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僕の魔法学校が女子高に突っ込みました。  作者: 真北哲也
おおまかに振り破って ~魔法学校野球編~
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「確か、三年前の甲子園で女子マネージャーが伝令をする為にグラウンドに入ったら厳重注意を受けたって報道があったんだ。 大会主催側は危険防止の為だと答えて、マスコミとかは性差別だと報道して結構話題になっていたけど…… それがいつの間にか忘れ去られて、その大会の初出場初優勝の学校のお祝い報道に変わってたなぁ…… 」



教室での休み時間中に、信二君は野球初心者の僕に話をしてくれた。 そんな報道があったなんて知らなかったし、 高校野球に女子がいないのも、そう言うことかと納得した。



「後、魔法を使うってのもダメだよなぁ。 冷静に考えれば」



信二君はそう言いながら、人差し指に小さな炎を作った。 僕は魔法はOKと思っていたが…… だって、野球素人集団だぞ! そこは多目に見てもらっても良いと思うが ……



「達哉君…… 何度も言うけど… 変わっているって言われない? 」



「うーん」



冷やかで暖かみある信二君の視線に耐えきれなくなって、僕は教室の天井を見上げてしまった。 変わっているか…… うーん。



信二君はそんな僕を見てクスッと笑った後に、人差し指の炎を息で吹き消した。



「僕達よりもへこんでいる人はいる

と思うけどね…… 」



彼の視線を通した先には、飛鳥会長が自分の机に顔を埋めている。サラサラのロングヘアーは机面に大きく広がっており、大樹の地上に這い出てきた根っこの様なあり様で……。 回りの人間を寄せ付けない不気味さを出していた。



「あれからずっとあの調子だよね…… 授業休めばいいのに……」



ヒソヒソと本人に聞こえない位の声で答えた。こんな発言を聞かれたら怒られるのは決まっている。 僕らはチラチラと様子を見ながら会話を進める。ふと、僕に考えが湧いた。



「と言うか…… 信二君は野球は女子が禁止されてるって知ってたの? 」



僕は(きびす)返しの様に信二君に尋ねた。 そのニュースを知っていたのであれば、飛鳥会長や東さんなどを部活に誘う様なことしなかったはず。良くて、マネージャー止まりなら解るが、あの時は部員として誘っていた……



「うん。 知ってたよ…… 」



すんなりと認める信二君。何故に止めなかった?!



彼女(かいちょう)ならきっと出来ると思ってたんだよ。 常識とかもブチ壊して

、女人混合の野球もできるんじゃないかと期待をね」



信二君スマイルを作りながら、こう答えた。【笑顔かっこいいわ】



僕もあの性格の飛鳥会長なら法律だって憲法だって変えられる様な気がした。だが、今回の結果はダメだった…… これは会長の言った何か陰謀とかあるのかな? …… それは考え過ぎか……



しばらく僕らは沈黙を作った。多分、信二君も想う思考をまとめたいだろうな。



♪♪~♪



チャイムが鳴ると教室内の生徒達は一斉に自分の席に着いた。それと入れ替わる様にして教室に教師が入ってきた。三時間目は国語。担当は今もメディアに引っ張りダコの森修先生だ。




「では、授業を始める…… と言うか、本日は国語の授業しない!」



え?!



教師とはありえない発言をした。教室内が一斉にざわつくっ! ざわ…… ざわざわ……



森先生は教卓に出席簿とチョーク箱を乱雑に放り投げた後に、自分のネクタイの結び目に手をかけて緩めた。大きな仕事をこなして自宅に帰ってきたサラリーマンの様な仕草だった。




「では、何をするかと言うと…… 野球部! 残念だったな。俺は期待してたぞ」



先生の発言で野球部に該当する部員達はドキッとした。 そして、他の生徒達はもっとドキッとした。



あの手紙が来てから、魔法学校野球部が甲子園もおろか運動部として認められないと言うニュースは生徒全員に広まった。他の教師達さえも僕たちに気を使ってその話題は話さないようしていたのだ。…… 本音を言えば逆に気を使われていたので、こちら側は緊張をしていたが……



飛鳥会長もあの姿勢のままビクッと、少しだけ反応をした。



「実は私も甲子園を目指していた一人だったんだ。 そして、あわよくばドラフト一位でプロ野球選手になりたいと思ってもいた」



森先生の以外な過去の告白に、クラス中は静まり返り帰った。



「だが…… それは叶わなかった」



「何故ですか?」



ある一人の生徒が尋ねた。



「高校生一年までは野球やってたんが、途中で私の両親が野球を取り上げたんだ」



先生方トーンが少し怒りが込み上げていた。聞いていた生徒達にも(うつ)る。




「家に帰ったら、野球は止めて勉強しろ!って、言われたんだ。 グローブなどの一式がなくなっていたんだぜ…… 信じられないないだろ?! 」



「可愛そう…… 」



先生の訴えに生徒達の同情の声が上がる。



「でも、私は諦めなかった! 野球道具はなくなったけど、部活には参加したんだ。スコアブックを書いたり、球を磨いたり…… マネージャーみたいな事した」



先生の話は続いていった。森先生はずっと野球部にいたが、とうとう親にバレてしまったらしい。森先生の親は学校に対して、部活をさせずに帰らせるように要望を出した。それは高二年の春の頃だったらしい。



「だがね、野球部はその年の春の甲子園…… 春の選抜に出場が決定したんだ! 創部初の快挙だって学校中が喜んでいた…… だが、私はその大会に出れない…… 当たり前だよな…… だがね、決まった日の放課後に野球部員達に呼ばれたんだ。 お前の諦めない精神のお陰で出場出来たって! ありがとうと、言われたんだ。 あの感動は忘れないね」



森先生の顔は徐々に明るくなっていった。



「今回の魔法学校野球部の件もそうだよな」



元野球部部員の僕たちにとっては、もう終わった事だと思っている。 けど、森先生の話を聞いたあとでは… 揺らぐな。



「決して諦めない精神を持っているなら、ゴールは近いはずだ。 打ちのめされても立ち上がれよ! これは野球部員のみならず、他の生徒達にも言えることだよ」




「わかりました!」



勢いよく返事をしたのは飛鳥会長であった。 彼女は勢い良く自分の机から立ち上がり、教室を飛び出していった。


急な出来事に教室中は呆気に取られていたが、森先生はうんうんと、頷きながら見送っていた。



…… 何か起きそうな嫌な予感だ。

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