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「では、その証人をこの場に召喚することを許可いたします。証人は速やかに本議会に入場すること!」
議長の言葉が言い終ると共に、テレビからでは見えない所からその証人が登場する。数秒後にカメラが人影を捕らえた。驚いたのは修道服を身に纏っている女性である事だ。一体、誰なんだ?!その人物は証言台にゆっくりと立った。少し、うつむき加減にしている。
「「え!!?」」
二人の女の子の声がシンクロした。それは百合子と綾子さんである。
「修道院様……」
修道院様とは一体誰なのだ?もしかして、二人の聖女学園の関係者なのだろうか?
「聖女学園の理事長です。あのお姿は間違いないです。何故ですかね? 」
佐藤さんが補足的に説明をしてくれた。そして、うちの校長と知り合いなのだろうか?操縦室の僕たち全員はモニターに夢中に。画面の中の議長が話し出す。
「証人の自己紹介をお願いします」
「はい、私は私立聖女学園の理事長をしております、阿部と申します。本日は内閣総理大臣から証人要求に応じて参りました」
ゆっくりと喋った理事長はそこまで言うと柔らかい笑顔を作り、胸に掛けているロザリオを手でそっと持ち上げた。そこで終る仕草を見計らって、一人の男が手を上げた。国会議員の一人であろう。
「議長!証人への質問を許可してください!!!」
「はい、許可します」
立ち上がった議員は意気揚々と質問席に向かった。テロップには【自由党中畑議員】と紹介された。
「中畑と申します。まず、質問なんですが、今回の事件の被害者と言える聖女学園の理事長が何故、首相側の証人として、ここへ来ているのですか?」
「はい。今回の事は私的には事件性はないと思っているからです」
議会がざわつく。モニターを見ている僕らも首をかしげた。聖女学園に僕らの魔法学校が突っ込んだのは、こちららが悪い事故だと僕は思っている。相手側の校舎はボロボロだし、怪我人も出ていると思う。
「事件ではない?あなたの聖女学園は魔法学校の衝突によって校舎を破壊されたのですよ? 本来なら、こちら側の証人として来て、被害者証言をして欲しかった!」
証人を問い詰める中畑議員と呼ばれる男。熱くなっている事は見ているこちら側でも良くわかる。対照的に相手は冷静であった。さらに、質問は続く。
「では、証人に問います! 魔法学校に対して、謝罪などは求めないのですか?!」
「はい。求めません」
きっぱりと断った発言で議会中が騒然。喧騒を納めるために議長が叫ぶ。
「静粛に!静粛に! 本議会の皆さま方は静
粛にお願いします!」
司会の議長が大きな音量で言葉を言うと、議会内は静かになった。それと同時に僕たちの見ているモニター画面の右上に【被害を訴えない!!】と、サブタイトルが出現した。え?! 早くないか?!テレビ局の仕事! 仕組んでる?!ん?!
今まで阿部理事長を撮っていたカメラが、総理大臣をとらえた。その姿は混乱に動じることなく座り、視線は真っ直ぐと見据えて、姿勢は普通に座っていた。不気味だ…… そして、カメラは阿部理事長に戻る。
「なぜかと言うと……ぶつかってきた魔法学校と我が聖女学園は姉妹校になっております。姉妹校を訴えるなんて絶対にできません」
え? なにそれ? 姉妹校?うちの学校と?は?
僕はとっさに飛鳥会長に尋ねた。
「会長…魔法学校って、いつから聖女学園と姉妹校になったのですか? 会長ならご存知ですよね?」
「ワタシ、知らナイ」
「え?」
絶句した。カタコトな声で会長の返事……今回のことは本当に知らないようだ。僕は聖女学園側の百合子たちを見たが、【いや、なんですかその話、知りませんよ】的な顔をされた。へ? 両方の学校生徒が知らない…… いつ決まったの姉妹校に。操縦室の混乱をものともせずに、モニターの阿部理事長は話を続けた。
「本議会の皆さま方は納得しましたでしょうか? 私、聖女学園の代表者として、再度繰り返してお答えさせてもらいます。今回の事件は事故……否、ちょっとしたハプニングだったと思います」
そこまで言うと、彼女はニッコリと微笑んだ。してやったりという表情。そして、総理大臣の方にカメラが向いた。澄んだ顔でずっと前を見ている。
「では、私の証言は以上です。議長さん」
しっかりと発言を閉めると、阿部理事長は、証言台で一礼をする。あっけに取られていた議長は慌てて、我に返る。
「でで では、こ ここれにて総理大臣に対する証人喚問を終了しますが、他に質疑はございませんか? 中畑議員?!」
議長に言われて、我に帰った中畑議員は慌てて「ないです…… 」と言った後にそそくさと自分の席に戻った行った。かませ犬で終わったその中畑議員の背中がテレビカメラ写していた。かわいそう。
それから誰も手を上げなかったし、野次も飛ばなかった。あっという間に終わってしまった議会であった。
「「「……… 」」」
それを見ていた僕らも何にも言えなかった。飛鳥会長あたりが、何か言うのではないかと思っていたら沈黙。会長もビックリしている。モニターの画面の右下に【国会中継 ~終~】とテロップが出現して終了した。
これから僕達はどうなるの??!
ーーー。
中畑を信じた俺が馬鹿だった。くそっ!
議員会館の個室で俺は机を殴った。
数日前に、原因は不明だが制御不能に陥った魔法学校が違う学校に接触事故を起こした。これはチャンスだと思った。前々からあの学校は気に食わないと思っていた。今回の事件で魔法学校の校長である総理大臣を辞任に追い込み、魔法学校も廃止してやると計画。
俺の手駒である中畑にこの件で臨時国会を開催させた。「この件が成功したら、副大臣のポストを用意してやる」と言ったら、「完全に追い込みます!任せて下さい!」と返事が来たので期待をしたが、いざ本番では無能ぶりを露呈。しかも証人に阿部が出廷した時は驚いた。そして、あっさりと質問を切った中畑。もう、奴には消えてもらおう。
「おい!誰かいるか?」
「お呼びですか? 文科相?」
俺が呼ぶと第一秘書が扉を開いた。今回の事で中畑議員の事を話すと「前にキャバクラで撮った写真を匿名で週刊誌に流します」と淡々と言った。それから彼はこの部屋から出ていった。これで中畑の議員生命は終演だ。
…くそ、なんで上手く行かないんだ!
俺は再び、机を殴った。