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「あー、テレビで報道されてて見たな……阿部君、それは僕でなくて警察とか公安に相談した方が良いんではないかな? 」
校長が困ったよう顔を浮かべなんとも他人事と言うような静かな返答をしたので、阿部理事長は食いぎみで答えた。
「警察とかにも頼んだわよ!一向に犯人は捕まらないし、被害者も増えて困ってるのよ!しかもうちの学園の生徒ばっかりだしッッ!」
少し顔を赤くし唇を噛み締めて阿部理事長は叫んでスターを睨んだ。その結果、マスターはタジタジな表情を浮かべた。なんとも歯切れ悪い雰囲気になり、沈黙と思い空気が場を支配した。
僕が知っている情報も付け加えようと思う。それは僕が魔法学校入学する少し手前にまで戻る。
下校途中の聖女学園生徒1人が通り魔に襲われた。切りつけられた生徒は詳しい犯人の顔や特徴などは目撃しておらず、警察が行方を追う状況になっていた。それからまもなく、また通り魔の犯行と思われる事件がまた一件起きてしまう。それもまた聖女学園の生徒であった。最初の事件から三日と経たないうちの犯行にメディアも少し喚き立ったことは知っていた。閑静な市でこんなことが起きるたので余計である…… それからの事は魔法学校に入学したので事件の行きさつは僕は知らない……。
「警察にも下校時間は厳重にして欲しいと頼んで、警備もしてもらってるのに…被害者が増えているのよ。正直に参ってるの」
消沈しきった顔を片手で覆うような仕草をした理事長であった。自然と暗い雰囲気が室内に籠る。
「あー…被害者はどのくらい居るのだい?流石に警察も動いているから減っているのだろう?」
暗い雰囲気を何とかしようと校長が話をした。
「……60人よ」
え…… 最初の事件からそれほど時間なんて経っていないような……そんなに被害者が増えてたの?! 背筋が凍った。余計に雰囲気が暗くなってしまった。それが全て聖女の生徒なら余計に不気味だ。
「だからどうにも出来なくて灘君に相談しようとしたら、公務が多忙で会えないとか総理大臣へのアポイントメント取ったのか?とか色々言い出して官邸政府は言門前払いだったのでも …… その時よ! この学園に魔法学校が突っ込んで来たのは!」
理事長はこれはチャンスだと思った。聖女学園は被害者だが今回の事を不問にして、しかも姉妹校だと弁護した。その変わりに聖女で起きている事件を何とかして欲しいと交換条約で校長に頼んだのだ。
「あー、そういうことか……ごめんな…相談とか乗れなくてな…… 」
校長は深々と阿部理事長に頭を下げた。それに対して理事長は柔和に答えた。
「大丈夫よ。校舎はめちゃくちゃになったけど、生徒や職員に怪我人が1人も出てないのよ、これは奇跡であり神のご加護よ、あ!さっそくだけど……」
理事長はキョロキョロと僕達を見だした。なんだろう? 僕達に何か用だろうか?
「あなた達の中に特殊な治療ができる生徒さんがいると灘君から聞いてけど……誰かしら?」
目をキラキラさせながら、僕達の顔を1人覗き込んで来た。その1人が耐えきれずにおずおずと手を上げた。直江さんだ。
「わ……私だと思います」
「あなたなの!? お願い力を貸して! 今から生徒を連れてくるから治療を施してくださらないかしら!?」
そこまで言うと我々の後ろにある理事長室の扉が開いた。視線が集中すると、そこには聖女の制服を来た女の子……だが、包帯が口元に厚く巻かれていた。コツコツと理事長の隣に歩いてきた。
「この子は、先ほどの話した通り魔の被害者の1人なの…… 他の被害を受けた子にも声を掛けたんだけど来なくて… 負傷した場所が場所だから……」
理事長のか細く声が小さくなった。被害者の生徒も辛そうな目付きをした。「さぁ… ごめんね」と理事長は生徒に合図を送ると、包帯をおずおずと取り始めた……
ッッッ!!!?
生徒の傷は唇の両端が頬の中央まで延びていた。赤くみみず腫をしたように生々しく縫われてるが、時より傷口から微出血が出ていた。言って悪いがグロテスクな口裂けだと思った。
生徒の目にもうっすらと涙が浮かび、それは傷口の痛みのせいだろうか? それとも僕達の見られてしまった羞恥心の現れだろうか?
沈黙が場を支配した。