64
バシュッ!!!
勢いよく山形君の左手からボールが飛び出した。 あの勢いはピッチングマシーンから放たれた投球その物のスピードであった。 それを見ていた僕らはおー、と、歓喜を上げた。
「凄いよ!山形君!やったね!!」
「本当に凄いッスよ! そのままのスピードで球が発射されたッスよ!! 凄いッス!!」
岩間君と僕も興奮が隠しきれずに、山形君に早口で詰め寄り、褒め称えた。
そんな二人とは対称的に当の本人は冷静を保っていた。
「少し……と言うか、大分心配をしてしまったな。 ボールは出ると思ったけど、まさか、投げられた元のままで発射するような形で出現するなんて…… ありえないな」
「それもこれも魔法なんじゃないかな?! それしか考えられないよ! 」
僕達が使っている魔法には、まだまだ謎が多く、使っている本人達も解らない所が大半であった。 研究などもしなくてはならないなぁ …… と、考えていると飛鳥会長から声がまた聞こえてきた。
「ほら! 私の予想通りになったでしょ!! その調子でお願いね!! では、次の球を投げるよ!!」
会長はそこまで言うと、ピッチングマシーンに球を補給し始めた。山形君はこくりと頷くと、再び右手を発射口に向けた。山形君と僕はそっとその場から離れて、他のメンバーの元に戻って行く。すると、信二君が話をかけてきた。
こうゆう場面で信二君は僕に話をいつもするなぁと思った。
「達哉君お疲れさま。 大変だったね」
爽やかに話しかけてくる。
「ありがとう! 一時はどうなるかと思ったよ! …… しかし、僕達の使っている魔法って一体何なんだろう? なんか、自分たちの都合の良いように出来ると言うか…… 」
「俺にも解らないよ。 前の火山休止作戦の時も他の人の魔法が真似できたって報告もあるし…… あの山形君のボールだって不思議だしね…… まぁ、深く考えない方が良いのでは?」
落ち着いた信二君の言葉が響いた。彼もこの魔法について試行錯誤をしたのであろう。 結局は未解と言うことだろう、 僕も気にしないようにする事にした。
「さぁ、どんどんボールを投げるわよ!! 」
「大丈夫! 沢山投げて!」
会長は元気に言うと、山形君も元気に答えた。 すると、どんどんボールが投げ込まれる。 山本君は右手を発射口に構えて、左手を90度斜めに構えている。
彼はまるでアルファベットの「L」の形を逆のようにした格好を作っていた。そのまま形で投球を受け続けている。
右手で吸い込み、左手から出す…… その様な練習とも作業とも言える行動はずっと続いたのだった。
――――。
「もうそろそろ良いわね! 最初の頃よりもずっと良い感じよ、山形君! 」
会長が山形君を誉めると、ようやく終わりを告げた。 山形君も少し疲れの色が出ていたと思った。 二人を除く他の人達はずっと見ていたのだ。そこに会長が近づいてくる。
「今日のほとんどは山形君ばかりが練習をしていて、他のみんなは練習出来なかったわね…… じゃ、最後に山形君がボール投げるから、誰かキャッチャーやってみ…… あっ! アホ達哉! あんたがやりなさい!!!」
…… また、こんな役なの?
指名された僕は重い腰を上げた。 素直に従った方が良いと思い、 キャッチャーミットを装備。山形君から2メートルぐらい離れた距離でミットを構えた。
「山形君! 投げてきて良いよ! …… 出来れば、あまり早くないやつでお願い!! 」
「わかった…… いいよ」
一言ポツリと彼は言うと、投球フォームを作った。 あ、左投げ(サウスポー)になっていると気がついた瞬間に、僕の右耳から物凄い音が通りすぎた。
「ッ!!」
慌てて振り向くと、一球の白いボールがコロコロと転がっている。あれ? もう投げたの? 速すぎないか?
「佐藤…… ごめん。コントロールがまだ調整不足なんだ。 ちなみに今のは180キロ位の球だよ」
ニヒルな微笑をしながら説明をしてくれた。 だが、僕は怒った。
「なんでだよ! 速いボール投げないでって、言ったよね!! そんなスピードの球が当たったら僕は死んじゃうよ! 」
怒り心頭で抗議をしたが、山形君はまぁまぁとはぐらかした。納得はしなかったが、今日の練習の疲れがどっと出たので口数を無くした。 そこに丁度良く、会長が割って入ってきた。
「山形君は練習がまだ足りないから仕方ないわよ。 許してあげてよアホ達哉! 」
「…… はい」
会長が珍しく人を庇ったので、許すことにした。 本当は疲れていたので面倒臭くなったのが本音だ。 それから、一息入れてから会長は話をしだした。
「山形君にはピッチャーで決まり。 あんなスピードなら誰も打てない! そして、今度は攻撃ね! いくら無失点に抑えても、ボールを打たなければ、点数は入らないわよね? 」
「その通りだと思います会長」
「バンバン打てる秘策を考えてたら、適切な魔法を使える人物がいたのよ!! それは…… あなたよ!!」
そこまで言いきると、会長は人差し指を向けた。その人物は