情を聞いたら、理事長室の魔法学校の生徒さんに魔法によって治療されたと説明されて……つい」
もじもじしながら、ここに来た理由を話し出す留分シスター。その様子を察して阿部理事長が言う。
「要するに貴女も魔法を見たいからここに来たんですよね? 」
「はい!はいはい! その通りです理事長! 私も魔法学校の評判はテレビなどでうかがっていて!是非に見てみたいなぁ~と!えへ!」
好奇心が滲み出る眼差しで我々側を見る留分シスター。少し恐怖をしてしまったが、しぶしぶ魔法を見せることにした。悪い人にも見えないし、まーいっか。と思っているとまた、理事長室の扉が空いた。
「失礼します。 あの……今井ですけど、他の娘達に先ほど奇跡をお願いできませんでしょうか?」
尋ねてきたのは先ほど治療魔法を施した今井さん。 その彼女の後ろにはマスクをかけた生徒が数名見えた。恐る恐る室内を伺っている。僕らは被害者達を中に通した。