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「あー、どうだったかい君たち? 私の事をちゃんと見ていてくれたかい? いつも、通りの公務だったけど、君たちに見られていると思ったら、普段より緊張してしまったよ!ははははっ!!」
校長は少し顔を真っ赤にしながら、僕らに話をしている。あの国会中継の翌日に僕らは、魔法学校内の校長室に集合していた。昨日の中継で見ていた人とは全くの別人である。怖い。
「まぁ、今回の事は何とかしたから大丈夫だと思うし、あ!飛鳥君、あの二人は帰したかい?」
「はい、マスター。二人の怪我もすぐに治療し、達哉君に二人を家まで送って行ってもらいました」
あの二人とは、百合子と佐藤さんの聖女学園組の事だ。あの後に僕は二人を家に送る。流石にエアバイクで送ることはしなかった。驚いたのは佐藤さんの家が豪邸だったということだ。「あのお礼にお茶でも…」と言われた時は丁重にお断りした何故かと言うと、着いた先の玄関というか要塞の門に数十人の使用人が並んでいた。「お前、帰れ」と言わんばかりに僕の顔を見ていた。怖い。そんな事を露知らずに綾子さんは僕に「うちの犬でも見ませんか?」と訳のわからない食い下がり方をして来たが、もっと丁重に断って帰った。いや、怖くなって逃げたのだ。…… その前に家に送った百合子ので家の方が庶民的でマシだったのは安らぎである。
「達哉、どうしたの? 顔色が悪いけど…… 」
きょとん、と顔をした飛鳥会長に心配された。いいえ、なんでもないですと返事。僕は顔色にすぐ出るタイプだ……気を付けないと……
「あー、今回の事件……いや、今回の事故は好都合だと思っている…我が校が聖女に激突したのは謎だが。まぁ、本校と相手側の校舎が破損した程度で、怪我人もゼロに近かったしね、うむ」
しみじみと語る校長 ゆっくりと校長室の窓のブラインドを開ける。開けた窓には青空が写る。只今、魔法学校は空中を浮遊してる。地上から数百メートル晴れていていて、真下にはぶつかった聖女学園。
「まだ、マスコミのヘリが飛んでるな…うむ」
校長は目を細めながら、まじまじとヘリを見つめる。何機がかこちらを伺うように浮遊を繰り返している。
「ところでマスターは先ほど、好都合だとおっしゃってましたが……好都合とは何なんですか?」
飛鳥会長は尋ねた。みんなも先ほどの発言には興味があったと思う。僕もそのうちの一人だ。その一言で校長が僕らに窓から振り返った。
「あー、実は、昨日の国会中継に出ていた修道服を着た女性を覚えているかい?あの女性と私は実は縁があるんだ。前々から相談をしたいと言われていて…… でも、なかなか時間が取れなくて会えなかったんだ。そうしたら、こんな事故が起きた」
修道服の女性とは、聖女学園の理事長であろう。ということは……
「恋人とかそういう関係ではないんだよ。事故が起きた時に、政府よりも真っ先に連絡をくれてね。今回の事を聖女は不問にするし、国会の重要人物に召還された時は、優位な答弁をすると約束をしてくれたんだ、彼女は守ってくれた、この借りを返さなければならないな」
「校長の言うことは解りましたが、聖女の相談とはなんなんでしょうか? 加害者はこちらなので、無茶苦茶な要望ども要求してくるのではないかと…」
顎に指を起きながら、飛鳥会長は不安に尋ねた。そんな会長に優しく校長は言葉を返した。
「あー、飛鳥君。そんなことはないと私は思っている。詳しい話は聖女学園に行ってから、聞こうと思っているんだ、みんな!行こう」
ビシッと声を張り上げた校長は、僕らを眺めた。さて、聖女が相談したいことは? また不安と興味が脳内で混じりあった。
ーーーー
「あらあら、あなた達が魔法学校の生徒さん? 我が聖女学園にようこそいらっしゃいました」
首から掛けられたロザリオを軽く握る仕草をし、修道服の理事長があいさつをした。柔和な笑顔は我々の不安を柔下られた。テレビと実物はやっぱり違うな。
僕たち数名と校長は、聖女学園の理事長室に訪れている。この場所だけは追突事故からは免れたが、少し粉っぽい雰囲気が出ていた。
「あー、阿部君がみんなを連れてきたんだが……本当に迷惑じゃなかったかな?」
校長は困ったような顔をして尋ねた。
「なに言ってるの!良いのよ!良いのよ! 私が会いたかったの! 灘君が作った学校の生徒さんとはどんな子達かも興味があったからね!」
修道院様とは思えない様な砕けた感じで校長と会話をする。阿部君? 灘君? 緊張をしている僕らに理事長が話をしだした。
「灘くん!まだ説明とかしてなかったの? 私たちは中学時代から大学まで同級生なのビックリさせちゃってごめんなさい」
ペコリと僕らに頭を下げる理事長。なるほど、だから友人同士のような会話を出来るのかと納得。意外な真実であった。そして、僕らは座席に促されて座る。そして、本題を僕らに話し出した。
「灘くんには前から相談したいと頼んでいたのに、中々会えなくて…… それはね、この聖女学園で起こっている事件の事だったの…知ってるでしょ? 通り魔事件の事…」
通り魔事件…… 確か、聖女学園の学生ばかり狙われていると、僕がこの町から出る前から聞いたことがある。地元のニュースなどで報道もされていた事で記憶にも残っていた。……その事を一言を聞いて僕は頬に冷たい汗が一滴流れたのだった。