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僕は急いだッ!!…… 自分でもわからないくらいのエアバイクのアクセルをフルに回し、猛スピードかっ飛ばした。途中で廊下が倒壊し始めた時は焦った。また自然とアクセルを回す力が入り、後ろに乗せている二人を忘れてしまうぐらいだった。そして、目的地前に到着。
「少し…… 私たちに気を使っても良いんじゃなかったの?…… 」
ゼェゼェと息をしながら、ゆっくりと話すのは百合子だった。綾子さんも苦しそうになっており、二人の顔面は青白くなっていた。…… 悪いことをしてしまったと思ったが、背に腹は変えられない。僕は鐘塔を見た。
この鐘塔は元々は教会の建物の一部だったらしい。ここに来日した宣教師がキリスト教布教の為に教会を建築。それが今から約100年前の話。その当時、関東大震災が起きたので建物の建築基準が厳しくなり、その結果、強度が増した教会が出来上がった。それから時代は流れ、教会はミッションスクールに姿を変えた。それが今の聖女学園の始まりである。教会の一部を壊して校舎を建設した。 鐘塔も取り壊す予定であったが、シンボルとして残すことに決定し、校舎の一部に取り込む形で保存が実現し、現在に至る。【綾子さん談】
塔はレンガ造りで出来ていおり、天に向かって一直線に伸びているが、回りは併設している校舎のコンクリートで支えられている。だが、綾子さんからの説明だと、塔の方が強度があるので校舎を支えているらしい……んー、ちょっと頭が痛くなる。つまりは塔が全然頑丈なのだ。うん。
一人で納得して、落ち着いた百合子達の元に近寄り、鐘塔内部に入る扉の前に並んだ。
「達哉さん、ここまで来れば安心です!後はこの扉を開いて、中に入れば…… 」
重厚に歴史を感じる扉を綾子さんが開けようとした。もしかしたら、開かないのでは?!と、思ったがすんなりと開いた。開いた隙間から、微かに誇りとカビ臭が鼻をかすめる。僕の他の二人も顔をしかめた。
―――。
塔の内部はひんやりとしていた中はキリスト教礼拝堂であった。綾子さんが扉横の証明スイッチを着けると、頭上にある大きな裸電球に光が灯ると、建物の全貌が目の前に広がった。そこには古い机や家具などが乱雑に置かれており、内部は物置小屋と化していた。外見とは全く違う鐘塔に驚愕する。
「ここに入るの、私は初めてなんだけど…… すごく汚いわね」
暗いトーンで百合子が言った。その問いに綾子さんが答えた。ここは当番制で掃除をしていたが、いつの間にか廃れてしまったらしい。 綾子さんは中等部時代に二回だけ掃除をしたようだ。なるほど、と納得していると、百合子がぼーっと、何かを見ているの気がついた。僕も駆け寄ると百合子に並んだ。そこには壁に設営されたステンドグラスがあった。
少し古ぼけているが、色も鮮やかになっており、十字架に掛けられたイエスキリストの絵が表現されていた。外面から差す光のお陰で、見ている僕達の顔にステンドグラスの幻影が映る。月光により、建物外が夜になっている事に気づく。結構この建物に入ってから、随分と長い時間が流れたと推測される。
「百合子…… 達哉さん…… 」
「「っっ!!」」
突然の呼び掛けに僕らは驚いた。その表情は綾子さんが顔が暗く伏せていた。
「この鈴搭に掃除用のドアがあると説明しましたよね…… あれなんですが……」
そこは大きな木製ドアがあるが、ドアノブが無いことに気がつく。でも力まかせに押したら何とかなりそう……
「よし、僕に任せてよ」
ドアの前に近づいて、自分の身体ごと押してみた。……開かない!諦めずにもう一度繰り返したが、ダメだった。自然と暑くなった身体を下ろした。
「何これ……全然びくともしない。なんでなのかなぁ」
虚しく降参した。その僕の言葉に聞いていた二人はそっとため息を吐いた。完全に我々3人は詰んだのだ……
これから策としては、もと来た道を帰るか、それとも別方法で脱出するか。来た道を帰ると言うのは危険すぎるし、うーん。
ガタガタガタ
「「「!!!」」」
考え事をしていると、急な揺れの始まりを感じた。怯えてしまう。その時、僕のインカムに連絡が入る。
『あんた、いまどこにいるのよ!電波悪くて、何度も連絡してるのに!』
「ごめんなさい!僕たち今、聖女の鈴塔というかあのチャペルの建物内にいます!」
『ここから見てると校舎の一部が倒壊し始めてるのよ!連鎖でそこも倒れるかも知れないから早く脱出しなさい!さぁ!』
いきなりの飛鳥会長からの連絡で驚いたが、急にそんなこと言われても…… 脱出予定だった扉は開かないし…… あ、
もう、これしかないと僕は思った。揺れる建物にエアバイクを運んできた。その光景を見た百合子と綾子さんは呆然とこちらを見ている。僕はそんな二人呼び寄せた。
「二人とも、脱出する方法を思い付いたから、乗ってくれないか?」
そして、僕は続けて言った。
「これしか方法を思い出さなかったんだ。ごめん! なるべく頭を下げて、姿勢を屈めてね」
注意事項を話してから、僕はエアバイクのアクセルを回し、進行方向をステンドグラス向けた。
「達哉!なにやってるの!」
「達哉さん!そっちはガラスが!」
騒ぎ出した二人を無視して、僕はステンドグラスに突っ込んだ!衝撃は想像より大した事なかった。ガラスでの怪我やエアバイクの故障を心配したが、それも問題なし。
外に飛び出すと、回りはすっかり夜なってた。大きく出た月のせいだろうか? それとも僕たちの制服が靡いたからだろうか? 衣擦れの音が響いた。僕は急いで、宙に浮かぶ魔法学校に進路を取った。