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居ても立っても居られないくらいに廊下を爆進して、操縦室の扉を開いて中に入った。
【オートクルージングモードを解除しました】
「よし! これでOK!」
無機質な音声を聞き取ってから、私は魔法学校の操縦席に着いた。
この学校は最新の人工AIによって自動操縦されている。私が操縦したい時などは、指紋認証を取ってからは手動で操作が可能になる。勿論、私にしかこの操縦はできないのだ。 免許などは要らない…… 多分ね。
「では、久々のドライブといきましょう!!」
言っている自分でも恥ずかしいぐらいの声を出した。こんなにテンションが上がっているのは久々だ。先程の森先生の授業は私の琴線に触れた。【諦めなければ必ずゴールにたどり着けるっっ!】 あの発言には私の忘れていた野望を目覚めさせた…… そうよね! 野球部創設にして初の甲子園出場がすべてではない。 もっと他の方法があるはずなのだ。 諦めなければ……
「よしっ!」
私は決意を新たに操縦桿を握った。まだ、この魔法学校を知名度を上げる方法はまだ思い付いてもいない。 それを模索する為の気分転換である。
【この先K県××地方付近、この辺りは…… 】
無機質なAIの声が響く。魔法学校にGPS機能がついているので、付近の情報がカーナビの様に説明をしてくれる。
「K県か…… 確か」
思い出したことがある。K県はアホ達哉と信二君の出身地。入学してから自己紹介で聞いたことある。「僕の出身のK県はとても……」と、アホ面でスラスラ説明をし出した …… 説明されまその県の特徴よりもアホ達哉のアホ面の方がインパクトがあって、正直、説明などは頭に入って来なかった覚えがある。あの顔はウケた。
この辺に学校を停泊させて、何かを探すってのもいいかもね。 みんなもずっと学校に閉じ籠りっての可愛そうだし。 …… 後、このK県だけが、異常に魔法の覚醒者が多い…… クラスの個人情報を見たら、このK県出身が多かった。 あ! 理恵もこの県の出身者だ! 忘れてた!
「これは良い機会かも」
思わず、ニヤリとしてしまった。 私好みの好奇心を揺さぶる事柄が見つかるような! そんなワクワクする気持ちを抑えられない!
「外装ブラインドを開けて」
【了解しました】
薄暗い操縦室に光が刺す。
ブラインドが開くと、目の前には180度窓が出現した。そこに広がる光景は青い空。そして、雲が左右に流れていく。 外を見て操縦する場合はこのブラインドを開ける。いつもは自動操縦なので滅多に開けないのだ。
しばらく青空を進んでいると、学校の回りを何かが飛んでいるのが分かった。
「これって…… 鳥かな?」
少し大きな鳥の群れが学校と並走していた。 いつからついてきたのかは分からないが、気持ち良さそうに飛んでいる。これが飛行機ならエンジンに鳥が引っ掛かり、バードストライクを起こしてしまうが、この魔法学校はその様な装備はしていない。それも鳥達は解っているのだろうか? 優々と並走を楽しんでいる。そして、空は私好みの柔らかい青空。
「今日はなんてラブリーな日!!」
思わずヒャッハー!!と、叫びたくなる様な高揚感に包まれる。
【………です!】
ふと、我に変えると、操縦する手元から声が何度もアナウンスされていた。なんだろう? 私は耳を澄ました。
【警告します!このままでは本機体は数分後に建物に衝突します! 進路を避けてください! 警告しま……】
なんてことなの! さっきまで回りを飛んでいた鳥達はどこかに姿を消していた。 青空は消え失せて、民家などが回りに見えてきた。…… もしかして航空高度が下がっているの?!
そして、気がつけば目の前にレンガの建物がだんだんと押し迫ってきている事が解った。
【安全のために乗組員は姿勢を屈めてください!! 幸運を祈ります】
それが私が聞いた最後のAIの言葉だった。
【ッッッ!!! ガガがッッッ!!
!!】
大きな衝撃が私を襲った。