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目を覚ますと、見知らぬ天井が見えた……
いや、この天井は知っている。魔法学校の教室の天井だ。僕はゆっくりと起き上がった。 先ほど、信二君に不時着時の姿勢を取れと促されたが、僕は全くその姿勢を知らなかったので無防備を敷いた。その結果、強い衝撃で机下から弾き出され、仰向けのままで気を失ったのだ。 少し痛む頭を擦りながら、回りを見渡す。
見つけた場面は、直江さんが他の生徒達に回復魔法を施しているところだった。その隣では理恵さんと森先生が彼女の手伝いで、怪我をした生徒を並ばしていた。ここから見た限りでは、大怪我をしている生徒などは見当たらない。すると、廊下側からこの教室に走ってくる足音が聞こえた。
「みんな! 大丈夫?!」
焦った顔をしながら教室の扉を開いたのはは飛鳥会長である。 それから教室に入って来ると、生徒や教室内を見回して安堵の顔を作った。
「酷い怪我人とかはいないね。良かった」
回復魔法を使える直江さんがいることは知っていると思うが、もしもの時を彼女は考えていたのだろう。かなり焦っている事は僕の目にも見えた。僕はまだ痛む頭を押さえながら、会長へ近寄った。
「飛鳥会長…… 一体何があったんですか? 放送が聞こえた時には、凄い音が響いて驚くと、衝撃がすぐに来て…… 建物にぶつかるとかなんとか……」
「ええ…… 先ほどの放送が言う通りに私達の学校はぶつかった…と言うか、突っ込んだのよ」
冷静に答えてくれた飛鳥会長の目は、僕からの視線から耐えきれずに目を泳がせた。うん。なんか良からぬ事をしたな。
「会長…… 例えば…… よそ見運転などをしたとか……しませんよね? 」
「うっ! …… そんな危険な事なんて絶対にしてないわヨ。何を言ってるのヨ! この馬鹿達哉ァ…… 」
挙動不審をしながら、目をもっと泳がした。 ますます怪しい……
あの目は! …… ウソをついている「目」 だぁ! 人間と言う生き物はやましいことや隠したい事があると目をそらすのだ!
ゴゴゴゴゴゴッ
会長と僕と間に奇妙な冒険の様な空気が流れるッッ!!
「飛鳥君! 怪我してない? 大丈夫かい?!」
二人の間に森先生が割って入った。僕はすぐに我に帰った。 こんな事態で人を疑っている場合でなかったのだ。自分を恥じた。改めて飛鳥会長の身体を見たが、怪我などをしていなかった。その後に彼女は僕の体をスッと避けて、教壇の所に立つ。
「改めまして、生徒諸君! 緊急事態が発生しました」
真面目な顔を作った会長が、教室に響き渡る様な声を上げた。生徒も森先生も真剣な眼差しを送る。会長は指をパチンと鳴らすと、黒板上にプロジェクターの映像を照らした。写し出されたのは報道ニュース番組。そこにはレンガ造りの建物に大きな建物がずっしりと突っ込まれていて、ぴったりと止まっている。特撮映画を見ている様だ。……あの大きな鯨の形をしているのは、僕たちの魔法学校だよね? 今まさに自分達が居るところをテレビ越しで見ていることに、不思議な感覚だ。
【現場から中継です!聖女学園は激しい損傷を受けています! ここからでも確認が出来ます!そして、あれは謎の… 】
慌ただしく現場キャスターは叫んでいる。ん? 聖女学園? ここってまさか僕の住んでいた黒杜市なの?
【そちら黒杜市消防関係からは報告などはないですか?】
はい、僕の出身地でした。
それから、現場とスタジオアナウンサーのやり取りを見てから、映像を切った。教室内の生徒達も事態を飲み込み、少慌て始めた。それを見て、森先生と飛鳥会長は落ち着くように命令をした。
「みんな静かにして! まずは、相手方の被害と我が校の損傷など確認したいの! 学校内と外を調査する班分けするわよ。班分けは緊急事態マニュアルに書いてあった人で組む事。 皆、力を合わせて落ち着いて行動してね!では作戦開始!!」
会長が指示を出すと、皆は一斉に教室を出ていった。…… 緊急事態マニュアル?なにそれ?食べれるの? 僕はそこで立ち止まった。
「バカ達哉……あんた、あのマニュアル見てないの? 教科書配布時に同時に渡したわよね。 大事だから、目を通しておくようにって……」
会長が冷たい視線を僕に送ってくる。ええ、見てませんよ。って、口が裂けても言えないっっ!!!
「そんなあんたには、特別任務を課せようと思います。 着いてきて!」
「って、うわ!」
着いてこいと言われたので、行こうとしたら、飛鳥会長は僕の制服の奥襟を掴んで、物凄い握力で僕を引きずって行く!
一体、何処に連れていくの?!!